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2022年2月2日水曜日

どんな知識でも、社会問題について最終的で普遍的な解決を自動的にもたらし得るものではない。フランス啓蒙主義の指導者たちの科学への素朴な楽観主義に対して、モンテスキューの用心深い経験主義、法律を普遍的に適用することへの不信、 人間の能力の限界にたいする鋭い感覚は、今日非常に有益である。(アイザイア・バーリン(1909-1997))

モンテスキューの思想の意義

どんな知識でも、社会問題について最終的で普遍的な解決を自動的にもたらし得るものではない。フランス啓蒙主義の指導者たちの科学への素朴な楽観主義に対して、モンテスキューの用心深い経験主義、法律を普遍的に適用することへの不信、 人間の能力の限界にたいする鋭い感覚は、今日非常に有益である。(アイザイア・バーリン(1909-1997))


(1)無知、蒙昧、野蛮、愚昧、真実の隠蔽、冷笑、人権の無視に対する闘い
 フランス啓蒙主義の指導者たち、科学を広めた偉大な人たちは、あらゆる種類の無知と蒙昧、とくに、野蛮、愚昧、 真実の隠蔽、冷笑、人権の無視にたいして公然の戦いをいどみ、人類に大きな貢献をしてき た。

(2)科学への素朴な楽観主義とその誤り
 どんな知識でも、技能でも、論理力で も、社会問題について最終的で普遍的な解決を自動的にもたらしうるものではないという事実 を、モンテスキューが非常にはっきりとみてとっていた。
 人間と社会に対する不十分な理論の典型的な考え方は、次のようなものだ。
 (a)人間についての科学
  事物の運動にかんする科学があるように、人間の行動にかんする 科学もありうるはずだ。
 (b)科学的方法への楽観主義
  科学の諸原理をつ かんだ者は誰でも、それを適用することにより、彼らが一致して目指していた全ての目標を 実現することができる。
 (c)統一的、一元主義的な世界観
  真理、正義、幸福、自由、知識、徳性、繁栄、 肉体的力と精神的力は、コンドルセが言ったように、互いに「ひとつの分かちがたい鎖 に」つながっている。少なくとも、互いに矛盾するものではない、そして社会生活 について新たに発見された科学的真理の絶対確実な諸原理に一致するよう社会を変えたなら、 これらすべての目標を実現することができる。
 (d)フランス革命の失敗の原因
  (i)理解不足か?
   新しい原理が正確に理解されていなかったか、その適用 が不十分であったかのいずれかだったからだ。
  (ii) 社会的、経済的原因か?
   別の原理が問 題解決の真の鍵である。例えば、ジャコバン派の純粋に政治的な解決は、問題を過度に単純化 しすぎている点が致命的であり、社会的経済的原因がもっと考慮されるべきであった。
  (iii)他の原理か?
   科学的解決を信じる人々は、何か他のもの、例えば階級闘争とか、コント的進化の原理とか、他のある種の本質的要素が無視されたのが理由であると考えた。

(3)モンテスキューの思想
 (a)用心深い経験主義
 「物事の結果のほとんどは、あまりにも不思議な方法で生じたり、知覚できない、遠い原因によっていたりするので、それをあらか じめ見通すことは、ほとんど無理である」。
 (b)法律を普遍的に適用することへの不信
  人々の「性向や性 癖」に最もよく適した政体が最良である。
 (c)人間の能力の限界に対する鋭い感覚
  我々にできることはただ、その目的が 何であれ、人間をできるだけ失望させないよう努力することである。
 (d)「恐るべき単純化をする人々」は知的に明晰であり道徳的に心が純潔であるからこそ、この誤りに陥ったように思われる。


「今日、明らかとなり、とくに有益と思えるのは、どんな知識でも、技能でも、論理力で も、社会問題について最終的で普遍的な解決を自動的にもたらしうるものではないという事実 を、モンテスキューが非常にはっきりとみてとっていたことである。フランス啓蒙主義の指導 者たち、科学を広めた偉大なひとたちは、あらゆる種類の無知と蒙昧、とくに、野蛮、愚昧、 真実の隠蔽、冷笑、人権の無視にたいして公然の戦いをいどみ、人類に大きな貢献をしてき た。彼らの自由と正義のための戦いは、彼らが自分たちの教義を完全には理解していない時でさえも、非常に多くのひとびとが、今日そのおかげで生きてゆけ、自由でいられるひとつの伝 統をつくりあげた。これら指導者たちの大多数(彼らの告発の論拠はそれほど反駁の余地のな いものであったが)はまた、事物の運動にかんする科学があるように、人間の行動にかんする 科学もありうるはずだ、と信じていた。そして、この人間の行動についての科学の諸原理をつ かんだ者は誰でも、それを適用することにより、彼らが一致して目指していたすべての目標を 実現することができる、これらすべての目標――真理、正義、幸福、自由、知識、徳性、繁栄、 肉体的力と精神的力――は、コンドルセが言ったように、たがいに「ひとつの分かちがたい鎖 に」つながっている、あるいはすくなくとも、互いに矛盾するものではない、そして社会生活 について新たに発見された科学的真理の絶対確実な諸原理に一致するよう社会を変えたなら、 これらすべての目標を実現することができる、と信じていた。  フランス大革命が、一夜にしてひとびとを幸福にそして有徳にすることができなかった時、 革命を支持した者の中には、それは、新しい原理が正確に理解されていなかったか、その適用 が不十分であったかのいずれだったからだと主張したり、これらの原理ではなく別の原理が問 題解決の真の鍵である、例えば、ジャコバン派の純粋に政治的な解決は、問題を過度に単純化 しすぎている点が致命的であり、社会的経済的原因がもっと考慮されるべきであった、と主張 したりする者もいた。一八四八年から四九年にかけて、これらの要素が十分考慮され、それで もやはり、結果は満足すべきでなかった時、科学的解決を信じるひとびとは、何か他のもの―― 例えば階級闘争とか、コント的進化の原理とか、他のある種の本質的要素――が無視されたから だと断言した。モンテスキューの用心深い経験主義、法律を普遍的に適用することへの不信、 人間の能力の限界にたいする鋭い感覚といったものが、敢然と立ち向かっていくのは、まさに この種の「恐るべき単純化をするひとびと」にたいしてであって、彼らが知的に明晰であり、 道徳的に心が純潔であるからこそ、人間の行動にかんして彼らが想定した科学によって祭壇に 供えられた巨大な抽象の名において、彼らはますます容易に人類を幾度となく犠牲に供したよ うに思われたのである。もし、急進的な改革や反乱や革命が主張されるとすれば、それは、社 会体制のもたらす不正があまりにもたえがたきものとなり、それにたいして「自然が反対の叫 びをあげる」時である。しかしこうしたなりゆきは、つねに危険を伴うし、社会的結果を計算 にいれた絶対確実な方法により、物質的にも精神的にも安全を保証してもらうわけには決して いかない。人類の歴史は、とりわけフランスにおいて幾多の高邁な思想家たちを深く魅了した ような単純な法則によって影響されうるものではない。「物事の結果のほとんどは、あまりに も不思議な方法で生じたり、知覚できない、遠い原因によっていたりするので、それをあらか じめ見通すことはほとんど無理である」。だから、われわれにできることはただ、その目的が 何であれ、人間をできるだけ失望させないよう努力することである。ひとびとの「性向や性 癖」に最もよく適した政体が最良である。立法に際しては、なによりも、何がどういう結果を もたらすかについての判断が必要であり、この判断力は、経験もしくは歴史によってのみみが くことができる。なぜなら、法律と、人間性および人間の意識と相互作用をもつ人間の諸制度 との関係は、きわめて複雑であって、単純で小ぎれいな体系でははかり切れないからである。 時代を無視した規則をきびしく押しつければ、結果はつねに流血に終わるものである。」
 (アイザイア・バーリン(1909-1997),『モンテスキュー』,収録書籍名『思想と思想家  バーリン選集1』,pp.195-198,岩波書店(1983),福田歓一,河合秀和(編),三辺博之(訳)) 

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アイザイア・バーリン
(1909-1997)