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2022年2月24日木曜日

15.投資家の利潤取得を保障するために、規則と規制の網で、公的権力と私的権力とを徐々に融合して単 一の統一体を形成してゆく。その際、規制緩和とラベリングされるが、それは官僚制の縮小でも、個人の創意工夫の解放でもなく、自らに都合の良い規制に公的権力を改変できる「緩和」である。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))

全面的官僚制化、略奪的官僚制化

投資家の利潤取得を保障するために、規則と規制の網で、公的権力と私的権力とを徐々に融合して単 一の統一体を形成してゆく。その際、規制緩和とラベリングされるが、それは官僚制の縮小でも、個人の創意工夫の解放でもなく、自らに都合の良い規制に公的権力を改変できる「緩和」である。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))



(a)全面的官僚制化(total bureaucratization)もしくは略奪的官僚制化 (predatory bureaucratization)
 利潤の形態で富を取得するために、規則と規制の網で、公的権力と私的権力とを徐々に融合して単 一の統一体に形成してゆく過程である。
(b)規則と規制の網、法律家
 その結果、処理すべき書類、仕上げるべき報告書、解釈に法律家を必要とする規則や規制、そして、あれこれは認められないことの理由の説明がその仕事のすべてであるかのような、オフィスの何にでも口を出す人々の実数 が5倍以上上昇した。

(c)規制緩和という言葉のほんとうの意味
 規制緩和という用語は、ほとんど何でも意味することができる。新しい規制手段に「規制緩和」とラベリング することで、あたかもそれが官僚制を縮小させ、個人の創意工夫を解放するものであるかのよ うに、世論にみせかけることができるのだ。
(d)規制緩和の例、航空業や遠距離通信業
 1970年代や 80年代における航空業や遠距離通信業の場合、二、三の大企業に保護を与える規制のシステム から、中規模企業のあいだの厳しく監督された競争を促進させるような規制のシステムへと転 換させることを意味していた。
(e)規制緩和の例、銀行業
 銀行業の場合、「規制緩和」はふつう、その正反対を意味して いる。すなわち、中規模企業のあいだの管理された競争という状況から、少数の金融コングロマ リットが完全に市場を支配することができるような状況への移行である。




「「規制緩和」が人の口にのぼるとき、それはいったいなにを指しているのだろうか? 

一般的用法では、この言葉は「オレ好みに規制の構造を変える」ということを意味しているよう にみえる。実際のはなし、この言葉はほとんどなんでも意味することができる。

1970年代や 80年代における航空業や遠距離通信業の場合、二、三の大企業に保護を与える規制のシステム から、中規模企業のあいだの厳しく監督された競争を促進させるような規制のシステムへと転 換させることを意味していた。

銀行業の場合、「規制緩和」はふつう、その正反対を意味して いる。すなわち、中規模企業のあいだの管理された競争という状況から少数の金融コングロマ リットが完全に市場を支配することができるような状況への移行である。

規制緩和という用語 を好都合なものにしているのはこれである。あたらしい規制手段に「規制緩和」とラベリング することで、あたかもそれが官僚制を縮小させ、個人の創意工夫を解放するものであるかのよ うに、世論にみせかけることができるのだ。

たとえその結果、処理すべき書類、仕上げるべき 報告書、解釈に法律家を必要とする規則や規制、そして、あれこれは認められないことの理由 の説明がその仕事のすべてであるかのような、オフィスのなんにでも口を出すひとびとの実数 が5倍以上上昇したとしても、である。  

この過程には、いまだ名前が与えられていない。公的権力と私的権力とが徐々に融合して単 一の統一体――その究極の目的を利潤の形態で富を取得することにおく規則と規制でいっぱいの ――を形成する過程である。

この名前を与えられていないということそれ自体が重大である。上 記のような諸事態が生じるのも、その大部分が、わたしたちがそれをどう語るか、その方法を いまだもたないがゆえである。

ところが、その帰結については、生活のあらゆる側面におい て、わたしたちは眼にすることができる。わたしたちの日常を、ペーパーワークでいっぱいに してくれているのだ。申請用紙はますます長大かつ複雑なものと化している。申請書、切符、 スポーツクラブや読書クラブの会員証のような日常的書類も、数頁にわたる細目の規定でパン パンになっている。  

それでは名称を与えてみよう。わたしは、このような様相を呈している現代を、「全面的官 僚制化(total bureaucratization)」の時代と呼んでみたい(「略奪的官僚制化 (predatory bureaucratization)」と呼んでみたい誘惑にもかられたが、ここでわたし が強調したいのはこの野獣のもつ、すべてを包摂してしまうような性格である)。

その最初の 徴候は、まさに官僚制についての公共の議論が消えはじめた1970年代の終わりにあらわれはじ め、1980年代に取り返しがたく浸透をはじめた。だが本当の離陸は、1990年代である。」 

(デヴィッド・グレーバー(1961-2020),『官僚制のユートピア』,序 リベラリズムの鉄則と 全面的官僚制化の時代,pp.23-25,以文社(2017),酒井隆史(訳),芳賀達彦(訳),森田和樹 (訳))

官僚制のユートピア テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則 [ デヴィッド・グレーバー ]



デヴィッド・グレーバー
(1961-2020)