「原子炉の事故でこれまで、いちばん怖れられてきたのは、スリーマイル島・タイプの冷却材喪失事故といえます。空炊き事故といい直せば、わかりやすいでしょうか。
原子炉の運転中でも、運転を止めた場合も、炉心は非常な高温になっています。これを毎秒一〇トン以上もの水を原子炉の中に循環させて、冷やしている。逆にいえば、その水がそれによって加熱されて蒸気になって発電をしているのです。この水が何らかの形で失われると、冷却材喪失事故になる。
事故に至る形はいろいろですが、いちばん典型的に考えられているのは、原子炉に水を入れているいちばん主な冷却水の配管が何らかの原因で大破断(ギロチン破断)した場合です。こういう大口径破断以外に、もっと小さなところで水漏れが起こっても、その水漏れが止まらなければ事故につながります。
現実にはまだ起こっていませんが、可能性として問題になっているものは、原子炉のお釜そのものが破壊してしまうことです。長い運転をしていると、放射線の影響で金属が脆くなってきます。これによって、ある条件のなかで破壊することがあるのではないかといわれていますが、そうなるとお手あげです。
そのほか、水を原子炉の中に送り込んでいるポンプが停電などで止まって水がいかなくなってしまう場合など、いろいろありますが、とにかく冷却水がなくなって空炊きになると、これが燃料棒の破損につながります。」
(中略)「核分裂反応は止めたけれども、放射能の熱によって過熱状態が続く。そして一時間四〇分ぐらいから炉心上部が空だきとなり燃料棒の損傷が始まりだした。
まず、燃料棒を被っているジルコニウムという金属の被覆管が、九〇〇度ぐらいになると、水と反応を始めます。酸化してしまうのですが、それによって大量に水素が発生します。この反応は発熱反応ですから、それによってさらに過熱が促進され、そして金属がボロボロになって、放射能が出てきてしまう。」
(高木仁三郎(1938-2000)『高木仁三郎著作集 第一巻 脱原発へ歩みだすⅠ』原発事故―――日本では? 第3章 原発事故の二つの形、pp.286-288)