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2020年7月29日水曜日

信念を行為者に帰属させるとき活動する脳部位が、道徳判断時にも活性化する。道徳判断の基盤となる表象は(a)危害が生じる結果についての表象と、(b)その危害を生じさせた行為者の信念と意図についての表象とから構成されるようである。(リアン・ヤング)

道徳的判断の神経基盤

【信念を行為者に帰属させるとき活動する脳部位が、道徳判断時にも活性化する。道徳判断の基盤となる表象は(a)危害が生じる結果についての表象と、(b)その危害を生じさせた行為者の信念と意図についての表象とから構成されるようである。(リアン・ヤング)】

(出典:moralitylab.bc.edu
Liane-Young の命題集(Propositions of great philosophers)
 「最近のあるハーバード大学の心理学者のチームによると、「ここで発達しているのは『心の理論』つまり他人の心理状態を表象する能力だけではなく、この情報を道徳判断の文脈での帰結に関する情報と統合する能力である」(Young et al.2007:8235)。発達中の子どもにとって、正と不正は単に起こったこと以上のものになり始める。それは、人々がそれを起こそうと《意図している》ことと結びつき始めるのだ。
 この同じ心理学者のチームは、これらの結果に裏づけを与えるために、脳の中を観察することにした。信念帰属において作用している脳のシステムは、道徳判断《においても》作用しているのだろうか、と彼らは問うた。脳についてのそれぞれ独立した諸研究が、右側頭頭頂連結部(PTPJ)が他人の心の状態についての評価を下すことに重要な仕方で関与している、ということを明らかにしている。人がある行為を正しいとか不正だとか判断したときにもまた、PTPJは活性化していたのだろうか。明らかにそうであった。誰かが(スミスがそうしたように)いかなる危害も生じさせなかったが危害を生じさせることを《意図していた》という場合には、被験者の判断は「厳しいものであり、[行為者の]信念のみに基づいて下され、そして信念帰属に関わる回路促進に結びついていた」。危害が意図されたものでなかった場合は、被験者は同じパターンの脳活動を示さなかった。著者はこう結論づけている。「それゆえ、道徳判断は二つの別個の、時に競合するプロセスの産物を示しているのかもしれない。一つは危害が生じる結果についての表象を引き起こすプロセスであり、もう一つは信念と意図についての表象を引き起こすプロセスである」(Young et al.2007:8239)。
 これは、ここまで展開されてきた大まかな見取り図に沿うものである。非常に幼い年齢から、子どもたちは他人の感情(特に苦悩に関連した感情)に同調する。実際、脳はこの能力に不可欠なシステムを内包しているように思われる。なぜなら、それらのシステムがうまく機能しないとき、我々は(いわば)《水準以下》の道徳的行動を観察するからである。しかし成熟した道徳判断は、単に他者の苦悩を認識するだけに留まらないものである。道徳的問題の肝心な要素は、視点の獲得だと思われる。実際、哲学者のジョナソン・デイによれば、正と不正の十分な把握には《成熟した共感》が必要であり、その際この成熟した共感には「この他人の立場に立ち、不満や怒りの感情を想像すること」(1996:175)が伴う。子どもが道徳判断において意図が果たす役割を把握するようになるまで(それには、意図そのものについて理解することが必要である)は、子どもは、「いじわるである」ためには危害を引き起こすということで十分である、と言う傾向にある。しかし他人の心に対する子どもの理解が発達していくにつれて、行為者の《意図》を考慮する傾向はいっそう増していく。これは、大人が下す道徳判断に近似するような道徳判断を下す際に、意図に関する情報と危害に関する情報を統合する傾向が増すということを反映している。」
(スコット・M・ジェイムズ(19xx-)『進化倫理学入門』第1部「利己的な遺伝子」から道徳的な存在へ、第5章 美徳と悪徳の科学、pp.136-137、名古屋大学出版会(2018)、児玉聡(訳))
(索引:道徳的判断の神経基盤)

進化倫理学入門


(出典:UNC Wilmington
スコット・M・ジェイムズの命題集(Propositions of great philosophers)  「道徳的生物を道徳的たらしめるものには、いくつかのことが関係していると考えられる。以下のものが道徳判断の形成についての概念的真理を表すと思われる。
(1)道徳的生物は禁止というものを理解する。
(2)道徳的禁止は我々の欲求に依存しないように思われ、
(3)法律のような人間の取り決めに依存するようにも思われない。むしろ、それらは主観的ではなく客観的なもののように思われる。
(4)道徳判断は動機と密接に結びついている。ある行為は間違っていると心から判断することは、少なくともその行為をするのを《差し控えたい》という欲求を含意しているようである。
(5)道徳判断は功罪の観念を含意する。道徳的に禁止されていると知っていることをすることは、処罰が正当化されうるということを含意する。
(6)我々のような道徳的生物は、自身の悪事に対して、ある特有の《感情的》反応を示し、そしてこの反応はしばしば我々を、その悪事の償いをするよう駆り立てる。」
(スコット・M・ジェイムズ(19xx-)『進化倫理学入門』第1部「利己的な遺伝子」から道徳的な存在へ、第3章 穴居人の良心、p.81、名古屋大学出版会(2018)、児玉聡(訳))
(索引:)

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