カメレオン効果
【カメレオン効果:(a)私たちは、自分の自然発生的な姿勢や動き、癖などを模倣する人に対して、好意を抱く傾向がある。(b)私たちは、他人の模倣をする傾向が強いほど、他人に対する共感傾向も強い。(マルコ・イアコボーニ(1960-))】次の仮説を検証する実験が存在する。
(a) 被験者が他の人たちと作業しているとき、被験者は、被験者の自然発生的な姿勢や動きや癖を模倣する人に対して、より好意を抱く傾向が強い。また、作業の円滑さについても、高い評価をする傾向が強い。
(b) 被験者が、他人の模倣をする傾向が強いほど、他人の感情を気にかけ、共感を覚えやすい傾向が強い。
「チャーランドとバーは次の実験で、「カメレオン効果」の機能の一つに、二人の人間が互いに好意をもつようになる確率を高めることがあるという仮説を検証した。ここでも被験者は、もう一人の参加者のふりをしたサクラが同席する中で写真を選ぶよう求められた。今回与えられた表向きの課題は、被験者とサクラがさまざまな写真の中で見たものをそれぞれ交替に描写することだった。その間ずっと、あるサクラは被験者の自然発生的な姿勢や動きや癖を模倣し、また別のサクラはニュートラルな姿勢を保つことになっていた。このやりとりが終わったところで、被験者は質問票を埋めるよう求められ、もう一人の参加者(すなわちサクラ)をどのくらい気に入ったか、このやりとりがどれぐらい円滑に進んだと思うかを報告した。もう結果は予想がつくだろう。お察しのとおり、サクラに真似されていた被験者は、模倣されていない被験者に比べ、相棒のサクラに対して抱く好意がずっと強かった。さらにやりとりの円滑さについても、サクラに真似されていた被験者は模倣されていない被験者よりも評価を高くつけていた。この実験は明らかに、模倣と「好意」が概して比例することを示している。誰かが自分を真似しているとき、私たちはその人をさらに好きになる傾向があるわけだ。《だから》私たちは自動的に互いを模倣する傾向があるのだろうか?――私はそう思う。
チャートランドとバーによる最後にして最も決定的な実験は、人はカメレオンであればあるほど、他人の感情を気にかける――すなわち共感を覚えやすいという仮説を検証したものだった。この三つめの実験の状況設定は最初の実験と同じで、サクラがわざと顔をこするか足を揺するかしてみせる。ただし今回の実験の新しいところは、被験者に質問票に答えてもらい、そこから被験者の共感傾向を測定できるようになっていることだった。その結果、被験者の示した模倣行動の度合いと被験者の共感傾向には強い相関関係があることが確認された。被験者が顔をこすったり足を揺すったりする動作を真似する傾向が強いほど、その被験者は共感の深い人間である傾向が強かった。この結果からわかるのは、私たちは模倣と擬態を通じて他人の感じることを感じられるということだ。他人の感じることを感じられることによって、他人の感情の状態に思いやりをもって対応できるのである。」
(マルコ・イアコボーニ(1960-),『ミラーニューロンの発見』,第4章 私を見て、私を感じて,早川書房(2009),pp.143-145,塩原通緒(訳))
(索引:カメレオン効果)
(出典:UCLA Brain Research Institute)
「ミラーリングネットワークの好ましい効果であるべきものを抑制してしまう第三の要因は、さまざまな人間の文化を形成するにあたってのミラーリングと模倣の強力な効果が、きわめて《局地的》であることに関係している。そうしてできあがった文化は互いに連結しないため、昨今、世界中のあちこちで見られるように、最終的に衝突にいたってしまう。もともと実存主義的現象学の流派では、地域伝統の模倣が個人の強力な形成要因として強く強調されている。人は集団の伝統を引き継ぐ者になる。当然だろう? しかしながら、この地域伝統の同化を可能にしているミラーリングの強力な神経生物学的メカニズムは、別の文化の存在を明かすこともできる。ただし、そうした出会いが本当に可能であるならばの話だ。私たちをつなぎあわせる根本的な神経生物学的機構を絶えず否定する巨大な信念体系――宗教的なものであれ政治的なものであれ――の影響があるかぎり、真の異文化間の出会いは決して望めない。
私たちは現在、神経科学からの発見が、私たちの住む社会や私たち自身についての理解にとてつもなく深い影響と変化を及ぼせる地点に来ていると思う。いまこそこの選択肢を真剣に考慮すべきである。人間の社会性の根本にある強力な神経生物学的メカニズムを理解することは、どうやって暴力行為を減らし、共感を育て、自らの文化を保持したまま別の文化に寛容となるかを決定するのに、とても貴重な助けとなる。人間は別の人間と深くつながりあうように進化してきた。この事実に気づけば、私たちはさらに密接になれるし、また、そうしなくてはならないのである。」
(マルコ・イアコボーニ(1960-),『ミラーニューロンの発見』,第11章 実存主義神経科学と社会,早川書房(2009),pp.331-332,塩原通緒(訳))
(索引:)
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