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2020年4月29日水曜日

私が私の身体と不可分であり、それを意のままに使えるという事実と、その身体を排他的に占有し自由に処分してもよいという規範とは、全く次元の違う主張である。近代社会特有のこの規範の根拠が、いま問題である。(立岩真也(1960-))

自分の身体を所有するということ

【私が私の身体と不可分であり、それを意のままに使えるという事実と、その身体を排他的に占有し自由に処分してもよいという規範とは、全く次元の違う主張である。近代社会特有のこの規範の根拠が、いま問題である。(立岩真也(1960-))】
「「人類が、個人的にまたは集団的に、だれかの行動の自由に正当に干渉しうる唯一の目的は、自己防衛…である。すなわち、文明社会の成員に対し、彼の意志に反して、正当に権力を行使しうる唯一の目的は、他人に対する危害の防止である。彼自身の幸福は、物質的なものであれ道徳的なものであれ、十分な正当化となるものではない…自分自身にだけ関係する行為においては、彼の独立は、当然、絶対的である。彼自身に対しては、彼自身の身体と精神に対しては、個人は主権者である。」(Mill[1855=1967:224-225])

 自己決定の自由を主張してミル(John Stewart Mill 1806~1973)は右のように言う。なるほどこれは私達に受け入れられやすい主張である。言われていることを否定しようとは思わない。しかし、彼の行為はなぜ彼にだけ委ねられるのか。「他人に対する危害」を加えない範囲で自由だと言うが、ある行為、あるいはその結果が他の者に与えられな▽068 いこと自体はその者に危害を加えていないと言いうるのか。また、私の身体が私のものであることは自明のことのように思うかもしれない。だがその身体が私のもとにあること、私がその身体のもとにあること、また意のままにそれを私が使えること、これらの事実と、その身体を他者に使用させず、私の意のままに動かしてよい、処分してもよいという規則・規範とは、全く次元の異なったところにある。
 基本的なところから考えてみよう。財xを使用する、行う、消費する。結果として産出された財の配分や利用のことだけを言っているのではない。この財の中には各自の身体や行為、その他全てのものが含まれる。問題はそれを誰が行うことができるかである。世界の財を割り振るとして、それをどのように行うのか。(図2・1~2・3)
 こうした配分にかかわる規則が(少なくとも部分的には)不在の状態を考えることができないわけではない。各人が何を受け取るかについて関心がなく、利害の衝突がないといった状態である。この場合には規範を設定しておく必要は必ずしもない。しかし、このような状態を想定することができないならどうか。xが誰のものであるか決まって▽069 いないと、AとBの間に争いが起きるかもしれず、その争いには収拾がつかないかもしれない。それでは困る、あるいはそれではいけないとする。そこで、財・行為の所有・処分に対する権限の割り当ての規則を設定する。その規則は――その内容はともかく、規則自体は――かなり普遍的に、どの社会にもあると考えてよいだろう。規則は論理の上ではいくらでも考えられる。例えば、誰か一人が独占的に全てを所有するという形をとることも可能だし、一人一人に同じだけ割り振ってもよい。また現実にも、その規則の内容は様々に異なる。ここで問題にするのは、その近代的な規範、そしてそれを導き出す論理である。近代社会には近代社会特有の割り当ての規範がある。この配分の原理はどのようなものか、それがどのように根拠づけられているのかが問題である。次項でまず近代的所有権の特徴とされるものがそれに十分答えるものでないことを確認した後、その規則を与えるものが何なのかを見る。」
(立岩真也(1960-),『私的所有論 第2版』,第2章 私的所有の無根拠と根拠,1 所有という問題,[1]自己決定の手前にある問題,<Kyoto Books生存学
(索引:)
立岩真也(1960-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)

(出典:立命館大学大学院・先端総合学術研究科
立岩真也(1960-)の命題集(Propositions of great philosophers)
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