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2021年12月5日日曜日

生物や人間、社会の歴史性、新奇性とは、現在の状態の中に埋め込まれている過去の記憶が、情報として、系の変化と未来の状態に大きな作用を及ぼすという特性の別名である。現在の状態の中にその情報を読み取るのが困難な場合、過去を知ることが、その情報を読み解く代替策となる。(カール・ポパー(1902-1994))

状態の歴史性、新奇性

生物や人間、社会の歴史性、新奇性とは、現在の状態の中に埋め込まれている過去の記憶が、情報として、系の変化と未来の状態に大きな作用を及ぼすという特性の別名である。現在の状態の中にその情報を読み取るのが困難な場合、過去を知ることが、その情報を読み解く代替策となる。(カール・ポパー(1902-1994))

(a)歴史性
 歴史主義は、集団の現 在を理解して説明し、さらには集団の未来の進展を理解し、おそらくは見通したいと願うな ら、その集団の歴史を、その伝統と制度を研究する必要があると主張する。
(b)新奇性
 物理学の新奇性は、それ自体は新しくはない要素や要因の組み合わせや配 置の新しさにすぎない。それに対して社会生活の新奇性は本当の新しさであり、配置の新奇性 には還元できない。
(c)対象系の現在の状態
 物理系だけでなく、生物や人間、社会も、現在の状態が分かれば、対象系そのものについては、全ての情報が知られているという直感があるが、これは正しいだろうか。正しい。
(d)現在の状態としての過去の記憶
 問題は、対象系の現在の状態は、どのようにして知られるのかということだ。生物や人間、社会においては、過去の記憶が現在と未来の系の状態に影響を及ぼす。もし、系の現在の状態の中に、この過去の記憶を情報として読み出すことが可能なら、現在の状態だけで必要な全ての情報が得られる。
(e)歴史性、新奇性とは?
 生物や人間、社会の歴史性、新奇性とは、現在の状態の中に埋め込まれている過去の記憶が、情報として、系の変化と未来の状態に大きな作用を及ぼすという特性の別名である。現在の状態の中にその情報を読み取るのが困難な場合、過去を知ることが、その情報を読み解く代替策となる。

「物理的科学の方法を社会科学に適用できないことについては、さらに深い理由があると、 多くの歴史主義者は考えている。    
 すべての「生物学的」科学、すなわち生きている対象を扱うすべての学問と同様に、社 会学は原子論的にではなく、現在では「全体論的」と呼ばれている方法で考えを進めなければ ならない。なぜなら、社会学の対象である社会集団は、単に個人の総計と見なしてはならない からである。  社会集団はメンバーの単純な合計《以上》のものであり、また、いずれかの時点に存在する いずれかのメンバー間の個人的関係の合計《以上》のものだからである。このことは、三人の メンバーからなる単純な集団においてすら容易に見て取れる。同じ三人からなる集団であって も、最初に組織を作ったのがメンバーAとメンバーBであった場合と、メンバーBとメンバーCで あった場合とでは、集団の性格が異なる。この事例は、集団には独自の《歴史》があり、集団 の構造はその歴史に大きく依存するという主張(第3節「新奇性」も参照)の意図するところ をわかりやすく示していると言えよう。主要メンバー以外の一部のメンバーが抜けても集団の 性格を維持することは容易である。創設当初のメンバーが《全員》いなくなり、新しいメン バーに入れ替わっても、元の集団の性格の多くが保たれていることさえ考えられる。しかし、 メンバーの入れ替わりが徐々に進むのではなく、新しいメンバーがまとまって新しい集団を 作ったとしたら、徐々に入れ替わったときと同じメンバーの集団であっても、まったく異なる 集団になっていた可能性がある。  各メンバーのパーソナリティは集団の歴史と構造に大きく影響するが、集団自身が独自の歴 史と構造を持つことはできる。集団が構成メンバーのパーソナリティに強く影響を及ぼすこと もありうる。
 すべての社会集団には独自の伝統と独自の制度、独自の習慣がある。歴史主義は、集団の現 在を理解して説明し、さらには集団の未来の進展を理解し、おそらくは見通したいと願うな ら、その集団の歴史を、その伝統と制度を研究する必要があると主張する。社会集団は全体論的な性格を持ち、構成メンバーの単なる総和から余すことなく説明できる わけではないという事実は、物理学の新奇性と社会生活の新奇性を区別する歴史主義の主張に 光を投げかける。〈物理学の新奇性は、それ自体は新しくはない要素や要因の組み合わせや配 置の新しさにすぎない。それに対して社会生活の新奇性は本当の新しさであり、配置の新奇性 には還元できない〉というのが、歴史主義の主張だった。社会構造が一般にその部分や成員の 組み合わせとして説明できないとしたら、この方法で《新しい》社会構造を説明することは明 らかに不可能なのである。  一方、物理学的な構造は、部分の単なる「配列」つまり総計と、その幾何学的配置とによっ て説明できると、歴史主義は主張する。  
 太陽系を例に取ると、太陽系の歴史は興味深い研究対象であろうし、その研究が現在の 太陽系の状態の理解に光を投げかけることはあるかもしれないが、ある意味で、太陽系の現状 はその歴史から独立しているということを私たちは知っている。  太陽系の構造や、将来の運動、発展は、太陽系を構成する天体の現在の配列により確定して いる。ある瞬間の各天体の相対的位置、質量、運動量が与えられれば、太陽系の将来の運動は 完全に決まる。どの惑星が古いとか、どの天体が太陽系外からやってきたといった付加的な知 識は必要ないのである。構造の歴史は、それ自体興味深いものではあるかもしれないが、太陽 系の振る舞いやメカニズム、将来の進展についての理解には何も寄与しない。  この点で、物理学的構造が社会構造と大きく異なることは明らかである。社会構造は、一瞬 の「配列」が完全にわかったとしても、歴史について細心の研究なしには理解できず、その将 来を予測することはできない。  
 こうした考察は、歴史主義と、いわゆる社会構造の《生物学的》あるいは《有機体的理論》 と呼ばれるものとの密接な関係を強く示唆する。社会構造の生物学的あるいは有機体的理論と は、社会集団を生命体のアナロジーで解釈する理論である。実際全体論は生物学的現象一般を 特徴づけるものとされているし、さまざまな生命体の歴史がその行動にどのように影響するか を考察する際には、全体論的アプローチが欠かせないものと見なされている。  このように、歴史主義の全体論的な議論は、社会集団と有機体との類似性を強調する傾向を 持つ。ただし、歴史主義が必ず社会構造の生物学的理論を受け入れるとは限らない。同様に、 《集団的伝統》の担い手として《集団精神》が存在するというよく知られた理論も、それ自体 が必ずしも歴史主義的議論の一部であるわけではないが、全体論的な見解と密接に関連してい る。」

(カール・ポパー(1902-1994),『歴史主義の貧困』,第1章 歴史主義の反自然主義的な見 解,7 全体論,pp.44-48,日経BPクラシックスシリーズ(2013),岩坂彰(訳))

【中古】歴史主義の貧困 社会科学の方法と実践 カール R.ポパー、 久野 収; 市井 三郎 状態良



カール・ポパー
(1902-1994)