意志の測定
「今、動こう」とする自由で自然発生的な意志の意識の測定(ベンジャミン・リベット(1916-2007))
(a)陰極線オシロスコープ (i)陰極線オシロスコープの光の点が時計盤の外側の縁を回転する。
(ii)円の一周が60等分されている。
(iii)光の点は2.56秒で円を一周する。すなわち、ひと目盛り約43msで移動する。
(b)被験者
(i)オシロスコープから約2.3メートル離れたところに座る。
(ii)被験者は、自由で自発的な行為として、単純だが急激な手首の屈曲運動を、やりたいとき にいつでも行ってよいと指示されている。
(iii)被験者はいつ行動するかあらかじめ考えずに、むしろ行為が「ひとりでに」現れるがまま にさせるように言われている。
(iv)被験者は、自分の動きを促す意図や願望への最初のアウェアネスを、その時点での回転す る光の点の「時計針の位置」と結び付けて覚えるように指示される。
(v)結び付けて覚えた時計が示す時点を、試行のあとに被験者は報告する。報告されたこの時 点を、私たちは、意識的な要求(wanting)、願望(wishing)、意志(willing)を表す 「W」と呼ぶ。
「私がイタリアのベラッジオにあるロックフェラー先端研究センターのレジデントだった 1977年当時、私は再び、この明らかに解決困難な測定の問題に注目しました。被験者は行為を 促す意図が意識に現われた経験について「時計が示した時点」を報告できるのではないか、と いう考えが浮んだのです。この時計が示す時点は、黙って記憶され、それぞれの試行が終わる ごとに報告されることになります。サンフランシスコに戻るとすぐに、このような実験手法を 考案しました(リベット(1983年))。
まず、陰極線オシロスコープの光の点が、時計盤の外側の縁を回転するように設定しまし た。オシロスコープ管の時計盤の外側の縁は、通常の時計の目盛と同じように円の一周が60等 分されています。光の点は、通常の時計の秒針の動きと同様に時計盤を移動するようい設計さ れています。しかし、この光の点は、通常の60秒よりも約25倍速い、2.56秒で円を一周しま す。すると、光の点は秒針のひと刻みごとに約43ミリ秒間で移動していることになります。こ の速い「時計」はこうして、時間の違いを数百ミリ秒単位まで明らかにすることができます。
被験者は、オシロスコープから約2.3メートル離れたところに座っています。毎試行ごと に、被験者はオシロスコープの時計盤の中心に視点を据えます。被験者は、自由で自発的な行 為として、単純だが急激な手首の屈曲運動を、やりたいときにいつでも行ってよいと指示され ています。また、被験者はいつ行動するかあらかじめ考えずに、むしろ行為が「ひとりでに」 現れるがままにさせるように言われています。そうすることによって、行動しようとあらかじ め考えるプロセスから「今、動こう」とする自由で自然発生的な意志のプロセスを区別するこ とができます。また被験者は、自分の動きを促す意図や願望への《最初のアウェアネス》を、 (その時点での)回転する光の点の「時計針の位置」と結び付けて覚えるように指示されまし た。この、結び付けて覚えた時計が示す時点を、試行の《あとに》被験者は報告します。報告 されたこの時点を、私たちは、意識的な要求(wanting)、願望(wishing)、意志 (willing)を表す「W」と呼びます。このような自発的な行為のたびに毎回発生するRPもま た、適切な電極を頭に装着して記録します。40回ほどの試行を平均すれば、適当なRPの値を得 るのに十分であることがわかりました。次に、この平均したRPの始動時点を、同じく40回の実 験によって報告されたW時点の平均と比較します。
私たちは当初、意図が意識に現われるタイミングについて被験者が時計の針を見て行う報告 に、十分な正確さと信憑性があるのかを大いに疑問視していました。しかし蓋を開けてみる と、こうした二つの指標のいずれもが、私たちの実験の目的にかなう範囲の誤差に収まってい るという証拠が得られました。それぞれのグループの40回の試行についてのW時点の報告を見 ると、標準誤差は約20ミリ秒でした。平均したWの値が被験者によって違っていても、このこ とは各被験者内では、全員にあてはまりました。被験者全員の平均W値は(運動活動の)およ そ200ミリ秒前だったので、それとの比較でプラスマイナス20ミリ秒の標準誤差ならば適切な 信憑性の範囲内です。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図――私 たちに自由意志はあるのか?――,岩波書店(2005),pp.146-148,下條信輔(訳))
(索引:)
まず、陰極線オシロスコープの光の点が、時計盤の外側の縁を回転するように設定しまし た。オシロスコープ管の時計盤の外側の縁は、通常の時計の目盛と同じように円の一周が60等 分されています。光の点は、通常の時計の秒針の動きと同様に時計盤を移動するようい設計さ れています。しかし、この光の点は、通常の60秒よりも約25倍速い、2.56秒で円を一周しま す。すると、光の点は秒針のひと刻みごとに約43ミリ秒間で移動していることになります。こ の速い「時計」はこうして、時間の違いを数百ミリ秒単位まで明らかにすることができます。
被験者は、オシロスコープから約2.3メートル離れたところに座っています。毎試行ごと に、被験者はオシロスコープの時計盤の中心に視点を据えます。被験者は、自由で自発的な行 為として、単純だが急激な手首の屈曲運動を、やりたいときにいつでも行ってよいと指示され ています。また、被験者はいつ行動するかあらかじめ考えずに、むしろ行為が「ひとりでに」 現れるがままにさせるように言われています。そうすることによって、行動しようとあらかじ め考えるプロセスから「今、動こう」とする自由で自然発生的な意志のプロセスを区別するこ とができます。また被験者は、自分の動きを促す意図や願望への《最初のアウェアネス》を、 (その時点での)回転する光の点の「時計針の位置」と結び付けて覚えるように指示されまし た。この、結び付けて覚えた時計が示す時点を、試行の《あとに》被験者は報告します。報告 されたこの時点を、私たちは、意識的な要求(wanting)、願望(wishing)、意志 (willing)を表す「W」と呼びます。このような自発的な行為のたびに毎回発生するRPもま た、適切な電極を頭に装着して記録します。40回ほどの試行を平均すれば、適当なRPの値を得 るのに十分であることがわかりました。次に、この平均したRPの始動時点を、同じく40回の実 験によって報告されたW時点の平均と比較します。
私たちは当初、意図が意識に現われるタイミングについて被験者が時計の針を見て行う報告 に、十分な正確さと信憑性があるのかを大いに疑問視していました。しかし蓋を開けてみる と、こうした二つの指標のいずれもが、私たちの実験の目的にかなう範囲の誤差に収まってい るという証拠が得られました。それぞれのグループの40回の試行についてのW時点の報告を見 ると、標準誤差は約20ミリ秒でした。平均したWの値が被験者によって違っていても、このこ とは各被験者内では、全員にあてはまりました。被験者全員の平均W値は(運動活動の)およ そ200ミリ秒前だったので、それとの比較でプラスマイナス20ミリ秒の標準誤差ならば適切な 信憑性の範囲内です。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図――私 たちに自由意志はあるのか?――,岩波書店(2005),pp.146-148,下條信輔(訳))
(索引:)