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2021年11月23日火曜日

物理法則が数学で記述されるというとき、次の事実を忘れてはならない。法則は、実際の宇宙の理想化された姿であり、実在だと考えてはならない。実際の宇宙には、有限の資源しか存在せず、宇宙の計算能力には、自然な宇宙的制限があることになる。(ポール・デイヴィス(1946-))

数学の限界

物理法則が数学で記述されるというとき、次の事実を忘れてはならない。法則は、実際の宇宙の理想化された姿であり、実在だと考えてはならない。実際の宇宙には、有限の資源しか存在せず、宇宙の計算能力には、自然な宇宙的制限があることになる。(ポール・デイヴィス(1946-))

「ランダウアーが問うたのは、「ニュートンの法則やその他の物理法則に体現された数学的理想化は、 本当に真に受けるべきものなのかどうか」という疑問だ。法則が、何らかの理想化された数学的形式の 抽象的領域に限られているうち は、 何の問題もない。しかし、法則が、超越的なプラトニックな領域で はなく、実際の宇宙に存在していると考えるならば、話はまったく違ってくる。実際の宇宙には、実際 の制約がある。特に、実際の宇宙には有限の資源しか存在しないはずだ。したがって、たとえば、一度 に有限の数のビットしか保有できないだろう。だとすると、原理的にさえも、宇宙の計算能力には、自 然な宇宙的制限があることになる。たいていの物理法則の正統的解釈は実数に基づいているが、その実 数は、存在しえないことになる。

 グレゴリー・チャイティンは、先人のランダウアーと同じくIBMに勤務するコンピュータ科学の概 念的基盤に関する一流の理論家だが、彼も同じ結論に到達した。彼はそれを次のように、印象的に表現 している。「実数を計算することができないなら、そのビットが何であるか示すことができないなら、 そしてそれを参照することさえできないなら、どうして実数を信じなければならないのだろう? ………0 から1までの実線は、ますますスイスチーズのように見えてくる」。ランダウアーの主張は、さまざま な物理的制約が存在する現実の宇宙のなかでは、原理的にすら、実際に実行することは不可能な数学的 操作を、物理法則を記述するために持ち出すことは正当化できないということだった。言い換えれば、

『物理的に不可能な操作に頼らざるを得ない物理法則は、不適当なものとして拒否せねばならない』

ということである。プラトン主義的な法則は、便利な近似として扱うことはできるだろうが、「リアリ ティー」ではない。 プラトン主義的な法則が持つ無限の正確さは、通常は十分無害な理想化だが、常に 無害というわけではない。ときにはわたしたちを迷わせる。そして、極初期宇宙を議論するとき以上に その傾向が著しいことはない。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第10章 どうして存在するのか,pp.411-412,日経BP社,2008,吉田三知世)





量子的な確率分布は実在そのものではなく可能な宇宙を表現し、観測過程によって初めて実在化する。生命と意識は、宇宙の生成物でありながら同時に、何らかの観測過程を経由して、宇宙の在り方に参画しているのではないだろうか。(ポール・デイヴィス(1946-))

観測過程と生命、意識

量子的な確率分布は実在そのものではなく可能な宇宙を表現し、観測過程によって初めて実在化する。生命と意識は、宇宙の生成物でありながら同時に、何らかの観測過程を経由して、宇宙の在り方に参画しているのではないだろうか。(ポール・デイヴィス(1946-))


「二つ目の問題―何らかの目的論的要素に関するものは、量子力学によって解決できる可能性が ある。 ホイーラーは、間違いなくそう信じていた。彼は、観測者というものを、物理的リアリティーを形作る作業の単なる観客ではなく、その参加者だと考えていた。このような考え方そのものは、何も 新しいものではない。 哲学者は、伝統的にこのような考え方にどっぷりと浸かっている。ホイーラーが 遅延選択実験によって新たに導入したのは、現在と未来の観測者が、観測者など一切存在しなかった遠 い過去も含めて過去の物理的リアリティーの性質を形作るという可能性である。この考え方は、生物と 心に、物理学のなかで一種創造的な役割を与え、生物と心を宇宙論的物語全体のなかで不可欠なものと するという点で、極めて斬新だ。 それでもなお、生物と心は宇宙が生み出したものである。したがって、 時間的であると同時に論理的なループが存在することになる。通常の科学では、「宇宙→生物→心」 という直線的な論理の流れを仮定している。 ホイーラーは、この鎖を閉じて、「宇宙→生物→心→宇宙」 というループにすることを提案した。 彼は独特の簡潔な言い回しで、この考えの本質を次のように表現 した。「物理学は観測者参加をもたらす。観測者参加は情報をもたらす。 情報は物理学をもたらす」。だ とすると、宇宙は観測者を説明し、観測者は宇宙を説明することになる。このように主張することによ  ってホイーラーは、宇宙は固定された先験的な法則に支配される機械だという認識を拒否し、それを、 彼が 「参加型宇宙」と呼ぶ、自己合成を行う世界に置き換えた。ホイーラーは、前のセクションで検討 したベニオフの自己一貫性の議論と類似した、閉じた説明のループを仮定することによって、やっかい な「亀の塔」の問題を巧みに回避したのである。生物に好適な宇宙が自らを説明するのなら、空中浮揚するスーパー・タートルは必要なくなるのだ。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第10章 どうして存在するのか,pp.426-427,日経BP社,2008,吉田三知世)




多くの非生物系が、 何ら特徴のない姿から、複雑なパターンと組織構造を進化させる自己組織化現象が存在する。雪の結晶の成長のように、物理法則にのみ由来する現象である。(ポール・デイヴィス(1946-))

自己組織化現象

多くの非生物系が、 何ら特徴のない姿から、複雑なパターンと組織構造を進化させる自己組織化現象が存在する。雪の結晶の成長のように、物理法則にのみ由来する現象である。(ポール・デイヴィス(1946-))


「もうひとつ、進化のメカニズムとして可能性のあるものが、自己組織化である。多くの非生物系が、 はじめの何ら特徴のない姿から、複雑なパターンと組織構造を進化させる。このような非生物系の進化 はすべて、ダーウィン的進化のような個体差や選択が関与することは一切なしに、自然発生的に起こる。 たとえば、雪の結晶は特徴的な六角形をした精緻なパターンを形成する。 雪の結晶に遺伝子があるなど と主張する人はいないが、雪の結晶は知性を持った設計者によって作られたと主張する人もいない。雪 の結晶は、明確な数学の規則と物理法則に従って、自発的に自己組織化し、自己集合するのである。この自己組織化によって進む、ダーウィン的進化とは異なる進化は、物理学、化学、天文学、地球科学、 そしてワールドワイドウェブなどのネットワークにおいても見られる。これが生物学においても、あち らこちらで起こっていないとしたら驚きだという気がするが、そういうわたしの感じ方は間違っている かもしれない。もし仮にわたしが正しかったとしても、それはダーウィンの進化論が反証されたという ことではなく、ダーウィン的進化は、進化のメカニズムのほんの一部を説明するに過ぎないのだろう、 ということである。とはいえ、その、進化のメカニズムのなかで、まだ明らかになっていない、ダーウ イン的進化以外の部分に存在するのは、宇宙的な魔術師のようなものではなく、物理法則に由来する、 未知の組織化原理に適合する、自然のプロセスなのである。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第9章 インテリジェント・デザインとあまりインテリジェントでないデザイン,pp.344-345,日経BP社,2008,吉田三知世)



知られている最小のバクテリアのゲノムには、数百万ビ ットの情報が含まれている。生命の著しい複雑性を進化には、数十億年にわたる厖大な数の情報処理のステップが必要だったのだ。生命は、1%の物理と99%の歴史から成っている。(ポール・デイヴィス(1946-))

1%の物理法則と99%の歴史

知られている最小のバクテリアのゲノムには、数百万ビ ットの情報が含まれている。生命の著しい複雑性を進化には、数十億年にわたる厖大な数の情報処理のステップが必要だったのだ。生命は、1%の物理と99%の歴史から成っている。(ポール・デイヴィス(1946-))

「ある気体が、任意の状態で、閉じた容器に入れられ、その後放置されたとすると、そ の気体は、どの場所でも温度と圧力が同じで、分子の速度が、ある厳密な数学的関係 (マクスウェル= ボルツマン分布)に則って分布した、ある最終状態へと急速に近づいていく。この場合も、その最終状 態は、完全に予測可能で、再現性がある。それは、物理法則で前もって決定されているのである。この ように、塩や気体の最終状態は、物理法則に「書き込まれている」と断言するのは、まったく正しいことである。

 しかし、わたしたちが直面しているのは、生物が、そして意識までもが、物理法則に書き込まれてい るかどうか、という問題だ。生命を持たないものから生命が出現するという現象は、たとえば、結晶化と同じように、さまざまな初期条件のもとで、物理法則だけに従って起こるのだろうか? この問いに 対する答えは、断固たる「ノー」である。生物的な系は、結晶とカオス的気体という、二つの両極端の 中間に位置する。生きた細胞は、著しく組織化された複雑さを持っているという点でほかのものと明確 に区別される。細胞は、結晶の単純さも、気体の無秩序さも持ち合わせていない。それは、大量の情報 を持った、具体的で特殊な物質の状態である。知られている最小のバクテリアのゲノムには、数百万ビ ットの情報が含まれている――この情報は、物理法則のなかに暗号化されてはいない。物理法則は、極 めて少量の情報によって表現することが可能な、単純な数学的関係である。それは普遍的な法則であり、 すべてのものに適用されるので、あるひとつの種類の物理系―つまり、生きた生命体だけに当て はまる情報を含むことはありえない。生物が大量の情報を含んでいることを理解するには、生物は、物 理法則だけの産物なのではなく、物理法則と環境の歴史の両方をあわせたものの産物であることを認識 しなければならない。生物が出現し、その著しい複雑性を進化させたのは、数十億年もかかるプロセス の結果であり、また、それには厖大な数の情報処理のステップが必要だったのである。このように、ひ とつの生命体は、複雑で入り組んだ歴史の産物を含んでいる。これを一言でまとめると、わたしたちが 今日観察している形の生物は、一パーセントの物理と九九パーセントの歴史から成っていると表現でき よう。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第10章 どうして存在するのか,pp.401-402,日経BP社,2008,吉田三知世)





3つ目は、生命の情報処理能力である。ある物理化学的状況(文脈)において、ある特定の物理化学的性質は、意味情報に変わる。これは、その系に対しては「何らかの意 味を持っている」のであり、それを読み取った系は、それに従って「行動する」ようになる。(ポール・デイヴィス(1946-))

生命の情報処理能力

3つ目は、生命の情報処理能力である。ある物理化学的状況(文脈)において、ある特定の物理化学的性質は、意味情報に変わる。これは、その系に対しては「何らかの意 味を持っている」のであり、それを読み取った系は、それに従って「行動する」ようになる。(ポール・デイヴィス(1946-))

「生物が持つ三つ目の際立った特徴は、その情報処理能力である。 すべての物理系は、 初歩的な意味で、 情報を処理していると見なすことができる。たとえば、惑星の位置を特定するには、いくつかの数字が 必要だ、惑星が太陽の周囲を動くにつれて、その位置は変化し、それを記述する数字も変化する。このように、惑星の運動という単純なプロセスは、「入力情報」( 惑星の最初の位置)を「出力 的な位置」に変換する。しかし、ゲノムや脳に含まれる情報は、このような単純なデータ を超えている。ゲノムは、あるタンパク質を作る、分子をコピーする、食物を探すなど、何かのプロジェクト を実行するための青写真、もしくは、アルゴリズム、あるいは、一組の指示である。アルゴリズムがう まく機能するには、遺伝子の指示を解釈し実行することができる物理的な系が必要である(ゲノムの場 合は、リボソームがその役割を担う場合もあろう)。これらの指示は、その系に対しては「何らかの意 味を持っている」のであり、それを読み取った系は、それに従って「行動する」。哲学者やコンピュー 夕科学者たちは、意味を持った情報を(ビットそのものに対立する概念として) 意味情報と呼んでいる。 このように、生物的な情報には、意味の次元と文脈の次元とがある。遺伝情報は、恣意的にビットが連 なっただけのものではなく、DNAの四文字からなるアルファベット 〔4種類の分子A (アデニン)、T (チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)] によって書かれた、あらかじめ定められたゴールを暗号化した、 一貫性を持つコンピュータプログラムの一種なのだ。単なる生化学的活動に対立するものとしての意識 の場合、神経による情報処理が意味情報の性質を帯びていることは明らかだ。心が、意味のある情報を 処理しているということには疑問の余地がない。心が行っているのは、おおざっぱに言って、そういう ことなのだ。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第10章 どうして存在するのか,pp.390-391,日経BP社,2008,吉田三知世)





4.生命が持つ二つ目の重要な性質は、自律性である。生命も、物理的法則に従っているにもかかわらず、その運動は予測不可能である。この予測不 可能性は、カオス的もしくは無秩序なプロセスの予測不可能性とはまったく異なる。(ポール・デイヴィス(1946-))

 生命の自律性、予測不可能性

生命が持つ二つ目の重要な性質は、自律性である。生命も、物理的法則に従っているにもかかわらず、その運動は予測不可能である。この予測不 可能性は、カオス的もしくは無秩序なプロセスの予測不可能性とはまったく異なる。(ポール・デイヴィス(1946-))


「生物が持つ二つ目の重要な性質は、自律性である。生物は、文字通り、それ自体の命を持っており、 独り歩きをする。生物も、ほかのすべての物質系と同じさまざまな物理的な力の影響を受けるが、生物 はこれらの力を制御して、意図したことを行うことができる。これがどういうことかをはっきりさせる には、単純な例をひとつ挙げれば十分であろう。死んだ鳥を空中に投げても、それは単純な幾何学的経 路を辿って、予想したとおりの場所に落ちるだけだ。だが、生きた鳥を空に放てば、その鳥がどのよう な経路で飛ぶのかも、どこに降り立つのかも、予測するのは不可能だ。重要なのは、この生物の予測不 可能性は、サイコロ投げや、激流の渦の運命のように、カオス的、もしくは無秩序なプロセスの予測不 可能性とはまったく異なるという点だ。 鳥の飛行経路は、鳥が持つ遺伝的性質や神経学的な状態によっても形づくられているのである。 」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第10章 どうして存在するのか,p.390,日経BP社,2008,吉田三知世)





3.生命が持つ特別な性質の1つ目は、ダーウィン的進化の産物であるということである。複製される個体の存在と、複製の際の個体間のばらつきと環境内における選択による変化とを、組織化原理としている。(ポール・デイヴィス(1946-))

 ダーウィン的進化の産物

生命が持つ特別な性質の1つ目は、ダーウィン的進化の産物であるということである。複製される個体の存在と、複製の際の個体間のばらつきと環境内における選択による変化とを、組織化原理としている。(ポール・デイヴィス(1946-))

「生物を特別なものとしているのは、それを形作る物質ではなく、それが行う事柄である。生物を定義 することは、ご承知のとおりたいへん難しいが、特に目立った性質が三つある。最初のものは、生物は ダーウィン的進化の産物だということだ。実際、一部の科学者たちは、この基準だけで生物を定義して いる。 複製の際の個体間のばらつきとそのあいだでの選択に基づく進化の原則は、間違いなく基本的である。それは、宇宙のあらゆる場所に存在する生物に適用されるはずであり、地球に存在する生物とは まったく異なる生物にも当てはまるはずだ。 ダーウィン的進化は物理法則ではないが、重力の法則と同 じくらい深く重要な組織化原理である。したがって、生物は、ダーウィン的進化という宇宙の極めて基 本的な性質から生まれたものだということになる。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第10章 どうして存在するのか,pp.389-390,日経BP社,2008,吉田三知世)






2..宇宙における生命の誕生、人間の意識と知性の誕生、そしてその知性に宿った宇宙の理解、これらの事実は、無意味な宇宙における例外的で偶然な出来事なのだろうか。それとも、なお一層深い別の筋書きが働いているのだろうか。(ポール・デイヴィス(1946-))

生命、意識の誕生は偶然なのか 

宇宙における生命の誕生、人間の意識と知性の誕生、そしてその知性に宿った宇宙の理解、これらの事実は、無意味な宇宙における例外的で偶然な出来事なのだろうか。それとも、なお一層深い別の筋書きが働いているのだろうか。(ポール・デイヴィス(1946-))


 「どうしてこのようなことになったのだろうか? ある意味、宇宙は、自分自身の意識のみならず、自 分自身の理解をも作り上げたのだ。心を持たずに動き回っている原子たちが結託して、生物だけでなく、 また、心だけでもなく、理解というものを作り出したのだ。 進化する宇宙は、宇宙進化という見世物を 見ることができるだけでなく、その筋書きを明らかにすることもできる生物を生み出した。人間の脳の ように、ちっぽけで微妙で、しかも地球での生活に適合したものが、宇宙の全体と、宇宙がそれに合わ せて踊っている、数学で書かれた音のない音楽に取り組むのを可能にしているのは、いったい何なのだ ろう? わたしたちが知る限りでは、これは、宇宙のどこかで心が宇宙の暗号を垣間見た最初にして唯 一の事例だ。もしも宇宙が瞬きをするあいだに人間が完全に消滅してしまったなら、このようなことは 二度と起こらないかもしれない。宇宙はさらに一兆年にわたって存続するかもしれないが、ごく普通の ひとつの銀河が誕生してから一三七億年のちに、そのなかの平均的なひとつの恒星の周囲を回っている ひとつの小さな惑星の上で、 知性の光が一瞬輝くときを除いては、その悠久の時間を通して、完全な謎に包まれたままだろう。 

 これは単なる偶然なのだろうか? リアリティーがその最も深いレベルで、わたしたちが「人間の心」 と呼ぶ奇妙な自然現象に接触したという事実は、でたらめで無意味な宇宙のなかで一時的に生じた、 普 通にありえない例外的なことでしかないのだろうか? それとも、なお一層深い別の筋書きが働いているのだろうか。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第1章 いくつかの重大な疑問,p.24,日経BP社,2008,吉田三知世)




1.諸法則に従う宇宙の様々な可能性の中から、何故この特定の宇宙が存在するのか。自己説明する自己一貫性を持ったループだけが、自己創造によって存在し得るのではないのか。そして、生命と意識の存在も、この原理によって理解できるのではないか。(ポール・デイヴィス(1946-))

なぜ存在するのか

 諸法則に従う宇宙の様々な可能性の中から、何故この特定の宇宙が存在するのか。自己説明する自己一貫性を持ったループだけが、自己創造によって存在し得るのではないのか。そして、生命と意識の存在も、この原理によって理解できるのではないか。(ポール・デイヴィス(1946-))

「因果関係ループもしくは後戻り因果関係を含むモデルのなかには、宇宙が自らを作り出すようなものま である。このような説の長所は、自己完結しており、「亀の塔」の無限の列も、頭から信じる以外にな い、空中浮揚するスーパー・タートルを受け入れる必要性も、どちらも回避できるという点だ。欠点は、 どうしてこの宇宙―この自己説明し、自己創造する系であって、ほかにも存在しうるさまざまな 自己説明する宇宙ではないのかということについてはわからぬままだという点だ。もしかしたら、自己 説明する宇宙はすべて存在するのだが、わたしたちの宇宙のようなものだけが、生物の存在が可能なた めに観察される、ということなのかもしれない―つまりは、形を変えた多宇宙論である。あるいは、 こちらの方がさらに好ましいのだが、存在は、存在する可能性のあるものに、何か説明されぬ行為者 (つまり、超越的な存在生成者)によって「息吹を与えられ」ることによって、外側から与えられるも のではなくて、それ自体が自己始動する何かなのかもしれない。自らを理解することができる自己一貫 性を持ったループだけが、自らを作り出すことができるので、生命と心 (少なくとも、その可能性)を 持った宇宙だけが実際に存在するのではないかということを、わたしはすでに示した。」


(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),あとがき,p.458,日経BP社,2008,吉田三知世)




2018年1月13日土曜日

未だ、量子論が提示した新たな世界像は、正しく理解されているとは言い難い。新しい人文科学のための枠組み作りのために、自然科学と人文科学、両方の要素を学ぶことが必要である。(ロバート・P・クリース(1953-))

ソーカル事件

【未だ、量子論が提示した新たな世界像は、正しく理解されているとは言い難い。新しい人文科学のための枠組み作りのために、自然科学と人文科学、両方の要素を学ぶことが必要である。(ロバート・P・クリース(1953-))】
 かつて、ニュートン物理学の成功が、いわゆる「近代性」と呼ぶのがふさわしいような、科学的で工業的な文化の基礎的な考え方を醸成した。しかし、量子論が提示した新たな世界像は、未だ一般の人々には、正確に理解されるに至っていないように思われる。むしろ、ソーカル事件において露呈したように、科学を理解していない者や、反科学的な立場の者が、恣意的にその言葉を使用し、状況を混乱させている。これからの私たちには、新しい人文科学のための枠組み作りのために、自然科学と人文科学、両方の要素を学ぶことが必要である。
 「量子論の用語とイメージを理解し、その面白さを味わう――ことは、今日において教養人である条件のひとつだ。そのためには、自然科学と人文科学、両方の要素を学ぶことが必要である。そのような教育を可能にするためには、伝統的な学問分野の境界をいくつも越えることが必然的に伴うが、現代世界の教育はじつにもつれた状態にある。量子のモーメントと正面から向き合うには、二一世紀の人文科学のための新しい枠組み作りが不可欠なのだ。
 第1章で、歴史家のベティー・ダブスとマーガレット・ジェイコブの「ニュートン的モーメント」は「現在、ほとんどの西洋人と、一部の非西洋人が暮らしている、物質的かつ精神的で、工業的で科学的な宇宙、すなわち、『近代性』と呼ぶのがふさわしいもの」を提供したという言葉を引用した。だがこの宇宙は、少しずつ変化しつつある。そのあとにやってくるものを記述する正しい方法はどこにあるのか? よく使われる「ポストモダン」という言葉は、種々雑多な人々がいろいろな意味であまりに無造作に使っているので、私たちは好きではない。それにこの言葉は、第8章でも見たが、あの名高いソーカル事件が露呈したように、科学を理解していない者や反科学的な立場の者も好んで使っているのにも辟易する。今の科学が、このポスト・ニュートン的文化の宇宙の枠組みに密に織り込まれていることは明らかで、これと取り組みたいと望むものはみな、この事実を直視しなければならない。ニュートン的モーメントの次にやってくるものを記述する正しい言葉は「量子のモーメント」なのだろうか? 私たちは学生たちにこう問いかける。」
(ロバート・P・クリース(1953-)&アルフレッド・シャーフ・ゴールドハーバー『量子モーメント』(日本語書籍名『世界でもっとも美しい量子物理の物語』)結び 新しいモーメント、pp.431-432、日経BP(2017)、吉田三知世(訳))
(索引:フルーツルーパリー、ソーカル事件)


世界でもっとも美しい量子物理の物語――量子のモーメント



(出典:wikimedia
ロバート・P・クリース(1953)
Robert P. Crease
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フルーツルーパリー(fruitloopery)とは、意味もわからず偉ぶって科学用語を持ち出して、間違った使い方をしているのを指す。広告、自己啓発本、アマチュア哲学、似非科学に現われる。(ロバート・P・クリース(1953-))

フルーツルーパリー

【フルーツルーパリー(fruitloopery)とは、意味もわからず偉ぶって科学用語を持ち出して、間違った使い方をしているのを指す。広告、自己啓発本、アマチュア哲学、似非科学に現われる。(ロバート・P・クリース(1953-))】
 フルーツルーパリー(fruitloopery)とは、意味もわからず偉ぶって科学用語を持ち出して、間違った使い方をしているのを指す。広告、自己啓発本、アマチュア哲学、似非科学に現われ、「量子(クォンタ)」、「タキオン」、「振動(波動)エネルギー」、「再構成水」などの言葉が、しばしば使われる。
 「イギリスの科学雑誌、《ニュー・サイエンティスト》は、意味もわからず偉ぶって科学用語を持ち出して、間違った使い方をしているのを指して「フルーツルーパリー(fruitloopery)」と呼ぶ。そもそもこの言葉は、妙な比喩として使われ始めた。「フルーツループ」とは、一九六六年にケロッグ社が販売を始めた朝食用シリアルで、フルーツのような香りがする色とりどりの小さなリング状のシリアルだ。」(中略)「「フルーツルーパリー」は、広告のなかで科学が、検証不可能なかたちで使われたり、前後関係から完全に外れた使われたりする様子を指して、《ニュー・サイエンティスト》が独自に使う用語となった。フルーツルーパリーの可能性を見わける指標としては、「量子(クォンタ)」、「タキオン」、「振動(波動)エネルギー」、あるいは、「再構成水」などの言葉があり、これらが組み合わされている場合は特にあやしい。私たちの講義では、意味をさらに拡張し、広告のみならず、自己啓発本、アマチュア哲学、似非科学に現われる、偉ぶっているくせに間違っている科学用語を指すのに、この「フルーツルーパリー」という用語を使う。
 物理学は、文化のなかで高い地位を占めているため、ほかの分野よりも「フルーツルーパリー」を刺激することが多い。あなたがペテン師で、何かを売り込もうとしているとき、それを物理学に結びつければ、それは深遠で信頼性が高いと思わせることができる。」
(ロバート・P・クリース(1953-)&アルフレッド・シャーフ・ゴールドハーバー『量子モーメント』(日本語書籍名『世界でもっとも美しい量子物理の物語』)第8章 ずたずたになったリアリティ、pp.261-262、日経BP(2017)、吉田三知世(訳))
(索引:フルーツルーパリー)


世界でもっとも美しい量子物理の物語――量子のモーメント



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