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2020年6月9日火曜日

27.感情が引き起こす身体変化のうち神経伝達物質と神経刺激性ペプチドは、次のような影響を及ぼす。(a)満足感、福利感、リラクセーション、快楽、(b)注意、興奮、(c)学習、記憶、(d)摂食への刺激、(e)睡眠、覚醒(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

神経伝達物質と神経刺激性ペプチド

【感情が引き起こす身体変化のうち神経伝達物質と神経刺激性ペプチドは、次のような影響を及ぼす。(a)満足感、福利感、リラクセーション、快楽、(b)注意、興奮、(c)学習、記憶、(d)摂食への刺激、(e)睡眠、覚醒(ジョナサン・H・ターナー(1942-))】

神経伝達物質と神経刺激性ペプチド
 例えば、次のような変化を引き起こす。
 (a)満足感、福利感、リラクセーション、快楽
 (b)注意、興奮
 (c)学習、記憶
 (d)摂食への刺激
 (e)睡眠、覚醒
 「この身体系は神経伝達物質の放出に関係する。もっとも重要なものは表4-3ならびに図4-3に列挙されている。」
神経伝達物質
 アセチルコリン(ACh) 皮質興奮、学習、そして記憶、これらが身体系を刺激する。アセチルコリンが中程度の満足と関係するといういくらかの証拠がある。
 モノアミン
  ドーパミン 運動機能と視床機能を規制し、またほとんどの辺縁系を刺激する。
  ノルアドレナリン
  (ノルエピネフリン)
入力情報に反応し、興奮を刺激するニューロンの能力を強化する。
  アドレナリン
  (ピネフリン)
ノルアドレナリンと同じ。
  セロトニン 睡眠-覚醒サイクルを調整し、またリラクセーションと快楽を生成する。
  ヒスタミン 十分にわかっていないが、神経内分泌機能に関与すると考えられる。
 アミノ酸
  ガンマアミノ酪酸
  (GABA)
抑制行動がニューロンの出力を制御する。
  グリシン 不分明であるが、しかしグルタミンの効果を緩和する。
  グルタミン 辺縁系のニューロンを含めて、ニューロンの興奮行動の原因である。
神経刺激性ペプチド 判明している数十種のペプチドのうち、多くのペプチドは脳で生産され、伝達物質のように作用する。その理由は、これが微小であり、また脳脈管系を往き来する能力のゆえである。これらは種々の辺縁系によって刺激される広範な感情に影響すると考えられる。オピオイドは感情反応でとくに重要と考えられる。多数のペプチドが内分泌系、また身体のより包括的な循環器系を介して作用する。最近のデータはサブスタンスPが感情反応、とくにモノアミンとの関係において決定的に重要であることを立証している(Wahlestedt 1998,Kramer et al. 1998)。

 「感情状態に含まれる神経伝達物質のほとんどはふつう、他の感情システムからの刺激のもとで、そしてドレヴェットら(Drevets et al. 1997)の最近の研究が明らかにしているように、脳梁膝下の前頭前皮質の影響下で脳幹の中脳部位によって放出される。

前脳基底もまた一つの伝達物質であるアセチルコリン(ACh)を放出していると考えられる。

そして視床も直接に関与しているのかもしれない(Bentivoglio,Kutas-Ilinsky,and Ilinsky 1993)。

ところで、最近発表された研究では、伝達物質が以前に考えられていた以上に脳幹の外側の領野で放出されていると考えられている。

表4-3にしめしたように、伝達物質それぞれの気分高揚の効果を列挙するのは伝達物質を議論するうえで魅力的である。

たとえば、われわれはセロトニンを福利感、リラクセーション、そして睡眠を生みだすのに関与するものとみなし、またドーパミンを注意、興奮、摂食への刺激とみなすことができるかもしれない。 


しかしこうした伝達物質の効果はおそらくそれぞれ異なり、またそれらの相互作用効果はまだ十分にわかっていない。

ケェティ(Kety 1970:p.120)が二五年以上前に指摘したように、「特定の感情状態を一つあるいは複数の成体アミンの活動によって考察しようとする企てはそもそも不毛であると思われる。これらのアミンは複雑なニューロン・ネットワークの非常に重要な結節点で、単独で、もしくは結びあって機能すると考えられる。〔中略〕しかしこれらは個人の経験におそらく由来している」。」

(ジョナサン・H・ターナー(1942-)『感情の起源』第4章 人間感情の神経学、pp.134-138、明石書店 (2007)、正岡寛司(訳))
(索引:神経伝達物質,神経刺激性ペプチド)

感情の起源 ジョナサン・ターナー 感情の社会学



(出典:Evolution Institute
ジョナサン・H・ターナー(1942-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「実のところ、正面切っていう社会学者はいないが、しかしすべての社会学の理論が、人間は生来的に(すなわち生物学的という意味で)《社会的》であるとする暗黙の前提に基づいている。事実、草創期の社会学者を大いに悩ませた難問――疎外、利己主義、共同体の喪失のような病理状態をめぐる問題――は、人間が集団構造への組み込みを強く求める欲求によって動かされている、高度に社会的な被造物であるとする仮定に準拠してきた。パーソンズ後の時代における社会学者たちの、不平等、権力、強制などへの関心にもかかわらず、現代の理論も強い社会性の前提を頑なに保持している。もちろんこの社会性については、さまざまに概念化される。たとえば存在論的安全と信頼(Giddens,1984)、出会いにおける肯定的な感情エネルギー(Collins,1984,1988)、アイデンティティを維持すること(Stryker,1980)、役割への自己係留(R. Turner,1978)、コミュニケーション的行為(Habermas,1984)、たとえ幻想であれ、存在感を保持すること(Garfinkel,1967)、モノでないものの交換に付随しているもの(Homans,1961;Blau,1964)、社会結合を維持すること(Scheff,1990)、等々に対する欲求だとされている。」(中略)「しかしわれわれの分析から帰結する一つの結論は、巨大化した脳をもつヒト上科の一員であるわれわれは、われわれの遠いイトコである猿と比べた場合にとくに、生まれつき少々個体主義的であり、自由に空間移動をし、また階統制と厳格な集団構造に抵抗しがちであるということだ。集団の組織化に向けた選択圧は、ヒト科――アウストラロピテクス、ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトゥス、そしてホモ・サビエンス――が広く開けた生態系に適応したとき明らかに強まったが、しかしこのとき、これらのヒト科は類人猿の生物学的特徴を携えていた。」
(ジョナサン・H・ターナー(1942-)『社会という檻』第8章 人間は社会的である、と考えすぎることの誤謬、pp.276-277、明石書店 (2009)、正岡寛司(訳))

ジョナサン・H・ターナー(1942-)
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2020年5月3日日曜日

シナプスの情報をアストロサイトが拾い上げ、「もうひとつの脳」の中のグリア回路網を通して流れ、別のアストロサイトからの神経伝達物質放出を促すことによって、別の場所でシナプスの制御に活用している。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

アストロサイト

【シナプスの情報をアストロサイトが拾い上げ、「もうひとつの脳」の中のグリア回路網を通して流れ、別のアストロサイトからの神経伝達物質放出を促すことによって、別の場所でシナプスの制御に活用している。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

 「アストロサイトは、ニューロンのような様式で、遠くまで迅速に情報を送信する必要がないので、電気的インパルスを発火しないのだと、私たちは今では理解している。そのためアストロサイトは、電気的なコミュニケーションには手を出さないが、ニューロンの持つより興味深い第二の交信方法、すなわち神経伝達物質によるコミュニケーションを存分に活用し、そこに関与している。
 アストロサイトの活動は、脳の比較的大きな領域に及ぶので、シナプスへの影響も広範囲にわたるはずである。とはいえ、あるシナプスの情報が一個のアストロサイトによって拾い上げられて、「もうひとつの脳」のなかのグリア回路網を通して流れ、別のアストロサイトからの神経伝達物質放出を促すことによって、神経回路で直接結合していない遠くのシナプスにおけるニューロンのコミュニケーションを調節している可能性については、21世紀初頭に至るまで検証されていなかった。この仮説は、2005年にフィリップ・ヘイドンのグループによって証明された。彼らの研究により、アストロサイトは海馬のシナプス活動にカルシウム上昇によって応答するが、それが次に、発火した近傍のシナプスだけでなく、同じニューロンの遠く離れた別のシナプスでも伝達強度を調節していることが確認された。脳内の遠い場所を結んで、ニューロン回路の外側からシナプス伝達を調節しているアストロサイトはまさしく、制御装置にほかならなかった。「ニューロンの脳」の情報は、「もうひとつの脳」によって傍受され、「ニューロンの脳」の別の場所でシナプスの制御に活用されていたのだ。私たちの中にある二つの心がこうして出会うことで、「ニューロンの脳」だけでは実現できないどんな働きが可能になるのだろうか?
 離れたシナプスの強度を調節するこの現象(異シナプス性抑制として知られる)は、騒々しいレストランの中で会話を続けるときに、私たちの誰もが経験することによく似ている。食事相手の話をいつも以上に注意深く聴き取ると同時に、厨房からの雑音や周りで食事をしている人たちの間で交わされる会話は耳に入れないようにする。このような精神集中は、私たちを取り巻く環境の中で、すべての騒音から重要なシグナルを選別するためには不可欠である。これと同じことが、私たちの海馬でも起こっている。あなたが学習したいと望んでいる新しい情報を運んでくる入力のなされるシナプスは、長期増強によって強化される一方、注意をそらす邪魔な情報を別のシナプスから同じニューロンに伝えている入力は抑制されているのだ。おなたはおそらく、この抑制された背景情報を記憶していないだろう。」(中略)「アストロサイトが、周囲にあるシナプスを抑制して、私たちの記憶中枢に対する特定の入力を際立たせている細胞であることを知って、多くの人が衝撃を受けた。もしアストロサイトが、シナプスの集中調節という重要な働きができなくなったら、どうなるだろうか? それは学習や注意、さらには精神状態にどう影響するのか? アストロサイトが、独自のグリアネットワークを介した交信方法を用いて、シナプス強度を調節していると判明したことも、同じように驚きだった。このネットワークは、ニューロン間を配線でつないだ接続回線に拘束されることなく、神経ネットワークの外側で作動している。この携帯電話のようなアストロサイト網については、私たちは何も知らないも同然だ。このネットワークの境界は何なのか? それらは修正可能なのか――言い換えれば、アストロサイトは精神的経験に従って変化し、学習するのか? アストロサイトが実際に、学習においてネットワークの結合強度を変更していることを示す証拠が、新たな研究で得られ始めている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第14章 ニューロンを超えた記憶と脳の力,講談社(2018),pp.469-472,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:アストロサイト,グリア回路網,神経伝達物質)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)



(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

R・ダグラス・フィールズ(19xx-)
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