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2022年3月28日月曜日

私たちの責任を、商取引における負債のようなもので基礎づけようとする様々な試みが多くなされてきた。しかし、これは真実であろうか。自分の実在を、私たちは誰に負っているのか。存在の基盤である自然、宇宙、文化、祖先、人類全体。(デヴ

私は誰のおかげで存在しているのか

私たちの責任を、商取引における負債のようなもので基礎づけようとする様々な試みが多くなされてきた。しかし、これは真実であろうか。自分の実在を、私たちは誰に負っているのか。存在の基盤である自然、宇宙、文化、祖先、人類全体。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))


(a)存在の基盤である自然、宇宙
 宇宙、宇宙の力、現代的に言い換えると〈自然〉に対して、私たちの存在の基盤に対 して、である。
(b)文化
 私たちにとって最も価値ある知識と文化的成果をなしえた人びとに対して。人間の存 在は、それらの知識と文化的成果によって、枠組みと意味、そしてまた形態をも受けとる。
(c)祖先
 わたしたちの両親、およびその両親、つまり祖先に対して。
(d)人類全体
 人類全体に対して。


「わたしたちは自分の存在を可能にするすべての人びとに対して無限の負債を負って生まれ てきた、しかるに「社会」と呼ばれる自然な単位は存在しない。とはいえ、もしそうだとすれ ば、わたしたちは本当のところだれに対してなにを負っているのか? 万人? 万物? それ とも、人や物によって程度に強弱があるのか? それに、かくも拡散しているなにものかに、 どうやって負債を支払うのだろう? あるいは、より端的にいって、いったいだれが、どんな 根拠をもって、返済方法を指示する権威を発動できるのか?  このように問いを提起してみたとき、ブラーフマナの作者たちは空前絶後の洗練をきわめた モラルについての省察を与えてくれている。先述したように、これらのテキストがどのような条件で作成されたのか、はっきりしない。しかしこれまでに知られた証拠資料は、いくつかの 重要な文書が前500年から前400年のあいだのどこか――おおよそソクラテスの生きた時代――に 作成されたことを示している。その頃のインドでは商業経済や硬貨、利子付貸出といった制度 が日々の生活に根づきはじめていた。その時代のインドの知識階級も、ギリシャや中国の知識 階級とおなじように、それらの事象のふくむ意味と格闘していたのである。インドの場合、そ れは次のような問いに集約される。わたしたちの責任を負債として想像することはなにを意味 するのか? じぶんの実在をわたしたちはだれに負っているのか?  彼らによる答えに(古代インドにも王や政府が確実に存在していたにもかかわらず)「社 会」にも国家にも言及がみられないのは意義深い。そのかわり負債は、神に、賢者に、父に、 「人間たち(men)」に[個別的に]定められている。彼らの定式をより現代的な言語に翻訳 することはさほどむずかしくはなさそうだ。そこで次のようにまとめてみた。結局、わたした ちが自己の存在をなによりもまず負っているのは、  ・宇宙、宇宙の力、現代的にいいかえると〈自然〉に対して、わたしたちの存在の基盤に対 して、である。それに対する負債は儀式によって返済される。儀式は小さきわれらを凌駕する 存在すべてへの敬意と承認の行為である。  ・わたしたちにとって最も価値ある知識と文化的成果をなしえた人びとに対して。人間の存 在は、それらの知識と文化的成果によって、枠組みと意味、そしてまた形態をも受けとる。こ こにはわたしたちの知的伝統を創造した哲学者や科学者だけでなく、ウィリアム・シェイクス ピアから中東のどこかでイースト菌入りのパンを発明したが忘れ去られたままの女性までふく まれる。それらの人びとに対する負債は、わたしたち自身が学習し人間の知識と文化に貢献す ることで支払われる。  ・わたしたちの両親、およびその両親――つまり祖先に対して。じぶん自身が祖先となること で返済される。  ・人類全体に対して。異邦人に対する寛容によって、人間的諸関係つまり生を可能なものに する、社会性にかかわる基本的なコミュニズム的土台を維持することによって返済する。」 
 (デヴィッド・グレーバー(1961-2020),『負債論』,第3章 原初的負債,pp.100-102,以文 社(2016),酒井隆史(訳),高祖岩三郎(訳),佐々木夏子(訳))

負債論 貨幣と暴力5000年 [ デヴィッド・グレーバー ]





デヴィッド・グレーバー
(1961-2020)






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