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2022年2月9日水曜日

政治的意見を分つ、価値に関する見解の一方は、一切の悪に対する最終的な一つの解決策があり、大多数の人々が有徳で幸福で自由になれるという夢を語る。他方で、人間の気質、才能、ものの見方、願望は永遠に差異を生むので、寛容と均衡によって、人々の間に最大限の共感と理解を促進していくという道を語る。(アイザイア・バーリン(1909-1997))

価値に関する二つの見解

政治的意見を分つ、価値に関する見解の一方は、一切の悪に対する最終的な一つの解決策があり、大多数の人々が有徳で幸福で自由になれるという夢を語る。他方で、人間の気質、才能、ものの見方、願望は永遠に差異を生むので、寛容と均衡によって、人々の間に最大限の共感と理解を促進していくという道を語る。(アイザイア・バーリン(1909-1997))



「現代は、二つの和解させがたい意見の対立を目撃した。一つは、万人に有効な永遠の価値 があることを信じる人々の意見である。すべての人々がまだそれを承認ないし認識していない のは、この最終の目的を理解するだけの道徳的、知的、物質的な能力に欠けているからであ る。歴史の法則そのものの力によって、われわれはその知識にまだ到達していないのかもしれ ない。歴史法則の一つの解釈の仕方によれば、われわれ相互間の関係を歪め、人々を真理にた いして盲目にして、人間生活の合理的組織化を妨げているのは階級闘争である。しかし、いく らかの人々には真理を見抜くだけの進歩は達成された。時が経てば、普遍的解釈がすべての人 にも明らかになるであろう。その時、人類の前史は終わり、真の人間の歴史が始まるであろ う。マルクス主義者と、おそらくはその他の社会主義的で楽観主義的な預言者たちはそう考え ている。人間の気質、才能、ものの見方、願望は永遠に人間の間の差異を生むであろうと断言 する人々は、このような意見を受け容れない。彼らは、画一性は人間を殺し、多様性が許され るだけでなく、むしろ是認され承認されるような開かれた組織の社会でのみ、人間は充実した 生活を送ることができると信じている。広範囲な意見のスペクトラム、J・S・ミルのいう「生 活の実験」という方法がある社会でだけ、人間の可能性がもっとも豊かに展開できる、という のである。そのような社会には、思想と表現の自由があり、見解や意見は互いに衝突する。摩 擦、さらには対立を統制し、破壊と暴力を防ぐための規則があるとしても、その社会では摩擦や対立も許されている。」(中略)  「以上述べた二つの理論は、両立できない。両者は古来の敵対関係にある。両者は、現代的 な装いのもとでは工業組織と人権の対立、官僚的支配と「自分のことは自分でやる」立場の対 立、よい統治と自治の対立、安全と自由の対立として、今日の人類を支配し、一方は他方の抵 抗を受けている。参加的民主主義の要求は、少数派に対する抑圧に転化し、社会的平等を実現 しようとする政策は自己決定の権利を押しつぶし、個人の才能を殺す。しかし、このような価 値の衝突と並んで、古来の夢が根強く生きている。一切の人間の悪にたいする最終的な一つの 解決策があり、ある筈であり、それを発見できるという夢である。革命か平和的な手段かはと もかく、それは確実に到来する。その時には、万人が、あるいは大多数の人々が有徳で幸福、 賢明で善良で自由になるであろう。」(中略)「しかし、究極の価値は互いに両立しないであ ろうし、それが和解させられているような理想の世界という観念が(たんに実践的に不可能と いうだけでなく)観念としても不可能であるという理由で、右の理論は幻想であると信じると すれば、その時には、おそらく人間のなしうる最善のことは、必然的に不安定であるとして も、さまざまな人間集団のさまざまな願望の間に一種の均衡を生み出していくこととなるであ ろう。最小限のところ、その均衡によって人間が互いに他を絶滅させようとするのを阻止し、 できる限り人間が互いに傷つけ合うのを防ぎ、決して完全に実現できないとしても、人間の間 に最大限に実現可能な共感と理解を促進していくことである。」
 (アイザイア・バーリン(1909-1997),『西欧におけるユートピア思想の衰頽』,収録書籍名 『ロマン主義と政治 バーリン選集3』,pp.38-40,岩波書店(1983),福田歓一,河合秀和 (編),河合秀和(訳))

バーリン選集3 ロマン主義と政治 岩波オンデマンドブックス 三省堂書店オンデマンド


アイザイア・バーリン
(1909-1997)




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