隠された意図
【交渉者に秘かな意図を伝えるべきか。誠実で非常に優秀な者でなければ、交渉相手に信じ込ませたいことのみを伝えること。なぜなら、目的が明確であり折衝が心底からのものでなければ、効果的な交渉はできないからだ。(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540))】大使に自分の秘かな意図を伝えておくべきかどうか。
(1) 慎重で誠実で、主君にたいしては敬愛を感じ、他の君主に色目を使うなど思いにもよらぬほど、自分の主君に心服しているような大使の場合。派遣する大使に、自分の秘かな意図、相手方との折衝における企みを教え込むのが良策である。ただし、次のデメリットがある。
(1.1) もし大使が、その折衝が心底からのもので、見せかけのものではないと信じこんでいるばあいに演ずるような、大胆で効果的で真に迫った言動を、とることはむずかしくなる。
(1.2) また、どんな事態にも対処できるような細かい指示を大使に与えておくことは、ほとんどできない相談なので、大まかな目標にたいしてどう対処したらよいかを、自らの意志どおりに裁量できるようにしむけてやらなければならない。けれども、もし大使が、その目的を充分に理解していなければ、彼は目的を遂行しえない。このために、数かぎりないあやまちを犯しやすくなるのである。
(2) 君主が、自分の大使が完全に(1)のような条件をみたしているという確信がもてないときには、君主にとって最も安全な道は、大使に自分の心のなかを漏らさないようにしておくことである。そして、その君主が、外国の君主に信じこませようとしている同じことがらを、自分の大使にも植えつけておくことである。もし相手の君主をたぶらかそうとすれば、まず第一に自分自身の大使から、だましてかからなければならないと考えるからである。次のメリットがある。
(2.1) 大使が、それを本当のことだと思いこんでいるばあいには、事態が要求している以上に真に迫った行動をとることが多い。そしてもし大使が、自分の君主がある特定の目標を成就しようと本当に心を砕いているのだと信じきっているなら、その大使は、そのからくりを見抜いているばあいの行動にくらべて、折衝にあたって、より思いきったふるまいにでるものなのである。
「君主の中には、大使を派遣するにあたって、その人物に自分のひそかな意図をあらいざらいうちあけて、相手方の君主との折衝で、もっていこうとしているたくらみまでも教えこむ人がいる。
また一方、別の君主の中には、相手方の君主に思いこませようとしていることだけを自分の大使に言っておくほうが良策だと考えている人がいる。
というのも、もし相手の君主をたぶらかそうとすれば、まず第一に自分自身の大使から、だましてかからなければならないと考えるからである。そしてこの大使が、相手の君主と折衝してあることを思いこませる役目を果たすことになるわけだ。
両者いずれの考えにしても、それぞれの言い分がある。
というのは、前者のばあい、自分の主君が相手の君主に一杯くわそうとしているその意図をのみこんでいる大使は、もし彼がその折衝が心底からのもので見せかけのものではないと信じこんでいるばあいに演ずるような、大胆で効果的で真に迫った言動をとることはむずかしいと思われるからである。
すなわち偶然か故意かのどちらかで、君主の本心を知ってしまった大使なら、君主の本心を知らないままに行動するばあいのようには、とてもふるまえないのである。
他方、大使がうそを吹きこまれて、しかも、それを本当のことだと思いこんでいるばあいには、事態が要求している以上に真に迫った行動をとることが多い。
そしてもし大使が、自分の君主がある特定の目標を成就しようと本当に心を砕いているのだと信じきっているなら、その大使は、そのからくりを見抜いているばあいの行動にくらべて、折衝にあたって、より思いきったふるまいにでるものなのである。
また、どんな事態にも対処できるような細かい指示を大使に与えておくことは、ほとんどできない相談なので、大まかな目標にたいしてどう対処したらよいかを自らの意志どおりに裁量できるようにしむけてやらなければならない。
けれども、もし大使が、その目的を充分に理解していなければ、彼は目的を遂行しえない。このために数かぎりないあやまちを犯しやすくなるのである。
私の考えによれば、慎重で誠実で、主君にたいしては敬愛を感じ、他の君主に色目を使うなど思いにもよらぬほど自分の主君に心服しているような大使を召し抱えている君主は、自分の考えをその大使にうちあけるのが良策であろう。
けれども、君主が、自分の大使が完全にこのような条件をみたしているという確信がもてないときには、君主にとって最も安全な道は、大使に心のなかをもらさないようにしておくことである。
そして、その君主が外国の君主に信じこませようとしている同じことがらを、自分の大使にも植えつけておくことである。」
(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)『リコルディ』(日本語名『フィレンツェ名門貴族の処世術』)C、2 君主と大使、pp.45-46、講談社学術文庫(1998)、永井三明(訳))
(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)『リコルディ』(日本語名『フィレンツェ名門貴族の処世術』)C、2 君主と大使、pp.45-46、講談社学術文庫(1998)、永井三明(訳))
(索引:交渉家)
(出典:wikipedia) |
「この書物の各断章を考えつくのはたやすいことではないけれども、それを実行に移すのはいっそうむずかしい。それというのも、人間は自分の知っていることにもとづいて行動をおこすことはきわめて少ないからである。したがって君がこの書物を利用しようと思えば、心にいいきかせてそれを良い習慣にそだてあげなければならない。こうすることによって、君はこの書物を利用できるようになるばかりでなく、理性が命ずることをなんの抵抗もなしに実行できるようになるだろう。」 (フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)『リコルディ』(日本語名『フィレンツェ名門貴族の処世術』)B、100 本書の利用のし方、p.227、講談社学術文庫(1998)、永井三明(訳)) |
フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)
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