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2024年5月9日木曜日

リチャード・エマーソンの理論 (ジョナサン・H・ターナー(1942-)



リチャード・エマーソンの理論 (ジョナサン・H・ターナー(1942-)




 「エマーソンの理論には三つの中核と見なせる概念がある。(1)権力、(2)権力行使、(3)均衡である。

ある行為者が《権力》をもちうるのは、他者が高い価値をもつ資源を有する彼に依存する場合である。

エマーソンの用語を用いるならば、行為者Aの行為者Bに対する権力は、行為者Bが行為者Aの資源への依存度の関数である。

すなわち、PAB=DBAである(なおPは権力をDは依存度を、そしてAとBは異なる資源を交換しようとしている二人の行為者を表す)。

依存は、他者の求める資源が(a)高い価値をもち、そして(b)別人から入手できないか、あるいは入手するためにはもっと高い費用を支払わなければならない程度によって決定される。

逆に、他者の資源を高く価値づけている行為者が交換に供給できる高い価値をもつ場合、依存の水準、したがって一方の行為者の他方の行為者に対する権力は低下する。

各行為者が互いに高い価値をもつ資源をもち、したがって各行為者が高い価値をもつ資源を他者に依存すると、各行為者は他者に対して絶対的な権力をもつ。この状態は、その関係に内在する高い水準の互恵的な権力によって、エマーソンが構造的凝集と呼ぶ状態を強化する。 

一方の行為者が他方の行為者を上回る権力(後者の依存によって)をもつと、この行為者は権力を行使し、そしてその強みを活かして依存者からもっと多くの資源を引きだし、もしくは依存している者が提供するいかなる資源であっても、それを獲得するための費用を引き下げようとする。

行為者Aが、行為者Bの依存のために行為者Bに勝る権力をもつと、行為者Aは権力有利の立場にある。権力有利と権力行使をしめす交換関係は、エマーソンの用語を用いると、平衡失調状態である。このように関係が平衡を失うと、いくつかの均衡回復のための作用が始まる。 

 均衡回復のための一つの作用は、B(依存している行為者)がAによって提供される資源を低く評価することであり、これによって依存度を下げることができる。

第二の均衡回復のための作用は、BがA1によって提供される資源の代替的な源泉(A2、A3、A4など)を見つけることである。これにより貴重な資源をA1だけに依存しなくてすむ。

第三の均衡回復のための作用は、Bが提供しなければならない資源に対するAにとっての価値を多少でも増やすことである。そうすることで高い価値をもつ資源によって、AのBへの依存度を高くすることができる。

第四の均衡回復のための作用は、BがAに供給する資源のAにとってBの代替的な要因(別の行為者B)を多少でも減らすことである。こうした均衡回復のための作用のすべてが、BのAへの依存度を低下するか、それともAのBへの依存度を加増できる方策である。」

 (ジョナサン・H・ターナー(1942-)『感情の社会学理論』第6章 感情の交換理論、pp.335-337、明石書店 (2013)、正岡寛司(訳))