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2019年11月20日水曜日

生産方法の改良や発明は、生産性を向上させるが、それに劣らず重要な要素がある。それは、租税や土地制度など統治上の改善、また、教育の改善による人々の知性と諸能力、良心と公共心の育成である。(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873))

生産性の向上

【生産方法の改良や発明は、生産性を向上させるが、それに劣らず重要な要素がある。それは、租税や土地制度など統治上の改善、また、教育の改善による人々の知性と諸能力、良心と公共心の育成である。(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873))】
 「随って、苟も生産方法の改良の行われたるときは、必ずや之は収穫逓減の法則に何らかの反対の影響を及ぼさずには置かない。また、このような効果の有るものは、ひとり産業上の改良に止まらない。統治上の改良及び殆どすべての道徳上社会上の改良も亦、やはり右と同様の効果がある。試みに大革命前のフランスの状態を思え。その頃のフランスに於いては、租税は殆どみな勤労階級に課せられ、しかもその徴税ぶりは恰も生産を罰する罰金として租税を徴する如きものであった。また、身体・財産を人に傷害されたとき加害者が高位の者または宮廷の威光の者である場合には、損害の賠償を得られなかった。かような制度を、大革命の暴風は吹き払ってしまったが、この革新は、之をただ労働の生産力の増加という点からのみ見るも、多くの産業上の発明に劣らず有効ではなかったろうか。十分一税の如き農業上の負担にして廃されたるときは、その効果たるや、恰も現存の生産物を得るに要する労働が俄かに十分一だけ節減されたのと同じような効果がある。穀物またはその他の物品をその生産費の最小なる場所にて生産するを防ぐ穀物条例その他の禁止令にして廃止されんか、その効果は生産上の大改良にも劣らぬものがある。なおまた、今まで狩猟またはその他の娯楽用に供されていた沃地が自由に耕作さるる土地となったときは、農業の総生産力は増加することとなる。誰も知っているよういに、イングランドでは救貧法の運用よろしきを得なかったために多大の損害を蒙り、また借地制度の劣悪なためにアイルランドは莫大の損害を蒙り、農業労働は萎靡沈滞してしまった。およそあらゆる改良のうちでも、土地制度及びその法律の改良ほど、労働の生産性に直接影響するものはない。世襲財産の廃止の如き、所有権譲渡の手続きの低廉の如き、その他およそ土地が利用うすき人々の手から利用多き人々の手へ移りゆく傾向を助くるものの如き、任意借地を廃して長期借地の設くる如き、悲惨なアイルランド式小作人制を廃して相当すぐれた小作制を設くる如き、なかんずく農夫をして土地に永く利害を感じさせる如き、およそこれらの改良は、いずれもほんとうの改良にちがいなく、しかもその或るものは、多軸紡績機または蒸気機関の発明にも劣らず偉大なる生産上の改良である。」
(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873),『経済学原理』,第1篇 生産,第12章 土地の生産増加の法則,3 報酬逓減の法則に反する原理。すなわち、生産上の改良の増進,pp.318-319,春秋社(1939),戸田正雄(訳))
 「教育上の改良も亦、右と同様の効果がある。労働者の知能は、労働の生産力の最大要素である。某国は、文明の最もすすんだ国であるが、その労働者の知能の程度が頗る低く、随って生産力の無限の向上を期するには、手だけしかもっていない人々にまず頭脳を与える方法をとるほかない有様である。しかし労働者の注意・節倹・実直も亦、その知能に劣らず重要である。労働者と雇主の間柄が親密であって利害や感情のとけあっていることはなかんずく重要である。いやむしろ、重要たるべしというべきである。何故なら、このような和合の例の実際に存していることを私は知らないからである。精神・人格の向上が産業にも好影響を及ぼすということは、ひとり労働階級の場合にあてはまるのみではない。富裕有閑の階級に於いても、その人々の精神力が増加し教育が質実となり良心・公共心または博愛心が強烈となれば、その場合にはこららの人々は、経済上の手段についても自国の制度習慣についても、有益な改良をつくり促進することになるであろう。」
(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873),『経済学原理』,第1篇 生産,第12章 土地の生産増加の法則,3 報酬逓減の法則に反する原理。すなわち、生産上の改良の増進,pp.319-320,春秋社(1939),戸田正雄(訳))
(索引:生産性の向上,生産方法の改良,発明,統治上の改善,教育の改善)
ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)

(出典:wikipedia
ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「観照の対象となるような事物への知的関心を引き起こすのに十分なほどの精神的教養が文明国家に生まれてきたすべての人に先験的にそなわっていないと考える理由はまったくない。同じように、いかなる人間も自分自身の回りの些細な個人的なことにしかあらゆる感情や配慮を向けることのできない自分本位の利己主義者であるとする本質的な必然性もない。これよりもはるかに優れたものが今日でもごく一般的にみられ、人間という種がどのように作られているかということについて十分な兆候を示している。純粋な私的愛情と公共善に対する心からの関心は、程度の差はあるにしても、きちんと育てられてきた人なら誰でももつことができる。」(中略)「貧困はどのような意味においても苦痛を伴っているが、個人の良識や慎慮と結びついた社会の英知によって完全に絶つことができるだろう。人類の敵のなかでもっとも解決困難なものである病気でさえも優れた肉体的・道徳的教育をほどこし有害な影響を適切に管理することによってその規模をかぎりなく縮小することができるだろうし、科学の進歩は将来この忌まわしい敵をより直接的に克服する希望を与えている。」(中略)「運命が移り変わることやその他この世での境遇について失望することは、主として甚だしく慎慮が欠けていることか、欲がゆきすぎていることか、悪かったり不完全だったりする社会制度の結果である。すなわち、人間の苦悩の主要な源泉はすべて人間が注意を向け努力することによってかなりの程度克服できるし、それらのうち大部分はほとんど完全に克服できるものである。これらを取り除くことは悲しくなるほどに遅々としたものであるが――苦悩の克服が成し遂げられ、この世界が完全にそうなる前に、何世代もの人が姿を消すことになるだろうが――意思と知識さえ不足していなければ、それは容易になされるだろう。とはいえ、この苦痛との戦いに参画するのに十分なほどの知性と寛大さを持っている人ならば誰でも、その役割が小さくて目立たない役割であったとしても、この戦いそれ自体から気高い楽しみを得るだろうし、利己的に振る舞えるという見返りがあったとしても、この楽しみを放棄することに同意しないだろう。」
(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873),『功利主義』,第2章 功利主義とは何か,集録本:『功利主義論集』,pp.275-277,京都大学学術出版会(2010),川名雄一郎(訳),山本圭一郎(訳))
(索引:)

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