2018年5月24日木曜日

15.狡猾の一覧表(フランシス・ベーコン(1561-1626))

狡猾の一覧表

【狡猾の一覧表(フランシス・ベーコン(1561-1626))】
(1)相手を用心深く見る。
(2)別の話しで喜ばせ、油断に乗じて提案する。
(3)相手が考えるゆとりがない時に、不意打ちで提案する。
(4)成功を願っているふりをして、失敗する要素を提案する。
(5)言い出したことを途中で打ち切り、知りたいという欲望を掻き立てる。
(6)いつもと違う様子や顔つきを見せて、相手に尋ねさせる。
(7)ほかの誰かに口火を切ってもらい、もっと発言力のある人が、その人の質問に答えるようなかたちで、言い(8)「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか。
(9)最も重要なことを、付けたりであるかのように追伸で書く。
(10)最も話したいことを、ほとんど忘れていたことのように話す。
(11)偶然を装って、相手に見せたい行動を、相手に見せる。
(12)相手に使わせようとする言葉を、ふと漏らしておき、相手が使ったら、それにつけこむ。
(13)自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする。
(14)「私はこういうことはしない」。
(15)むきつけに言わず、噂話や物語を使って間接的に言う。
(16)もらいたいと思う返事を、あらかじめ自分の言葉や提案でまとめておく。
(17)自分の言いたいことは隠して、多くの別のことを持ち出しまわり道し、忍耐強く長い間待つ。
(18)不意の、無遠慮な、思いがけない問い。

 「われわれは狡猾を陰険なもしくは邪悪な知恵と考える。そして確かに、狡猾な人間と賢明な人間との間には大きな違いがある。誠実の点ばかりでなく、能力の点においてもそうである。」(中略)

「こうした狡猾の小間物やつまらぬ特徴は、無数にある。それらの一覧表を作ることは、やりがいのあることであろう。狡猾な人間が賢明な人間として通用することほど、国家に害をなすものはないからである。」

(1)相手を用心深く見る。
 「狡猾の一つの特徴は、対談する相手を用心深く見ることである。」

(2)別の話しで喜ばせ、油断に乗じて提案する。
 「もう一つの特徴は、何かすぐにも片づけたいことがあったら、交渉の相手を何か別の話をして喜ばせ、面白がせることである。相手が油断なくかまえていて異議を唱えたりしないためである。」

(3)相手が考えるゆとりがない時に、不意打ちで提案する。
 「同じような不意打ちは、相手が急いでいて提案されたことをとくと考えるゆとりがない時に案件を持ち出すことによってなされるだろう。」

(4)成功を願っているふりをして、失敗する要素を提案する。
 「誰かほかの人が手際よく提案して効果を収めそうな議題を阻止したければ、自分もその成功を願っているふりをして、それを失敗させるようなやり方で提案するとよい。」

(5)言い出したことを途中で打ち切り、知りたいという欲望を掻き立てる。
 「言い出したことを、思いとどまったかのように、途中で打ち切ることは、かえって話し相手にもっと知りたい欲望を掻き立てる。」

(6)いつもと違う様子や顔つきを見せて、相手に尋ねさせる。
 「どんなことでも、こちらから申し出るより、相手に訊き出されてしまったように思われる時のほうが、うまくいくのであるから、いつもと違う様子や顔つきを見せて、訊きやすいようにするのもよい。相手にいつもと違っているのはどうしたわけかと尋ねさせるためである。」

(7)ほかの誰かに口火を切ってもらい、もっと発言力のある人が、その人の質問に答えるようなかたちで、言いたかったことを提案する。
 「話しにくく、相手に喜ばれそうにもない事柄にあっては、言うことが余り重んぜられていない誰かに口火を切ってもらい、その後でもっと発言力のある人がたまたま口に出し、前の人の言ったことで問い質されるようにするのは、よいことである。」

(8)「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか。
 「自分も関係していると見られたくない事柄にあっては、「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか述べるように、世間の名を借りるのも、狡猾の特徴である。」

(9)最も重要なことを、付けたりであるかのように追伸で書く。
 「私が知っている人は、手紙を書く時、最も重要なことを、あたかもそれが付けたりであるかのように、追伸で述べたものである。」

(10)最も話したいことを、ほとんど忘れていたことのように話す。
 「私の知っているもう一人は、話をする段になると、最も話したいことをとばして先へ進み、また後戻りして、そのことについて、ほとんど忘れていたことでもあるかのように、話したものである。」

(11)偶然を装って、相手に見せたい行動を、相手に見せる。
 「説得したい相手が不意にやってきそうだと思っていた時なのに、驚いた顔をし、手に手紙をもっていたり、いつもしない何かをしていたりするところを見られるようにする。自分から言い出したいことについて尋ねられたいためである。」

(12)相手に使わせようとする言葉を、ふと漏らしておき、相手が使ったら、それにつけこむ。
 「他の人が覚えて使ってもらいたいと思う言葉を、独言のようにふと漏らし、そうなったら、それにつけこむのも、狡猾の特徴である。」

(13)自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする。
 「われわれイギリスで「フライパンの中で猫を引っくり返す」と言っている狡猾もある。これは自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする場合である。実際のところ、二人の間でそんなことが起こる時、それが二人のどちらから最初に持ち出され、どちらから始まったかを明らかにするのは、容易ではない。」

(14)「私はこういうことはしない」。
 「「私はこういうことはしない」と言うように、否定して自分を正当化しながら、他の人をあてこすって間接に非難する人もいるが、それも一つの方法である。」

(15)むきつけに言わず、噂話や物語を使って間接的に言う。
 「噂話や物語をいくつでもすらすらと話せるので、何かあてこすりたいことがあっても、むきつけに言わず、噂話でくるむことができる人もある。これはむきつけに言うより、話す人自身を保護することに、また他の人々に面白がって吹聴させるのに役だつ。」

(16)もらいたいと思う返事を、あらかじめ自分の言葉や提案でまとめておく。
 「もらいたいと思う返事を〔あらかじめ〕自分の言葉や提案でまとめておくのも、狡猾のうまい点である。そうしておけば、相手は返事をすることに、それほどこだわらなくてすむからである。」

(17)自分の言いたいことは隠して、多くの別のことを持ち出しまわり道し、忍耐強く長い間待つ。
 「ある人々が何か自分の言いたいことをしゃべるのに、どんなに長い間待っているか、どんなに遠廻りするか、肝腎の話をするまでに、どんなに多くの別のことを持ち出すか、不思議な気がする。しれは大いに忍耐を要することであるが、しかし非常に有効である。」

(18)不意の、無遠慮な、思いがけない問い。
 「不意の、無遠慮な、思いがけない問いは、しばしば人を驚かせ、本心を打ち明けさせる。」

(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』二二、pp.103-109、[渡辺義雄・1983])
(索引:狡猾の一覧表)

ベーコン随想集 (岩波文庫 青 617-3)


(出典:wikipedia
フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかである。というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのである。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむからである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考えられたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)


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16.悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。なぜなら、悪を見破ることなくしては悪に勝つことはできず、邪悪な人たちを改悛させることもできないから。(フランシス・ベーコン(1561-1626))

ヘビの賢さとハトの素直さ

【悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。なぜなら、悪を見破ることなくしては悪に勝つことはできず、邪悪な人たちを改悛させることもできないから。(フランシス・ベーコン(1561-1626))】
 悪に対して、どう対処するか。
(1)無防備にも、ぺてんと邪悪な手管に先手を取られれば、あなたの生命が危うくされるが、逆に、あなたが先に悪を見破れば、悪はその効力を失う。
(2)あなたが悪を知っているということを認めさせることができなくては、卑劣で精神の腐敗した人たちは、一切の道徳を軽蔑することになる。また、正直な人も、悪の知識の助け無くしては、邪な人たちを改悛させることができない。
(3)従って、人間は何をなすべきかとは別に、人間は実際に何をなしているか、すなわち悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。

 「パシリスクス〔ひとをにらんで殺すという伝説のヘビ〕について伝えられる寓話では、これがあなたをさきに見つければあなたはそのために死ぬが、あなたがそれをさきに見つければそれは死ぬといわれているように、ぺてんとよこしまな手管についても同様だからである。

すなわち、それらは、見破られたら生命を失うが、先手をとれば相手の生命を危くする。

それゆえに、われわれはマキアヴェルリやその他の、人間はどんなことをするかをしるして、どんなことをすべきかはしるさなかった人びとに負うところが大きいのである。

というのは、ヘビの性情を残らず正確に知っていなければ、その卑劣さとはらばい、そのうねり歩きとすべっこさ、その嫉妬と毒牙など、すなわち、悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さ〔『マタイによる福音書』一〇の一六〕を兼ねそなえることはできないからである。

それというのも、この心得がなければ、徳はあけっぱなしで、無防備になるからである。

それどころか、正直なひとも、悪の知識の助けなくしては、よこしまな人たちを改悛させるのに役だつことができないからである。

というのは、精神の腐敗した人たちは、正直は品性の単純さから生まれ、説教者や学校教師や人びとのうわべだけのことばを信ずることから生まれるのだときめてかかっているからである。

それゆえ、かれら自身の腐った考えのぎりぎりいっぱいのところをも知っているのだということをかれらに認めさせることができなければ、かれらはいっさいの道徳を軽蔑するのである。

―――「愚かな者は、かれが心に考えていることを告げられなければ、知恵のことばをうけいれない」〔『箴言』一八の二〕。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第二巻、二一・九、pp.282-283、[服部英次郎、多田英次・1974])

(索引:ぺてんと邪な手管の研究、ヘビの賢さ、ハトの素直さ)

学問の進歩 (岩波文庫 青 617-1)


(出典:wikipedia
フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかである。というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのである。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむからである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考えられたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)


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