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2021年11月16日火曜日

乳幼児はごく早い時期から顔を見つめ、とくに人の目に注意を向ける。相手が注意しているから注意し、相手が教えてくれるから学習する。人間は、社会的な合図によって、注意を共有する。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

共同注意

乳幼児はごく早い時期から顔を見つめ、とくに人の目に注意を向ける。相手が注意しているから注意し、相手が教えてくれるから学習する。人間は、社会的な合図によって、注意を共有する。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

 「哺乳類はすべて ———もちろん霊長類も含めて———注意システムを持っている。しかし人間の注意は学 習をさらに加速するユニークな特徴を示す。社会的な注意の共有だ。ホモ・サピエンスは、他のどの霊 長類と比べても、注意と学習が社会的な合図に依存している。私はあなたがどこに注意しているかに注 意し、私はあなたが教えてくれることから学習する。

 乳幼児はごく早い時期から顔を見つめ、とくに人の目に注意を向ける。 話しかけられたときに乳幼児 が最初にとる反射的行動は、状況を探ることではなく、自分とやりとりする人物の視線を捉えること だ。赤ちゃんはアイコンタクトができて初めて、その大人が見ている対象の方を向く。この社会的な注 意を共有する顕著な能力は、「共同注意」とも呼ばれ、子どもが何を学習するかを決める。

 赤ちゃんが「wog」のような新語の意味を教えられる実験についてはすでに述べた。 乳幼児が、話し手が wogと言うときに向かう視線をたどることができれば、ほんの何回かの試行でこの単語の意味を難なく学習する ———一方 wogが同じ物体と連動していても、スピーカーから何度も再生されるだけで は学習は生じない。」

(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『脳はこうして学ぶ』,3 学習の四本柱,7章 注意,p.224,森北出版,2021,松浦利輔,中村仁洋)

脳はこうして学ぶ [ スタニスラス・ドゥアンヌ ]






注目されなかった対象は、ささやかな刺激しかもたらさず、学習をほとんど、あるいはまったく 誘発しない。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))はたら

 注意

注目されなかった対象は、ささやかな刺激しかもたらさず、学習をほとんど、あるいはまったく 誘発しない。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

「注意は必須だが、問題が生じることもある。 注意の方向が間違っていれば、学習は立ち往生すること になりうる。フリスビーに注目しなかったら、画像のこの部分は消去され、フリスビーなどなかったか のように処理は進む。それについての情報は早くに捨てられ、その情報は感覚野のごく初期段階にと どまる。注目されなかった物体はささやかな刺激しかもたらさず、学習をほとんど、あるいはまったく 誘発しない。対象に注意を向けて意識するようになるときは正反対で、必ず、脳に並外れた増幅が生じ る。意識的な注意によって、対象をコード化する感覚ニューロンや概念ニューロンの発火が大きく増幅 され、長引いて、そのメッセージが前頭前野に伝わり、そこでニューロン群全体が発火し、もともとの 画像の持続時間をゆうに超えるほど長く発火しつづける。シナプスがその強度を変えるためには、その ような強い神経発火の波が必要だ これを神経科学者は「長期増強」と呼ぶ。生徒が、たとえば教師 が紹介したばかりの外国語の単語に意識的注意を払うときは、その単語は自身の皮質回路奥深くまで進 み、はるばる前頭前野にまで伝播している。その結果、その単語は記憶される可能性がずっと高まる。 無意識のあるいは注意されない単語はほとんど脳の感覚回路にとどまり、さらに奥の、了解や意味の記憶を支える語彙表象や概念表象にまで達するチャンスが得られない。」

(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『脳はこうして学ぶ』,3 学習の四本柱,7章 注意,pp.201-202,森北出版,2021,松浦利輔,中村仁洋)

脳はこうして学ぶ [ スタニスラス・ドゥアンヌ ]






呼出と指向:膨大な感覚情報の飽和を解決するため、脳は情報を選択し、フィルタリングし、増幅し、指向した対象の処理を深くする。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

呼出と指向

膨大な感覚情報の飽和を解決するため、脳は情報を選択し、フィルタリングし、増幅し、指向した対象の処理を深くする。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

 「そんなとき、脳は警戒と待受(「注意の維持」とも言われる)、選択と放念、指向と信号のフィルタリング といった、注意の要となる状態の大半を、数分の間に通り抜ける。認知科学で言われる「注意」とは、 脳が情報を選択し、増幅し、流し、その処理を深くする仕組みすべてを指す。そうした仕組みは進化で は古くからある。犬が耳の向きを変えたり、鋭い音を耳にしたネズミがすくんだりするときは、私たち が持っているのとよく似た注意回路を使っている。

 注意機構がそれほど多くの動物種に進化したのはなぜかというと、注意が情報飽和と いうありふれた問題を解決するからだ。脳には絶えず刺激が降り注いでいる。視覚、聴覚、嗅覚、触覚といった感覚が毎秒何億ビットもの情報を送ってくる。当初は、こうした通信のすべてが別々のニューロンで並 行して処理される。 しかしそれを深いところまで整理できるほどの資源は脳にはない。 そのため、注 意機構のピラミッドは、巨大なフィルターのように組織され、しかるべき優先順位をつ ていく。脳は 各段階で、しかじかの入力にどれだけの重みを与えるかを決定し、必須と考える情報にのみ資源を割り 当てる。

 適切な情報を選ぶことは、学習の根本にかかわる。注意がなければ、データの山にパターンを発見するというのは、よく言われる干し草の山で針を探すようなことになる。それが従来のニューラルネットワークが遅いことの主な理由だ。ネットワークは、情報を整理して適切な情報にすることができず、提供されるデータがとりうるすべての組合せの分析ばかりに相当の時間を浪費してしまうのだ。」

(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『脳はこうして学ぶ』,3 学習の四本柱,7章 注意,pp.198-199,森北出版,2021,松浦利輔,中村仁洋)

脳はこうして学ぶ [ スタニスラス・ドゥアンヌ ]






2020年7月7日火曜日

無意識の無数の認知機能が計算した確率的な推論結果からサンプルが抽出されるには、意識的な注意の働きが必要なことが、両眼視野闘争の実験などで示されている。ここには、量子力学の観測と類似の状況があるが、未解明である。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

意識的な注意の働き

【無意識の無数の認知機能が計算した確率的な推論結果からサンプルが抽出されるには、意識的な注意の働きが必要なことが、両眼視野闘争の実験などで示されている。ここには、量子力学の観測と類似の状況があるが、未解明である。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))】

(3.3)追記。

(3)気づきの外での情報選択
 無意識の無数の統計マシンが計算した、感覚データの原因となった外界の確率的な推論結果のうちから、その時点における最善の解釈を抽出して、意識を持ったたった一つの意志決定システムへ引き渡す。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))
 (3.1)入力:無意識の認知作用の確率的な推論結果
  無意識の認知作用は、感覚データの原因となった外界についての確率的な推論結果しか示さない。
 (3.2)出力:最善の解釈サンプルの抽出(全か無かのサンプル)
  あらゆる曖昧さを取り除き、その時点における外界の最善の解釈を抽出して、意思決定システムに受け渡す必要がある。私たちがさらなる決断を下せるよう、あらゆる無意識の可能性を整理して、たった一つの意識的なサンプルが抽出される。
 (3.3)作用の担い手:意識的な注意(精神の能動)
  (a)サンプリングは、意識的な注意の働きなくしては生じない。
  (b)例:両眼視野闘争
   (i)二つのイメージに注意を向けていると、それらは絶えず交互に意識に現われる。
   (ii)注意を別の対象に向けると、両眼視野闘争は停止する。
   (iii)サンプリングによる選択は、意識的な注意が向けられているときにのみ生じるらしい。
  (c)意識的な注意の量子力学における観測装置との類似性
   特定の対象に注意を向ける、まさにその意識の活動によって、さまざまな解釈の確率分布が収縮し、そのなかの一つだけを私たちは知覚する。このように意識の活動は、背後に存在する、無意識の計算の広大な領域のわずかな部分を垣間見せる、選別的な測定装置として機能する。
 (3.4)次の入力先:意識を持ったたった一つの意思決定者
  どんな生物も、確率のみに頼って行動できるわけではない。意識化されたサンプルを用いて、自発的行為のための意思決定を行う。

 「サンプリングは、意識的な注意の働きなくしては生じないという意味で、純粋にコンシャスアクセスの機能と考えられる。両目のおのおのに異なるイメージを提示すると生じる不安定な知覚、両眼視野闘争を考えてみよう。二つのイメージに注意を向けていると、それらは絶えず交互に意識に現われる。感覚入力はあいまいで、かつ固定しているが、私たちは一時にはどちらか一方のイメージにしか気づかないため、絶えず交替するものとしてそれらを知覚する。しかし重要なことに、注意を別の対象に向けると、両眼視野闘争は停止する。どうやらサンプリングによる選択は、意識的な注意が向けられているときにのみ生じるらしい。その結果、無意識のプロセスは意識のプロセスにより客観的になる。というのも、無意識の無数のニューロンが、外界の状況に関して真の確率分布を見積もるのに対し、意識はためらうことなく、それを全か無かのサンプルに還元するからだ。
 このプロセスは、奇しくも量子力学に似た側面がある(ニューロンのメカニズムが、古典力学のみに関係することはほぼ間違いないが)。量子力学によれば、物理的実体は、特定の状態で粒子が見出される確率を決定する波動関数の重ね合わせから構成される。しかし私たちが測定を行うやいなや、この確率は、全か無かの固定された状態へと収縮する。私たちは、半分生きていて半分死んでいるという、有名なシュレーディンガーの猫のような奇妙な混合状態を観察することはない。量子論に従えば、測定の行為それ自体によって、確率はたった一つの個別的な状態へと収縮するのである。脳内でも、類似の現象が起こる。つまり特定の対象に注意を向ける、まさにその意識の活動によって、さまざまな解釈の確率分布が収縮し、そのなかの一つだけを私たちは知覚する。このように意識の活動は、背後に存在する、無意識の計算の広大な領域のわずかな部分を垣間見せる、選別的な測定装置として機能する。
 とはいえ、この魅力的なたとえは、表面的なものにすぎないのかもしれない。量子力学の基盤となる数学が、意識的知覚の問題を扱う認知神経科学に適用できるかどうかは、今後の研究成果を待たねばならない。しかし人間の脳内ではそのような分業が至るところに見られ、無意識のプロセスが並行処理によって迅速な計算を実行する統計マシンであるのに対し、意識が緩慢なサンプリング装置であることは確実に言える。これは視覚のみならず言語の領域にも当てはまる。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第3章 意識は何のためにあるのか?,紀伊國屋書店(2015),pp.140-141,高橋洋(訳))
(索引:意識的な注意の働き,意識,注意,量子力学と意識,両眼視野闘争)

意識と脳――思考はいかにコード化されるか


(出典:wikipedia
スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「160億年の進化を経て発達した皮質ニューロンのネットワークが提供する情報処理の豊かさは、現在の私たちの想像の範囲を超える。ニューロンの状態は、部分的に自律的な様態で絶えず変動しており、その人独自の内的世界を作り上げている。ニューロンは、同一の感覚入力が与えられても、その時の気分、目標、記憶などによって異なったあり方で反応する。また、意識の神経コードも脳ごとに異なる。私たちは皆、色、形状、動きなどに関して、神経コードの包括的な一覧を共有するが、それを実現する組織の詳細は、人によって異なる様態で脳を彫琢する、長い発達の過程を通じて築かれる。そしてその過程では、個々のシナプスが選択されたり除去されたりしながら、その人独自のパーソナリティーが形成されていく。
 遺伝的な規則、過去の記憶、偶然のできごとが交錯することで形作られる神経コードは、人によって、さらにはそれぞれの瞬間ごとに独自の様相を呈する。その状態の無限とも言える多様性は、環境に結びついていながら、それに支配はされていない内的表象の豊かな世界を生む。痛み、美、欲望、後悔などの主観的な感情は、この動的な光景のもとで、神経活動を通して得られた、一連の安定した状態のパターン(アトラクター)なのである。それは本質的に主観的だ。というのも、脳の動力学は、現在の入力を過去の記憶、未来の目標から成る布地へと織り込み、それを通して生の感覚入力に個人の経験の層を付与するからである。
 それによって出現するのは、「想起された現在」、すなわち残存する記憶と未来の予測によって厚みを増し、常時一人称的な観点を外界に投影する、今ここについてのその人独自の暗号体系(サイファー)だ。これこそが、意識的な心の世界なのである。
 この絶妙な生物機械は、あなたの脳の内部でたった今も作動している。本書を閉じて自己の存在を改めて見つめ直そうとしているこの瞬間にも、点火したニューロンの集合の活動が、文字通りあなたの心を作り上げるのだ。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第7章 意識の未来,紀伊國屋書店(2015),pp.367-368,高橋洋(訳))
(索引:)

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