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2020年5月31日日曜日

事実か否か? 私有財産と市場システムの組合せは,経済的不平等と不確実性を生み,人々は利害対立と競争が支配する世界で,所得の獲得に専心し,良心の呵責を知らぬ者が富と名声と権力を獲得し,利他主義と共感は消え去る.(ジャコモ・コルネオ(1963-))

良い経済システムは“よい人間”を生み出す

【事実か否か? 私有財産と市場システムの組合せは,経済的不平等と不確実性を生み,人々は利害対立と競争が支配する世界で,所得の獲得に専心し,良心の呵責を知らぬ者が富と名声と権力を獲得し,利他主義と共感は消え去る.(ジャコモ・コルネオ(1963-))】

(1)良い経済システムは“よい人間”を生み出す
 ある社会の経済生活を統制する諸制度は、社会構成員の人格の発展に影響を与える。
(2)資本主義は良い経済システムであるか
 (2.1)批判的な意見
  (a)経済的不平等と不確実性
   私有財産と市場システムの組み合わせから、経済的不平等と物質的な不確実性が生み出される。
  (b)所得の獲得と所有への専心
   人々は、関心とエネルギーを所得の獲得に注ぎ、また自らの所得を注意深く費やすことに専心する。
  (c)売り手と買い手、労働者と資本家の利害対立
   市場において人々は、価格(あるいは賃金)の決定に際して相反する利害を持つ買い手と売り手(あるいは労働市場における資本家と労働者)として対峙する。
  (d)階級内でも競争的な関係
   人々は、自分と同じ側の人との衝突も経験する。こうした人々は、彼の競争相手だからである。
  (e)相手を騙すことができる者が、最も多く利益を得る
   より良い交換条件を得るために、市場に参加する人たちは隠し事をしたり嘘をついたり脅したりするが、一番うまく相手を騙すことができる者が、最も多く利益を得る。人間の類型を淘汰してゆく方法としての資本主義は、非常に巧みに他人を騙す性格の人々を選ぶ。
  (f)良心の呵責を知らない人が、所得の増加により名声と権力を得る
   つねに他人を手段とみなし目的としては扱わず、良心の呵責を知らない人は、所得の増加により名声と権力を得る。それゆえにこのような人たちは、全ての他の人々にとっての理想となり、彼らの人間に対する態度が規範かつ自明となる。
  (g)利他主義と共感が消え去る
   その結果、利他主義と共感が消え去る一方で、資本主義は“万人の万人に対する”闘争という基本理念を助長する。

 「神経科学の研究成果によれば、ある社会の経済生活を統制する諸制度は、社会構成員の人格の発展に影響を与えることが示されている。そうすると、良い経済システムは“よい人間”を生み出すという特徴を持つはずである。その結果、多くの批判者にとって資本主義は良い経済システムではないことになる。批判者によれば、資本主義は善き生を送ることとは両立しえない人間の性格を増長させる。
 資本主義に批判的な社会心理学者は次のように述べる:“私有財産と市場システムの組み合わせから、経済的不平等と物質的な不確実性が生み出される。所得の不平等と所得の不確実性のもとで暮らす人々は、関心とエネルギーを所得の獲得に注ぎ、また自らの所得を注意深く費やすことに専心する。これは、人々が善き生を送ることを妨げる貪欲さやねたみ、そして所有欲を刺激する。
 市場経済は、人間相互の間の関係全体に対する破壊的な影響を引き起こす。市場において人々は、価格(あるいは賃金)の決定に際して相反する利害を持つ買い手と売り手(あるいは労働市場における資本家と労働者)として対峙する。そのため人々は、交渉における敵として顔を合わせることになる。これに加えて、資本主義のもとにいる人間は、市場で反対の側にいる人との衝突のみならず、自分と同じ側の人との衝突も経験する。こうした人々は、彼の競争相手だからである。すでにプラトンが知っていたように、市場システムは兄弟愛の代わりに敵意を生み出す。
 買い手も売り手も、市場を通じた交換抜きに向き合うよりも、市場での取引を通じて向き合いたいと考える。それゆえ、買い手と売り手の間の敵対的な関係は親切さの仮面をつけて浸透し、人々の間に存在する全ての関係に行き渡る偽りの世界を創り出す。
 より良い交換条件を得るために、市場に参加する人たちは隠し事をしたり嘘をついたり脅したりするが、一番うまく相手を騙すことができる者が、最も多く利益を得る。人間の類型を淘汰してゆく方法としての資本主義は、非常に巧みに他人を騙す性格の人々を選ぶ。つねに他人を手段とみなし目的としては扱わず、良心の呵責を知らない人は、所得の増加により名声と権力を得る。それゆえにこのような人たちは、全ての他の人々にとっての理想となり、彼らの人間に対する態度が規範かつ自明となる。その結果、利他主義と共感が消え去る一方で、資本主義は“万人の万人に対する”闘争という基本理念を助長する。”

(ジャコモ・コルネオ(1963-),『よりよき世界へ』,第3章 ユートピアと財産共同性,pp.44-45,岩波書店(2018),水野忠尚,隠岐-須賀麻衣,隠岐理貴,須賀晃一(訳))
(索引:私有財産,市場システム,経済的不平等,不確実性,競争,利害対立,利他主義,共感)

よりよき世界へ――資本主義に代わりうる経済システムをめぐる旅


(出典:University of Nottingham
ジャコモ・コルネオ(1963-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「私はここで福祉国家の後退について別の解釈を提言したい。その解釈は、資本主義(市場システムと生産手段の私有)は、福祉国家を異物のように破損する傾向があるという仮説に基づいている。福祉国家の発端は、産業労働者の蜂起のような一度限りの歴史的な出来事であった。」(中略)「この解釈は、共同体がこのメカニズムに何も対抗しないならば、福祉国家の摩耗が進行することを暗示している。資本主義は最終的には友好的な仮面を取り去り、本当の顔を表すだろう。資本主義は通常のモードに戻る。つまり、大抵の人間は運命の襲撃と市場の変転に無防備にさらされており、経済的にも社会的にも、不平等は限界知らずに拡大する、というシステムに戻るのである。
 この立場に立つと、福祉国家は、資本主義における安定した成果ではなく、むしろ政治的な協議の舞台で繰り返し勝ち取られなければならないような、構造的なメカニズムである点に注意を向けることができる。そのメカニズムを発見するためには、福祉国家が、政治的意思決定の結果であることを具体的に認識しなければならない。」
(ジャコモ・コルネオ(1963-),『よりよき世界へ』,第11章 福祉国家を備えた市場経済,pp.292-293,岩波書店(2018),水野忠尚,隠岐-須賀麻衣,隠岐理貴,須賀晃一(訳))

ジャコモ・コルネオ(1963-)
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