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2021年11月9日火曜日

感情や意識を備え た複雑な心は、知性と言葉の発展を導き、生体の外部からホメオスタシスの動的な調節を行う 新たな道具を生んだ。様々な文化的構築物である。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

文化的構築物

感情や意識を備え た複雑な心は、知性と言葉の発展を導き、生体の外部からホメオスタシスの動的な調節を行う 新たな道具を生んだ。様々な文化的構築物である。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

「生命を律する魔法のようなホメオスタシスの規則には、とぐろを巻くように、その瞬間の 生存を確保するための指示が詰め込まれていた。代謝の調整、細胞構成要素の修理、集団にお ける行動規範、バランスのとれたホメオスタシスの状態からの正もしくは負の逸脱を、適切な 処置を講じるべく測定するための基準などである。しかしそれらの規則は、未来に敢然と飛び 込むにあたり、より複雑で堅固な構造によって将来の安全性を確保しようとする傾向を持って いた。この傾向は、無数の連携、さらには突然変異、自然選択をもたらす激しい競争を介して 実現された。初期の生命は、感情と意識を吹き込まれ、自らが構築した文化を通じて豊かに なった人間の心に今日見出される、以後のさまざまな発展を予示していた。感情や意識を備え た複雑な心は、知性と言葉の発展を導き、生体の外部からホメオスタシスの動的な調節を行う 新たな道具を生んだ。この新たな道具の目的は、初期の生命に課された、生存のみならず繁栄 を目指せとする規則と現在でも調和している。

 ならば、この尋常ならざる発展の結果が、気まぐれとまでは言わないまでも一貫性を欠いて いるのはなぜだろうか? なぜ人類の歴史は、かくも多くのホメオスタシスからの逸脱や苦 しみにまみれているのか? これらの問いはのちの章で詳しく検討するが、とりあえずここで は、文化的な道具は、個体、あるいは核家族や部族などの小集団のホメオスタシス維持に関連 して最初に発達したのだと述べるに留めておく。そこでは、より大規模な集団への拡張は考慮 されていなかったし、そもそも考慮など不可能だった。より大規模な人間の集団では、文化的 集団、国、さらには地政学的圏域でさえ、たった一つのホメオスタシスに服する、より巨大な 有機体を構成する複数の部位としてではなく、おのおのが個々の有機体として機能することが 多い。そして各有機体は、独自のホメオスタシスのコントロールを用いて《自組織の》利益を 守る。文化的なホメオスタシスは、未完成品であり、逆境の時期に何度も損なわれてきた。あ えていえば、文化的なホメオスタシスの成功は、さまざまな調節目標を互いに調和させようと する文明の、はかない努力に依存する。F・スコット・フィッツジェラルドの「だから私たち は、つねに過去へ戻されながらも、流れに逆らってボートを懸命に漕ぎ続ける」という言葉に よって示される静かなあがきが、人間の本性をとらえた、もっとも妥当な先見の明に満ちた表 現であり続けているのだ。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-),『進化の意外な順序』,第1部 生命活動とその調節(ホメ オスタシス),第1章 人間の本性,pp.45-46,白揚社(2019),高橋洋(訳)

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「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織と いった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたか のいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物 を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現 を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な 自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自 己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二 に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもて ない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しか し、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学な どからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必 要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分 野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新し い種類の研究だ。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感 情の脳科学 よみがえるスピノザ』)4 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社 (2005)、田中三彦())

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