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2020年7月28日火曜日

自己実現的人間のパーソナリティ特徴の例:偏見,先入見からの自由/現実の受容/不確かさへの志向/新鮮な評価/創造性/神秘的経験,大洋感情/自律的な価値体系/他者の多様な価値体系の受容/プライバシーの欲求/他者からの自律性(アブラハム・マズロー(1908-1970))

自己実現的人間のパーソナリティ特徴

【自己実現的人間のパーソナリティ特徴の例:偏見,先入見からの自由/現実の受容/不確かさへの志向/新鮮な評価/創造性/神秘的経験,大洋感情/自律的な価値体系/他者の多様な価値体系の受容/プライバシーの欲求/他者からの自律性(アブラハム・マズロー(1908-1970))】

自己実現的人間のパーソナリティ特徴(アブラハム・マズロー(1908-1970))
 (a)受け継がれてきた文化の受け容れ(真理、価値)
  (a.1)問題中心的
   (i)自分と関係のない問題でも心にかけ、幅広い視野を保つことができる。
   (ii)何らかの使命や達成すべき仕事を持っており、それらは人類一般や国家一般の利益に関わる場合が多い。
   (iii)人類全体に対する帰属意識をもつ。
  (a.2)共同社会感情
   (i)人類全般に対して同一感や愛情を持っている。平均的な人々の欠点にいら立ったり、腹を立てたりしながらも、人々に同一感を感じ、人類を助けたいと真剣に願っている。
  (a.3)対人関係
   (i)他者と深い結びつきを形成し、愛情、親密性、献身性を持って付き合う。そしてそれゆえに、友人の範囲はかなり狭い。
   (ii)偽善的でうぬぼれた尊大な人に対しては厳しい態度を持っているが、面と向かってそれを表明したりはしない。
  (a.4)民主的性格構造
   (i)階級や教育程度、政治的信念、人種や皮膚の色などに関係なく誰とでも親しくできる。同じ人間だからという理由だけで、どんな人にもある程度の尊敬を払う。
   (ii)学習関係において、外面的威厳を維持しようとしたり、地位や年齢に伴う威信などを保とうなどとはしない。自分に何かを教えてくれるものを持っている人たちを本当に尊敬し、謙虚になる。道具や技術をうまく使いこなす人たちにも尊敬をささげる。
  (a.5)文化からの自律性
   (i)変化や改善の必要を認め、自分の住む文化からある程度の距離をおくことができる。
   (ii)本質的、内部的には因襲にとらわれないが、つまらないことで人を傷つけたり人と争ったりしたくないため、できるかぎりは慣習どおりに振舞う。

 (b)真理は、経験と理性によって認識することができる
  (b.1)偏見、先入見からの自由
   (i)抽象、期待、信念、固定観念などにとらわれず、現実を正確に知覚し、現実の世界の中に生きることができる。
   (ii)正反対のパーソナリティ特性は、自己防衛機制の「合理化」である。より受け入れられる原因に帰属させることで、あることを受け入れられるようにすること。
  (b.2)現実の受容
   (i)自己、他者、世界を受け入れている。自分自身や他の人々の人間性を、欠点も含めて、ありのままに受け入れることができる。
   (ii)考え深く賢明で、敵意的でないユーモアのセンスをもつ;人間のおかれた状況を笑うが、特定の個人を笑いものにしない。
   (iii)正反対のパーソナリティ特性は、自己防衛機制の「投影」である。 自身の受け入れがたい側面を別の誰かに帰属させること。
  (b.3)不確かさへの志向
   未知のものや不確かなことがあっても快適でいられる。

 (c)自己の情念は概ね頼りになる
  (c.1)自己の情動の自然な受容
   (i)思考や情動において自発的・柔軟的で自然体である。
   (ii)正反対のパーソナリティ特性は、自己防衛機制の「抑圧」である。脅威となる衝動や出来事を、意識の外に追い出し、無意識にすることで、強く抑制すること。
   (iii)また、自己防衛機制の「反動形成」も正反対のパーソナリティ特性である。不安を生みだす衝動を、意識の中で、その逆のものに置き換えること。
  (c.2)絶えず新鮮な評価
   (i)たとえ非常に単純でありふれた経験に対しても、常に新鮮な認識を保つことができる(例:夕暮れ、花、他者に対して)。
   (ii)人生の基本的に必要なことを、繰り返し新鮮に、無邪気に、畏敬や喜びや恍惚感さえもって評価できる。
  (c.3)創造性
   (i)健康な子どもの持つ純真で普遍的な創造性と同種の創造性を持つ。
   (ii)創造的で独創的であり、必ずしも偉大な才能をもたないが、素朴に、常に新鮮さをもってものごとに接することができる。
  (c.4)神秘的経験、大洋感情
   (i)限りなく地平線が開けている感じ、エクスタシーと畏敬の感じ、非常に重要で価値あることが起こったという感じ、などを伴う経験によって力づけられている。
   (ii)強度の集中、無我状態、自己喪失感、自己超越感などのような、神秘的とも言える経験に至る場合もある。

 (d)自己の情念に従うことの是非
  (d.1)自己実現における二分性の解決
   情と知、理性と本能、認知と意欲、仕事と遊び、義務と喜び、成熟と子供っぽさ、親切心と残忍さ、具象と抽象、自己と社会、内向的と外向的、能動的と受動的、男性的と女性的、その他のさまざまな対立性や二分性は解消され、相互に融合し合体して統一体となっている。

 (e)価値も、経験と理性により認識できる
  (e.1)自律的な価値体系
   (i)自己の本質、人間性、多くの社会生活、自然や物質的現実を哲学的に受容することによって、自然に価値体系の確固たる基盤を身につけている。
   (ii)この価値体系の基盤によって、現実との快適な関係、社会感情、満たされた状態、手段と目的との識別などがもたらされる。
   (iii)自律的な倫理規定を持ち、その規定に照らして重要と思えることのためであれば、慣習には従わないこともある。
   (iv)正反対のパーソナリティ特性は自己防衛機制の「昇華」である。社会的に受け入れられる方法で社会的に受け入れられない衝動を表現する。
  (e.2)多様な価値体系の受容
   性別や年齢による差異、身分上の差異、役割上の差異、政治的差異、宗教上の差異などを受容できる価値体系を持っている。

 (f)私たちに依存するものと、依存しないものを区別すること
 (g)意志の自由の存在
 (h)意志決定に伴う情動
  (h.1)超越性、プライバシーの欲求
   (i)孤独やプライバシーを欲する。自分自身の潜在能力や手腕を信頼できる。
   (ii)高い集中力を持ち、極度の集中によって外部環境のことを忘れたりすることがある。
   (iii)比較的少数の他者と非常に深い結びつきを作りあげる。
   (iv)普通の人々からは、冷たい、俗物主義である、愛情が欠如している、友情がない、などと思われることもある。
  (h.2)他者からの自律性
   (i)比較的、外発的な満足に左右されない。例えば、他者からの受容や人気に動かされない。
   (ii)自然環境や社会環境からの独立性を持ち、名誉、地位、報酬、威信、愛、などよりも、自分自身の成長や発展のために、自分自身の可能性や潜在能力を頼みとしている。

《概念図》
┌───────────────┐
│┌────────────┐ │
││┌─────────┐ │ │
│││引き継がれた文化 ← │ │文化
│││ 諸事実・真理  → │ │a1 問題中心的
│││ 諸価値・芸術  │ │ │a2 共同社会感情
│││         │ │ │a3 対人関係
│││         │ │ │a4 民主的性格構造
│││         │ │ │a5 文化からの自律性
│││意識的な動機←─┐│ │ │意識的な動機
│││ 究極目的   ││ │ │e1 自律的な価値体系
│││  ↓     ││ │ │e2 多様な価値体系の受容
│││ 部分目標   ││ │ │
│││  └───┐ ││ │ │
│││      │情動←── │情動
│││      │ │ ─→ │c1 自己の情動の自然な受容
│││      │ ││ │ │c2 絶えず新鮮な評価
│││      │←┤│ │ │c3 創造性
│││      │ ││ │ │c4 神秘的経験、大洋感情
│││環境(状況)←─┤│ │ │環境(状況)
│││ 過去・現在│ ││ │ │b1 偏見、先入見からの自由
│││ 予測・規範│←┘│ │ │b2 現実の受容
│││  │┌──┘  │ │ │b3 不確かさへの志向
│││  ↓↓ 分離的←─── │
│││意志決定 特殊的 │ │ │d1 自己実現における二分性の解決
│││計画││ 反応  │ │ │意志決定
│││ ↓↓↓ ↓   │ │ │h1 超越性、プライバシーの欲求
│││行為・行動・反応 │ │ │h2 他者からの自律性
││└─────────┘ │ │
││文化(特殊的、局所的) │ │
│└────────────┘ │
│生体の状態(身体)      │
│ 多数の欲求、複数の動機   │
│ 欲求の優先度の階層     │
│ 無意識的な動機(根本的)  │
│ 局所的に見られた「動因」  │
└───────────────┘

(出典:wikipedia
アブラハム・マズロー(1908-1970)の命題集(Propositions of great philosophers)
「1 現実を正確に、効果的に知覚することができる。
2 自己、他者、世界を受け入れている。
3 特に、思考や情動において自発的・柔軟的で自然体である。
4 問題中心的:自分と関係のない問題でも心にかけ、幅広い視野を保つことができる。
5 孤独やプライバシーを欲する。自分自身の潜在能力や手腕を信頼できる。
6 自律性:比較的、外発的な満足に左右されない。例えば、他者からの受容や人気に動かされない。
7 たとえ非常に単純でありふれた経験に対しても、常に新鮮な認識を保つことができる(例:夕暮れ、花、他者に対して)。
8 神秘的または茫然とした感覚を体験する。そこでは、現実の時と場所を離れ、自然と一体化した感覚をもつ。
9 人類全体に対する帰属意識をもつ。
10 比較的少数の他者と非常に深い結びつきを作りあげる。
11 真に民主主義的である。すべての人に対して偏見をもたず、敬意をもつ。
12 倫理的であり、手段と結果を分けて考えることができる。
13 考え深く賢明で、敵意的でないユーモアのセンスをもつ;人間のおかれた状況を笑うが、特定の個人を笑いものにしない。
14 創造的で独創的であり、必ずしも偉大な才能をもたないが、素朴に、常に新鮮さをもってものごとに接することができる。
15 変化や改善の必要を認め、自分の住む文化からある程度の距離をおくことができる。」
(ウォルター・ミシェル(1930-2018),オズレム・アイダック,ショウダ・ユウイチ『パーソナリティ心理学』第Ⅴ部 現象学的・人間性レベル、第13章 内面へのまなざし、p.423、培風館 (2010)、黒沢香(監訳)・原島雅之(監訳))
(索引:)
「マズローは、自己実現について「自己実現を大まかに、才能、能力、可能性をじゅうぶんに用い、また開発していることと説明しておこう。このような人々は、自分自身を完成し、自分のできるかぎりの最善を尽くしているように見え、ニーチェの「汝自身たれ」という訓戒を思い起こさせる。彼らは自分たちの到達できる最も高度の状態へ達し、また発展しつつある人々である。」(『人間性の心理学』p.225)と述べ、このような基準に適うとマズローが認めた自己実現的人間のパーソナリティ特徴を記述していった。マズローの著書『人間性の心理学』によれば、その特徴とは次のようなものである。
(現実をより有効に知覚し、それと快適な関係を保つこと)
・ 抽象、期待、信念、固定観念などにとらわれず、現実を正確に知覚し、現実の世界の中に生きることができる。未知のものや不確かなことがあっても快適でいられる。
(受容)
・ 自分自身や他の人々の人間性を、欠点も含めて、ありのままに受け入れることができる。
(自発性)
・ 行動が自発的であり、内面、思考、衝動などにおいてさらに自発的である。本質的、内部的には因襲にとらわれないが、つまらないことで人を傷つけたり人と争ったりしたくないため、できるかぎりは慣習どおりに振舞う。自律的な倫理規定を持ち、その規定に照らして重要と思えることのためであれば、慣習には従わないこともある。
(問題中心的)
・ 自分自身の問題よりも、自分自身の外の問題に強い集中を示す。何らかの使命や達成すべき仕事を持っており、それらは人類一般や国家一般の利益に関わる場合が多い。
(超越性――プライバシーの欲求)
・ 孤独でいても、不快になることはなく、平均的な人々よりも孤独やプライバシーを好む。
・ 高い集中力を持ち、極度の集中によって外部環境のことを忘れたりすることがある。
・ 普通の人々からは、冷たい、俗物主義である、愛情が欠如している、友情がない、などと思われることもある。
(自律性――文化と環境からの独立)
・ 自然環境や社会環境からの独立性を持ち、名誉、地位、報酬、威信、愛、などよりも、自分自身の成長や発展のために、自分自身の可能性や潜在能力を頼みとしている。
(評価が絶えず新鮮であること)
・ 人生の基本的に必要なことを、繰り返し新鮮に、無邪気に、畏敬や喜びや恍惚感さえもって評価できる。
(神秘的経験――大洋感情)
・ 限りなく地平線が開けている感じ、エクスタシーと畏敬の感じ、非常に重要で価値あることが起こったという感じ、などを伴う経験によって力づけられている。強度の集中、無我状態、自己喪失感、自己超越感などのような、神秘的とも言える経験に至る場合もある。
(共同社会感情)
・ 人類全般に対して同一感や愛情を持っている。平均的な人々の欠点にいら立ったり、腹を立てたりしながらも、人々に同一感を感じ、人類を助けたいと真剣に願っている。
(対人関係)
・ 他者と深い結びつきを形成し、愛情、親密性、献身性を持って付き合う。そしてそれゆえに、友人の範囲はかなり狭い。
・ 偽善的でうぬぼれた尊大な人に対しては厳しい態度を持っているが、面と向かってそれを表明したりはしない。
(民主的性格構造)
・ 階級や教育程度、政治的信念、人種や皮膚の色などに関係なく誰とでも親しくできる。同じ人間だからという理由だけで、どんな人にもある程度の尊敬を払う。
・ 自分に何かを教えてくれるものを持っている人からは、その人の性質がどうであれ、何かを学ぶことができることを知っている。そのような学習関係において、外面的威厳を維持しようとしたり、地位や年齢に伴う威信などを保とうなどとはしない。自分に何かを教えてくれるものを持っている人たちを本当に尊敬し、謙虚になる。道具や技術をうまく使いこなす人たちにも尊敬をささげる。
(創造性)
・ 健康な子どもの持つ純真で普遍的な創造性と同種の創造性を持つ。特殊な才能を持つ人に見られる独自性の高い創造性ではなく、すべての人間に生まれながらに与えられた可能性のようなものであり、その人が従事している活動に何らかの影響を与える。
(価値と自己実現)
・ 自己の本質、人間性、多くの社会生活、自然や物質的現実を哲学的に受容することによって、自然に価値体系の確固たる基盤を身につけている。この価値体系の基盤によって、現実との快適な関係、社会感情、満たされた状態、手段と目的との識別などがもたらされる。
・ 平均的な人々にしみこんでいる本質的でない道徳、倫理、価値ではなく、性別や年齢による差異、身分上の差異、役割上の差異、政治的差異、宗教上の差異などを受容できる価値体系を持っている。
(自己実現における二分性の解決)
・ 情と知、理性と本能、認知と意欲、仕事と遊び、義務と喜び、成熟と子供っぽさ、親切心と残忍さ、具象と抽象、自己と社会、内向的と外向的、能動的と受動的、男性的と女性的、その他のさまざまな対立性や二分性は解消され、相互に融合し合体して統一体となっている。」
(出典:マズローの自己実現論の全体像について(石田潤,2020))
(索引:石田潤,1908-1970_アブラハム・マズロー)

※ 自己実現とは正反対のパーソナリティ特性として、自己防衛機制についても、同じ概念軸への整理を試みる。
機制 定義
抑圧 脅威となる衝動や出来事を、意識の外に追い出し、無意識にすることで、強く抑制すること。 罪悪感を生む性的願望を「忘れる」。
投影 自身の受け入れがたい側面を別の誰かに帰属させること。 自分の受け入れがたい性的衝動を上司に帰属させる。
反動形成 不安を生みだす衝動を、意識の中で、その逆のものに置き換えること。 受け入れがたい憎しみの感情を愛情に変える。
合理化 より受け入れられる原因に帰属させることで、あることを受け入れられるようにすること。 攻撃的な行為を怒りの感情ではなく、働きすぎのせいにする。
昇華 社会的に受け入れられる方法で社会的に受け入れられない衝動を表現する。 他人を傷つけたくて兵士になる;肛門願望を満足させるために配管工になる。
(ウォルター・ミシェル(1930-2018),オズレム・アイダック,ショウダ・ユウイチ『パーソナリティ心理学』第Ⅲ部 精神力動的・動機づけレベル、第9章 フロイト後の精神力動論、p.271、培風館 (2010)、黒沢香(監訳)・原島雅之(監訳))

2020年7月23日木曜日

パーソナリティは、目的に貢献するような互いに強化し合う諸部分から構成され、変化に対する抵抗性と復元性を持つ。ときに、変化による矛盾回避のため影響が全体に及ぶ場合もあるが、逆に元の傾向を極端化させる場合もある。(アブラハム・マズロー(1908-1970))

パーソナリティ症候群の諸特徴

【パーソナリティは、目的に貢献するような互いに強化し合う諸部分から構成され、変化に対する抵抗性と復元性を持つ。ときに、変化による矛盾回避のため影響が全体に及ぶ場合もあるが、逆に元の傾向を極端化させる場合もある。(アブラハム・マズロー(1908-1970))】
パーソナリティ症候群の諸特徴
(1)互換性
 一つの症候群に属する諸部分(各症状)は同じ目的を有するゆえに,部分間の代替可能性があること。
(2)循環的決定
 ホーナイの悪循環概念にみられるように,一つの部分は他のすべての部分に影響を与えると同時に,他のすべての部分からも影響を受けるという循環的な動きが総体的に進行すること。
(3)変化への抵抗性
 例えば,健康であろうとなかろうと,大きな外界の変化があっても,従来の生活スタイルに固執することがよく見られること。
(4)変化に対する復元傾向
 ショックを受けたとしても,それが慢性的でない限り,その影響は通例一時的なもので終わり,元の状態に復元しようとする自発的な調整が見られること。
(5)変化が全体的に及ぶ傾向
 症候群の一部分が変化すると,付随して他の部分も同じ方向で変化するので,症候群の変化はホーリスティックに起きることが多いこと。
(6)内的無矛盾性への傾向
 症候群の中で他の部分と矛盾する部分がある場合には,しばしばその部分を他の諸部分と同じ方向に引き込む作用が働くこと。
(7)極端化傾向
 自己保存の傾向とは逆の変化が増大する場合のことで,(6)の傾向のもと,不安定な人は極端に不安定となり,安定的な人は極端に安定的となる場合がよく見られること。
(8)外的状況による変化
 症候群は外的状況からは孤立していないところから,それに対して反応し変化する場合が多いこと。
(9)症候群の変数の重要性
 最も重要で明白な研究上の変数は症候群のレベルにあること。例えば,自尊心の強い場合と弱い場合に分けたり,精神的に安定している場合と不安定の場合に分けたりして,症候群の質を考察すること。
(10)症候群の表出は文化によって決定されること
 人が生活上の主要な目標を達成する方法は,多くの場合,その人が所属する文化の型に依存し,例えば,自尊心や愛情の表現は所属する文化によって承認された方法を通じて行われるということ。ここには,文化人類学の影響がみられる。

《概念図》
(1)互換性
 部分1→目的
  │
  │
 部分2→目的
(2)循環的決定
    強化
 部分1─→部分2┐
  ↑      │
  └──────┘
    強化
(3)変化への抵抗性、(4)復元性、(8)外的状況による変化
   外的状況
    │
    ↓変化
 部分1→部分1’→目的達成不可
  ↑  ││
  └──┘└→部分1”→目的達成
   復元   変化
(5)変化が全体的に及ぶ傾向
 部分1─→部分2─→部分3─→部分4
    影響   影響   影響
(6)内的無矛盾性への傾向
   外的状況
    │
    ↓変化 矛盾
 部分1→部分1’⇔部分2
      │
      ↓矛盾回避
     部分1”─→部分2
      ↑ 整合 │
      └────┘
(7)極端化傾向
   外的状況
    │
    ↓変化 矛盾
 部分1→部分1’⇔部分2
  ↑   │矛盾回避
  └───┘
  極端化
(9)症候群の変数の重要性
 最も重要で明白な研究上の変数は症候群のレベルにあること。例えば,自尊心の強い場合と弱い場合に分けたり,精神的に安定している場合と不安定の場合に分けたりして,症候群の質を考察すること。
(10)症候群の表出は文化によって決定されること
《概念図》
┌───────────────┐
│┌────────────┐ │
││┌─────────┐ │ │
│││意識的な動機   ← │ │
│││ 究極目標(目的)→ │ │
│││  ↓      │ │ │
│││ 部分目標(手段)│ │ │
│││  └───┐  ←── │
│││環境(状況)│  ──→ │
│││ 過去・現在│  │ │ │
│││ 予測・規範│  │ │ │
│││  │┌──┘  │ │ │
│││  ││ 分離的←─── │
│││  ││ 特殊的 │ │ │
│││  ││ 反応  │ │ │
│││  ↓↓ ↓   │ │ │
│││ 反応・行動   │ │ │
││└─────────┘ │ │
││文化(特殊的、局所的) │ │
│└────────────┘ │
│生体の状態(身体)      │
│ 多数の欲求、複数の動機   │
│ 欲求の優先度の階層     │
│ 無意識的な動機(根本的)  │
│ 局所的に見られた「動因」  │
└───────────────┘

(出典:wikipedia
アブラハム・マズロー(1908-1970)の命題集(Propositions of great philosophers)
「第4節では,前節を受けて,パーソナリティの部分としての症候群は如何なる特質を有するのかが示される。すなわち,「パーソナリティ症候群の諸特徴(Characteristics of Personality Syndromes)〔1954年著書では副題:「症候群の力動性(Syndrome Dynamics)」が付加〕」として,次の10点が列挙されている)。
(1)「互換性(interchangeability)」;一つの症候群に属する諸部分(各症状)は同じ目的を有するゆえに,部分間の代替可能性があること。
(2)「循環的決定(circular determination)」;ホーナイの悪循環概念にみられるように,一つの部分は他のすべての部分に影響を与えると同時に,他のすべての部分からも影響を受けるという循環的な動きが総体的に進行すること。
(3)「十分に組織化された症候群は変化に抵抗し自己を保存する傾向のあること(tendency of the well organized syndrome to resist change or to maintain itself)」;例えば,健康であろうとなかろうと,大きな外界の変化があっても,従来の生活スタイルに固執することがよく見られること。
(4)「十分に組織化された症候群は変化を経た後,再確立させる傾向のあること(tendency of the well organized syndrome to reestablish itself after change)」;ショックを受けたとしても,それが慢性的でない限り,その影響は通例一時的なもので終わり,元の状態に復元しようとする自発的な調整が見られること。
(5)「症候群は全体的に変化する傾向のあること(tendency of the syndrome to change as a whole)」;症候群の一部分が変化すると,付随して他の部分も同じ方向で変化するので,症候群の変化はホーリスティックに起きることが多いこと。
(6)「内的無矛盾性への傾向(the tendency to internal consistency)」;症候群の中で他の部分と矛 盾する部分がある場合には,しばしばその部分を他の諸部分と同じ方向に引き込む作用が働くこと。
(7)「症候群レベルが極端化する傾向(the tendency to extremeness of the syndrome level)」;自己保存の傾向とは逆の変化が増大する場合のことで,(6)の傾向のもと,不安定な人は極端に不安定となり,安定的な人は極端に安定的となる場合がよく見られること。
(8)「症候群が外的圧力によって変化する傾向(tendency of the syndrome to change under external pressures)」;症候群は外的状況からは孤立していないところから,それに対して反応し変化する場合が多いこと。
(9)「症候群の変数(syndrome variables)」;最も重要で明白な研究上の変数は症候群のレベルにあること。例えば,自尊心の強い場合と弱い場合に分けたり,精神的に安定している場合と不安定の場合に分けたりして,症候群の質を考察すること。
(10)「症候群の表出は文化によって決定されること(cultural determination of syndrome expres-sion)」;人が生活上の主要な目標を達成する方法は,多くの場合,その人が所属する文化の型に依存し,例えば,自尊心や愛情の表現は所属する文化によって承認された方法を通じて行われるということ。ここには,文化人類学の影響がみられる。
(出典:パーソナリティ研究におけるマズローの基本視座(三島斉紀,河野昭三,2010))
(索引:パーソナリティ症候群の諸特徴.三島斉紀,河野昭三,1908-1970_アブラハム・マズロー)

動機は、人間の統合的全体性の観点から解明される。すなわち、階層づけられた多数の無意識的な欲求に基盤を持ち、文化的な環境と相互作用する意識的な目標と、力動的に解釈された環境との相互作用から人間の行動が理解できるだろう。(アブラハム・マズロー(1908-1970))

動機の理論

【動機は、人間の統合的全体性の観点から解明される。すなわち、階層づけられた多数の無意識的な欲求に基盤を持ち、文化的な環境と相互作用する意識的な目標と、力動的に解釈された環境との相互作用から人間の行動が理解できるだろう。(アブラハム・マズロー(1908-1970))】

(1)生体の統合的全体性が再び強調されなくてはならない。
(2)局所的,身体的,部分的な動因を動機理論のパラダイムとしてはならない。
(3)動機研究で強調すべきことは,部分目標よりは究極目標,また手段よりは目的にある。意識的な動機だけでなく無意識的な動機が,動機理論の出発点となるべきである。
(4)通例,一つの目標に到達するのに文化的に異なった経路がある。それゆえ,動機理論の構築にあたり,根本的で無意識的な目標の方が,意識的で特殊的・局所的な願望よりも有益である。
(5)動機づけられた行動は,事前的であれ完了的であれ,多数の欲求が表明または充足され得る一つの経路であると理解されなくてはならない。通常の行為は,複数の動機から生じている。
(6)生体の状態の殆どすべては,動機づけられていると理解されるべきである。
(7)人間は常に何かを欲している動物である。一つの欲求が現出するかどうかは,直前の状況すなわち他の優勢な諸欲求がどのような状況にあるかに依存する。欲求や願望は優勢度のヒエラルキーの下で配列されている。
(8)個別の動因をいくら列挙しても無意味である。動機の分類を行うのであれば,分類のレベルや特殊性についての問題を取り扱う必要がある。
(9)動機の分類は,駆動因よりも目標に基づいてなされなくてはならない。
(10)動機理論は,動物を中心にするのではなく,人間を中心として形成されるべきである。
(11)生体が反応する状況や場が考慮されなくてはならないが,その際,状況や場について力動的な解釈が伴われなくてはならない。
(12)生体の統合的な在り方だけでなく,分離的,特殊的,部分的な反応行動も考慮されなくてはならない。

《概念図》(1)(10)
┌───────────────┐
│┌────────────┐ │
││┌─────────┐ │ │
│││意識的な動機   ← │ │
│││ 究極目標(目的)→ │ │(3)(9)
│││  ↓      │ │ │
│││ 部分目標(手段)│ │ │
│││  └───┐  ←── │
│││環境(状況)│  ──→ │(11)
│││ 過去・現在│  │ │ │
│││ 予測・規範│  │ │ │
│││  │┌──┘  │ │ │
│││  ││ 分離的←─── │(12)
│││  ││ 特殊的 │ │ │
│││  ││ 反応  │ │ │
│││  ↓↓ ↓   │ │ │
│││ 反応・行動   │ │ │
││└─────────┘ │ │
││文化(特殊的、局所的) │ │(4)
│└────────────┘ │
│生体の状態(身体)      │(6)
│ 多数の欲求、複数の動機   │(5)
│ 欲求の優先度の階層     │(7)(8)
│ 無意識的な動機(根本的)  │(3)
│ 局所的に見られた「動因」  │(2)
└───────────────┘

(出典:wikipedia
アブラハム・マズロー(1908-1970)の命題集(Propositions of great philosophers)
「他方,1943年の第1番目の発表論文「動機理論序説」では,基本欲求の階層性と自己実現欲求について萌芽的な記述がみられる。この論文は,従来の心理学の研究方法論について疑問を提起し,今後自らが目指すべき心理学(健全な心理学sound motivation theory と称した)の要件として,次の12命題(1954年以降では16命題に増加)を指摘している)。
(1)生体の統合的全体性(the integrated wholeness of the organism)が再び強調されなくてはならない。
(2)局所的,身体的,部分的な動因(drive)を動機理論のパラダイムとしてはならない。
(3)動機研究で強調すべきことは,部分目標よりは究極目標(ultimate goals),また手段よりは目的(ends)にある。意識的な動機だけでなく無意識的な動機(unconscious motivations)が,動機理論の出発点となるべきである。
(4)通例,一つの目標に到達するのに文化的に異なった経路(different cultural paths)がある。それゆえ,動機理論の構築にあたり,根本的で無意識的な目標(fundamental, unconscious goals)の方が,意識的で特殊的・局所的な願望よりも有益である。
(5)動機づけられた行動は,事前的であれ完了的であれ,多数の欲求(many needs)が表明または充足され得る一つの経路(a channel)であると理解されなくてはならない。通常の行為は,複数の動機(more than one motivation)から生じている。
(6)生体の状態の殆どすべては,動機づけられていると理解されるべきである。
(7)人間は常に何かを欲している動物(a perpetually wanting animal)である。一つの欲求が現出するかどうかは,直前の状況すなわち他の優勢な諸欲求がどのような状況にあるかに依存する。欲求や願望は優勢度のヒエラルキー(hierarchies of prepotency)の下で配列されている。
(8)個別の動因をいくら列挙しても無意味である。動機の分類を行うのであれば,分類のレベルや特殊性についての問題を取り扱う必要がある。
(9)動機の分類は,駆動因よりも目標に基づいてなされなくてはならない。
(10)動機理論は,動物を中心にするのではなく,人間を中心として形成されるべきである。
(11)生体が反応する状況や場が考慮されなくてはならないが,その際,状況や場について力動的な解釈が伴われなくてはならない。
(12)生体の統合的な在り方だけでなく,分離的,特殊的,部分的な反応行動も考慮されなくてはならない。」
(出典:パーソナリティ研究におけるマズローの基本視座(三島斉紀,河野昭三,2010))
(索引:動機の理論.三島斉紀,河野昭三,1908-1970_アブラハム・マズロー)

2020年5月27日水曜日

(a)成長欲求(a1)自己実現欲求(真,善,美,躍動,必然,秩序,個性,完成,単純,完全,正義,豊富,自己充実,無礙,楽しみ,意味)(b)基本的欲求(b1)自尊心,他者による尊厳の欲求(b2)愛と集団帰属の欲求(b3)安全と安定の欲求(b4)生理的欲求(アブラハム・マズロー(1908-1970))

マズローの欲求の階層

【(a)成長欲求(a1)自己実現欲求(真,善,美,躍動,必然,秩序,個性,完成,単純,完全,正義,豊富,自己充実,無礙,楽しみ,意味)(b)基本的欲求(b1)自尊心,他者による尊厳の欲求(b2)愛と集団帰属の欲求(b3)安全と安定の欲求(b4)生理的欲求(アブラハム・マズロー(1908-1970))】

(1)成長欲求(存在価値)
 (1.1)自己実現欲求
  (a)自己の人生の最大の希望がかなえられ,自己の可能性が最高に発揮できる。
  (b)「成長欲求はすべて同等の重要さをもつ(階層的ではない)」(マズロー)
  (c)自己実現を達するための存在価値(成長欲求)のリスト
   真、善、美
   躍動、必然、秩序
   個性、完成、単純
   完全、正義、豊富
   自己充実、無礙、楽しみ
   意味
  (d)審美的欲求(ヒルガードの心理学)
    調和、秩序、美しさ
  (e)認知の欲求(ヒルガードの心理学)
    知ること、理解すること、探究すること
(2)基本的欲求(欠乏欲求)
 「成長欲求と欠乏欲求は質的相違があり,欠乏欲求が成長欲求の必要条件となる」
 (2.1)自尊心・他者による尊厳の欲求
  (a)自尊心
   自己尊重の欲求
  (b)他者による尊厳
   承認の欲求(ヒルガードの心理学)
    価値ある人間として認められたいという欲求
 (2.2)愛と集団帰属の欲求
  受け入れられること。所属すること。
 (2.3)安全と安定の欲求
  危険から保護され安全でなければならず
 (2.4)生理的欲求
  空気、水、食物、庇護、睡眠、性
(3)以下は、マズローが抽出した欲求の分類の提案である。分類は、以下の仮説に従っている。すなわち、欲求とは、想起、想像、理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。なお、人間の場合には、情動喚起刺激の種類によって、以下のような幾つかの特徴的な情動が生じる。
 (3.1)驚き、恐怖の様相
  帰属価値:意味、真、必然、単純
  認知の欲求
  安全と安定の欲求
 (3.2)快、不快の様相
  (a)外的対象、快、嫌悪
   帰属価値:美、秩序、完全、豊富
   審美的欲求
  (b)自己状態、喜び、悲しみ
   帰属価値:善、無礙、楽しみ
   安全と安定の欲求
  (c)自己行為の自己評価、内的自己満足、後悔
   帰属価値:正義、善、自己充実、躍動、完成、個性
   自己尊重の欲求
  (d)自己行為の他者評価、誇り、恥
   帰属価値:正義、善
   承認の欲求
  (e)他者状態、喜び、憐れみ
   帰属価値:善
  (f)他者行為、好意、憤慨
   帰属価値:正義、善
  (g)自己向け他者行為、感謝、怒り
   帰属価値:正義、善
   愛と集団帰属の欲求
  (h)身体ないしその一部に関係づける知覚としての、飢え、渇き、その他の自然的欲求
   生理的欲求:空気、水、食物、庇護、睡眠、性
 (3.3)マズローの欲求の階層の新解釈
  基礎的な欲求の対象(情動の対象)から順に列挙すると、以下の通りである。
  (a)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
  (b)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(安全と安定の欲求)
  (c)自己向け他者行為の快・不快(愛と集団帰属の欲求)
  (d)自己行為の他者評価の快・不快(承認の欲求)
  (e)自己行為の自己評価の快・不快(自己尊重の欲求)
  (f)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)

(出典:wikipedia
アブラハム・マズロー(1908-1970)の命題集(Propositions of great philosophers)
 「沢は,基本的欲求の階層を 5 段階と説明したが,なぜかその階層図は 6 段階に描かれていた。すなわち,この階層図においては,自己実現の欲求が長方形で囲まれ 6段階目に位置づけられていた。このため,このモデルは初学者にとって分かりにくいものになってしまった。その基本的欲求の階層図をもとに,沢は概ね次の説明を加えた(図4)。
「マズローは,人間の欲求を 5 つに分類し,それらを段階的に並べ,より上位の欲求が満たされるためにはあらかじめその下段に位置する欲求が満たされていなければならないと述べている。第一段の生理的欲求は,生存するために必須の条件であるので,他の条件より先行している。次に必要とされるのは生命の安全と保障と保護である。私たちは生活のなかで常に危険から保護され安全でなければならず,そのことを実感している必要がある。次は愛と帰属(所属)の欲求である。どんなに衣食住の生理的欲求が満たされ安全が保障されていても,愛もしくは愛情が注がれていなければ人間は安定して平和に生活できない。次の段階の欲求は尊敬(尊重)である。私たちは家庭においても社会においても価値ある人間として認められたいという「自己尊重」もしくは「尊敬されること」を欲求しているはずである。そして,最上位の欲求として自己実現があり,これは自己の人生の最大の希望がかなえられ,自己の可能性が最高に発揮できる段階である。この段階は生涯の最大の幸せなる愛を感じ,知識に満たされることも含んでいる」16)。」
マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈(廣瀨清人,菱沼典子,印東桂子)2008年11月5日 受理 28 聖路加看護大学紀要 No.35 2009. 3.

「7 段階の階層図は『ヒルガードの心理学』に掲載されている 18)(図5)。この著作は “Atkinson & Hilgard's Introduction to Psychology”であり,初版が 1953 年に出版されて以降,現在まで 14 版を重ねており,心理学の入門書として,もっとも権威がある。原典は 2 段組で 700 ページを越える大著であるにもかかわらず,第 13 版(2002)17)と第 14 版(2005)18)がそれぞれ邦訳されている。ここでは,後者の記述に基づいて,基本的欲求の階層図を確認しておきたい。
基本的欲求の階層は,低次から高次の順に生理的欲求,安全の欲求,愛情と所属の欲求,承認の欲求,認知の欲求,審美的欲求そして自己実現欲求であった。その基本的欲求の階層図をもとに,Smith らは次の説明を加えた。
「基本的欲求の階層図は,基本的な生理的欲求から,より複雑な高次の心理的動機づけに至り,それらの高次の欲求は,より低次の欲求が満たされてはじめて重要性を持つ。ある階層の欲求が,少なくとも部分的に満足されて,はじめて,その次の階層の欲求が行動の動機づけとして意味を持つようになる。食料や安全の確保が困難な場合,それらの欲求を満たそうとする努力が,人の行動を支配して,より高次の動機は重要でなくなる。基本的欲求を容易に満足させられる場合にのみ,美的・知的欲求を満たすために,時間と努力を費やすことができる。したがって,食料,家屋や安全を確保することに人々が苦労している社会では,芸術や科学はさかんではない。もっとも高次の動機である自己実現欲求は,ほかのすべての欲求が満たされてはじめて満足できる状態になる」18)。」
マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈(廣瀨清人,菱沼典子,印東桂子)2008年11月5日 受理 28 聖路加看護大学紀要 No.35 2009. 3.

『マズローの心理学』において,基本的欲求の階層図は 5 つの欲求を含んでいた。それらは低次から高次の順に生理的(空気・水・食物・庇護・睡眠・性),安全と安定,愛・集団所属,自尊心・他者による尊厳(承認),そして自己実現であった 24)(対応する英語は順に“Physiological Air, Water, Food, Shelter, Sleep, Sex” “Safety and Security” “Love & Belongingness” “Self Esteem/Esteem by Others” “Self Actualization”であった 23)。そして,その自己実現を達するための存在価値(成長欲求)のリストが「意味」「自己充実」「無礙」「楽しみ」「豊富」「単純」「秩序」「正義」「完成」「必然」「完全」「個性」「躍動」「美」「善」「真」であった。これらの徳目は相互に分節化されないで,基本的欲求の階層図の一番上の区切りの内側に大きなスペースを与えて配置されていた(図6)。
さらに,台形の下底の外側には,基本的欲求の充足の前提条件が明記されていた。興味深いことは,基本的欲求の階層図の欄外には「成長欲求はすべて同等の重要さをもつ(階層的ではない)」24)という注が記されていた点であり,そこではマズローが発見した成長欲求のリストの間には階層関係がないことが指摘されていた。ゴーブルの著作から基本的欲求の階層のみを抜き出して要約すると次のようになる。
基本的欲求は階層をなしており,低次の欲求から高次の欲求に向かう順番に生理的欲求,安全の欲求,所属と愛の欲求,承認の欲求,そして自己実現の欲求である。原則として,より高次の欲求は,低次の欲求が満たされてはじめて重要性を持つが,しかしながら多くの例外がある。たとえば,ある人々は,他人からの愛よりも自己承認を求めようとするかもしれない。あるいは,長期にわたり失業していた人は,食料だけを探していた歳月が経過した後では,高次の欲求を喪失あるいは鈍磨されてしまっているかもしれない。そして,このような個人の動機づけと深く関連しているのは,ある個人が生きている社会のなかの環境あるいは社会的な諸条件である。マズローは,話す自由,他者に害を及ぼさないかぎりやりたいことができる自由,探 求の自由,自分自身を弁護する自由,正義,正直,公平,そして秩序を基本的欲求の満足の前提条件と当初考えていたが,その後,前提条件をもう一つ追加した。この条件が外的環境における挑戦(刺激)であった。これらの前提条件が満たされており,かつ愛と承認の欲求がある程度満たされた後に,自己実現の欲求は発生する24)。」
マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈(廣瀨清人,菱沼典子,印東桂子)2008年11月5日 受理 28 聖路加看護大学紀要 No.35 2009. 3.

まず,本図の形については,前述したように,マズローが承認したゴーブルの基本的欲求の階層図(図6)に依拠し,台形とした。
次に,基本的欲求の階層図の階層部分について,以下のように考える。マズローの欲求の階層論によると,その階層は生理的欲求,安全と安心の欲求,所属と愛の欲求,承認の欲求,自己実現の欲求から構成される。このことから,階層数を 5 つとした。その階層の面積については,高次欲求論から,この図を見ると 5 つの階層の面積に大きく差をつけることが正しいが,この図では欲求の階層理論を検討したためそれらに大きな差をつけず,自己実現の欲求のリストを階層図の右側に記した。その階層間の境界線を破線で示した理由は,これら 5 つの階層間に厳密な階層性が仮定できないことであった。そして,各階層の網掛けの意味は,「生理的欲求は 85%,安全の欲求は 70%,愛の欲求は 50%,自尊心の欲求は 40%,自己実現の欲求は 10%が充足されているのが普通の人間ではないか」9)というマズローの主張と対応したもので,図7では,その割合を各階層に網掛けで示した。高次欲求論によると,自己実現の欲求を成長欲求として,生理的欲求,安全と安心の欲求,所属と愛の欲求,承認の欲求を欠乏欲求として区別し,「成長欲求と欠乏欲求は質的相違があり,欠乏欲求が成長欲求の必要条件となる」26)と述べていることから,図7においてそれらの区別を明示した。また,ゴーブルの階層図では「成長欲求はすべて同等の重要さを持つ」24)という注記をしたが,この発言は重要と考えられるため,図7では右上に注記した。
最後に,看護学で用いられた多くの階層図で明記していなかったもので重要と考えられる基本的欲求充分の前提条件について,「自由,正義,秩序」,行動を決定する要因の「外的環境」あるいはゴーブルの著作からマズローが後に追加したとされる「外的環境の予備条件としての挑戦(刺激)」,そしてゴーブルの階層図に記された「外的環境,欲求充足の前提条件,自由・正義・秩序,挑戦(刺激)」を基に文章化し,本図では階層図の底辺の外側に記した。
マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈(廣瀨清人,菱沼典子,印東桂子)2008年11月5日 受理 28 聖路加看護大学紀要 No.35 2009. 3.

(索引:マズローの欲求の階層)

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