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2022年3月19日土曜日

国民、社会、イデオロギーなど全体性なるものは、想像力の産物である。これらは、間違いなく社会的な力ではあるが、人間の思考にとって必要不可欠な道具に過ぎない。想像の全体性は、革命を大変動的な亀裂と捉えてしまうが、現実は想像物とは異なり常に混乱しており、断絶なども無い。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))

想像された全体性と現実

国民、社会、イデオロギーなど全体性なるものは、想像力の産物である。これらは、間違いなく社会的な力ではあるが、人間の思考にとって必要不可欠な道具に過ぎない。想像の全体性は、革命を大変動的な亀裂と捉えてしまうが、現実は想像物とは異なり常に混乱しており、きれいな断絶があるわけではない。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))


(a)想像力の産物としての全体性
 「全体性」なるものは、つねに想像力の産物である。 国民、社会、イデオロギー、閉じられた体系......、これらのどれもが、実際に存在するものでは ない。それらが存在するという信念は、間違いなく社会的な力である。だが現実は、つねにそ れより混乱している。
(b)革命は大変動的な亀裂なのか
 世界や社会を、すべての要素が、その他 との関係においてのみ意味を持つという全体化する体系として 定義する思考の癖は、ほとんど不可避的に革命というものを、大変動的な亀裂と捉えてしまう。
(c)現実は想像力を超えたもの
 実際、世界は、われわれの期待通りに進行する義務を負っていない。そして「現実」とい うものが何かを意味するならば、それは決して我々の想像的構築によって形成されること がないものだということである。


「実際、世界は、われわれの期待通りに進行する義務を負っていない。そして「現実」とい うものが何かを意味するならば、それは決してわれわれの想像的構築によって形成されること がないものだということである。ことに「全体性」なるものは、つねに想像力の産物である。 国民、社会、イデオロギー、閉じられた体系......、これらのどれもが、実際に存在するものでは ない。それらが存在するという信念は、間違いなく社会的な力である。だが現実は、つねにそ れより混乱している。ひとつ確かなことは、世界や社会を(そこではすべての要素が、その他 との関係においてのみ意味を持つという)「全体化する体系(totalizing system)として 定義する思考の癖は、ほとんど不可避的に革命というものを、大変動的な亀裂 (cataclysmic rupture)と捉えてしまう、ということだ。というのも、それ以外一体どん な経路で、全体化する体系がまったく異なったものに取り代わりうるだろう? そこで人類史 は革命の連続となる。新石器時代革命、産業革命、情報革命......等々、そして政治的な夢は、こ の過程を管理することとなる。われわれ自身が、ある一定の集合的意志によって、断絶を、こ の強大な飛躍を生起させることができるようになること――つまり「革命」である。そう考えると、ラディカルな思想家たちが、この夢を放棄せねばならないと感じる瞬間、彼 らの最初の反応は何だろう? まずともかく革命は起こり続けているとみなすために努力を倍 増することである。たとえばポール・ヴィリリオのような人物にとって「断絶」はわれわれの 永遠の存在様態となる。またジャン・ボードリヤールのような人にとっては、彼が新しいアイ デアを案出し続けられる限りは、世界は二、三年に一度、完全に入れ替わってしまうのであ る。  ここで私が試みていることは(そんなことは可能だとは思えないが)「想像の全体性()」 に対するあけすけの反対表明ではない。それはおそらく人間の思考にとって必要不可欠な道具 なのだ。むしろそれが単なる思考の道具であること、これを忘れないことの重要性を主張した い。たとえば以下のような疑問を投げかけることができるのはいいことだろう。「革命の後 で、われわれはいったいどのように大衆交通機関を組織するのか?」「誰が科学的探究に資金 提供するのか?」あるいは「革命の後でも、ファッション雑誌はありうるだろうか?」等々。 このような言い種は、発想の転換にとって有効な、いわば「精神的蝶番」となりうる。しかし それでも現実には、何万人もの人間を殺す覚悟がない限り(あるいはそれでもなお)革命とは 上記の言い種が示唆するような、綺麗な断絶とはなりえない、ということをわれわれは認識し ている。」
(デヴィッド・グレーバー(1961-2020),『アナーキスト人類学のための断章』,壁を破壊する こと,pp.91-92,以文社(2006),高祖岩三郎(訳))

アナーキスト人類学のための断章 [ デヴィッド・グレーバー ]



デヴィッド・グレーバー
(1961-2020)







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