2020年6月16日火曜日

無意識の信号検出、精神機能、ニューロン活動が存在し、持続時間が500ms以上で意識化されるとする仮説は、知覚や認知の変容現象を解明する可能性を与える。変容には、その人独自の経験、歴史、情動が反映される。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識内容の変容

【無意識の信号検出、精神機能、ニューロン活動が存在し、持続時間が500ms以上で意識化されるとする仮説は、知覚や認知の変容現象を解明する可能性を与える。変容には、その人独自の経験、歴史、情動が反映される。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

 「(12) 意識経験内容の変容は重要なプロセスであると、心理学と精神医学の立場から認められています。提示された実際の視覚イメージと《異なる》経験を被験者が報告した場合に、これは最も直接的に立証可能です。女性のヌードで感情的に動揺する人は、実際に提示されたヌード写真とは異なるものを見たと報告するでしょう。(ある有名なスウェーデンの神経学者は、この特定の例を被験者に試したことがあるかと質問されました。彼は、「スウェーデンでは、ヌード写真は心理的に動揺を与えるものにはならない」と答えました。)経験内容の変更は、意識的な歪曲といったものではないようです。被験者は、自分がイメージを歪めていることに気づいていないし、そのプロセスも無意識のものであるようです。
 言うまでもなくフロイトも、人の意識経験と言葉での表現の間にある情動の葛藤に、無意識が与える効果について、この変容現象を彼の考えに活用しています(シェヴリン(1973年)参照)。タイム-オン理論によって、ある経験内容についての無意識の変容が起こりうる、生理学的な余地が生じます。提示されたイメージの主観的な内容の変化に影響を与えるには、刺激の後に一定の時間が必要になります。感覚イメージをただちに意識できるとすると、意識的なイメージを無意識に変容できる機会はなくなります。意識を伴う感覚アウェアネスが現れるまでの時間感覚の間に、脳のパターンがイメージを検出し、意識経験が現れる前に内容を修正する活動が生じることによって、反応することができるのです。
 感覚事象のアウェアネスを引き出すには、相当な長さの時間のニューロン活動(500ミリ秒間のタイム-オン=持続時間)が事実上必要であることを、私たちの証拠は示しています。その遅延によって、シンプルかつ十分な生理学上の余地が生じ、経験内容のアウェアネスが現れる前に無意識の脳のパターンを変更することができるのです! 確かに、感覚的なアウェアネスについての、時間的に逆行する主観的な遡及という実験現象において、主観的な経験のある種の変容、歪曲についての比較的直接的な証拠が示されました。遅延した経験は、あたかも遅延などまったくないかのように主観的に時間づけられます。また、私たちの実験でさらに明らかになった発見によると、皮膚刺激の後に約500ミリ秒間ほど遅れて《遅延皮質刺激》が続く場合、皮膚刺激の主観的な経験は、実際よりも明らかに《強い》ものとして報告されることがあることが示されました(第2章参照)これが、感覚経験が最終的にアウェアネスに再現する時間の長さ(500ミリ秒間)が、アウェアネスに到達する前に経験内容を変更するのに使われることの直接的な証拠です。
 進展中の経験に対するどのような変容や修正であっても、そのことに関わっている人物に特有のものです。それは、その人物のこれまでの歴史や経験、そして彼を形成している情動や品性を反映したものでしょう。しかし、変容は無意識に行なわれるのです! したがって、ある人物の独特の性質というのは、その無意識プロセスにおいておのずから現れるものである、と言うこともできます。このことは、ジグムント・フロイトや、多くの臨床精神医学あ心理学からの提案と一致しています。
 したがて、比較的シンプルな、アウェアネスを生み出すためのニューロンの時間的必要条件(タイム-オン要因)についての発見が、さまざまな無意識的および意識的精神機能が作用する仕組みについての私たちの考えに対して、どれほど奥深い影響力を持ち得るかが、このことからもわかります。これらのニューロンレベルの時間要因は、脳のプロセスについての予備知識に基づく思弁的な仮説ではなく、脳がどのように意識経験を処理するかについての直接的な実験によってしか発見し得なかったことを心に留めることが、最も大切です。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第3章 無意識的/意識的な精神機能,岩波書店(2005),pp.140-142,下條信輔(訳))
(索引:意識内容の変容)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

ベンジャミン・リベット(1916-2007)
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無意識の精神機能が、持続時間500ms以上で意識化されるとする仮説は、意識と無意識が脳の同一領域で生ずることを示唆する。ただし、機能が複数の段階、複数の脳の領域と関係する場合は、事情はもっと複雑である。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識と無意識

【無意識の精神機能が、持続時間500ms以上で意識化されるとする仮説は、意識と無意識が脳の同一領域で生ずることを示唆する。ただし、機能が複数の段階、複数の脳の領域と関係する場合は、事情はもっと複雑である。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

 「(11) それでは、無意識と意識機能は、脳のどの部分において発生するのでしょうか? これら二つの異なる側面を持つ精神機能に、それぞれ個別の場所があるのでしょうか? タイム-オン理論は、無意識および意識機能はどちらも《同じ脳の領域》の同じニューロン群によって、媒介されていることを示唆しています。もし、二つの機能間の移行が単に、アウェアネスを生み出す類似した神経細胞活動の長い持続時間によって生じるのであるならば、それぞれについて異なるニューロンの存在を仮定する必要はなくなります。当然、脳活動は一つ以上の段階または領域が意識的な精神プロセスの媒介に関与しているため、こうした領域のうちあるものは、無意識機能の場合には異なる可能性があります。このような場合には、タイム-オン(持続時間)制御のある単独の領域が、無意識と意識機能の識別を示す唯一のものにはならないでしょう。しかしそれでもなお、タイム-オン(持続時間)の特性は依然として、脳のなかのどの領域にあろうと作動し、識別するための制御因子となり得るのです。
 盲視現象(ワイスクランツ(1986年)参照)によって、意識と無意識機能にはそれぞれ独立した経路と脳構造がある可能性が提示されました。大脳皮質の一次活性領域に損傷のある人間の患者は盲目です。つまり破壊された領域には、通常なら存在する、意識を伴う外部視野がないのです。それでもなお、このような患者は、ただ強制選択すればよいと言われた場合には、正しく視覚野にある物体を指し示すことができるのです。この場合、被験者はその物体を見た自覚がないと報告します。
 無意識の盲視行為は、意識を伴う視覚の脳内のネットワーク領域(一次視覚野はその必要不可欠な一部ですが)とは違う場所で起こります。しかし、別の説では、一次視覚皮質の外部にある構造のどこか、たとえば二次視覚野のどこかに、意識・無意識両方の視覚機能が「宿っている」とします。すると、一次視覚野の機能というのは、この二次視覚野への入力を反復的に発火して与えるということになり、その結果その領域(二次視覚野)での発火の持続時間が増加し、視覚反応にアウェアネスが加わるということになります。その場合、一次視覚野が機能していなければ、その効果は発揮されません。
 では、一次視覚野(V1)がなくても人は自覚のある知覚を持てるのでしょうか? バーバー他(1993年)は彼の非常に興味深い研究の中で、これが可能であることを主張しました。彼らは、交通事故による損傷によって、V1領域を完全に失った患者を研究しました。この患者は、破壊されたV1領域に対応する半視野が、典型的な失明を示していました。それにもかかわらず、「彼は視覚刺激の動きの方向を弁別することができました。また彼は、視覚刺激の性質と動きの検出両方について自覚があったことも、口頭での報告によって示しました。」
 いずれによ、「V1がなくても意識を伴った視覚の知覚は可能である」というバーバーらによる結論は、私たちのタイム-オン理論を排除しません。視覚刺激に反応すると活動の増加を示すV5の領域は、十分に長い活動の持続時間の恩恵をこうむると、視覚の《アウェアネス》を生み出すことができるのかもしれません。実際、バーバーら(1993年)は、なかり長い時間の間、視覚刺激を反復的に加えていました。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第3章 無意識的/意識的な精神機能,岩波書店(2005),pp.138-140,下條信輔(訳))
(索引:)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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無意識の精神機能が、持続時間500ms以上で意識化されるとする仮説は、意識されない刺激、知覚でも、意識的な知覚、選択、行為に影響を与え得ることを示唆する。(サブリミナル効果、プライミング)(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

サブリミナル効果

【無意識の精神機能が、持続時間500ms以上で意識化されるとする仮説は、意識されない刺激、知覚でも、意識的な知覚、選択、行為に影響を与え得ることを示唆する。(サブリミナル効果、プライミング)(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

サブリミナル知覚
 (1)意識的でない知覚
  サブリミナル(閾下)の刺激に対して意識的な自覚が本人にない場合でも、そのサブリミナル刺激を無意識に知覚できる可能性がある。
 (2)普通の自然な感覚における意識できな知覚
  サブリミナルとアウェアネスを生み出す閾値上の感覚刺激の強さ、持続時間などの違いが通常小さいので、普通な自然の感覚刺激が使われる場合、立証するのはより難しくなる。
 (3)実験で確認されたもの
  意識を伴うアウェアネスにまでは到達しないような刺激が提示された後で、テスト時に加えられたさまざまな操作において、サブリミナル刺激の影響が現れる。
  (a)事例
   図や言葉を視覚的に提示した時間が1~2msのため、被験者はその内容にまったく気づかないにもかかわらず、言語連想法のテストにおける被験者の反応の選択に影響を与えた。
  (b)プライミング
   閾値より下であっても上であっても、すなわち見えたという自覚がなくてもあっても、図や言葉が先に提示されていると、その刺激または関連刺激への活性化が高まり、処理されやすくなる、あるいは選ばれやすくなる効果がある。

 「(10) サブリミナル知覚、つまりサブリミナル(閾下)の刺激に対して意識的な自覚が本人にない場合でも、そのサブリミナル刺激を無意識に知覚できる可能性が明らかにあります。このことについての直接的な証拠が、私たちのタイム-オン理論の実験的検証(この章の冒頭での議論を参照)に現われていました。サブリミナル知覚は、普通な自然の感覚刺激が使われる場合、立証するのがより難しくなります。これは、サブリミナルと(アウェアネスを生み出す)閾値上の感覚刺激の(強さ、持続時間などの)違いが通常小さいことからきています。しかし、かなり多くの間接的な証拠が、サブリミナル知覚の存在をサポートしています。これらの証拠は主に、意識を伴うアウェアネスにまでは到達しないような刺激が提示された後で、テスト時に加えられたさまざまな操作から得られたものです。こうした刺激提示後のテストでの被験者の反応には、単独ではアウェアネスを生み出さない、以前のサブリミナル刺激の影響が現れているのです。ハワード・シェヴリン(1973年)が行った初期の研究では、図や言葉を視覚的に提示した時間が非常に短かった(1~2ミリ秒間)ため、被験者はその内容にまったく気づきませんでした。しかし、その後の検査によって、これらの識閾外の内容は言語連想法のテストにおける被験者の反応の選択に影響を与えていたことがわかりましたが、被験者はこれらの影響い気づかないままでした。テストを受けた被験者ののちの反応が、識閾外の言葉の刺激によって「プライムされる」(すなわち促進される)のです。[訳注=閾値より下であっても上であっても、すなわち見えたという自覚がなくてもあっても、図や言葉が先に提示されていると、その刺激または関連刺激への活性化が高まり、処理されやすくなる、あるいは選ばれやすくなる効果を指して「プライミング」という。これは視覚に限らず、聴覚などでも生じることが知られている。]」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第3章 無意識的/意識的な精神機能,岩波書店(2005),pp.137-138,下條信輔(訳))
(索引:サブリミナル効果,プライミング)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
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