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2024年4月16日火曜日

16. ノーマル・アクシデント(高木仁三郎(1938-2000)

ノーマル・アクシデント(高木仁三郎(1938-2000)

 「この種の事故のパターンが、なぜ現代の巨大システムには、現れやすいのか、ということが問題になる。この問いに対する答えには、エール大学の社会学者チェールズ・ペロウが示唆を与えてくれた。彼の著『ノーマル・アクシデント』に従って、しばらく彼の考えを述べてみよう」。

 「彼は現代の巨大システムにおける事故を、ポカとかミスとか何かしら信じられないようなことによってもたらされる、偶然的なものとはみない。

あるいは、そのシステムにとって外在的なものとはみない、と言ってもよいかもしれない。

彼は事故はシステムそのものが生み出すもの、いわばシステムに内在し、システムの営みそのものとして生み出されてしまうものとみる。

 その意味で、彼はノーマル・アクシデントという言葉を使う。ノーマル(通常、正常)なアクシデント(事故)とは、そもそも矛盾した表現である。アクシデントとは、そもそも異常(反ノーマル)な事態のはずだから。

しかし、まさにノーマル・アクシデントという捉え方こそが必要だと彼は力説する。同じことだがシステム・アクシデントという言葉も使われている。」

 「さて、ペロウが現代システムの重要な特徴として第一にあげるのが相互作用性( interactiveness )ということである。相互作用というのは、ひとつのシステムのいろいろな部分とかあるいはさまざまな機能が相互に関連していて作用しあうということである。」

 「現代のシステムは、巧妙に高度な機能が組み込まれているだけに、複雑な相互作用を起こす。こういう性質を称して、ペロウは「高い相互作用性をもつ」と呼び、そういうシステムは、共倒れを起こしやすいとしている。私は、将棋倒しにこそなりやすいのではないかと思う。

 右のような機能的な複雑さと直感的なわかりにくさというだけでなく、相互作用の強さにはさまざまな原因があるとして、ペロウはたとえば、近接性ということをあげている。

 現代の巨大プラントでは、機能性と空間の有効利用を考え諸機能を空間的にきわめて近接してコンパクトに作るように配置する。ところがそんなシステムの一ヵ所で爆発があるとすぐに他の部分も損傷する。火災も同様で、ラアーグ再処理工場の火災のケースがまさにそうだった。

この「近接性」も、本来設計者が予期しなかったような相互作用の原因となり、共倒れや将棋倒しにもつながることは容易に理解できよう。

 私がさらに付け加えれば、原発事故では放射能が、化学工場の事故では化学毒物が、事故の初期に漏れ始めると、これが制御室を襲ってくることがある(実際スリーマイル島事故でもチェルノブイリの事故でも制御室は危機になった)。これもひとつの「複雑な相互作用」で、そうなったら混乱は増幅される。

 もうひとつ付け加えておくと、システムが全体として複雑になるにつれて、構成各要素間の予期せぬ相互作用の可能性は飛躍的に増えるだろう。

その観点から言うと、安全装置を何重にも多く装備することで、システムは必ずしも安全性を増さないのである。むしろ、複雑になった分だけ、事故が起こりやすくなるかもしれない。ここに、安全装置が決して万能でない理由がある。」

 「もうひとつのペロウの重要な概念は、「緊密さ( tightness )」ということだ。現代の先端的システムはどれも非常に緊密( tight )につくられていて遊びがない。

ある圧力とか温度とか定められた範囲にきわめて近いところで運転され、それを少しはずれるととたんに事故になるようにつくられている。遊びのたくさんある自転車の運転とはわけが違う。

 もちろんある程度の余裕ということは安全上から現代のシステムでも必要とされるが、その幅はきわめて小さい。たとえば、原発で制御棒を誤って引き抜いてもよい本数はたかだか一本である。」

(高木仁三郎(1938-2000)『高木仁三郎著作集 第九巻 市民科学者として生きるⅢ』巨大事故の時代 第七章 事故はなぜ起きるか、pp.123-127)