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2020年5月24日日曜日

任意の時刻において,それより大きい部分系の状態とは量子力学的な相関を持たないという意味で自己充足的な最小の部分系における,特別な状態の選択が,あるものが意識化される本質であるように思われる.(マイケル・ロックウッド(1933-2018))

意識とは?

【任意の時刻において,それより大きい部分系の状態とは量子力学的な相関を持たないという意味で自己充足的な最小の部分系における,特別な状態の選択が,あるものが意識化される本質であるように思われる.(マイケル・ロックウッド(1933-2018))】

 「この時点で、私がここで擁護しようとしている立場を簡単に要約しておくと役にたつだろう。非相対論的に考えると、宇宙はシュレーディンガー方程式にしたがってなめらかに決定論的に発展していく継目のない全体であると考えられる。この発展系は、無数のさまざまな仕方で部分系に分けることができる。部分系のあいだに相関があるかぎり、どんな部分系も、ある時刻になんらかの決定的な量子状態にあると考えることはできない。しかしながら、もし、特定の部分系を選んで、その系のある可能な状態を選ぶならば――くり返すが、「本当に」その状態にあるわけではない、というのは、相関があるとそのような状態は存在しないからである――そのときには、ほかの部分系に決まった量子状態、もとの部分系の選ばれた状態に呼応した状態を割り当てることができる。意識をもった主体にとって、意識的である任意の時刻において、それはいつも決まって、特別の部分系の特別の状態が選ばれた《かのように》みえる。つまり、主体の脳の内部にあるどんな物理系の状態も、じかに主体の意識の流れをささえているのである。私は、この状態を意識によって《指示された》状態と呼ぶ。関与している脳系のどんな状態も指示されるのにふさわしいというのではなく、ただ、関与している脳系のオブザーバブルのうちの特別な集合の共有された固有状態だけが選ばれるに値するのである。任意の時刻において、意識をもった主体は、宇宙ののこり全体をはじめとして他のどんな部分系をも、この指示された状態に呼応する決まった量子状態をもつものと考える資格をもっているのである。ひとがふつう、ある時刻の、なにものかの状態と考えるものは、本当はその人自身のある指示された状態に単に呼応した状態と考えるべきである。そして、これは、全体としての宇宙の状態についても通用するのである。
 私は、脳オブザーバブルのつくる優先集合の共有された固有状態だけが、指示されるに値すると言った。もう少しだけはっきりさせたい。全宇宙の状態が複数の状態の重ね合わせとしてあらわされていると仮定しよう。状態のおのおのは、部分系の状態のテンソル積であり、適切に分割された部分系のもと、その表現は適切に選ばれているとしよう。私は、《全》宇宙と言っている。しかし、実際は、関与している脳系を部分系としてふくんでいる宇宙の部分系のうち、その状態が宇宙の他の部分系(全部であれ一部であれ、すでにふくまれているものは別として)の状態と、量子力学的な意味で相関していないという意味で《自己充足的》であるような、最小のものを考えれば十分である。というのも、そうした条件を満たす部分系は――関与している脳系はそうではないだろうが――決定論的で意味のある客観的な量子状態をもっているはずだからである。(この最小の自己充足的な部分系は、残りと決して相互作用しない部分系が宇宙にないとすると(そんなことはありそうにないが)全宇宙と一致する。)
 さらに、私の意識をささえている脳部分系はその部分系のひとつで、選ばれた表現は、いま論じている脳オブザーバブルのつくる特別な集合によって定義されているとしよう。すると、任意の時刻で、オブザーバブルのつくる特別な集合の特別な共有されている固有状態が指示される必要条件は、宇宙の重ね合わせにあらわれるテンソル積のひとつにふくまれていることである。あるいは、もっと正確に言うと、ゼロでない係数をもった重ね合わせの要素のなかにあらわれていることである。これを、関与している脳系の状態が指示されるための必要条件と言おう。しかし、それは《十分条件》でもある。この条件を満たすすべての状態は、同時に指示することができ、したがって、すべておなじように私のものである並列現象的パースペクティブを生成している。それが、観測という文脈において、「精神」あるいは分離した観測者について語ることにあたえるべき文字どおりの意味である。」
(マイケル・ロックウッド(1933-2018)『心、脳、量子』(日本語名『心身問題と量子力学』)第13章 量子力学と意識的観測者、pp.326-328、産業図書(1992)、奥田栄(訳))
(索引:意識)

心身問題と量子力学


マイケル・ロックウッド(1933-2018)
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