法律家たちのインセンティブ
【法律は複雑な方が、都合がよい。顧客に法律の回避方法を指南し、また法律の抜け穴を利用した複雑な取引を組み立て、合法的に見える契約をお膳立てし、レントシーキングと独占力を維持することが可能となる。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】(4.3)(d)追記。
(4)市場を通じて、社会に対する貢献以上の報酬を獲得するための方法
社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)公正さや社会的正義より自分の利益を最優先する、(b)レントシーキング、(c)都合の悪い法律が作られないための政治的対策、(d)都合のよい税制、労働法、会社法、その他の経済政策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))
(4.1)基本的な考え方
(a)公正なルールに従ったフェアプレイは問題ではなく、重要なのは勝つか負けるかだ。市場は勝ち負けの基準をはっきりと示してくれる。持っている金の量である。
(b)必要とあれば“アンフェア”なプレーをする意志もなければならない。例えば、
(b.1)法律をかいくぐる能力や、法律を都合よくねじ曲げる能力。
(b.2)貧困者をふくむ他人の弱味につけ込む意志。
(4.2)レントシーキングの例
社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)参入障壁の構築と独占の維持、(b)競争障壁の構築、(c)市場の透明性を低下させること、(d)これら反競争的行為が規制されないための政治的対策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))
レントシーキングの例:(a)市場の独占、(b)市場の透明性を低下させ、他者を食いものにする、(c)政府から資源を移転する(例:補助金給付,天然資源へのアクセス権,独占輸入権,社会へのコスト転嫁,損失補填)(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))
(a)市場の競争性を低下させ、独占力を確保する。(独占利益(モノポリー・レント))
(a.1)参入障壁や、競争の障壁を構築する。
(a.2)政府に、市場の競争性を低下させる法律を、作らせる。
(b)市場の透明性を低下させ、情報の非対称性を利用する。
(b.1)公開市場ではなく店頭市場を利用し、買い手に必要な情報を与えず、取引を有利に進める。
(b.2)略奪的貸付や濫用的クレジットカード業務。
(b.3)他者を食いものにすることを規制する法律を、政府に作らせない。
(c)政府からの、公然または非公然の資源移転と、補助金給付。
(c.1)政府から、天然資源へのアクセス権を有利な条件で入手する。
(c.2)政府から、独占輸入権(輸入割当(クオータ))を与えられる。
(c.3)政府から、コストを社会に転嫁することを許される。
(c.4)過剰なリスクを取ったことによる失敗の損失を、政府に補填してもらう。
(4.3)都合の悪い規制の廃止、緩和
レントシーキングに都合の悪い法律が作られないようにする。政府の規制は少ない方がいい。
(a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、政策決定に影響力を行使する。
(b)反競争的行為が法律で禁止されないようにする。
(c)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないようする。
(d)法律家たちのインセンティブ。
法律は複雑な方が、都合がよい。顧客に法律の回避方法を指南し、また法律の抜け穴を利用した複雑な取引を組み立て、合法的に見える契約をお膳立てし、レントシーキングと独占力を維持することが可能となる。
(4.4)税制を、自分に都合のよいものに変える。
(a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、税制の設計に影響力を行使する。
(b)実態が隠蔽できるような複雑さを持った“逆累進課税制度”を実現させる。
(4.5)労働法や会社法を、自分に都合のよいものに変える。
(4.6)政府のマクロ経済政策を、自分に都合のよいものに変える。
「最後に挙げるレントシーキング集団は、第一級の法律家たちで構成されている。
彼らは顧客の刑務所行きを(おおむね)防ぎつつ、法律の回避方法を指南することで、富を築き上げてきた。
法曹界は、顧客に税金逃れをさせるべく、抜け穴のある複雑な法律を案出しておき、その後は、抜け穴を利用するための込み入った取引を組み立てる。
複雑かつ不透明なデリバティブ市場の設計に手を貸したのも彼らだ。独占力を創り出すため、合法的に見える契約をお膳立てするのも、法律家たちの仕事だ。
彼らはこのような支援活動を通じて、市場が本来果たすべき機能を妨げ、上層を利する道具としての機能を発揮させ、結果として太っ腹な報酬にありついているのだ。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,p.90,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:法律家たちのインセンティブ,レントシーキング)
(出典:wikipedia)
「改革のターゲットは経済ルール
21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
つまり、労働法やコーポレートガバナンス、金融規制、貿易協定、体系化された差別、金融政策、課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」
氷山の頂点
日常的な不平等の経験
┌─────────────┐
│⇒生活していくだけの給料が│
│ 得られない仕事 │
│⇒生活費の増大 │
│⇒深まる不安 │
└─────────────┘
経済を構築するルール
┌─────────────────┐
│⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
│⇒税制 │
│⇒国際貿易および金融協定 │
│⇒マクロ経済政策 │
│⇒労働法と労働市場へのアクセス │
│⇒体系的な差別 │
└─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー │
│⇒グローバル化 │
└───────────────────┘
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
スティグリッツの関連書籍(amazon)
検索(スティグリッツ)
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,p.90,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:法律家たちのインセンティブ,レントシーキング)
(出典:wikipedia)
「改革のターゲットは経済ルール
21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
つまり、労働法やコーポレートガバナンス、金融規制、貿易協定、体系化された差別、金融政策、課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」
氷山の頂点
日常的な不平等の経験
┌─────────────┐
│⇒生活していくだけの給料が│
│ 得られない仕事 │
│⇒生活費の増大 │
│⇒深まる不安 │
└─────────────┘
経済を構築するルール
┌─────────────────┐
│⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
│⇒税制 │
│⇒国際貿易および金融協定 │
│⇒マクロ経済政策 │
│⇒労働法と労働市場へのアクセス │
│⇒体系的な差別 │
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世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー │
│⇒グローバル化 │
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(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
スティグリッツの関連書籍(amazon)
検索(スティグリッツ)