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2019年11月2日土曜日

前文に規定された平和的生存権と第9条は、具体的な安全保障政策や外交政策など、多数派による多様な政治的決定の許容限界を定める、国民の生命、自由、財産を守るための基底的権利を規定している。(伊藤真(1958-)

平和的生存権と第9条

【前文に規定された平和的生存権と第9条は、具体的な安全保障政策や外交政策など、多数派による多様な政治的決定の許容限界を定める、国民の生命、自由、財産を守るための基底的権利を規定している。(伊藤真(1958-)】

 本件訴訟は、新安保法制法の安全保障政策上の当否の判断を裁判所に求めているのではない。あくまでも、新安保法制法が、憲法が許容している枠組みを逸脱しているか否かの判断を求めている。
(1)安全保障政策の当不当の判断
 (a)安全保障政策に関する国民の意思は多様である。
 (b)具体的な安全保障政策の実現や、外交交渉の内容などは政治部門の判断に委ねられている。
(2)多数派による政治的決定への制限
 (a)安全保障政策における判断の誤りは国民の生命、自由、財産に甚大な損害を与え、取り返しのつかない結果を招来することになる。
 (b)従って憲法は、こうした国家の安全保障政策に対して、憲法9条、前文の平和的生存権などの規定によって、多数派による政治的決定に制限を加えている。

「平成27年再婚禁止期間違憲判決では、まず民法733条1項の憲法適合性を判断した上で、当該立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無についての判断枠組みを提示してあてはめをし、国家賠償法上の違法の評価を受けるものではないとして請求を棄却しており、原告の損害については一切検討していない。このように最高裁も法規の憲法適合性の判断を先行させている。
 本事案もこれと同様に、新安保法制法の違憲性について先行させて判断をするべき事案である。
 安全保障政策における判断の誤りは国民の生命、自由、財産に甚大な損害を与え、取り返しのつかない結果を招来することになる。だからこそ、憲法は、こうした国家の安全保障政策に対して、憲法9条、前文の平和的生存権などの規定によって、多数派による政治的決定に制限を加えたのである。
 安全保障政策に関する国民の意思は多様である。具体的な安全保障政策の実現や外交交渉の内容などは政治部門の判断に委ねられているとしても、内閣、国会が最低限遵守しなければならない大きな枠組みは憲法によって規定されている。政策の当不当の判断ではなく、こうした大きな枠組みを逸脱した立法か否かの判断こそは司法の役割である。
 本件訴訟は、新安保法制法の安全保障政策上の当否の判断を裁判所に求めているのではない。あくまでも、新安保法制法が、憲法が許容している枠組みを逸脱しているか否かの判断を求めているだけである。にもかかわらず、この問題を政治の場で解決するべき問題であるとして、政治部門にその判断をゆだねてしまい、裁判所が憲法判断を避けることは決して許されることではない。」
(出典:国家賠償請求訴訟 平成28年(ワ)13525号 2017年3月3日 第3回 口頭弁論 報告会資料(意見陳述全文掲載)裁判資料・国家賠償請求訴訟安保法制違憲訴訟の会
(索引:平和的生存権,日本国憲法第9条,安保法制)

(出典:安保法制違憲訴訟の会
安保法制違憲訴訟の会(2016-)(Collection of propositions of great philosophers)
安保法制違憲訴訟の会(2016-)
安保法制違憲訴訟の会
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平和的生存権は、第13条をはじめ憲法第3章に規定される基本的人権の基礎にあって、これら権利の享有を可能ならしめる基底的権利であり、第9条を中核規定として、全ての個別的権利と不可分に結びついた具体的権利である。(黒岩哲彦(1953-))

平和的生存権の権利性・被侵害利益性

【平和的生存権は、第13条をはじめ憲法第3章に規定される基本的人権の基礎にあって、これら権利の享有を可能ならしめる基底的権利であり、第9条を中核規定として、全ての個別的権利と不可分に結びついた具体的権利である。(黒岩哲彦(1953-))】

(1)現代において、憲法の保障する基本的人権が平和の基盤なしには存立し得ない。従って、平和的生存権は、全ての基本的人権の基礎にあって、その享有を可能ならしめる基底的権利と言える。(自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋高裁判決(青山判決))
 理由。
 (1.1)法規範性を有するというべき憲法前文が、『平和のうちに生存する権利』を明言している。
 (1.2)憲法9条が、国の行為の側から客観的制度として、戦争放棄や戦力不保持を規定している。
 (1.3)人格権を規定する憲法13条をはじめ、憲法第3章が個別的な基本的人権を規定している。
(2)従って、「この平和的生存権は、局面に応じて自由権的、社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ、裁判所に対して保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合がある」。

「―平和的生存権の権利性・被侵害利益性―
1 原告らは、新安保法制法によって侵害される原告らの権利・法的利益として、第1に平和的生存権を主張するものであるが、これに対し、被告は、答弁書において、原告ら主張の被侵害利益は、いずれも具体的な法的利益ではなく、国家賠償法上保護された権利ないし法的利益の侵害をいうものでもないから、主張自体失当であると主張している。そこで、本準備書面では、平和的生存権の権利性・被侵害利益性について主張を補充するものである。
 平和的生存権は、平和のための世界的な努力(平和的生存権の根拠1)、憲法前文、9条、13条をはじめとする第3章の諸条項の憲法の規定(平和的生存権の根拠2)、憲法学説の研究の成果と裁判例(平和的生存権の根拠3)、和を守るための動き(平和的生存権の根拠4)により、平和的生存権の具体的権利性・裁判規範性は認められる。
2 平和的生存権を認めた主要な裁判例は、①長沼訴訟(福島判決)、②自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋地裁判決(田近判決)、③自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋高裁判決(青山判決)、④自衛隊イラク派遣違憲確認等請求事件の岡山地裁判決(近下判決)がある。
 自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋高裁判決(青山判決)は、平和的生存権について、「このような平和的生存権は、現代において憲法の保障する基本的人権が平和の基盤なしには存立し得ないことからして、全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であるということができ、単に憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない。法規範性を有するというべき憲法前文が上記のとおり『平和のうちに生存する権利』を明言している上に、憲法9条が国の行為の側から客観的制度として戦争放棄や戦力不保持を規定し、さらに、人格権を規定する憲法13条をはじめ、憲法第3章が個別的な基本的人権を規定していることからすれば、平和的生存権は、憲法上の法的な権利として認められるべきである。そして、この平和的生存権は、局面に応じて自由権的、社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ、裁判所に対して保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合がある」としている。
 なお、1990年代初頭に湾岸戦争における多国籍軍への戦費支出・自衛隊掃海艇の派遣等の違憲を主張する「市民平和訴訟」についての1996(平成8)年5月10日東京地裁判決が、「いまだ主権国家間、民族、地域間の対立による武力紛争が地上から除去されていない国際社会において、全世界の国民の平和のうちに生存する権利を確保するため、政府は、憲法九条の命ずるところに従い、平和を維持するよう努め、国民の基本的人権を侵害抑圧する事態を生じさせることのないように努めるべき憲法上の責務を負うものということができ、この責務に反した結果、基本的人権について違法な侵害抑圧が具体的に生じるときは、この基本的人権の侵害を理由として裁判所に対して権利救済を求めることは可能といえよう。」と判示した点は、平和的生存権を考える上でも軽視すべきでない。」
(出典:国家賠償請求訴訟 平成28年(ワ)13525号 2016年12月2日 第2回 口頭弁論 報告会資料(意見陳述全文掲載)裁判資料・国家賠償請求訴訟安保法制違憲訴訟の会
(索引:日本国憲法第9条,日本国憲法第13条,平和的生存権,基本的人権の基底的権利,基底的権利)

(出典:安保法制違憲訴訟の会
安保法制違憲訴訟の会(2016-)(Collection of propositions of great philosophers)
安保法制違憲訴訟の会(2016-)
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人間の尊厳を蹂躙し悲惨を極めた過去の戦争体験者にとって、平和のうちに生きる権利は、人格と一体化し、その核心部分を構成する。国際平和を実現する制度的裏づけである憲法第9条の改変は、人格に対する具体的な危害となっており、平和的生存権を侵害する。(平成28年(ワ)13525号 国家賠償請求事件 2016年4月26日 訴状)

平和的生存権

【人間の尊厳を蹂躙し悲惨を極めた過去の戦争体験者にとって、平和のうちに生きる権利は、人格と一体化し、その核心部分を構成する。国際平和を実現する制度的裏づけである憲法第9条の改変は、人格に対する具体的な危害となっており、平和的生存権を侵害する。(平成28年(ワ)13525号 国家賠償請求事件 2016年4月26日 訴状)】
「ウ 平和的生存権の侵害  原告らは、このような集団的自衛権の行使又は後方支援活動等の実施を容認した新安保法制法の提出に係る内閣の行為及び国会の議決によって、上記のような平和的生存権を侵害されました。すなわち、原告らは、日本人310万人、世界では5200万人の死者を生じた第二次世界大戦など悲惨を極めた過去の戦争の結果、そこでの人間の尊厳の蹂躙、生存者にも残る癒えない傷痕など、政府の行為によって再びかかる戦争の惨禍が起こることのないことを心から希求し、憲法前文及び9条に基づいて、戦争を放棄して戦力を持たず、武力を行使することのない平和国家日本の下で平和のうちに生きる権利を有しています。とりわけ、原告らのうち戦争の体験を有する者、例えば空襲被害者、原爆被害者等の戦争被害者は、戦火の中を逃げまどい、生命の危険にさらされ、家族を失う等の極限的な状況に置かれ、心身に対する深い侵襲を受けて、二度と戦争による被害や加害があってはならないことを身をもって痛感し、その体験を戦後70年間背負って生きてきた者です。平和憲法、なかんずく9条の規定は、その痛苦の体験の代償として得られたかけがえのないものであり、平和のうちに生きる権利は、これら原告の人格と一体となって、その核心部分を構成しています。
 このような平和的生存権は、戦争の被害者となることを拒否するばかりでなく、他国に対する軍事的手段による加害行為に加担することなく、みずからの平和的確信に基づいて生きる権利等を包含するものであります。
 ところが、新安保法制法の制定は、このような原告らの平和的生存権を蹂躙し、侵害するものです。集団的自衛権の行使や後方支援活動等の実施は、日本が自ら他国の攻撃に加担し、武力の行使や兵站活動等を行って、他国の国土を破壊し、その国民・市民を死傷させるものであるとともに、戦争の当事国となった日本は、当然に、敵対国から国土に攻撃を受け、あるいはテロリズムの対象となることを覚悟しなければならないのであり、原告らを含む日本の国民・市民の全部が、戦争体制に突入し、その犠牲を覚悟しなければならないことになります。このようなものとしての集団的自衛権の行使等を容認する新安保法制法の制定は、日本が実際に戦争に突入した場合はもちろんであるが、それに至らない段階においても、その具体的危険を生ぜしめるものとして、原告ら国民・市民の平和的生存権を侵害するものであります。」
(出典:国家賠償請求訴訟 平成28年(ワ)13525号 2016年4月26日 訴状裁判資料・国家賠償請求訴訟安保法制違憲訴訟の会
目 次 ※印は、上記引用文の記載箇所を示す。
4 原告らの権利、利益の侵害(概論)
※(1) 平和的生存権の侵害
(2) 人格権侵害
(3) 憲法改正・決定権侵害
(索引:平和的生存権,日本国憲法第9条,戦争体験者)

(出典:安保法制違憲訴訟の会
安保法制違憲訴訟の会(2016-)(Collection of propositions of great philosophers)
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基本的人権と個人の尊厳を保障するためには、国際平和の実現が基本的な前提条件であり、日本国憲法は第9条によって、その制度的な裏づけを与えた。従って、平和的生存権は具体的な法規範性を有する。(平成28年(ワ)13525号 国家賠償請求事件 2016年4月26日 訴状)

平和的生存権の具体的権利性

【基本的人権と個人の尊厳を保障するためには、国際平和の実現が基本的な前提条件であり、日本国憲法は第9条によって、その制度的な裏づけを与えた。従って、平和的生存権は具体的な法規範性を有する。(平成28年(ワ)13525号 国家賠償請求事件 2016年4月26日 訴状)】
「ア 平和的生存権の具体的権利性
 日本国憲法前文は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」、また、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と規定しています。
 平和は、国民・市民が基本的人権を保障され、人間の尊厳に値する生活を営む基本的な前提条件であり、日本国憲法は、全世界の国民・市民が有する「平和のうちに生存する権利」を確認することに基づいて国際平和を実現し、その中で基本的人権と個人の尊厳を保障しようとしました。したがって、平和のうちに生存する権利は、全ての基本的人権の基礎にあって、その享有を可能ならしめる基底的権利であり、単に憲法の基本的精神や理念を表明したにとどまるものではなく、法規範性を有するものと解されるべきものです。この平和的生存権の具体的権利性は、また、包括的な人権を保障する憲法13条の規定によってその内容をなすものとして根拠づけられるととともに、憲法9条の平和条項によって制度的な裏付けを与えられています。
 とりわけ、憲法9条に反する国の行為によって、国民・市民の生命、自由等が侵害され、又はその危険にさらされ、あるいは国民・市民が憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強いられるような場合(前記2の(2)ないし(4)に掲げた「各事態においてとられる措置と国民の権利制限・義務等」参照)、これに対する救済を求める法的根拠として、平和的生存権の具体的権利性が認められなければなりません(前記名古屋高裁平成20年4月17日判決参照)。」
(出典:国家賠償請求訴訟 平成28年(ワ)13525号 2016年4月26日 訴状裁判資料・国家賠償請求訴訟安保法制違憲訴訟の会
目 次 ※印は、上記引用文の記載箇所を示す。
4 原告らの権利、利益の侵害(概論)
※(1) 平和的生存権の侵害
(2) 人格権侵害
(3) 憲法改正・決定権侵害
(索引:平和的生存権,日本国憲法第9条,平和的生存権の具体的権利性)

(出典:安保法制違憲訴訟の会
安保法制違憲訴訟の会(2016-)(Collection of propositions of great philosophers)
安保法制違憲訴訟の会(2016-)
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