非注意性盲目
【白シャツチームと黒シャツチームのバスケットボールの試合で、白シャツチームのパスの回数を数える課題を与えられたビデオ視聴者は、30秒程度のこのビデオに登場するゴリラを検知できない。非注意性盲目という現象である。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))】非注意性盲目
(1)「見えないゴリラ」と呼ばれる実験
(a)一方のチームは白いTシャツを、他方は黒いTシャツを着ている。
(b)視聴者は、白いTシャツを着ているチームがしたパスの回数を数えるよう指示される。
(c)ビデオは30秒ほど続く。
(d)実験者は「ゴリラは見えましたか?」と訊く。
(e)実験結果:「もちろんそんなものは見ていない!」と視聴者は答える。
(f)実際のビデオの内容:ビデオをもう一度見せられると、確かにゴリラが登場することがわかる。途中で、着ぐるみのゴリラが現れ、あからさまに胸を何回か叩き、そして去っていくところが映っているのだ。
「ほとんどの二重課題の実験では、瞬きは数分の1秒しか続かない。実際、文字を記憶に登録するには、わずかな時間しかかからない。しかしより長期間注意をそらせる課題を行なった場合はどうだろう? 驚くべきことに、私たちは外界のできごとにまったく気づかなくなり得る。熱心な読書家、チェスプレイヤー、数学者は、知的な作業に没頭することで、環境に対するあらゆる気づきを失った心的隔離の状況が長期にわたって生じ得ることをよく心得ている。「非注意性盲目」と呼ばれるこの現象は、実験室でも簡単に作り出せる。」(中略)「もう一つよく知られた例を紹介しよう。それは、ダン・シモンズとクリストファー・チャブリスによって考案された「見えないゴリラ」と呼ばれる驚くべき実験だ。ビデオには、二つのチームがバスケットボールをしているところが映されている。一方のチームは白いTシャツを、他方は黒いTシャツを着ている。視聴者は、白いTシャツを着ているチームがしたパスの回数を数えるよう指示される。ビデオは30秒ほど続き、少し集中して見ていれば、ほぼ誰もが、パスの回数は15回であることがわかる。そして実験者は「ゴリラは見えましたか?」と訊く。「もちろんそんなものは見ていない!」と視聴者は答える。しかしビデオをもう一度見せられると、確かにゴリラが登場することがわかる。途中で、着ぐるみのゴリラが現れ、あからさまに胸を何回か叩き、そして去っていくところが映っているのだ。大多数の視聴者は、最初に見せられたときにはゴリラを見落とし、「ゴリラなどいなかった」と強く主張する。そう固く信じているために、二度目には違うビデオを見せられたと抗議する者すらいる。白いTシャツを着たプレイヤーに注意を集中することで、黒いゴリラは忘却の彼方に吹き飛ばされてしまったのである。
これは認知心理学では画期的な研究だ。同じ頃、研究者たちは非注意性盲目を引き起こす同様な状況を数多く見出している。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第1章 意識の実験,紀伊國屋書店(2015),pp.55-57,高橋洋(訳))
(索引:非注意性盲目)
(出典:wikipedia)
「160億年の進化を経て発達した皮質ニューロンのネットワークが提供する情報処理の豊かさは、現在の私たちの想像の範囲を超える。ニューロンの状態は、部分的に自律的な様態で絶えず変動しており、その人独自の内的世界を作り上げている。ニューロンは、同一の感覚入力が与えられても、その時の気分、目標、記憶などによって異なったあり方で反応する。また、意識の神経コードも脳ごとに異なる。私たちは皆、色、形状、動きなどに関して、神経コードの包括的な一覧を共有するが、それを実現する組織の詳細は、人によって異なる様態で脳を彫琢する、長い発達の過程を通じて築かれる。そしてその過程では、個々シナプスが選択されたり除去されたりしながら、その人独自のパーソナリティーが形成されていく。
遺伝的な規則、過去の記憶、偶然のできごとが交錯することで形作られる神経コードは、人によって、さらにはそれぞれの瞬間ごとに独自の様相を呈する。その状態の無限とも言える多様性は、環境に結びついていながら、それに支配はされていない内的表象の豊かな世界を生む。痛み、美、欲望、後悔などの主観的な感情は、この動的な光景のもとで、神経活動を通して得られた、一連の安定した状態のパターン(アトラクター)なのである。それは本質的に主観的だ。というのも、脳の動力学は、現在の入力を過去の記憶、未来の目標から成る布地へと織り込み、それを通して生の感覚入力に個人の経験の層を付与するからである。
それによって出現するのは、「想起された現在」、すなわち残存する記憶と未来の予測によって厚みを増し、常時一人称的な観点を外界に投影する、今ここについてのその人独自の暗号体系(サイファー)だ。これこそが、意識的な心の世界なのである。
この絶妙な生物機械は、あなたの脳の内部でたった今も作動している。本書を閉じて自己の存在を改めて見つめ直そうとしているこの瞬間にも、点火したニューロンの集合の活動が、文字通りあなたの心を作り上げるのだ。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第7章 意識の未来,紀伊國屋書店(2015),pp.367-368,高橋洋(訳))
(索引:)
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