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2021年11月24日水曜日

物理学の基礎的な法則には、過去と未来の区別がなく、また「現在」というものの明確な定義も難しい。一見、量子論における重ね合わせの量子状態から、観測による実在への確定が、時間の方向と現在を定義し得るように思わられるが、うまくいかない。(ポール・デイヴィス(1946-))

過去、現在、未来とは?

物理学の基礎的な法則には、過去と未来の区別がなく、また「現在」というものの明確な定義も難しい。一見、量子論における重ね合わせの量子状態から、観測による実在への確定が、時間の方向と現在を定義し得るように思われるが、うまくいかない。(ポール・デイヴィス(1946-))


 「これらの意見はすべて、明らかに正しいのですが、何かが欠けているという不満足感が深く残ります。実際、時の流れや今の存在をうちたてるため、何かそれ以外の要素を見つけたい、という要求に物理学者は何年間も悩まされ続けてきました。 答を求めて、ある人は宇宙論に、ある人は量子論に移 りました。 まず量子論の非決定性が一つの可能性を与えているように思えます。 もし未来がいまだ偶 然の釣り合いの中にあるなら、未来はある意味で現在や過去ほど実在のものではないかもしれないか らです。未来が現われてくるという印象を量子的な重ね合わせの実在への崩壊と比較した物理学者も いました。量子崩壊の過程は本質的に時間的に非対称(つまり、不可逆)であることが知られており、したがって記憶と同じような特徴をもっているのです。この点に従うと、 現在はほんとうの現象です。 それは、たとえば、 シャレーディンガーの猫が生きているのか死んでいる を見いだすのような、世界から現実に変化する瞬間です。 それはある種の現在を定義す るのです。このような考え方が自由意志を示すためにも使われてきました。 」

(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第10章 超時間,pp.291-292,地人書館,1985,木口勝義)


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実在は、前もって用意した測定や観測の文脈の中でしか意味を持たない。また、少なくとも観測がなされる前は、対象系と観測装置は不可分の統一体とみなされる。例えば、二つの遠く離れた偏光装置とそのそれぞれの光子は、量子過程によって不可解に結びつけられている。(ポール・デイヴィス(1946-))

対象系と観測装置の不可分性、全体性

実在は、前もって用意した測定や観測の文脈の中でしか意味を持たない。また、少なくとも観測がなされる前は、対象系と観測装置は不可分の統一体とみなされる。例えば、二つの遠く離れた偏光装置とそのそれぞれの光子は、量子過程によって不可解に結びつけられている。(ポール・デイヴィス(1946-))

「光子と偏光装置のような、遠くはなれた系をふつうの通信手段によって結ぶことはできません。 しかし、それらを別々のものと考えることもできません。 たとえ二つの偏光装置がちがった銀河系に あったとしても、それらは必然的に一つの実験配置をなしているのであって、したがって、それが一 つの実在なのです。 常識的な世界観では、二つのものが遠くはなれ、互いの影響を無視できるとき、 それらを区別されたものとみなします。 たとえば、二人の人や、二つの惑星はそれぞれが独自の性質 をもつ異なるものであるとみなされます。 これとは対照的に、 量子理論の示すところでは、少なくと も観測がなされる前は、 そこで考えている系は物事の集合体とはみなされず、不可分の統一体とみな されるのです。このように、二つの遠く離れた偏光装置とそのそれぞれの光子は、実際には、独立な 性質をもつ二つの孤立した系ではなく、量子過程によって不可解に結びつけられているのです。 観測 がなされた後はじめて、遠くはなれた光子は別々の自己同一性を得、 独立の存在であるとみなされま す。さらに、ここまで見てきたように、正確な実験配置を指定しないで、素粒子系に性質を指定する ことはまったく無意味です。 測定前、光子は「ほんとうに」 かくかくしかじかの偏りをもっている、ということはできません。したがって、 光子の偏りを光子自身の性質とみなすことは不正確です。む しろ、それは光子と巨視的な実験配置の両方に対して指定されなければならない属性なのです。 この ように、微視的な世界は、私たちが経験する巨視的な世界と性質を共有することによって、その性質 をもつにすぎないのです。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第6章 実在の本質,pp.188-189,地人書館,1985,木口勝義)


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量子的な確率分布は実在そのものではなく可能な宇宙を表現し、観測過程によって初めて実在化する。とは言え、けっして実現されることのなかった世界すべてが、素粒子過程すべての確率を制御し、実在化した世界はこれらの過程に依存しているのである。(ポール・デイヴィス(1946-))

量子的な確率分布の実在性

量子的な確率分布は実在そのものではなく可能な宇宙を表現し、観測過程によって初めて実在化する。とは言え、けっして実現されることのなかった世界すべてが、素粒子過程すべての確率を制御し、実在化した世界はこれらの過程に依存しているのである。(ポール・デイヴィス(1946-))

 「前の章で、私たちの観測する世界は無限次元の超空間 のいろいろな世界の巨大な総体の断片 であり、影である、と説明しました。ここで、私たちが観測する世界はたんに超空間からでたらめに 選ばれたものではなく、目に見えない他の世界すべてに決定的に依存していることがわかりました。 二つのはなれた偏光装置のあいだの「真」 - 「偽」の相関は「真」の世界と「偽」の世界のあいだの干渉に本質的に依存しています。ちょうどこれと同じように、あらゆる異なった相互作用に、あらゆる 遠くはなれた原子に、あらゆるマイクロ秒に、けっして実現されることのなかった世界すべてが、私 たち自身の世界の中で、素粒子過程すべての確率を制御し、その推定上の実在の影を落とすのです。 超空間の他の世界がなかったなら、量子は成立せず、宇宙は崩壊するでしょう。すなわち、これら無数の実在に対する競争者が私たち自身の運命を操っているのです。 」

(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第6章 実在の本質,p.184,地人書館,1985,木口勝義)


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実在は、前もって用意した測定や観測の文脈の中でしか意味を持たない。唯一の実在は、素粒子と測定装置と実験家を合わせ た全系だ。実験家は、実験を選ぶことにより、 どれが可能な世界になるかを、選び変えたことになる。(ポール・デイヴィス(1946-))

 量子論における観測

実在は、前もって用意した測定や観測の文脈の中でしか意味を持たない。唯一の実在は、素粒子と測定装置と実験家を合わせ た全系だ。実験家は、実験を選ぶことにより、 どれが可能な世界になるかを、選び変えたことになる。(ポール・デイヴィス(1946-))

「この考え方に従うと、実在は前もって用意した測定や観測の文脈の中で意味をもつにすぎません。 一般に、電子や光子や原子は、私たちが測定を行なうまえ、ほんとうにかくかくしかじかのように振 舞っていた、と述べることは不可能です。もし実験家がたとえば偏光装置を回転しようとしたなら、彼は別の世界を選ぶことになります。したがって、唯一の実在は素粒子と測定装置と実験家を合わせ た全系です。 ポラロイド (偏光サングラスをかけた人は、首を動かすことに、 超空間内のどの世 界を選ぶかを組み換えているのです。 彼は南北の光子の世界を創るかどうか、東西の光子の世界 を創るかどうか、 その他好みのどのような光子の世界でも、それを創るかどうかを選ぶことができるのです。

 実在には非常に基本的な点で観測者が含まれることになります。すなわち、実験を選ぶことにより、 実験家は選択肢をどう組むかを決めることができるのです。 彼が心を変えたとき、彼はどれが可能な 世界になるかを選び変えたのです。いろいろな世界は確率法則に従って現われるので、もちろん、実験家は望みの世界を間違いなく取り出すことは不可能です。 しかし、実験家は何を選ぶことができる かについて影響力を行使することができます。 簡単に言うと、私たちはサイコロを振ることはできま せんが、どのゲームを行なうかは決めることができるのです。

(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第6章 実在の本質,pp.184-185,地人書館,1985,木口勝義)

【中古】 宇宙の量子論 /ポール・C.W.デーヴィス(著者),木口勝義(著者) 【中古】afb







我々の存在と矛盾するような物理理論は、いずれも、とにかく正しくない。従って、検証可能な予言を導く人間原理の定式化は難しい。それにもかかわらず、宇宙の諸法則が生命に都合のよいような形で形成されているという事実は、注目すべきことであろう。 (ポール・デイヴィス(1946-))

人間原理

我々の存在と矛盾するような物理理論は、いずれも、とにかく正しくない。従って、検証可能な予言を導く人間原理の定式化は難しい。それにもかかわらず、宇宙の諸法則が生命に都合のよいような形で形成されているという事実は、注目すべきことであろう。 (ポール・デイヴィス(1946-))

「むろん、このような議論は, 正しい物理理論に対する代用品では ない。たとえば,人間原理が検証可能な予言をするために, いった いどのように用いられるのかを知ることはむずかしい. というのは, 我々の存在ということと矛盾するような物理理論は,いずれもとに かく正しくないからである。 さらに, 地球外生命についての知識が ないので,生命に対する物理的な必要条件については、むしろ一般 的なことしかいえない。 おそらく, 生命は今まで考えられてきたよ りは, もっと広い条件のもとで形成が可能であろう.

 将来の発展によって, これまでの各章において議論されてきた数 値的符合性のいくつかに対して, 生物学よりはむしろ基本的な物理 学に基礎をおいた説明がなされることはありうることであろう. た とえば,各力のあいだの強さの比は, 将来完成するであろう GUT の超統一理論から現われうるであろう. その場合に 10の40乗という不 思議な数は,数学的に導かれるものであろう. 宇宙の一様性と等方 性についても同様な理由が発見されるであろう. ほとんどわからな かった原始宇宙で起こった, これまで思いもよらなかった種々の 過程も, もしそれがわからなかったら考えもされなかったような対 称性のあるふるまいをするように, 宇宙の運動に強制力を与えるこ とができるであろう.

 見かけ上, 偶然のような宇宙の配置の状態に対して,基本的な物理学的理由付けを与えることが将来成功したとすると, 人間原理は、 どのような説明能力をも失うことになるであろう。にもかかわらず、 基本的物理学は生命に都合のよいような形で形成されていることが わかったということは,やはり注目すべきことであろう。 自然法則 が,宇宙のさまざまな符合性に強制力を与えうるかどうかによらず、 これらの関係が我々の存在に対して必要なものであるという事実は、 現代の科学の最も魅力ある発見の一つであることにはちがいない。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『偶然の宇宙』(日本語書籍名『魔法の数10の40乗』),5 人間原理,5.4 多宇宙理論,pp.167-168,地人書館,1990, 田辺健茲)

ヘリウムより重い元素は恒星の中で作られるが、恒星進化の最後の段階の超新星爆発で、様々なな元素が宇宙空間に撒き散らされる。この出来事は、1個の銀河当たり1世紀に3回の割合で起こるが、この現象が起こるかどうかは、弱い力の大きさに依存する。(ポール・デイヴィス(1946-))

 偶然の宇宙

ヘリウムより重い元素は恒星の中で作られるが、恒星進化の最後の段階の超新星爆発で、様々なな元素が宇宙空間に撒き散らされる。この出来事は、1個の銀河当たり1世紀に3回の割合で起こるが、この現象が起こるかどうかは、弱い力の大きさに依存する。(ポール・デイヴィス(1946-))


弱い力の大きさ

・ヘリウムより重い元素は、恒星の中で作られるが、恒星進化の最後の段階の超新星爆発で、さまざまな元素が宇宙空間に撒き散らされる。この出来事は、1個の銀河当たり1世紀に3回の割合で起こるが、この現象が起こるかどうかは、弱い力の大きさに依存する。この現象が無ければ、生命を構成するさまざまな元素は存在しない。

(ポール・デイヴィス(1946-),『偶然の宇宙』(日本語書籍名『魔法の数10の40乗』),3 微妙なバランス,3.1 ニュートリノ,pp.80-83,地人書館,1990, 田辺健茲)


この宇宙は、物理法則と物理定数の極めて微妙なバランスの上に成立している。仮に、陽子と中性子との質量差がもっと小さかったら、宇宙初期の熱平衡状態が変わり、陽子が存在しなくなる。水素は、恒星進化の大きな原動力であり、また、水や有機物も存在できない。(ポール・デイヴィス(1946-))

偶然の宇宙

この宇宙は、物理法則と物理定数の極めて微妙なバランスの上に成立している。仮に、陽子と中性子との質量差がもっと小さかったら、宇宙初期の熱平衡状態が変わり、陽子が存在しなくなる。水素は、恒星進化の大きな原動力であり、また、水や有機物も存在できない。(ポール・デイヴィス(1946-))


(a)陽子と中性子の質量差

・宇宙の熱い原始時代の、最初の1秒が経過する以前に、温度が10(10乗)Kを超えていた頃の、ニュートリノ、反ニュートリノ、電子、陽電子、中性子、陽子の熱力学的な平衡状態

p+e- ⇔ n+ν

p+反ν ⇔ n+e+

・陽子に対する中性子の比率は、陽子に対する中性子の質量の超過分で決まってくる。

・宇宙が膨張して冷えてくると、反応が止まり、その時点での陽子と中性子の比率が固定される。

・陽子に対する中性子の質量の超過分が、ちょうど電子の質量程度になっていることと、弱い力の大きさと重力の大きさの比率がある一定の値になっていることとが、宇宙に存在する中性子の陽子に対する比率を、10%程度にする。仮に、陽子と中性子との質量差がもっと小さかったら、中性子の存在比率が大きくなり、宇宙の温度が10(9乗)K(重水素の光分解温度)以下になったとき、

p+n → 重水素

重水素+重水素 → 中間段階→He4

この反応によって、陽子は存在しなくなる。水素は、恒星進化の大きな原動力であり、また、水素が存在しないと水や有機物も存在できないことになる。


(ポール・デイヴィス(1946-),『偶然の宇宙』(日本語書籍名『魔法の数10の40乗』),3 微妙なバランス,3.1 ニュートリノ,pp.76-79,地人書館,1990, 田辺健茲)

 (b)ニュートリノの質量

・ニュートリノは宇宙に遍在している(10×9乗/m3)ので、質量を持つかどうかは、宇宙の大極的な構造に影響を与える。例えば、一桁大きければ、宇宙は膨張ではなく収縮する。

・5×10(-35乗)kg程度、電子の5×10(-5乗)程度。

(ポール・デイヴィス(1946-),『偶然の宇宙』(日本語書籍名『魔法の数10の40乗』),3 微妙なバランス,3.1 ニュートリノ,pp.73-75,地人書館,1990, 田辺健茲)




我々の数学的記述能力は、極めて限られている。複雑過ぎて記述できないという限界だけでなく、そもそも数学的記述が存在するのかも不明な事態もある。特異点、時空の崩壊の奥底、無限大の端で、宇宙はどうなっているのか。(ポール・デイヴィス(1946-))

 特異点

我々の数学的記述能力は、極めて限られている。複雑過ぎて記述できないという限界だけでなく、そもそも数学的記述が存在するのかも不明な事態もある。特異点、時空の崩壊の奥底、無限大の端で、宇宙はどうなっているのか。(ポール・デイヴィス(1946-))

「われわれが直面しなければならない事態は、自然界における数学的に簡単な系の貯えがなくなりつ つあるということだ。重力崩壊の彼方の物理学 それがホイラーの「原幾何学」であろうと何であ ろうとは、われわれの数学的記述能力を越えたものである。 その理由は、 数学自身が十分進歩し ていないのか、この事態に対する数学的記述というものがそもそも存在しないのか、どちらかである。 生物科学の分野においては、無数のひじょうに複雑な生命形態や過程に出会う。 そして、そのほ とんどが数学的モデルにのせられない。 でたらめさとか確率が素粒子物理と生物学において大きな役 割をはたす。しかし数学は、生物学をうまくあつかえない。 イヌの行動を予測する方程式とか、ウシ の消化器を記述する項を含む方程式など考えることは、望みがない。 たぶん重力崩壊もこんなものな のだろう。可能性の動物園みたいなものであって、ある現象が生じ、ほかの現象が生じないという論 理的理由がなく、 詳細を予言する方法がない。

 もし特異点が、この種の泥沼にわれわれを導くなら、厳密科学としての物理学の道の終点であろう。 一方、自然を深く探れば探るほど単純になるというのなら、時空の崩壊の奥底、 無限大の端で、 現在の物理よりもっとエレガントで基本的な、新しい物理学を発見すると期待するのも、故のないこ とではない。 これはまたホイラーの予想でもある。彼は書いている。 「いつの日か、ドアが開かれて、 世界の輝ける中心的機構が、その美しさと簡単さとともに、われわれの前に出現するであろう。その 日の到来をめざして、重力崩壊のパラドックスほど希望をもたせるものはない。」 

 未来の新物理学へ向けての道は、無限大の端を越えて続いている。それが何を物語るかは、予想す るだけである。時間・空間は近似的な構造にすぎないことが示されるであろう。量子世界、時間・空 間、物質といったものが混然一体となっている様子が明らかになるであろう。われわれが時空を越え て解析をすることが可能になり、物理宇宙とは違う、どこか別の世界に行きつくことであろう。新物理学は、重力崩壊してどこへ行くのか、裸の特異点から何が出現するのかを、教えてくれる であろう。宇宙はどこから来てどこへ行くのかも教えてくれるかもしれない。 われわれが特異点の挑戦に答えられるなら、こういった事は、すべてわれわれのものになるであう。」


(ポール・デイヴィス(1946-),『無限大の端』,日本語書籍名『ブラックホールの宇宙の崩壊』,第9章 無限大の彼方へ, pp.258-260,岩波現代選書,1983,松田卓也,二間瀬敏史)