平和的生存権と第9条
【前文に規定された平和的生存権と第9条は、具体的な安全保障政策や外交政策など、多数派による多様な政治的決定の許容限界を定める、国民の生命、自由、財産を守るための基底的権利を規定している。(伊藤真(1958-)】本件訴訟は、新安保法制法の安全保障政策上の当否の判断を裁判所に求めているのではない。あくまでも、新安保法制法が、憲法が許容している枠組みを逸脱しているか否かの判断を求めている。
(1)安全保障政策の当不当の判断
(a)安全保障政策に関する国民の意思は多様である。
(b)具体的な安全保障政策の実現や、外交交渉の内容などは政治部門の判断に委ねられている。
(2)多数派による政治的決定への制限
(a)安全保障政策における判断の誤りは国民の生命、自由、財産に甚大な損害を与え、取り返しのつかない結果を招来することになる。
(b)従って憲法は、こうした国家の安全保障政策に対して、憲法9条、前文の平和的生存権などの規定によって、多数派による政治的決定に制限を加えている。
「平成27年再婚禁止期間違憲判決では、まず民法733条1項の憲法適合性を判断した上で、当該立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無についての判断枠組みを提示してあてはめをし、国家賠償法上の違法の評価を受けるものではないとして請求を棄却しており、原告の損害については一切検討していない。このように最高裁も法規の憲法適合性の判断を先行させている。
本事案もこれと同様に、新安保法制法の違憲性について先行させて判断をするべき事案である。
安全保障政策における判断の誤りは国民の生命、自由、財産に甚大な損害を与え、取り返しのつかない結果を招来することになる。だからこそ、憲法は、こうした国家の安全保障政策に対して、憲法9条、前文の平和的生存権などの規定によって、多数派による政治的決定に制限を加えたのである。
安全保障政策に関する国民の意思は多様である。具体的な安全保障政策の実現や外交交渉の内容などは政治部門の判断に委ねられているとしても、内閣、国会が最低限遵守しなければならない大きな枠組みは憲法によって規定されている。政策の当不当の判断ではなく、こうした大きな枠組みを逸脱した立法か否かの判断こそは司法の役割である。
本件訴訟は、新安保法制法の安全保障政策上の当否の判断を裁判所に求めているのではない。あくまでも、新安保法制法が、憲法が許容している枠組みを逸脱しているか否かの判断を求めているだけである。にもかかわらず、この問題を政治の場で解決するべき問題であるとして、政治部門にその判断をゆだねてしまい、裁判所が憲法判断を避けることは決して許されることではない。」
(出典:国家賠償請求訴訟 平成28年(ワ)13525号 2017年3月3日 第3回 口頭弁論 報告会資料(意見陳述全文掲載)<裁判資料・国家賠償請求訴訟<安保法制違憲訴訟の会)
(索引:平和的生存権,日本国憲法第9条,安保法制)
(出典:安保法制違憲訴訟の会)
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