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2018年9月6日木曜日

意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、内側毛帯の束への、連発パルス刺激の実験で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

内側毛帯の束への刺激

【意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、内側毛帯の束への、連発パルス刺激の実験で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(b)皮膚への、閾値に近い単発のパルス
(c)脳内の特定の感覚上行路(内側毛帯の束)への、連発パルス
 (c)の一番最初の刺激パルスと、(b)のパルスが同時に与えられると、「被験者はどちらの感覚も同時に現われたと報告する傾向がありました」。
 (c)の持続時間が、500ms以下にまで削減されると、被験者は何も感じない。

(a)感覚皮質への、アウェアネスに必要な閾値に近い強さの連発した刺激パルス(500ms)
意識的な皮膚感覚
 ↑
 │
事象関連電位(ERP)と呼ばれる
皮質の一連の電気変化
 ↑意識感覚を生み出すために、
 │500ms以上の持続が必要である。
 │
感覚皮質への連発した刺激パルス

(b)皮膚への、閾値に近い単発のパルス
意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の正確な位置と、
 ││発生タイミングを決める
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

(c)脳内の特定の感覚上行路(内側毛帯の束)への、連発パルス
意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の発生タイミングを決める
 ││
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
内側毛帯への連発パルスの、それぞれ個々の刺激パルスに対して、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑
 │
脳内の特定の感覚上行路(内側毛帯の束)への連発パルス

 「この仮説は、かなり突飛なだけに、有効性のある実験検証なしには真面目に提案することができません。(実験による検証、あるいはそこまで行かなくても、少なくともどういうデザインで実験をやれば検証できるかという提案は、いかなる科学的仮説においても必須となります。)幸運なことに、私たちは、適切で極めて有効な実験検証を考案することができました。
 この検証は、脳内の特定の感覚上行路(つまり内側毛帯の束)への刺激には二つの関連した特徴があるという興味深い事実に基づいています。まず第一に、意識感覚を引き出すには、感覚皮質における場合と同様、刺激には最大約500ミリ秒間の持続時間が必要です。第二に、内側毛帯への500ミリ秒以上連発したパルスの《それぞれ》個別の刺激パルスは、感覚皮質で記録可能な早い初期EP反応を引き出します。この点は、皮膚刺激に対する感覚皮質の反応の場合と同じで、初期EPがまったく生じない感覚皮質の表面への刺激の場合とは異なります。
 主観的なタイミングの時間に逆行する遡及効果という私たちの仮説によれば、内側毛帯での連発パルスの最初の刺激パルスによってでさえ、発生すると想定される信号(初期EP反応)のタイミングは、皮膚刺激の場合の感覚的なアウェアネスの主観的な報告のタイミングと同じになるに違いありません。したがって、実験検証においては、内側毛帯への適切な連発した刺激パルスと皮膚への単発の有効なパルスとを時間的に比較しました。この実験は、皮膚パルスと、脳の感覚皮質に伝導する連発したパルスとを比較した前述の実験とデザインが似ています。これら二つの感覚のうち、(主観的に)先に現われたのはどちらであるのかを被験者は報告するように指示されています。言い換えると、内側毛帯によって引き出された感覚と、皮膚パルスによって引き出された感覚の時間を比較したのです。
 この実験の結果が私たちの仮説に基づく予測を裏付けたのは、嬉しい驚きでした。内側毛帯での連発刺激の始まりと(物理的に)同時に皮膚パルスが与えられると、被験者はどちらの感覚も同時に現われたと報告する傾向がありました。しかし、必要条件である500ミリ秒間(または、より強い刺激で200ミリ秒間)に達しなければ内側毛帯の感覚が得られないことがすでにわかっています。必要な持続時間である500ミリ秒以下にまで内側毛帯への連発したパルスが削減されると、被験者は何も感じませんでした。内側毛帯の場合と同様、皮膚パルス感覚も、(もしそれが皮質刺激の開始と同時に与えられた場合には)皮質刺激による感覚よりも前に現われると報告されました。そして、皮質刺激が必要な時間連発し終わるまで、皮膚パルスを遅延させた場合にだけ、二つの感覚は同時に現われると報告されました。
 したがって、皮質刺激と内側毛帯刺激はともに、感覚経験を生み出すために同様の反復したパルスの持続時間が必要であるとしても、経験の主観的なタイミングは内側毛帯刺激のほうがより早いと報告されたことがわかります。すでに述べたように、二つの刺激は感覚皮質の電気反応が異なります。内側毛帯刺激のみが、それぞれのパルスから初期EP反応を引き出します。これは皮膚への単発のパルスと共通する効果です。
 この検証は内側毛帯刺激の「不自然な」性質に基づいたものだ、と批判する人もいました。しかし内側毛帯刺激と皮質刺激を対比した結果を比べるだけで、この意見を払いのけることができます。これらの刺激位置はどちらも「不自然」です。しかし、それぞれの反応の違いには、明らかに重要な意味があります。経験のために最小限のニューロンの遅延は両方のケースで同様に見られるので、内側毛帯刺激のより早い主観的なタイミングは、感覚経験が起こる主観的なタイミングが時間に逆行して遡及する効果についての、直接的な証拠となるからです。
 これで私たちは、感覚経験の主観的なタイミングは、後から起こる、脳の活動が実際に経験を生み出せる適正な最小限の持続時間よりも前に戻るという、強力で直接的な証拠を見出したことになります。主観的なタイミングは「タイミング信号」にまで逆行して遡及します。このタイミング信号とは、すなわち感覚皮質の初期EP反応です。これが、実際には大幅が遅延があるにもかかわらず、私たちが実質上感覚信号を即座に自覚するという主観的な感情と信念について、うまく説明がつくのです!」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.88-91,下條信輔(訳))
(索引:内側毛帯の束,意識の時間遡及)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

ベンジャミン・リベット(1916-2007)
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2018年9月5日水曜日

15.意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。これは、感覚皮質への直接刺激による感覚と、皮膚への刺激による感覚との比較により検証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識の時間遡及

【意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。これは、感覚皮質への直接刺激による感覚と、皮膚への刺激による感覚との比較により検証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(a)感覚皮質への、アウェアネスに必要な閾値に近い強さの連発した刺激パルス(500ms)
(b)皮膚への、閾値に近い単発のパルス
 (a)の後、(b)が数百ms遅延したとしても、(b)(a)の順で感覚される。
 (a)の後、(b)が500ms遅延したときのみ、(b)(a)は同時に感覚される。

(a)感覚皮質への、アウェアネスに必要な閾値に近い強さの連発した刺激パルス(500ms)
意識的な皮膚感覚
 ↑
 │
事象関連電位(ERP)と呼ばれる
皮質の一連の電気変化
 ↑意識感覚を生み出すために、
 │500ms以上の持続が必要である。
 │
感覚皮質への連発した刺激パルス

(b)皮膚への、閾値に近い単発のパルス
意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の正確な位置と、
 ││発生タイミングを決める
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

参照: 意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、片側の感覚上行路に損傷のある患者の例で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))


 「意識を伴う感覚経験を引き出すには、単発のパルスによる皮膚刺激の場合でさえ、適切な強さの脳内のニューロンの活動が最大約500ミリ秒間持続しなければならないことを、証拠は示しています。しかし主観的には、私たちは皮膚刺激に対して感知可能な遅延なしにほとんど即座に気づくようです。ここで、奇妙な逆説が生じます。脳内の神経活動の必要条件は、500ミリ秒間程度経過しなければ皮膚刺激の意識経験またはアウェアネスが現れることができないことを示していますが、その一方、このような遅延なしに経験したと私たちは主観的に判断しています。
 《主観的な》タイミングは、《ニューロンの》タイミング(言い換えると、ニューロン群が実際に経験を生み出したタイミング)と一致する必要がない、と考え始めるまで、私たちはこのやっかいなジレンマにしらばく苦しめられていました。そこで、この矛盾を直接証明する実験を行いました(リベット他(1979年))。このテストでは、連発した刺激パルス(アウェアネスに必要な閾値に近い強さ)を、通常、意識を伴う感覚経験を生み出す必要条件である約500ミリ秒間反復して感覚皮質に与えました。(この、皮質刺激によって誘発された感覚は、手のような皮膚の部位に感じられると報告されます。脳に現われたと決して感じられないのです。)次に、単発の、閾値に近いパルスを皮膚に与えます。このパルスは数々の試行において、連発した皮質刺激がスタートした後の様々な時点で与えました。皮質刺激と皮膚刺激をペアにして与える個々の試行の後、被験者は二つの感覚のうちどちらが先に現われたかを報告するように指示されました。すると皮膚パルスが皮質刺激の開始後、数百ミリ秒間遅延したとしても、被験者は(依然として)皮膚で生じる感覚は、皮質刺激で誘発された感覚の《前》に現われた、と報告しました。また、皮膚パルスが約500ミリ秒間遅延したときにのみ、両方の感覚がほとんど同時に現われたように感じると、被験者は報告しました。明らかに、皮膚刺激で誘発された経験の主観的な時間は、皮質刺激で誘発された経験とくらべて遅延がないように見えます。皮質刺激で誘発された感覚は、皮膚刺激で誘発された感覚と比較して、約500ミリ秒間遅延しているのです。
 皮質刺激において発見したのと同様に、皮膚への刺激パルスのアウェアネスには、およそ500ミリ秒間の脳内の活動が必要であるという、はっきりした証拠をすでに私たちは持っています。それでも、このような大幅な遅延がないかのようなタイミングで、皮膚パルスは主観的に知覚されるのです。この逆説的な経験上/実験上のジレンマをどのように扱ったらよいでしょうか? この矛盾を説明できるメカニズムが脳内にあるのでしょうか?」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.84-86,下條信輔(訳))
(索引:意識の時間遡及)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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2018年9月3日月曜日

13.意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、片側の感覚上行路に損傷のある患者の例で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

初期EP(誘発電位)の役割、意識の時間遡及

【意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、片側の感覚上行路に損傷のある患者の例で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(1)初期EP(誘発電位)の役割
 (1.1)皮膚への刺激の正確な位置を識別するために重要な役割を果たす。
 (1.2)皮膚入力の主観的なタイミングを、過去のある時点に向って遡及するときに、遡及先となるタイミング信号を提供する。
(2)確認されている事実
 (2.1)脳卒中患者は、非常に大ざっぱな方法でしか、皮膚刺激の位置を示せない。例として、2点刺激の弁別では、刺激ポイントを何cmも離さないと識別できない。
 (2.2)脳の右半球に限局した脳卒中で、特定の感覚上行路に永久的な損傷のある患者の場合。
  (a)不自由な左手の皮膚への刺激パルス
  (b)健常な右手の皮膚への皮膚パルス
  (a)と(b)を同時に与えた場合、(b)の次に(a)を感覚する。
  (a)と(b)の意識感覚が、同時に発生したと患者が報告できるようにするには、(b)よりも0.5秒先に(a)を与えなければならない。

意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の正確な位置と、
 ││発生タイミングを決める
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

(再掲)

意識的な皮膚感覚
 ↑
 │
事象関連電位(ERP)と呼ばれる皮質の一連の電気変化
 ↑意識感覚を生み出すために、500ms以上の間持続することが必要である。
 │全身麻酔状態にある場合、ERPは消失する。
 │皮膚パルスの強さを、意識できないレベルまで下げると、ERPは突然消失する。
 │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │初期EPが無くとも、意識感覚は生み出せる。
 │初期EPがあっても、意識感覚は生み出せない。
 │
 │速い特定の投射経路を通っていく。
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

参照:皮膚への単発の有効な刺激に対して、14~50ms後に初期EP(誘発電位)が生じ、その後ERP(事象関連電位)が生じる。初期EPは、意識感覚の必要条件でも十分条件でもない。ERPが意識感覚と関連している。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

 「もし、(これまでに述べたように)記録された初期EP(誘発電位)が生じる皮質活動が、感覚的なアウェアネスを生み出すのに重要な役割を果たしていないというのならば、では一体、初期EPにはどのような役割があるのか、疑問に思う人も多いでしょう。一次神経反応は、皮膚への刺激の正確な位置を識別するために重要な役割を果たします。また、すでに私たちが発見したように、皮膚入力の正確で主観的なタイミングは過去のある時点に向って遡及するわけですが、その遡及先となるタイミング信号を提供しているように見えます。脳卒中のケースの中には、この迅速な、特定の感覚経路が感覚皮質に接近するあたりの部位に、大きな損傷がある場合もあります。こうした脳卒中患者は、非常に大ざっぱな方法でしか皮膚刺激の位置を示せません。(たとえば手の)皮膚への二点刺激で、その刺激ポイントが何センチメートルも離されない限り、そうして二点が実際に二つの離れた点でされていることを識別できません。
 私たちが接していたそういう患者においては、この空間的な障害に加え、健常な側への接触パルスと比較すると皮膚へのパルスはおよそ0.5秒間遅れて感じられることがわかりました(リベット他(1979年)参照)。この患者には数年前、脳の右半球に限局した脳卒中の発作がありました。この発作によって、この患者の身体感覚のための特定の感覚上行路に、永久的な損傷が残りました。この患者には、左手や左腕への刺激の位置を正確に示す能力が欠けており、非常におおまかな位置しか報告できないことがわかりました。この患者の健常な右手への刺激の主観的なタイミングを、損傷のある左手と比較するテストを私たちは行いました。両方の手の裏側に小さな刺激電極をつけ、ようやく感じられる強さの刺激をこの患者に与えました。
 刺激が両方の手に同時に与えられた場合、この被験者は、不自由な左手より以前に、右手への刺激を感じたと報告しました。両方への刺激が同時に与えられていることが意識的に感じられると患者が報告できるようにするには、健常である右側への刺激よりも0.5秒《先に》、損傷のある左側への刺激が与えられなければなりません。明らかに、左手への感覚を時間的に逆行するかたちで主観的に知覚する能力を、患者は喪失していました。その感覚はしたがって、アウェアネスが生じるための皮質の必要条件である、およそ500ミリ秒間の遅延を伴って主観的に知覚されます。このアウェアネスを(時間軸上で)前に戻す能力の喪失というのは、おそらく、患者の左手が初期誘発反応を喪失していることによるものでしょう。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.78-79,下條信輔(訳))
(索引:初期EP(誘発電位)の役割,意識の時間遡及)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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