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2021年12月3日金曜日

自然科学における法則が破ることのできない普遍的なものであるのに対して、人間や社会に関する法則は、もし存在するとしてもそうではない。それは、人間が社会を作り、変えていくことができるからである。では、科学的方法は使えないのか?(カール・ポパー(1902-1994))

人間や社会に関する法則とは?

自然科学における法則が破ることのできない普遍的なものであるのに対して、人間や社会に関する法則は、もし存在するとしてもそうではない。それは、人間が社会を作り、変えていくことができるからである。では、科学的方法は使えないのか?(カール・ポパー(1902-1994))


 「1 一般化
 歴史主義は以下のように主張する。
 自然科学で一般化が可能で、実際にうまく一般化できるのは、自然に全般的な一様性 (斉一性)があるからである。つまり一般化は、同様の条件の下では同様のことが起こるとい う観察に基づく。観察というよりも想定といったほうがいいかもしれない。空間と時間を通じ て常に妥当するとみなされるこの原理が、物理学の方法の根底にある。  この原理を社会学で役立てることは、当然できない。「同様の状況」は、歴史上ひとつの時 代にしか生じない。別の時代まで同様の状況が持続するということはない。したがって社会に は、長期的な一般化を基礎づけられるような一様性は存在しない。あるとすれば、《ごくささ いな規則性》にすぎない。たとえば、〈人間は常に集団で暮らす〉とか、〈物質には有限なも のと無限なもの(空気など)があり、有限な物質のみが市場価値、つまり交換価値を持つ〉と いうような、わかりきった自明の規則性でしかない。  この限界に目をつむり、社会的一様性を一般化しようとする方法論は、その規則性が永続す ることを暗黙のうちに仮定している。物理学の一般化の方法を社会科学も採用できるとするこ の素朴な考え方からは、誤った、そして人を誤らせる危険な社会学理論が生じる。そのような 理論は、社会が発展するということを否定する。社会が重大な変化を起こすということも否定 する。社会の発展というものがあったとしても、それが社会生活の根本的な規則性に影響を及 ぼしうるということを否定する。
   歴史主義者は、こうした誤った理論の背後には弁明的な目的が隠れているものだと力説する ことが多い。たしかに不変の社会法則という仮定は、弁明のためには援用しやすいものであ る。  
 不変の社会法則という仮定は、さしあたり、不快なことや望ましくないことについて、 〈それは不変の自然法則により決まっていることだから受け入れねばならない〉という議論と して現れてくるかもしれない。例を挙げれば、経済学の「厳然たる法則」が、賃金交渉に法制 度が介入することの無益さを証明するものとして引き合いに出されることがある。  永続性を仮定することの弁明的誤用のもうひとつの例は、運命は避けがたいものだという雰 囲気を育むことである。現在あるものは永久にあり、できごとの流れに影響を与えようとする などとんでもないことで、その流れを評価しようとするだけでもおかしなことだ、という雰囲 気である。自然の法則に反論することはできず、法則を捨て去ろうと努めるならば、悲惨な事 態を招きかねないということになる。  これらの主張は、保守的で、弁明的で、ときには宿命論的でさえある。社会学でも自然主義 的方法を援用すべきであるという要請には、こうした主張が必然的に伴う。
 これに対して歴史主義は、社会の一様性は自然科学でいう一様性とは大きく異なると主張す る。     
 社会の一様性は、時代により変化する。その変化をもたらす力は《人間の》活動であ る。社会の一様性は自然の法則ではなく、人間により作られたものである。人間の自然な性質 に基づいていると言うことはできるかもしれない。しかしそれは、人間の自然な性質が社会の 一様性を変化させ、おそらくは制御する力をもつからにほかならない。  それゆえ、ものごとは良くなったり悪くなったりする。活動によりものごとを改変しようと しても無益なことだとは、必ずしも言えない。
  歴史主義が持つこうした傾向は、能動的であることに使命感を抱く人々の目に魅力的に映 る。能動的であるとは、現状を不可避のものとして受け入れることを良しとせず、特に人間の 営みに介入することである。能動性に傾き、あらゆる自己満足を忌避する傾向を、「能動主 義」(アクティビズム)と呼んでいいだろう。  歴史主義と能動主義との関係については第17章と第18章でさらに詳しく述べるが、ここでは 有名な歴史主義者、マルクスのよく知られた警句を引いておこう。この言葉は「能動主義的」 態度を見事に表現している。
   「哲学者は世界をさまざまに解釈してきたにすぎない。しかし問題は、世界を変えるこ とである。」」

(カール・ポパー(1902-1994),『歴史主義の貧困』,第1章 歴史主義の反自然主義的な見 解,1 一般化,pp.26-30,日経BPクラシックスシリーズ(2013),岩坂彰(訳))

【中古】歴史主義の貧困 社会科学の方法と実践 カール R.ポパー、 久野 収; 市井 三郎 状態良




カール・ポパー
(1902-1994)







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