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2021年11月24日水曜日

我々の数学的記述能力は、極めて限られている。複雑過ぎて記述できないという限界だけでなく、そもそも数学的記述が存在するのかも不明な事態もある。特異点、時空の崩壊の奥底、無限大の端で、宇宙はどうなっているのか。(ポール・デイヴィス(1946-))

 特異点

我々の数学的記述能力は、極めて限られている。複雑過ぎて記述できないという限界だけでなく、そもそも数学的記述が存在するのかも不明な事態もある。特異点、時空の崩壊の奥底、無限大の端で、宇宙はどうなっているのか。(ポール・デイヴィス(1946-))

「われわれが直面しなければならない事態は、自然界における数学的に簡単な系の貯えがなくなりつ つあるということだ。重力崩壊の彼方の物理学 それがホイラーの「原幾何学」であろうと何であ ろうとは、われわれの数学的記述能力を越えたものである。 その理由は、 数学自身が十分進歩し ていないのか、この事態に対する数学的記述というものがそもそも存在しないのか、どちらかである。 生物科学の分野においては、無数のひじょうに複雑な生命形態や過程に出会う。 そして、そのほ とんどが数学的モデルにのせられない。 でたらめさとか確率が素粒子物理と生物学において大きな役 割をはたす。しかし数学は、生物学をうまくあつかえない。 イヌの行動を予測する方程式とか、ウシ の消化器を記述する項を含む方程式など考えることは、望みがない。 たぶん重力崩壊もこんなものな のだろう。可能性の動物園みたいなものであって、ある現象が生じ、ほかの現象が生じないという論 理的理由がなく、 詳細を予言する方法がない。

 もし特異点が、この種の泥沼にわれわれを導くなら、厳密科学としての物理学の道の終点であろう。 一方、自然を深く探れば探るほど単純になるというのなら、時空の崩壊の奥底、 無限大の端で、 現在の物理よりもっとエレガントで基本的な、新しい物理学を発見すると期待するのも、故のないこ とではない。 これはまたホイラーの予想でもある。彼は書いている。 「いつの日か、ドアが開かれて、 世界の輝ける中心的機構が、その美しさと簡単さとともに、われわれの前に出現するであろう。その 日の到来をめざして、重力崩壊のパラドックスほど希望をもたせるものはない。」 

 未来の新物理学へ向けての道は、無限大の端を越えて続いている。それが何を物語るかは、予想す るだけである。時間・空間は近似的な構造にすぎないことが示されるであろう。量子世界、時間・空 間、物質といったものが混然一体となっている様子が明らかになるであろう。われわれが時空を越え て解析をすることが可能になり、物理宇宙とは違う、どこか別の世界に行きつくことであろう。新物理学は、重力崩壊してどこへ行くのか、裸の特異点から何が出現するのかを、教えてくれる であろう。宇宙はどこから来てどこへ行くのかも教えてくれるかもしれない。 われわれが特異点の挑戦に答えられるなら、こういった事は、すべてわれわれのものになるであう。」


(ポール・デイヴィス(1946-),『無限大の端』,日本語書籍名『ブラックホールの宇宙の崩壊』,第9章 無限大の彼方へ, pp.258-260,岩波現代選書,1983,松田卓也,二間瀬敏史)

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