行為の共有空間
【2人以上の行為者が、相手の行為の意図を互いに、自己の潜在的運動行為として自動的に了解し合っているとき、この相互関係の状況を「行為の共有空間」と呼ぶ。これは、ミラーニューロンが実現している。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))】行為の共有空間
(a)観察者A=行為者A
(a1) 他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つといった運動特性に呼応した、観察者が知っている運動感覚の表象が自動的に現れる。この表象が行為の「意味」であり、他者の「意図」である。
(a2)すなわち、行為者Bの行為が、単独の行為であっても行為の連鎖であっても、観察された状況に最もふさわしい型の観察者Aの潜在行為として表象され、行為者Bが好むと好まざるとにかかわらず、観察者Aに対して意味を持つ。ここでは、意図的な「認知作業」はいっさい必要ない。
(b)行為者B=観察者B
同時にBは、Aの行為を見るとき、その行為はただちにBに対して意味を持つ。
(c)このように、2人以上の行為者が、相手の行為の意図を互いに、自己の潜在的運動行為として自動的に了解し合っているとき、この相互関係の状況を「行為の共有空間」と呼ぶ。これは、ミラーニューロンが実現している。
「「見る側の行為」は潜在的な運動行為であり、ミラーニューロンの活性化によって引き起こされる。ミラーニューロンは運動の言語で感覚情報をコードし、私たちが他者のすることを見てただちにそれを理解する能力の根底にある、行為と意図の「相互関係」を可能にする。他者の意図の理解とは、この場合、心理化、すなわちメタ表象活動に基づくのではなく、観察された状況に最もふさわしい行為の連鎖の選択にかかっている。誰かが何かをするのを見たとたん、それが単独の行為であっても行為の連鎖であっても、相手が好むと好まざるとにかかわらず、その動きはただちに私たちにとって意味を持つ。当然、その逆も成り立つ。私たちの行為はそれを見ている人にとってただちに意味を持つ。ミラーニューロン系と、それを作り上げているニューロンの反応の選択性が「行為の共有空間」を生み出し、その中で、個々の行為や行為の連鎖が、それが自分たちのものであろうと他者のものであろうと、ただちに記録され理解される。明確な、あるいは意図的な「認知作業」はいっさい必要ない。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第5章 ヒトのミラーニューロン,紀伊國屋書店(2009),pp.148-149,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:行為の共有空間)
(出典:wikipedia)
「みなさんは、行為の理解はまさにその性質のゆえに、潜在的に共有される行為空間を生み出すことを覚えているだろう。それは、模倣や意図的なコミュニケーションといった、しだいに複雑化していく相互作用のかたちの基礎となり、その相互作用はますます統合が進んで複雑化するミラーニューロン系を拠り所としている。これと同様に、他者の表情や動作を知覚したものをそっくり真似て、ただちにそれを内臓運動の言語でコードする脳の力は、方法やレベルは異なっていても、私たちの行為や対人関係を具体化し方向づける、情動共有のための神経基盤を提供してくれる。ここでも、ミラーニューロン系が、関係する情動行動の複雑さと洗練の度合いに応じて、より複雑な構成と構造を獲得すると考えてよさそうだ。
いずれにしても、こうしたメカニズムには、行為の理解に介在するものに似た、共通の機能的基盤がある。どの皮質野が関与するのであれ、運動中枢と内臓運動中枢のどちらがかかわるのであれ、どのようなタイプの「ミラーリング」が誘発されるのであれ、ミラーニューロンのメカニズムは神経レベルで理解の様相を具現化しており、概念と言語のどんなかたちによる介在にも先んじて、私たちの他者経験に実体を与えてくれる。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第8章 情動の共有,紀伊國屋書店(2009),pp.208-209,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:)
ジャコモ・リゾラッティ(1938-)
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