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2020年5月14日木曜日

32.情動は,対象の感知による一時的変化が,体液性信号と神経信号を通じ全身に伝播し,内部環境,内臓,筋骨格の状態,身体風景の表象を変化させ,脳状態の変更を通じて,特定行動誘発,認知処理モードの変化等を引き起こす。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

情動が引き起こす身体変化と脳変化

【情動は,対象の感知による一時的変化が,体液性信号と神経信号を通じ全身に伝播し,内部環境,内臓,筋骨格の状態,身体風景の表象を変化させ,脳状態の変更を通じて,特定行動誘発,認知処理モードの変化等を引き起こす。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

  (2.3.5)「脳や身体の状態を一時的に変更する」情動の身体過程
   (a)情動対象を感知する。
    (a.1)感覚で与えられた対象や事象を感知し、評価する。
    (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
    (a.2)「あたかも身体ループ」:想起された対象や事象を感知し、評価する。
     この「あたかも」機構は、単に情動と感情にとって重要なだけでなく、「内的シミュレーション」とも言える一種の認知プロセスにとっても重要である。
   (b)有機体の状態が一時的に変化する。
    (b.1)身体状態と関係する変化:「身体ループ」または「あたかも身体ループ」
     (i)自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
     (場所:例えば「恐れ」であれば扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
     (ii)2種類の信号が変化を伝播する。
      (1)体液性信号:血流を介して運ばれる化学的メッセージ
      (2)神経信号:神経経路を介して運ばれる電気化学的メッセージ
     (iii)身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
      情動的状態は、身体の化学特性の無数の変化、内臓の状態の変化、そして顔面、咽喉、胴、四肢のさまざまな横紋筋の収縮の程度を変化させる。
     (iv)身体風景の表象が変化する。
      二種類の信号の結果として身体風景が変化し、脳幹から上の中枢神経の体性感覚構造に表象される。
    (b.2)認知状態と関係する変化
     脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
     次項目「思考や行動に影響を与える」へ。
   (c)有機体の一次的変化の表象
    一次的に変化した有機体の状態は、イメージとして表象される。
   (d)対象の意識化と自己感の発生
    有機体の一時的変化の表象は、情動の対象を強調し意識的なものに変化させる。同時に、対象を認識している自己感が出現する。
  (2.3.6)「思考や行動に影響を与える」:認知状態と関係する変化
   (a)情動のプロセスによって前脳基底部、視床下部、脳幹の核にいくつかの化学物質が分泌される。
   (b)分泌された神経調節物質が、大脳皮質、視床、大脳基底核に送られる。
   (c)その結果、以下のような重要な変化が多数起こる。
    (i)特定の行動の誘発
     たとえば、絆と養育、遊びと探索。
    (ii)現在進行中の身体状態の処理の変化
     たとえば、身体信号がフィルターにかけられたり通過を許されたり、選択的に抑制されたり強化されたりして、快、不快の質が変化することがある。
    (iii)認知処理モードの変化
     たとえば、聴覚イメージや視覚イメージに関して、遅いイメージが速くなる、シャープなイメージがぼやける、といった変化。この変化は情動の重要な要素である。
    (iv)引き起こされた特有な身体的パターン、行動パターンの種類がいくつか存在する。

「ある感情の基盤を構成する一連のニューラル・パターンは、二種類の生物学的変化の中で生じる。身体状態と関係する変化と、認知状態と関係する変化である。身体状態と関係する変化は、二つの機構によって実現される。一つの機構は、私が「身体ループ」と呼ぶもの。それは体液性信号(血流を介して運ばれる化学的メッセージ)と神経信号(神経経路を介して運ばれる電気化学的メッセージ)の双方を使う。二種類の信号の結果として身体風景が変化し、それは脳幹から上の中枢神経の体性感覚構造に表象される。
 身体風景の表象の変化は、部分的に「あたかも身体ループ」という別の機構によってもなされる。この代替的な機構では、身体関係の変化の表象が、たとえば前頭前皮質などにある他の神経部位の制御のもとで、直接、感覚身体マップの中につくられる。「あたかも」本当に身体が変化したかのようだが、実際にはそうではない。この「あたかも身体ループ」の機構は、部分的ないし全面的に身体をバイパスするようになっている。私はこれまで、身体をバイパスすることは時間とエネルギーを節約し、状況によってそれはひじょうに有用なものだと言ってきた。この「あたかも」機構は、単に情動と感情にとって重要なだけでなく、「内的シミュレーション」とも言える一種の認知プロセスにとっても重要だ。
 一方、認知状態と関係する変化が生み出されるのは、情動のプロセスによって前脳基底部、視床下部、脳幹の核にいくつかの化学物質が分泌され、それらの物質が他のいくつかの脳部位に送られるときだ。これらの核が大脳皮質、視床、大脳基底核に神経調節物質を放つと、それにより脳の作用に重要な変化が多数起こる。私が考えているもっとも重要な変化には以下のものがある。
(1) 特定の行動(たとえば、絆と養育、遊びと探索)の誘発。
(2) 現在進行中の身体状態の処理の変化(たとえば、身体信号がフィルターにかけられたり通過を許されたり、選択的に抑制されたり強化されたりして、快、不快の質が変化することがある)。
(3) 認知処理モードの変化(たとえば、聴覚イメージや視覚イメージに関して、遅いイメージが速くなる、シャープなイメージがぼやける、といった変化。この変化は情動の重要な要素である)。」(中略)
「要するに、情動的状態は身体の化学特性の無数の変化、内臓の状態の変化、そして顔面、咽喉、胴、四肢のさまざまな横紋筋の収縮の程度の変化によってきまる。しかし情動的状態はまた、そうした変化を引き起こすとともに脳そのものの中のいくつかの神経回路の状態に、重要な変化をもたらしている一連の神経構造における変化によってもきまる。
 情動とは具体的に生じた有機体の状態の一時的変化、と単純に定義するなら、情動を感じるとは、つぎのように単純に定義できる。つまり、情動を感じるとは、有機体の状態のそうした一時的変化を、ニューラル・パターンとそれがもたらすイメージで表象することだ。そして、それらのイメージにただちに認識中の自己感が伴い、それらのイメージが強調されると、それらは意識的なものとなる。真の意味で、それらのイメージは「感情の感情」(feeling of feelings)である。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第4部 身体という劇場、第9章 情動と感情の基盤は何か、pp.336-338、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:身体,情動,感情,体液性信号,神経信号,内部環境,身体風景)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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意識化されない無数の感覚刺激の中から、意味のある情報をふるい分ける機能の一部として、意識化に必要な持続時間条件があり、また「注意」による選択の仕組みが存在する。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識のフィルター機能

【意識化されない無数の感覚刺激の中から、意味のある情報をふるい分ける機能の一部として、意識化に必要な持続時間条件があり、また「注意」による選択の仕組みが存在する。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

ふるい分けされた、ごく一部の感覚入力が意識化される
 無数の感覚刺激が意識化されたら、無意味な騒音を抱え込みすぎることになる。意識はふるい分けの機能によって、一度にごく少数の事象や問題に集中することが可能になる。
 (1)意識化されない感覚入力をふるい分けるための仕組み
  (a)意識化に必要な持続時間条件
  (b)注意の機能
   おそらく注意のメカニズムが、与えられた選択された反応を、意識を引き出すために、十分に長い時間持続させる。
   参考:意識を伴わない感覚信号の検出、精神機能、ニューロン活動が存在し、活動の持続時間が500ms以上になると意識的な機能となる。持続時間の延長には、「注意」による選択が関与しているらしい(仮説)。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))
 (2)意識化されない無数の感覚刺激
  脳には、1秒間に何千回もの感覚入力が到達しているが、意識化されない。

 「(8) 意識経験のタイム-オン(持続時間)の必要条件は、どの時点においても意識経験を制限する「フィルター機能」の機能を果たすことができます。1秒間に何千回も脳に到達する感覚入力のうち、意識的なアウェアネスを生み出すことができるものはほとんどないことは明らかです。しかし、これらの感覚入力が、無意識に、重大な脳と心の反応へとつながる可能性があります。フランスの哲学者アンリ・ベルグソンは、感覚入力への意識を伴う反応が人間自身を圧倒しないように、脳はほとんどの感覚入力を意識化することからブロックすることができると提唱しました。現在の私たちの実験的な発見によって、このブロッキングを達成する生理学的なメカニズムが明らかにできるでしょう。
 つまり、私たちは次のように提案したいのです。大部分の感覚入力は適切な脳神経細胞が十分な長さのタイム-オン(持続時間)にわたって活動し続けていないため、それらの感覚入力は無意識のままになるのではないでしょうか。おそらく注意のメカニズムが、与えられた選択された反応を、アウェアネスを引き出すために十分に長い時間持続されるのでしょう。しかし、明らかに、注意そのものはアウェアネスのメカニズムには十分なものではありません。このように、アウェアネスのためのタイム-オン(持続時間)の必要条件は、アウェアネスに未だ至らない感覚入力をスクリーニングするためのメカニズムの一部でもあります。
 入力のスクリーニングまたはフィルタリングによって、意識的なアウェアネスが混乱することを避けられ、一度にごく少数の事象や問題に集中することが可能になるのです。もしあなたがすべての感覚入力に気づくようになったとしたら、意識事象の無意味な騒音を抱え込みすぎることになるでしょう。おそらくある種の精神障害は、アウェアネスに必要な脳活動の持続時間の異常な減少によって、このようなフィルターメカニズムが適切に働かないことを反映しているのでしょう。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第3章 無意識的/意識的な精神機能,岩波書店(2005),pp.134-135,下條信輔(訳))
(索引:無意識,意識,精神機能,フィルター機能)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

ベンジャミン・リベット(1916-2007)
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農水省は,一般品種は自由に自家増殖でき,制限されるのは登録品種だけだと説明するが,登録品種の数は急激に増えている。(日本の種子を守る会(2017-))

一般品種と登録品種

【農水省は,一般品種は自由に自家増殖でき,制限されるのは登録品種だけだと説明するが,登録品種の数は急激に増えている。(日本の種子を守る会(2017-))】

 「1、自家増殖禁止、品種登録制度の全面化による農家経営の圧迫に反対します。
(1) 種苗を開発し品種登録可能なのは、投資額と開発時間などにより、主に公的機関か 大企業が占めることが想定されます。その公的機関を縮小しその開発知見を民間に 移管するとする農業競争力強化支援法の下では、特定多国籍企業による占有が危惧 されます。
(2) 海外流出を「育成者の意図しない国や地域への防止」としていますが、日本の公的 機関が持つ育種知見が多国籍企業に移管されればむしろ日本の税金で育成された 種苗を合法的に海外に流出させてしまうことです。
(3) 農家などが「自家増殖を自由にできる一般品種」は現実にはその使用実態は把握さ れておらず、ここ数年で許諾を必要とする「品種登録の急速な増加」と今後の「登 録品種の拡大」により自由に使用できる「一般品種の大幅な縮小」が危惧されます。
(4) 農家の現場は、イチゴや芋類、サトウキビなど多種類が種苗を毎年新規に購入しそ のまま使う割合は 1 割以下であり、ほとんどが自家増殖で増やして使用していま す。その自家増殖を許諾制及び使用料が必要となれば、農家経営を圧迫し破綻に追 いやることです。
(5) 農水省は自家増殖禁止は世界のスタンダードであるかのように言いますが、米国で も EU でも主食などその国に重要な作物には例外として許可されており、今回の改 正案のように例外なしで一律に許諾制にしてしまう国は世界のどこにもありませ ん。
(6) 農水省は、今までとおり許諾制や使用料を支払う必要のない一般品種がほとんどだ と農家の不安を消すような情報を出しています。しかし、在来種などを守る法制度 が存在しない中で、果たして法に守られた登録品種と守られない在来品種との間で 訴訟になった時に、在来品種を使う農家の権利が守られるか、大きな疑問が存在し ています。」
種苗法改定案に対する見解 2020/4/9日本の種子を守る会
(索引:)

農水省の言う通り"登録品種の海外流出防止"が目的ならば,むしろ公的機関による管理が望ましく,貴重な知見を民間企業へ移行することは逆効果であり,手段が間違っている。あるいは別の目的があるのか?(日本の種子を守る会(2017-))

海外流出防止?

【農水省の言う通り"登録品種の海外流出防止"が目的ならば,むしろ公的機関による管理が望ましく,貴重な知見を民間企業へ移行することは逆効果であり,手段が間違っている。あるいは別の目的があるのか?(日本の種子を守る会(2017-))】

 「1、自家増殖禁止、品種登録制度の全面化による農家経営の圧迫に反対します。
(1) 種苗を開発し品種登録可能なのは、投資額と開発時間などにより、主に公的機関か 大企業が占めることが想定されます。その公的機関を縮小しその開発知見を民間に 移管するとする農業競争力強化支援法の下では、特定多国籍企業による占有が危惧 されます。
(2) 海外流出を「育成者の意図しない国や地域への防止」としていますが、日本の公的 機関が持つ育種知見が多国籍企業に移管されればむしろ日本の税金で育成された 種苗を合法的に海外に流出させてしまうことです。
(3) 農家などが「自家増殖を自由にできる一般品種」は現実にはその使用実態は把握さ れておらず、ここ数年で許諾を必要とする「品種登録の急速な増加」と今後の「登 録品種の拡大」により自由に使用できる「一般品種の大幅な縮小」が危惧されます。
(4) 農家の現場は、イチゴや芋類、サトウキビなど多種類が種苗を毎年新規に購入しそ のまま使う割合は 1 割以下であり、ほとんどが自家増殖で増やして使用していま す。その自家増殖を許諾制及び使用料が必要となれば、農家経営を圧迫し破綻に追 いやることです。
(5) 農水省は自家増殖禁止は世界のスタンダードであるかのように言いますが、米国で も EU でも主食などその国に重要な作物には例外として許可されており、今回の改 正案のように例外なしで一律に許諾制にしてしまう国は世界のどこにもありませ ん。
(6) 農水省は、今までとおり許諾制や使用料を支払う必要のない一般品種がほとんどだ と農家の不安を消すような情報を出しています。しかし、在来種などを守る法制度 が存在しない中で、果たして法に守られた登録品種と守られない在来品種との間で 訴訟になった時に、在来品種を使う農家の権利が守られるか、大きな疑問が存在し ています。」
種苗法改定案に対する見解 2020/4/9日本の種子を守る会
(索引:)

そもそも,種苗の開発には多くの時間と費用が必要なため,開発できるのは公的機関か大企業が中心である。このような中で,種苗事業を公的機関から民間へ移行する(農業競争力強化支援法8条4項)なら,どうなるか?(日本の種子を守る会(2017-))

農業競争力強化支援法

【そもそも,種苗の開発には多くの時間と費用が必要なため,開発できるのは公的機関か大企業が中心である。このような中で,種苗事業を公的機関から民間へ移行する(農業競争力強化支援法8条4項)なら,どうなるか?(日本の種子を守る会(2017-))】
 「1、自家増殖禁止、品種登録制度の全面化による農家経営の圧迫に反対します。
(1) 種苗を開発し品種登録可能なのは、投資額と開発時間などにより、主に公的機関か 大企業が占めることが想定されます。その公的機関を縮小しその開発知見を民間に 移管するとする農業競争力強化支援法の下では、特定多国籍企業による占有が危惧 されます。
(2) 海外流出を「育成者の意図しない国や地域への防止」としていますが、日本の公的 機関が持つ育種知見が多国籍企業に移管されればむしろ日本の税金で育成された 種苗を合法的に海外に流出させてしまうことです。
(3) 農家などが「自家増殖を自由にできる一般品種」は現実にはその使用実態は把握さ れておらず、ここ数年で許諾を必要とする「品種登録の急速な増加」と今後の「登 録品種の拡大」により自由に使用できる「一般品種の大幅な縮小」が危惧されます。
(4) 農家の現場は、イチゴや芋類、サトウキビなど多種類が種苗を毎年新規に購入しそ のまま使う割合は 1 割以下であり、ほとんどが自家増殖で増やして使用していま す。その自家増殖を許諾制及び使用料が必要となれば、農家経営を圧迫し破綻に追 いやることです。
(5) 農水省は自家増殖禁止は世界のスタンダードであるかのように言いますが、米国で も EU でも主食などその国に重要な作物には例外として許可されており、今回の改 正案のように例外なしで一律に許諾制にしてしまう国は世界のどこにもありませ ん。
(6) 農水省は、今までとおり許諾制や使用料を支払う必要のない一般品種がほとんどだ と農家の不安を消すような情報を出しています。しかし、在来種などを守る法制度 が存在しない中で、果たして法に守られた登録品種と守られない在来品種との間で 訴訟になった時に、在来品種を使う農家の権利が守られるか、大きな疑問が存在し ています。」
種苗法改定案に対する見解 2020/4/9日本の種子を守る会
(索引:)

"種苗法改正"の根源的な問題は,農漁業者の保護育成とは反対に,農業者を支えてきた公的な種苗事業を民間へ移行するという路線(農業競争力強化支援法8条4項)に沿い,農業者の自家増殖を制限することにある。(日本の種子を守る会(2017-))

公的な種苗事業を民間へ移行すること

【"種苗法改正"の根源的な問題は,農漁業者の保護育成とは反対に,農業者を支えてきた公的な種苗事業を民間へ移行するという路線(農業競争力強化支援法8条4項)に沿い,農業者の自家増殖を制限することにある。(日本の種子を守る会(2017-))】

 「まず、この法案は農漁業者への影響が甚大であると想定されるので、充分な時間をとり農 漁業者の幅広い意見を反映させて審議されるべきであると考えます。したがって現在の新 型コロナウィルス対応の緊急事態での拙速な審議は延期すべきであると申し上げます。

日本の種子を守る会は、今回農水省による改正案の問題は農業競争力強化支援法や 2017年11月の農水省事務次官の通知にあるように、公的な種苗事業を民間に移すという路線の元 に、事実上、多国籍企業にその権利を移そうとしていることに根源的な問題があると指摘し ます。農林水産業の担い手である「多数の農漁業者の保護育成」とは反対の改正法案となっ ている事です。農林水産業の担い手である地域の農家や地域の種苗会社も、都道府県の公共 種苗事業もこうした中で崩壊の危機に瀕します。」
種苗法改定案に対する見解 2020/4/9日本の種子を守る会

(索引:種苗法改正,公的な種苗事業,農業競争力強化支援法)

いま農業者は,県で開発された品種を購入,毎年株分けして増殖,栽培,出荷している。ところが"種苗法改正"で登録品種の自家増殖が禁止になると,対価を払って許諾を得るか,一般品種に変えざるを得なくなる。(山田正彦(1942-))

登録品種の自家増殖が禁止

【いま農業者は,県で開発された品種を購入,毎年株分けして増殖,栽培,出荷している。ところが"種苗法改正"で登録品種の自家増殖が禁止になると,対価を払って許諾を得るか,一般品種に変えざるを得なくなる。(山田正彦(1942-))】

 「登録された品種について自家増殖一律禁止となる、種苗法の今回審議される改定についての大事な話です。
ウドは日本の伝統的な品種だと思ってましたが、 すでにウドでも芳香1号2号という栃木県による品種が登録されています。
平成24年に登録されたのでまだ育種権の保護期間が20年近くあります。
私は栃木県大田原市のウド栽培農家を訪ねて話をお聞きしました。
古谷慶一さんは6年前に県からウドの芳香2号を1本300円で50本分けてもらい、それを毎年株分けして増殖、今では1万本を栽培して出荷を続けています。
種苗法が改定されると登録品種は一律自家増殖が禁止になるので、毎年対価を払って許諾を得るか、苗を全て購入しなければならなくなります。
皆さんウドでそのようなことになるとは夢にも思わなかったと驚いていました。
既に高崎市でF1のウドの苗をポットに入れて1本500円で売り出したそうですが、F1は一代限りで 増殖できず誰も購入者はいなかったそうです。
先に成立した農業競争力強化支援法8条4項では、栃木県の優良な育種知見も海外の企業も含む民間に提供するとなっています。
農水省は毎年800種の新品種の育種登録を認めています。
いずれウドも自家増殖禁止になって、民間企業によるF1の品種、ゲノム編集の品種を農家は高い価格で購入せざるを得なくなります。
古谷さんは、ウドでもそうなれば新たに500万円の負担増になるので、農業は続けられないと嘆いていました。
JAなすのウド部会長の助川悦夫さんは、そうなれば昔の品種「紫」に戻るしかないかなと。
もともとウドの登録品種芳香は伝統的な昔ながらの品種である愛知坊主とか紫など7種類の品種に改良を加えたものを栃木県が品種登録したそうです。
各県は農水省の説明で、県独自の開発した権利が海外での流出を免れるメリットがあると考えてるようです。 (長野県JA中央会清水常務談)
栃木県はイチゴなど独自の優良な品種が海外に持ち出されるのを禁止するメリットがあると考えているそうです。
しかしそれは本当に騙されています。
農水省が種子法を廃止する時に、種苗法で守るから大丈夫だと説明して回ったのは記憶に新しいことです。
ところが、種苗法改定では法のたて付けが違うの で種子法のことを入れることはできないとはっきり述べています。
各県が優良な品種の海外流出を防ぐことは、今の種苗法21条4項で刑事告訴も民事の損害賠償も十分できるのです。
農水省はユポフ91年条約加盟国にはできないのではと反論しますが、 加盟国であれば容易に育種登録ができるのでより確実に流出を防げます。
写真はウドの収穫と株(根っこ)を4つに切って増殖するところです。

やはり心配です。2020/3/17山田正彦 Official Blog

(索引:)

(出典:wikipedia
山田正彦(1942-)の命題集(Propositions of great philosophers)
山田正彦(1942-)
山田正彦 Official Blog
検索(山田正彦)

(8条1項)農薬や安全基準は"国際的な標準との調和"(2項)公的機関と民間の連携促進(3項)小規模多様な銘柄は生産性が低いので集約(4項)公的機関が"有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進"(農業競争力強化支援法)

農業競争力強化支援法

【(8条1項)農薬や安全基準は"国際的な標準との調和"(2項)公的機関と民間の連携促進(3項)小規模多様な銘柄は生産性が低いので集約(4項)公的機関が"有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進"(農業競争力強化支援法)】
「農業競争力強化支援法
第八条 国は、良質かつ低廉な農業資材の供給を実現する上で必要な事業環境の整備のため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。
一 農薬の登録その他の農業資材に係る規制について、農業資材の安全性を確保するための見直し、国際的な標準との調和を図るための見直しその他の当該規制を最新の科学的知見を踏まえた合理的なものとするための見直しを行うこと。
二 農業機械その他の農業資材の開発について、良質かつ低廉な農業資材の供給の実現に向けた開発の目標を設定するとともに、独立行政法人の試験研究機関、大学及び民間事業者の間の連携を促進すること。
三 農業資材であってその銘柄が著しく多数であるため銘柄ごとのその生産の規模が小さくその生産を行う事業者の生産性が低いものについて、地方公共団体又は農業者団体が行う当該農業資材の銘柄の数の増加と関連する基準の見直しその他の当該農業資材の銘柄の集約の取組を促進すること。
四 種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。

農業競争力強化支援法e-Gov 法令検索

(索引:農業競争力強化支援法8条)

種苗法改正は(1)登録品種の海外流出防止のため,栽培地域を制限できるようにし(2)現在,認められている登録品種の自家増殖を許諾制に変更する。(3)個人で懲役10年以下,1000万円以下,法人で3億円以下の罰則を設ける(農林水産省)

登録品種の海外流出防止策

【種苗法改正は(1)登録品種の海外流出防止のため,栽培地域を制限できるようにし(2)現在,認められている登録品種の自家増殖を許諾制に変更する。(3)個人で懲役10年以下,1000万円以下,法人で3億円以下の罰則を設ける(農林水産省)】

登録品種
 (1)購入した登録品種を海外へ持ち出すこと
  (a)登録品種が販売された後に海外に持ち出されることは、現行法上は違法ではない。
  (b)対策:輸出先国又は栽培地域を指定できるようにする
   登録品種について、育成者権者が利用条件(国内利用限定、国内栽培地域限定)を出願時に付した場合は、利用条件に反した行為を育成者権者が制限できることとする。
 (2)登録品種を自家増殖後に海外へ持ち出すこと(違法)
  登録品種が自家増殖された後に海外に持ち出されることは違法であるが、増殖の実態が把握できないため抑止できない。
  (a)農業者の自家増殖は、認められている。
  (b)対策:農業者による増殖は、育成者権者の許諾を必要とする。
   ※育成者権侵害は、流通差止や損害賠償請求等民事上の措置に加え、
   個人:懲役10年以下、罰金1千万円以下
   法人:罰金3億円以下
   の刑罰の対象となる。

 「登録品種の海外流出
1 近年、諸外国で我が国の登録品種が海外に流出。
2 これは、我が国農産物の輸出に影響する。
3 登録品種が販売された後に海外に持ち出されることは、現行法上は違法ではない。
4 登録品種が自家増殖された後に海外に持ち出されることは違法であるが、増殖の実態が把握できないため抑止できない。

出願期限が切れたシャインマスカットが中国・韓国に流出
①外国人と思われる者、非農業者と思われる者に販売
②ホームセンターで登録品種の種苗が不特定多数に販売
(いずれも違法ではない)

紅秀峰が豪州で産地化
①栽培を山形県内に限っていたサクランボ品種「紅秀峰」を県内農業者が増殖
②増殖した種苗を、育成者権者に無断で豪州人に譲渡

輸出先国又は栽培地域を指定できるようにする
・登録品種について、育成者権者が利用条件(国内利用限定、国内栽培地域限定)を出願時に付した場合は、利用条件に反した行為を育成者権者が制限できることとする

・登録品種には
①登録品種であること、
②利用制限を行った場合はその旨の表示を義務づける

農業者の自家増殖にも育成者権の効力が及ぶこととする
・登録品種に限り農業者による増殖は育成者権者の許諾を必要とする
(禁止ではない)

※育成者権侵害は、
流通差止や損害賠償請求等民事上の措置に加え
個人:懲役10年以下、罰金1千万円以下
法人:罰金3億円以下
の刑罰の対象となる。



種苗法の一部を改正する法律案について(農林水産省)種苗法の一部を改正する法律案について(農林水産省)
(索引:登録品種の海外流出)