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2022年1月30日日曜日

ヘーゲルの真の重要性は、大集合准人格としての人為的諸制度の歴史的、批判的研究を創設したことである。諸個人の行動を、特定の時代や地域、民族に特定の諸特徴に結びつけることは、通俗的な影響であり、国家、民族、時代、歴史の非合理的な神話化は誤った適用である。(アイザイア・バーリン(1909-1997))

大集合准人格

ヘーゲルの真の重要性は、大集合准人格としての人為的諸制度の歴史的、批判的研究を創設したことである。諸個人の行動を、特定の時代や地域、民族に特定の諸特徴に結びつけることは、通俗的な影響であり、国家、民族、時代、歴史の非合理的な神話化は誤った適用である。(アイザイア・バーリン(1909-1997))


(a) 大集合准人格としての人為的諸制度の歴史的、批判的研究
 ヘーゲルの真の重要性は、社会的歴史的な研究分野の創設に及ぼした影響力にある。創設された新しい部門とは、構成員たる 諸個人の次元からだけでは描きえない、大集合准人格 great collective quasi- personalities と見なされるべき、独自の生命と性格を有する人為的諸制度の歴史、および その制度にたいする批判である。

(b)ヘーゲル的歴史観の通俗的な影響 
 諸個人あるいは彼らの行動を、特定の時代や地域、民族に特定の諸特徴を結びつけて記述する習慣がある。また、広く見られる社会的態度についてさえ、そのような理解の仕方をする場合がある。

(c)国家、民族、時代、歴史の非合理的な神話化
 この思想上の革命は、例えば国家、人種、歴史、時代といっ たものを超人格的な影響力の行使者として扱う、非合理的で危険な神話を培うに至った。

(d)諸個人の意図の軽視
 諸事件をあれやこれやの国王ないしは政治家の性格や意図の結果として、あるいは個人的な成功や失敗の結果として説明するすべての著述家 は、幼稚で非科学的であると見られるに至った。


「ヘーゲル的歴史観の影響  このような教説――かつては一世代全体の思想の変化の前兆であると同時にその変化の原因を 成したし、今や広く親しまれるものとなったこの教説が及ぼす影響は、測り知れないほどに大 きい。われわれには、特定の時代や地域に特定の諸特徴を結びつけたり、諸個人あるいは彼ら の行動を諸民族ないし諸時代を代表するものと見立てる習慣がある。さらにまた、一定の時代 や民族についてだけでなく、広く見られる社会的態度についてさえ、それら自身の、積極的起 動的な性質をもつ人間の人格に比すべきものを賦与して、それによって叙述する習慣がある。 例えば、諸行為をルネッサンス精神の現れだとか、フランス革命の精神の現れ、ドイツロマン 主義の精神の表現、ヴィクトリア朝時代の精神の表現だとか言うのである。こういった習慣 は、この新しい歴史主義的な物の見方から生じてきたものである。  ヘーゲルの独特な論理学の学説や自然科学の方法についての見解やは、不毛なものあり、概 して言えばその結果は有害であった。彼の真の重要性は、社会的歴史的な研究分野に及ぼした 影響力、新しい部門の創設に及ぼした影響力にある。創設された新しい部門とは、構成員たる 諸個人の次元からだけでは描きえない、大集合准人格 great collective quasi- personalities と見なされるべき、独自の生命と性格を有する人為的諸制度の歴史、および その制度にたいする批判である。この思想上の革命は、例えば国家、人種、歴史、時代といっ たものを超人格的な影響力の行使者として扱う、非合理的で危険な神話を培うに至った。しか し、この革命が人文諸科学に与えた影響は、非常に稔り豊かなものであった。ドイツには新し い歴史学派が生まれ、彼らの活動によって、諸事件をあれやこれやの国王ないしは政治家の性 格や意図の結果として、あるいは個人的な成功や失敗の結果として説明するすべての著述家 は、幼稚で非科学的であると見られるに至ったが、こういう風潮は右の思想革命の影響に負う ところ大なるものがあったのである。」
 (アイザイア・バーリン(1909-1997),『カール・マルクス――その生涯と環境』,日本語書籍 名『人間マルクス』,第3章 絶対精神の哲学,II,pp.57-58,サイエンス社(1984),福留久大 (訳))
アイザイア・バーリン
(1909-1997)