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2019年4月13日土曜日

8.所得分配の平等性は、経済成長と強い関連性があり、政府の適切な政策が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

所得分配の平等性と経済成長

【所得分配の平等性は、経済成長と強い関連性があり、政府の適切な政策が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(3.2)追記。

(3)政府の役割
 全体の社会的利益を最大化させ、経済を繁栄させるには、政府の適切な矯正作業が必要である。
 (3.1)市場の失敗の矯正
  (a)市場における公正な競争を維持する。
  (b)市場における透明性を高める。
  (c)そのために政府は、税金と規制にかんする制度設計を通じて、個人のインセンティブと、社会的利益を同調させる必要がある。
 (3.2)所得分配の平等性は、経済成長と強い関連性があり、政府の適切な政策が必要である。
  (a)所得分配の不平等の拡大は、総需要の不足を招く。
  (b)総需要の不足に対して、規制緩和とバブルで対応する政策は、経済の不安定性を増大する。
  (c)経済の不安定性の増大は、企業に投資を控えさせ、結果として経済成長は鈍化する。
  (e)安定性の欠如は、不平等を拡大させる。(悪循環)

 「規制とは、システムをより良く機能させるために設計されたルールであり、具体的には、競争を担保したり、影響力の濫用を防いだり、自分で身を守れない人々を保護したりする。

何らかの抑えがなければ、前章で説明したような市場の欠陥は、手に負えないほどの猛威をふるうこととなる。

たとえば、金融セクターでは将来、利害の衝突や、過剰な信用や、過剰なレバレッジや、過剰なリスクテークや、バブルなどが問題となるだろう。

しかし、実業界の人々は別の視点を持っており、規制がなければもっと利益を稼ぎ出せると考える。彼らの念頭にあるのは、社会と経済に対する幅広い長期的な影響ではなく、いますぐ手に入る限定的かつ短期的な自己利益なのだ。
 
 同じような“過剰”によって引き起こされた1929年の世界大恐慌のあと、アメリカは1933年のグラス・スティーガル法に代表される強力な金融規制を導入した。これらの法律の実効的な運用は、国家に大きな恩恵をもたらした。大恐慌以前のアメリカ(と、ほかの国々)を何度も苦しめた破滅的な金融危機は、規制の導入後、数十年間にわたって鳴りをひそめてきたのだ。

しかし、1999年に規制の解体が始まると、過去をしのぐ勢いで“過剰”がよみがえった。銀行はすぐさま最新の技術と金融論と経済論をとり入れた。彼らはイノベーションを駆使して、略奪的貸付を行なう新しい方法や、無知なクレジットカード利用者をあざむく新しい方法を編み出した。レバレッジを高める方法については、まだ残っている規制をかいくぐる場合もあれば、規制当局が理解できないほど仕組みを複雑化させる場合もあった。」(中略)

 「前述したとおり、不平等の拡大は、規制を緩和する政策と、総需要の不足にバブルで対応する政策を導入しやすくするため、結果として経済の安定性を低下させる。

しかし、不平等が“必ず”二つの政策に結びつくわけではない。民主主義がもっとうまく機能していれば、政府は規制緩和の政治圧力を退けるかもしれないし、総需要の不足に取り組む際も、バブルをつくり出すことではなく、持続可能な経済成長を強化することを選ぶかもしれないのだ。


 こうやって生み出された経済の不安定性は、さらにリスクの増大という悪影響をもたらす。企業はリスクを嫌う傾向があり、リスクテークに際しては見返りを要求する。だから、思ったような見返りが得られなければ、企業は投資を控え、結果として経済成長は鈍化するだろう。


 平等性の欠如が安定性を低下させる一方で、安定性の欠如は不平等を拡大させる。これも本章が指摘する悪循環のひとつだ。

1章で指摘したとおり、世界大不況はとりわけ下層の人々に大打撃を与え、打撃は中層にも及んだ。一般の労働者はおおむね、失業率の上昇と、賃金の下落と、住宅価格の低下と、富の大幅な縮小に見舞われている。他方、リスク許容度の高い富裕層の人々は、大きなリスクをとった見返りを社会全体から収穫している。

いつもどおり、金持ちによって支持される政策は、支持してくれる人々に勝利を与え、残りの人々に高いコストを押しつけているように見える。
 2008年の世界金融危機の余波が続く現在、不平等が不安定をもたらして不安定が不平等をうながす、という世界的なコンセンサスが広がっている。

国際通貨基金(IMF)は世界経済の安定維持に責任を負う国際機関だが、みずからの政策が貧困層にどう影響するかを熟慮しておらず、この点をわたしはきびしく批判してきた。しかし、不平等を無視していては使命が達成できないことを、IMFは遅ればせながら認識し、2011年の研究報告では次のように結論づけた。

 『成長期間の長さと、所得分配の平等性のあいだに、強い関連性があることをわれわれは発見した。長い目で見た場合、不平等是正と成長持続は、コインの表と裏の関係になるだろう』

 同年4月、IMFの前専務理事ドミニク・ストロス=カーンは、次のように強調した。

 『結局のところ、雇用と平等というレンガがなければ、経済の安定と繁栄、政治の安定と平和という建物を築き上げることはできない。IMFの使命の中核にかかわるこの考え方を、政策課題の中核に据える必要がある』」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第4章 アメリカ経済は長期低迷する,pp.150-153,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:所得分配の平等性,経済成長)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

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