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2021年11月27日土曜日

一枚の雪片が形成されるときでさえ、廃棄すべき熱が発生し、 宇宙のエントロピーを増やしていく。生物の進化において、新しくより複雑な有機体が登場するのは、物理的、 生物学的に、破壊をもたらす作用が起こったあとである。(ポール・デイヴィス(1946-))

系統だった複雑さと、エントロピー

一枚の雪片が形成されるときでさえ、廃棄すべき熱が発生し、 宇宙のエントロピーを増やしていく。生物の進化において、新しくより複雑な有機体が登場するのは、物理的、 生物学的に、破壊をもたらす作用が起こったあとである。(ポール・デイヴィス(1946-))


「私は著書『宇宙の青写真』の中で、宇宙では熱力学の第二法則と並んで、「複雑さを 増す法則」のようなものが働いているのではないかと提言している。これら二つの法則 は完全に両立する。つまり、物理系の系統的な複雑さが増せば、エントロピーも増大す る。たとえば、生物の進化において、新しくより複雑な有機体が登場するのは、物理的、 生物学的に、破壊をもたらす作用が起こったあとである (適応できなかった突然変異体 が早死にするように)。 一枚の雪片が形成されるときでさえ、廃棄すべき熱が発生し、 宇宙のエントロピーを増やしていく。だが、すでに説明したように、系統はエントロピ と対になるものではないから、相殺取引は直接行なわれるわけではない。

 多くの研究者が同様の結論に達しており、複雑さの「第二法則」を確立する試みがな されていることは、私にとって非常に心強い。 熱力学の第二法則と両立しうるとはいえ、 この複雑さの法則による宇宙の変化はまったく異なる様相を呈しており、宇宙は特徴の ない始まりから、より精緻で複雑な状態へ 「進んでいる」(これまで簡単に述べた研究を踏まえれば、これがある意味で厳密な言い方だ)と考える。 宇宙の終わりという文脈で考えると、複雑さを増していく法則の存在は大きな意味を もつ。 系統だった複雑さがエントロビーに対立するものでないなら、宇宙に蓄えられて 複雑さが進む のを推進している有限のエントロピーが、複雑さのレベルに制限を課する必要はない。 このことで支払われるエントロビーの代償は、純粋に二次的なものであり、ただ秩序だてた り情報を処理したりする場合のように根本的なものではない。われわれの子孫は、減り つづける資源を浪費することなく、系統だった複雑さを増大させることができる。処理 する情報量には制限があるかもしれないが、精神的、身体的な活動の豊かさや質には何 の制限もない。

 本章では、宇宙の姿を垣間見てきた。宇宙は衰退していくけれども、完全に停止する わけではない。SFに出てくる奇妙な生命体が、つねに不利になるようしくまれた状況 に逆らい、熱力学の第二法則の容赦ない論理に自らの頭脳で挑戦しつつ、長きにわたり 細々と営みをつづけていく様子も説明した。 彼らのせっぱつまった、しかしかならずし も無駄ではない戦いに、心をかきたてられる読者もいれば、落ちこむ読者もいるだろう。 私自身の感情はその二つが混ざりあっている。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『最後の3分間』,8 普通車線の生命,pp.178-179,草思社,1995,出口修至)


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2021年11月14日日曜日

27.痕跡とは何か。その一つは、何かが動くのをやめ、エネルギーが熱に劣化する不可逆的な過程に伴うものだ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

痕跡とは何か

痕跡とは何か。その一つは、何かが動くのをやめ、エネルギーが熱に劣化する不可逆的な過程に伴うものだ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

「過去にエントロピーが低かったという事実から、ある重大な事実が導かれる。過去と未来 の違いにとってきわめて重要で、至るところにある事実――それは、過去が現在のなかに痕跡を 残すということだ。  痕跡は、どこにでもある。月のクレーターは、過去の衝突を物語っている。化石は、はるか 昔に生きていた生物の形を教えてくれる。望遠鏡は、遠く離れた銀河がかつてどのようであっ たかを見せてくれる。書籍はわたしたちの過去の歴史を語り、わたしたちの脳には、記憶が ぎっしり詰まっている。  過去の痕跡があるのに未来の痕跡が存在しないのは、ひとえに過去のエントロピーが低かっ たからだ。ほかに理由はない。なぜなら過去と未来の差を生み出すものは、かつてエントロピーが低かったという事実以外にないからだ。  痕跡に残すには、何かが止まる、つまり動くのをやめる必要がある。ところがこれは非可逆 的な過程で、エネルギーが熱へと劣化するときに限って起きる。こうしてコンピュータは熱を 持ち、頭は熱を持ち、月に落ちた隕石は月を熱し、ベネディクト修道院の中世初期の羽根ペン までが、文字が書かれるページを少しだけ温める。熱が存在しない世界では、すべてがしなや かに弾み、なんの痕跡も残らない。  過去の痕跡が豊富だからこそ、「過去は定まっている」というお馴染みの感覚が生じる。未 来に関しては、そのような痕跡がいっさいないので、「未来は定まっていない」と感じる。痕 跡が存在するおかげで、わたしたちの脳は過去の出来事の広範な地図を作り出すことができ る。だが、未来の出来事の地図は作れない。この事実から、自分たちはこの世界で自由に動け る、たとえ過去には働きかけられなくても、さまざまな未来のどれかを選ぶことができる、と いう印象が生まれる。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第3部 時間の源へ,第11章 対称性から生じるもの,pp.163-164,NHK出版(2019),冨永星(訳)) 








時間は存在しない [ カルロ・ロヴェッリ ]




2021年11月13日土曜日

25.世界で出来事が生じるのは、あらゆるものが抗いがたくかき混ぜられ、いくつかの秩序ある配置が無数の無秩序な配置へと向かうからだ。全ては、宇宙の始まりの低いエントロピーを糧とする崩壊の過程である。太陽は低いエントロピーの豊かな源泉であり、生命も自己組織化された無秩序化過程なのである。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

エントロピー

世界で出来事が生じるのは、あらゆるものが抗いがたくかき混ぜられ、いくつかの秩序ある配置が無数の無秩序な配置へと向かうからだ。全ては、宇宙の始まりの低いエントロピーを糧とする崩壊の過程である。太陽は低いエントロピーの豊かな源泉であり、生命も自己組織化された無秩序化過程なのである。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

「生物も同様に、次々に連鎖するいくつもの過程で成り立っている。植物は、光合成を通じ て太陽からのエントロピーが低い光子を貯め込む。動物は、捕食によって低いエントロピーを 得る(エネルギーが手に入りさえすればよいのなら、餌をとる代わりに灼熱のサハラに向かう だろう)。

生体の各細胞には複雑な科学反応網があり、そのなかのいくつもの扉が閉じたり開 いたりすることによって、低いエントロピー資源の増大が可能になる。

分子は、触媒となって 過程を推進したり、制動をかけたりする。そして各過程でエントロピーが増大することで、全 体が機能する。

生命は、エントロピーを増大させるためのさまざまな過程のネットワークなの だ。そしてそれらの過程は、互いに触媒として作用する。

生命はきわめて秩序だった構造を生 み出すとか、局所的にエントロピーを減少させるといわれることが多いが、これは事実ではな い。

単に、餌から低いエントロピーを得ているだけのことで、生命は宇宙のほかの部分同様、 自己組織化された無秩序なのである。」(中略)  

「エネルギーではなくエントロピーが、石を地面にとどめ、この世界を回転させている。宇宙が存在するようになったこと自体が、シャッフルによって一組のトランプの秩序が崩れ ていくような、穏やかな無秩序化の過程なのだ。

何か巨大な手があって、それが宇宙をかき混 ぜているわけではない。宇宙自体が、閉じたり開いたりする部分同士の相互作用を通じて少し ずつ自分をかき混ぜる。

宇宙の広大な領域が、秩序立った配置に閉じ込められたままになって いるが、やがてそのあちこちで新たな回路が開き、そこから無秩序が広がる。 

 この世界で出来事が生じるのは、そして宇宙の歴史が記されていくのは、あらゆるものが抗 いがたくかき混ぜられ、いくつかの秩序ある配置が無数の無秩序な配置へと向かうからだ。宇 宙全体がごくゆっくりと崩れていく山のようなもので、その構造は徐々に崩壊しているのだ。  

ごく小さな出来事からきわめて複雑な出来事まで、すべての出来事を生じさせているのは、 このどこまでも増大するエントロピーの踊り、宇宙の始まりの低いエントロピーを糧とする踊 りであって、これこそが破壊神シヴァの真の踊りなのである。 」

 (カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第3部 時間の源へ,第11章 対称性から生じるもの,pp.160-162,NHK出版(2019),冨永星(訳)) 







時間は存在しない [ カルロ・ロヴェッリ ]




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