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2021年11月14日日曜日

27.痕跡とは何か。その一つは、何かが動くのをやめ、エネルギーが熱に劣化する不可逆的な過程に伴うものだ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

痕跡とは何か

痕跡とは何か。その一つは、何かが動くのをやめ、エネルギーが熱に劣化する不可逆的な過程に伴うものだ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

「過去にエントロピーが低かったという事実から、ある重大な事実が導かれる。過去と未来 の違いにとってきわめて重要で、至るところにある事実――それは、過去が現在のなかに痕跡を 残すということだ。  痕跡は、どこにでもある。月のクレーターは、過去の衝突を物語っている。化石は、はるか 昔に生きていた生物の形を教えてくれる。望遠鏡は、遠く離れた銀河がかつてどのようであっ たかを見せてくれる。書籍はわたしたちの過去の歴史を語り、わたしたちの脳には、記憶が ぎっしり詰まっている。  過去の痕跡があるのに未来の痕跡が存在しないのは、ひとえに過去のエントロピーが低かっ たからだ。ほかに理由はない。なぜなら過去と未来の差を生み出すものは、かつてエントロピーが低かったという事実以外にないからだ。  痕跡に残すには、何かが止まる、つまり動くのをやめる必要がある。ところがこれは非可逆 的な過程で、エネルギーが熱へと劣化するときに限って起きる。こうしてコンピュータは熱を 持ち、頭は熱を持ち、月に落ちた隕石は月を熱し、ベネディクト修道院の中世初期の羽根ペン までが、文字が書かれるページを少しだけ温める。熱が存在しない世界では、すべてがしなや かに弾み、なんの痕跡も残らない。  過去の痕跡が豊富だからこそ、「過去は定まっている」というお馴染みの感覚が生じる。未 来に関しては、そのような痕跡がいっさいないので、「未来は定まっていない」と感じる。痕 跡が存在するおかげで、わたしたちの脳は過去の出来事の広範な地図を作り出すことができ る。だが、未来の出来事の地図は作れない。この事実から、自分たちはこの世界で自由に動け る、たとえ過去には働きかけられなくても、さまざまな未来のどれかを選ぶことができる、と いう印象が生まれる。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第3部 時間の源へ,第11章 対称性から生じるもの,pp.163-164,NHK出版(2019),冨永星(訳)) 








時間は存在しない [ カルロ・ロヴェッリ ]




26.この世界のエントロピーの低い部分aと他の部分bとの関係をみると、低い部分の「痕跡」を他の部分に見つけることができる。aは原因と呼ばれbは結果と呼ばれる。aは過去と呼ばれbは現在と呼ばれる。痕跡は記憶であり、過去は定まったものと感知させる。痕跡とは何か?それは、人間が見るものだ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

因果関係とは何か

この世界のエントロピーの低い部分aと他の部分bとの関係をみると、低い部分の「痕跡」を他の部分に見つけることができる。aは原因と呼ばれbは結果と呼ばれる。aは過去と呼ばれbは現在と呼ばれる。痕跡は記憶であり、過去は定まったものと感知させる。痕跡とは何か?それは、人間が見るものだ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

 「そうはいっても、記憶や因果、流れや「定まった過去と不確かな未来」といったものは、 ある統計的な事実、すなわち宇宙の過去の状態としてありそうになるものがあるという事実が もたらす結果にわたしたちが与えた名前でしかない。 

 原因や記憶や痕跡、さらには何百年何千年にもわたる人間の歴史のみならず、何十億年にわ たる壮大な宇宙の物語においても展開されてきたこの世界の成り立ちの歴史、これらすべてが はるか昔の事物の配置が「特殊」だったという事実から生じた結果にすぎないのである。   

そのうえ「特殊」というのは相対的な単語で、あくまで一つの視点にとって「特殊」なの だ。あるぼやけに関して特殊なのであって、そのぼやけは問題の物理系とこの世界の残りの部 分との相互作用によって定まる。したがって因果や記憶や痕跡やこの世界自体の出来事の歴史もまた、視点がもたらす結果でしかないのかもしれない。

ちょうど天空の回転が、この世界で のわたしたちの特殊な視点がもたらす結果であるように......。こうして非情にも、時間の研究は わたしたちを自分自身に引き戻す。わたしたちはついに、己と向き合ることになるのだ。」

  (カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第3部 時間の源へ,第11章 対称性から生じるもの,p.166,NHK出版(2019),冨永星(訳))






時間は存在しない [ カルロ・ロヴェッリ ]






2021年11月13日土曜日

25.世界で出来事が生じるのは、あらゆるものが抗いがたくかき混ぜられ、いくつかの秩序ある配置が無数の無秩序な配置へと向かうからだ。全ては、宇宙の始まりの低いエントロピーを糧とする崩壊の過程である。太陽は低いエントロピーの豊かな源泉であり、生命も自己組織化された無秩序化過程なのである。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

エントロピー

世界で出来事が生じるのは、あらゆるものが抗いがたくかき混ぜられ、いくつかの秩序ある配置が無数の無秩序な配置へと向かうからだ。全ては、宇宙の始まりの低いエントロピーを糧とする崩壊の過程である。太陽は低いエントロピーの豊かな源泉であり、生命も自己組織化された無秩序化過程なのである。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

「生物も同様に、次々に連鎖するいくつもの過程で成り立っている。植物は、光合成を通じ て太陽からのエントロピーが低い光子を貯め込む。動物は、捕食によって低いエントロピーを 得る(エネルギーが手に入りさえすればよいのなら、餌をとる代わりに灼熱のサハラに向かう だろう)。

生体の各細胞には複雑な科学反応網があり、そのなかのいくつもの扉が閉じたり開 いたりすることによって、低いエントロピー資源の増大が可能になる。

分子は、触媒となって 過程を推進したり、制動をかけたりする。そして各過程でエントロピーが増大することで、全 体が機能する。

生命は、エントロピーを増大させるためのさまざまな過程のネットワークなの だ。そしてそれらの過程は、互いに触媒として作用する。

生命はきわめて秩序だった構造を生 み出すとか、局所的にエントロピーを減少させるといわれることが多いが、これは事実ではな い。

単に、餌から低いエントロピーを得ているだけのことで、生命は宇宙のほかの部分同様、 自己組織化された無秩序なのである。」(中略)  

「エネルギーではなくエントロピーが、石を地面にとどめ、この世界を回転させている。宇宙が存在するようになったこと自体が、シャッフルによって一組のトランプの秩序が崩れ ていくような、穏やかな無秩序化の過程なのだ。

何か巨大な手があって、それが宇宙をかき混 ぜているわけではない。宇宙自体が、閉じたり開いたりする部分同士の相互作用を通じて少し ずつ自分をかき混ぜる。

宇宙の広大な領域が、秩序立った配置に閉じ込められたままになって いるが、やがてそのあちこちで新たな回路が開き、そこから無秩序が広がる。 

 この世界で出来事が生じるのは、そして宇宙の歴史が記されていくのは、あらゆるものが抗 いがたくかき混ぜられ、いくつかの秩序ある配置が無数の無秩序な配置へと向かうからだ。宇 宙全体がごくゆっくりと崩れていく山のようなもので、その構造は徐々に崩壊しているのだ。  

ごく小さな出来事からきわめて複雑な出来事まで、すべての出来事を生じさせているのは、 このどこまでも増大するエントロピーの踊り、宇宙の始まりの低いエントロピーを糧とする踊 りであって、これこそが破壊神シヴァの真の踊りなのである。 」

 (カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第3部 時間の源へ,第11章 対称性から生じるもの,pp.160-162,NHK出版(2019),冨永星(訳)) 







時間は存在しない [ カルロ・ロヴェッリ ]




24.この世界は、時間のなかに順序づけられていない出来事の集まりである。世界のそれぞれの部分は変数全体の、ごく一部と相互に作用していて、それらの変数の値が「その部分系との関係におけるこの世界の状態」を定める。 (カルロ・ロヴェッリ(1956-))

時間とは何か

この世界は、時間のなかに順序づけられていない出来事の集まりである。世界のそれぞれの部分は変数全体の、ごく一部と相互に作用していて、それらの変数の値が「その部分系との関係におけるこの世界の状態」を定める。  (カルロ・ロヴェッリ(1956-))

 「ここで、読者の方々がまだわずかでも残っておられることを期待しつつ、第9章と第10章 で歩んできた厳しい道のりをまとめておこう。

根本のレベルにおけるこの世界は、時間のなか に順序づけられていない出来事の集まりである。

それらの出来事は物理的な変数同士の関係を 実現しており、これらの変数は元来同じレベルにある。世界のそれぞれの部分は変数全体の ごく一部と相互に作用していて、それらの変数の値が「その部分系との関係におけるこの世界 の状態」を定める。

  一般に小さな系Sは、宇宙の残りの部分の詳細を区別しない。なぜならその系が相互作用す るのは、宇宙の残りの変数のごく一部でしかないからだ。

Sにとっての宇宙のエントロピー は、Sには判別できない宇宙の(ミクロな)状態の数に対応する。Sにとっての宇宙の姿は、エ ントロピーが高い状態である。なぜなら(定義からいって)エントロピーが高い配置のほうが ミクロの状態の数が多く、実現確率が高くなるからだ。 

 先ほど説明したように、エントロピーが高い配置に伴う流れがあって、その流れのパラメー タが熱時間になる。

小さな系Sにとっては、熱時間の流れ全体から見たエントロピーは一般に高いまま推移し、せいぜい上下に揺らぐくらいである。なぜならここで扱っているのは、結局 のところ固定された規則ではなく確率であるからだ。 

 ところが、わたしたちがたまたま暮らしている途方もなく広大なこの宇宙にある無数の小さ な系Sのなかにはいくつかの特別な系があって、そこではエントロピーの変動によって、たま たま熱時間の流れの二つある端の片方におけるエントロピーが低くなっている。

これらの系S にとっては、エントロピーの変動は対称ではなく、増大する。そしてわたしたちは、この増大 を時の流れとして経験する。つまり特別なのは初期の宇宙の状態ではなく、わたしたちが属し ている小さな系Sなのだ。 

 自分たちのこの筋書きが妥当だという確信があるわけではないが、寡聞にして、これに勝る 説を知らない。

この筋書きを認めなければ、宇宙が始まったときにはエントロピーが低かった はずだ、という結果を既成事実として受け入れるしかない。以上終わり、なのだ。  

わたしたちはここまで、クラウジウスが主張し、ボルツマンが最初に解読したΔS≧0 という 法則に導かれて進んできた。エントロピーは決して減少しない。そして、この世界の一般法則 を探すなかで一度は見失ったこの法則を、特殊な部分系に対する視点が影響しているのかもし れないということで再発見した。だから改めて、ここから出発することにしよう。」

 (カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第3部 時間の源へ,第10章 視点,pp.154-155,NHK出版(2019),冨永星(訳))









時間は存在しない [ カルロ・ロヴェッリ ]





2020年5月25日月曜日

23.時間の2つの起源:(a)量子的な相互作用(測定)の結果が測定の順序に依存し(変数の非可換性),部分的に自然な順序づけを持つ.(b)私たちには識別できないマクロ状態に含まれるミクロ状態の数の増加という順序.(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

時間の2つの起源

【時間の2つの起源:(a)量子的な相互作用(測定)の結果が測定の順序に依存し(変数の非可換性),部分的に自然な順序づけを持つ.(b)私たちには識別できないマクロ状態に含まれるミクロ状態の数の増加という順序.(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

 「フランスの偉大な数学者アラン・コンヌは、時間の源において量子の相互作用が果たす深い役割を指摘した。

 ある相互作用によって粒子の位置が具体化すると、粒子の状態が変わる。また、速度が具体化する場合も、粒子の状態が変わる。しかも、速度が具体化してから位置が具体化したときの状態の変化は、その逆の順序で具体化したときの状態の変化とは異なる。つまり順序が問題で、電子の位置を測ってから速度を測ると、速度を測ってから位置を測ったときとは違う状態に変化するのだ。

 これを、量子変数の「非可換性」という。なぜなら位置と速度の順序は「交換できない」からで、順序を換えると、ただではすまなくなる。

この非可換性は、量子力学の特徴となる現象の一つであり、それによって二つの物理変数が確定する際の順序が決まり、その結果、時間の芽が生まれる。

物理的な変数の確定は孤立した行為ではなく相互作用であって、これらの相互作用の結果はその順序によって定まる。そしてその順序が、時間的な順序の原始形態なのである。

 おそらく相互作用の結果がその順序に左右されるという事実こそが、この世界における時間の順序の一つの根っこなのだろう。コンヌが提唱するこの魅力的な着想によると、基本的な量子遷移における時間の最初の萌芽は、これらの相互作用が(部分的に)自然に順序づけられているという事実のなかに潜んでいる。

 コンヌはこの着想を、優美な数学として提示した。物理的な変数の非可換性によって、暗黙のうちにある種の時間的な流れが定義されることを示したのだ。

この非可換性のゆえに、系に含まれる物理変数全体が「非可換フォン・ノイマン環」という数学的な構造を定義する。そしてコンヌは、これらの構造自体のなかに内在的に定義された流れが存在することを示した。

 驚いたことに、コンヌが定義した量子系に付随する流れとわたしが論じてきた熱時間には、きわめて密接な関係がある。

というのもコンヌが示したのは、ある量子系において異なるマクロ状態によって定まる熱流が、いくつかの内部対称性の自由度を別にして等価であり、まさしくコンヌ・フローを形成するという事実だったからだ。

もっと簡単な言葉でいうと、マクロな状態によって定められる時間と、量子の非可換性によって定められる時間は、同じ現象の別の側面なのだ。

 思うにこの熱的にして量子的な時間こそが、この現実の宇宙――根本的なレベルでは時間変数が存在しない宇宙――でわたしたちが「時間」と呼ぶ変数なのだ。

 量子の世界に固有の事物の不確定性は、ぼやけを生む。そしてボルツマンのぼやけゆえに、この世界は古典力学が指し示していそうなこととはまったく逆に、たとえ測定可能なものをすべて測定できたとしても、予測不能になる。

 時間の核には、この二つのぼやけの起源――物理系がおびただしい数の粒子からなっているという事実と、量子的な不確定性――がある。時間の存在は、ぼやけと深く結びついているのだ。

そしてそのようなぼやけが生じるのは、わたしたちがこの世界のミクロな詳細を知らないからだ。物理学における「時間」はけっきょくのところ、わたしたちがこの世界について無知であることの表われなのである。時とは無知なり。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第3部 時間の源へ,第9章 時とは無知なり,pp.137-139,NHK出版(2019),冨永星(訳))
(索引:)

時間は存在しない


カルロ・ロヴェッリ(1956-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
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22.「Aから見て本当に存在するB、Bから見て本当に存在するCは、Aから見ても本当に存在する」という命題は、存在するものに関する素朴な直感にすぎず、正しいとは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

4次元時空で本当に存在するものとは?

【「Aから見て本当に存在するB、Bから見て本当に存在するCは、Aから見ても本当に存在する」という命題は、存在するものに関する素朴な直感にすぎず、正しいとは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

(a)「現在」と同時刻の時空領域
 出来事Aから見て同時刻の出来事Bについて(これをA->Bと表す)、Bから見てAは同時刻とは限らない。従って、 A->B でも、B->A とは限らない。時刻によって共通の「現在」を定めることはできない。
(b)因果的な影響が及び得ない時空領域
 (i)出来事Aから見て因果的な影響が及び得ない出来事Bについて(これをA~Bと表す)、Bから見てAは因果的な影響が及び得ない。従って、A~B ならば B~A も成り立つ。
 (ii)互いに因果的な影響が及び得ない出来事A、B(A~B)、Bと互いに因果的な影響が及び得ない出来事C(B~C)を考える。A~B かつ B~C から、必ずしも A~C が結論できない。従って、仮に、因果的な影響が及び得ない領域を「現在」と定めても、ある出来事の「現在」が、別の出来事の過去や未来の領域でもあり得る。
(c)「本当に存在する」ものは何か
 「現在」に影響を与え得た領域を過去、「現在」が影響を与え得る領域を未来とする。過去と未来は、「本当には存在しない」とする。世界に何かが「本当に存在する」のなら、残りは、互いに因果的な影響が及び得ない領域である。そこで、これが「本当に存在する」としてみる。
 互いに因果的な影響が及び得ない出来事A、B(A~B)、Bと互いに因果的な影響が及び得ない出来事C(B~C)を考える。「現在」Aにおいて、「本当に存在する」Bから見て「本当に存在する」Cは、Aにとっても「本当に存在する」。これは、どこが間違っているだろうか。
(d)「Aから見て本当に存在するB、Bから見て本当に存在するCは、Aから見ても本当に存在する」という命題は、存在するものに関する素朴な直感にすぎず、正しいとは限らない。実際、存在するということを、時空内において互いに因果的な影響を与え得ない関係と定義しており、この関係には推移律は成立しない。

 「ブロック宇宙を擁護する古典的な議論は、1967年にヒラリー・パトナムの有名な論文で示された。H.Putnam,'Time and Physical Geometry(時間と物理的幾何学)',Journal of Philosophy 64,pp.240-47,

パトナムが用いたのはアインシュタインの同時性の定義である。第3章の注7で見たように、もしも地球とプロキシマ・ケンタウリbが遠ざかっているとすると、地球における出来事Aは(地球の人にとっては)プロキシマ上の出来事Bと同時になるが、その出来事は(プロキシマの上にいる人にとって)地球上の出来事Cと同時になり、しかもこの出来事CはAの未来に存在する。

パトナムは「同時である」ということが「本物の今である」と仮定して、演繹により(Cのような)未来の出来事が本物の「今」であるという結論に達した。

この論の間違いは、アインシュタインの同時性の定義に存在論的な価値があると仮定したところにある。

アインシュタインの定義は、じつは便宜上の定義でしかない。近似によって相対論的でないものに還元されるであろう相対論的な概念を確認するためのものなのだ。

ところが、相対論的でない同時性が再帰的推移的な概念であるのに対して、アインシュタインの概念は再帰的推移的ではない。したがって、この二つが近似以外の場合にも存在論的に同じ意味を持つと考えるのはナンセンスなのだ。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第2部 時間のない世界,第7章 語法がうまく合っていない,註4,pp.228-229,NHK出版(2019),冨永星(訳))

2020年4月9日木曜日

21.私たちの言葉や直感が、自分たちの発見した事柄に馴染まなかったとしても、言葉や直感は、限られた経験をもとにして作られたものであり、正確さに欠け、この世界の豊かな構造を把握しきれないだけなのかもしれない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

言葉や直感の役割

【私たちの言葉や直感が、自分たちの発見した事柄に馴染まなかったとしても、言葉や直感は、限られた経験をもとにして作られたものであり、正確さに欠け、この世界の豊かな構造を把握しきれないだけなのかもしれない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
   参考:(量子重力に関する仮説)質量に影響される重力場は揺らいで互いに重ね合わさり、相互作用が起きると持続時間は粒状になり、相互作用した相手との関わりにおいてのみその値が定まる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
   参考:(仮説)ある事物と他の事物の間の相互作用によって粒状の持続時間が現れる。この出来事から、起こり得る別の相互作用への推移の過程は、因果律に従う。世界は、出来事のネットワークであるが、現れた時間は、順序づけ可能とは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

   参考:(仮説)ある出来事の発生から、起こり得る別の出来事への推移の過程は因果律に従い、過去・現在・未来の違いは決して幻ではない。しかし全ての出来事が、宇宙全体の包括的で連続的な一つの順序に従って整列可能とは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
 「自然はそこに存在しており、わたしたちはそれを少しずつ発見してきた。かりにわたしたちの語法や直感が自分たちの発見した事柄に馴染まなかったとしても、それはそれ、馴染もうと努めるしかない。

 現代のほとんどの言語では、動詞に「過去」、「現在」、「未来」の活用がある。だがこのような語法は、この世界の現実の時間構造について語るには不向きなのだ。なぜなら現実は、もっと複雑だから。

このような語法は、わたしたちの限られた経験をもとにして作られた――自分たちの作っているものが正確さに欠け、この世界の豊かな構造を把握しきれないということに気づく前に作られたのだ。

 客観的で普遍的な現在は存在しない、という発見を掘り下げようとしたときにわたしたちが戸惑うのは、ひとえに過去、現在、未来という絶対的な区別にもとづいてつくられた語法に従っているからだ。

このような区別は、じつはある程度までしか有効ではない。自分たちのすぐそばの「ここ」においてのみ有効なのだ。

現実の構造は、この語法の前提となっているものと同じではない。何らかの出来事が「ある」、あるいは「あった」、あるいは「あるだろう」とはいえても、何らかの出来事がわたしにとっては「あった」があなたにとっては「ある」という状況を語る語法は存在しないのだ。

 語法が不適切だからといって、混乱したままでいるわけにもいかない。」(中略)


 「自分たちの言葉や直感を、なんとしても新たな発見に沿わせようと四苦八苦している最中なのだ。「過去」や「未来」が普遍的な意味を持たず、場所が変わればその意味も変わる、という発見に。それ以上でも、それ以下でもない。

 この世界には変化があり、出来事同士の関係には時間的な構造があって、それらの出来事は断じて幻ではない。出来事は全体的な秩序のもとで起きるのではなく、この世界の片隅で複雑な形で起きる。ただ一つの全体的な順序にもとづいて記述できるようなものではないのだ。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第2部 時間のない世界,第7章 語法がうまく合っていない,pp.111-112,NHK出版(2019),冨永星(訳))
(索引:言葉や直感の役割)

時間は存在しない


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20.(仮説)ある出来事の発生から、起こり得る別の出来事への推移の過程は因果律に従い、過去・現在・未来の違いは決して幻ではない。しかし全ての出来事が、宇宙全体の包括的で連続的な一つの順序に従って整列可能とは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

時間の順序

【(仮説)ある出来事の発生から、起こり得る別の出来事への推移の過程は因果律に従い、過去・現在・未来の違いは決して幻ではない。しかし全ての出来事が、宇宙全体の包括的で連続的な一つの順序に従って整列可能とは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
   参考:(量子重力に関する仮説)質量に影響される重力場は揺らいで互いに重ね合わさり、相互作用が起きると持続時間は粒状になり、相互作用した相手との関わりにおいてのみその値が定まる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
   参考:(仮説)ある事物と他の事物の間の相互作用によって粒状の持続時間が現れる。この出来事から、起こり得る別の相互作用への推移の過程は、因果律に従う。世界は、出来事のネットワークであるが、現れた時間は、順序づけ可能とは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

 「自分たちが、宇宙を一筋のきちんとした時間の連続として整列させられないからといって、変化するものがいっさいないとはいえない。

単に、さまざまな変化が順序づけられた線に沿って一列に並んでいるわけではない、というだけのことなのだ。

この世界の時間の構造はもっと複雑で、さまざまな瞬間がずらずらと一直線につながっているわけではない。でもだからといって、変化が存在しないとか、幻だとはいえない。

 過去と現在と未来の違いは決して幻ではない。それは、この世界の構造なのだ。だがその構造は、現在主義のそれとは違う。出来事同士の時間の関係は思っていたより複雑だが、それでも構造は存在している。

親子関係は全体の順序を確定しないが、親子関係が幻だとはいえない。全員がずらっと一列に並んでいないからといって、わたしたちの間にまったく関係がないということにはならないのだ。

変化や出来事の発生は、決して幻ではない。ここまででわかったこと、それは、この世界の変化が包括的な順序に従って生じているわけではないという事実だ。

 ではここで、最初の問いに戻るとしよう。「現実」とは何か。何が「存在」しているのか。

「この問いは間違っている」というのがその答えだ。

この問いはすべてを意味し、何ものをも意味しない。なぜなら「現実」という言葉は曖昧で、意味がたくさんあるからだ。「存在」という言葉に至っては、さらに多くの意味がある。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第2部 時間のない世界,第7章 語法がうまく合っていない,pp.109-110,NHK出版(2019),冨永星(訳))
(索引:時間の順序,過去,現在,未来)

時間は存在しない


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2020年4月8日水曜日

19(仮説)ある事物と他の事物の間の相互作用によって粒状の持続時間が現れる。この出来事から、起こり得る別の相互作用への推移の過程は、因果律に従う。世界は、出来事のネットワークであるが、現れた時間は、順序づけ可能とは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

時間の順序

【(仮説)ある事物と他の事物の間の相互作用によって粒状の持続時間が現れる。この出来事から、起こり得る別の相互作用への推移の過程は、因果律に従う。世界は、出来事のネットワークであるが、現れた時間は、順序づけ可能とは限らない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

(1)(b.3)追記。

時間とは何か?
 量子論は、実在する「事物」の状態の変化を記述しているのではなく、ある事物と他の事物の間のある相互作用から、起こり得る別の相互作用への推移の「過程」を記述する。相互作用の瞬間においてのみ「事物」の性質はあらわになる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
(1)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a1とは、情報(b.1)を表現している。
  (a.2)状態 a1は、未来におけるAとBの相互作用を予測する。
  (a.3)量子力学の粒性
   AとBの相互作用の結果、
   実現する可能性のあるBの結果 biの総数は、有限である。
  (a.4)不確定性
   Bからは、常に新しい情報 biを得ることが可能である。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t1において、
   AとBの相互作用の結果が、b1である。
  (b.2)これは、AとBが過去経験してきたあらゆる相互作用の最終結果である。
  (b.3)これは、未来におけるAとBの相互作用を予測可能にするための整理作業でもある。
   参考:(量子重力に関する仮説)質量に影響される重力場は揺らいで互いに重ね合わさり、相互作用が起きると持続時間は粒状になり、相互作用した相手との関わりにおいてのみその値が定まる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
   参考:(仮説)ある事物と他の事物の間の相互作用によって粒状の持続時間が現れる。この出来事から、起こり得る別の相互作用への推移の過程は、因果律に従う。世界は、出来事のネットワークであるが、現れた時間は、順序づけ可能とは限らない。

(2)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a2とは、情報(b.1)を表現している。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t2において、
   AとBの相互作用の結果が、b2である。
(3)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a3とは、情報(b.1)を表現している。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t3において、
   AとBの相互作用の結果が、b3である。
 「時間はすでに、一つでもなく、方向もなく、事物と切っても切り離せず、「今」もなく、連続でもないものとなったが、この世界が出来事のネットワークであるという事実に揺らぎはない。

時間にさまざまな限定があるいっぽうで、単純な事実が一つある。事物は「存在しない」。事物は「起きる」のだ。

 基本方程式に「時間」という量が含まれていないからといって、この世界は凍りついてもいないし、不動でもない。それどころかこの世界の至る所に、「父なる時間」によって順序づけられない「変化」がある。

無数の出来事は、必ずしもきちんと順序づけられておらず、ニュートン的な唯一の時間線に沿って、あるいはアインシュタインの優美な幾何学に従って分布しているわけでもない。この世界の出来事は、英国人のように秩序立った列は作らず、イタリア人のようにごちゃごちゃと集まっているのだ。

 それでも出来事は生じ、変化してゆく。拡散してちりぢりになり、めちゃくちゃになりはしても、静止することなく、生じる。

てんでんばらばらな速度で時を刻むいくつもの時計は、単一の時間を示すことなく、しかし各時計の針は互いに対して変化する。

基本的な方程式は時間という変数を含まないが、互いに対して変化する変数を含んでいる。

アリストテレスが述べているように、時間は変化を計測したものなのだ。変化を測るための変数の選び方はいろいろあるが、わたしたちが経験する時間の特徴をすべて備えた変数はどこにもない。しかしだからといって、この世界が絶えず変化しているという事実が消えるわけではない。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第2部 時間のない世界,第6章 この世界は物ではなく出来事でできている,pp.97-98,NHK出版(2019),冨永星(訳))
(索引:時間の順序)

時間は存在しない


カルロ・ロヴェッリ(1956-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
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18.唯一の時間は存在せず、合理的な形で「現在」を定義できない。軌跡ごとに異なる経過期間があり、場所と速度に応じて異なるリズムが経過する。基本方程式は、時間に関して対称であり、時間の向きはマクロ的で偶然的な性質を持つ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

時間とは何か

【唯一の時間は存在せず、合理的な形で「現在」を定義できない。軌跡ごとに異なる経過期間があり、場所と速度に応じて異なるリズムが経過する。基本方程式は、時間に関して対称であり、時間の向きはマクロ的で偶然的な性質を持つ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

 「ここで、この本の第一部で試みた、深みへの長い急降下を振り返っておこう。

時間は唯一ではなく、それぞれの軌跡に異なる経過期間がある。そして時間は、場所と速度に応じて異なるリズムで経過する。

時間は方向づけられていない。過去と未来の違いは、この世界の基本方程式のなかには存在しない。それは、わたしたちが事物の詳細をはしょったときに偶然生じる性質でしかない。

そのような曖昧な視野のなかで、この宇宙の過去は妙に「特別な」状態にあった。

「現在」という概念は機能しない。この広大な宇宙に、わたしたちが理に適った形で「現在」と呼べるものは何もない。

時間の持続期間を定める基層は、この世界を構成するほかのものと異なる独立した実体ではなく、動的な場の一つの側面なのだ。

跳び、揺らぎ、相互作用によってのみ具体化し、最小規模に達しなければ定まらない側面……。だとすれば、時間の何が残るのか。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第1部 時間の崩壊,第5章 時間の最小単位,pp.92-93,NHK出版(2019),冨永星(訳))
(索引:時間とは何か)

時間は存在しない


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17.(量子重力に関する仮説)質量に影響される重力場は揺らいで互いに重ね合わさり、相互作用が起きると持続時間は粒状になり、相互作用した相手との関わりにおいてのみその値が定まる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

時間とは何か

【(量子重力に関する仮説)質量に影響される重力場は揺らいで互いに重ね合わさり、相互作用が起きると持続時間は粒状になり、相互作用した相手との関わりにおいてのみその値が定まる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

(1)(b)に追記。

時間とは何か?
 量子論は、実在する「事物」の状態の変化を記述しているのではなく、ある事物と他の事物の間のある相互作用から、起こり得る別の相互作用への推移の「過程」を記述する。相互作用の瞬間においてのみ「事物」の性質はあらわになる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
(1)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a1とは、情報(b.1)を表現している。
  (a.2)状態 a1は、未来におけるAとBの相互作用を予測する。
  (a.3)量子力学の粒性
   AとBの相互作用の結果、
   実現する可能性のあるBの結果 biの総数は、有限である。
  (a.4)不確定性
   Bからは、常に新しい情報 biを得ることが可能である。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t1において、
   AとBの相互作用の結果が、b1である。
  (b.2)これは、AとBが過去経験してきたあらゆる相互作用の最終結果である。
  (b.3)これは、未来におけるAとBの相互作用を予測可能にするための整理作業でもある。
   参考:(量子重力に関する仮説)質量に影響される重力場は揺らいで互いに重ね合わさり、相互作用が起きると持続時間は粒状になり、相互作用した相手との関わりにおいてのみその値が定まる。

(2)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a2とは、情報(b.1)を表現している。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t2において、
   AとBの相互作用の結果が、b2である。
(3)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a3とは、情報(b.1)を表現している。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t3において、
   AとBの相互作用の結果が、b3である。
 「時間の持続と隔たりを定める物理的な基層、すなわち重力場に、質量に影響される力学があるだけではない。

それは、何かほかのものと相互作用しないかぎり値が決まらない量子実体でもある。

相互作用が起きると持続時間は粒状になり、相互作用した相手との関わりにおいてのみその値が定まる。それでいて、宇宙のそのほかのすべてに対しては、不確かなままなのだ。
 時間は関係のネットワークのなかに溶け去り、もはや首尾一貫したキャンパスを織り上げてはいない。

揺らいで互いに重ね合わさり、特定のものに対しては具体になることもある(複数の)時空のイメージは、わたしたちからすればきわめて曖昧な像だが、微細な粒からなるこの世界に関していえることは、これで精一杯。わたしたちは今、量子重力の世界を覗いているのだ。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第1部 時間の崩壊,第5章 時間の最小単位,p.92,NHK出版(2019),冨永星(訳))
(索引:時間とは何か)

時間は存在しない

カルロ・ロヴェッリ(1956-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
カルロ・ロヴェッリ(1956-)
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