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2021年11月27日土曜日

DNA上の塩基の配列(4種類の文字の3つ組)で表現されたアミノ酸の情報と、20種類のアミノ酸の形態(20種類の文字)の両方を知っているアミノアシルtRNA合成酵素の働きで、DNA上の情報を翻訳してたんぱく質の合成が可能となっている。(ポール・デイヴィス(1946-))

情報を情報足らしめる翻訳者の例

DNA上の塩基の配列(4種類の文字の3つ組)で表現されたアミノ酸の情報と、20種類のアミノ酸の形態(20種類の文字)の両方を知っているアミノアシルtRNA合成酵素の働きで、DNA上の情報を翻訳してたんぱく質の合成が可能となっている。(ポール・デイヴィス(1946-))


(a)たんぱく質⇔アミノ酸
たんぱく質:数百個のアミノ酸が鎖のようにつながってできている。
アミノ酸:数多くの種類があるが、我々の知っている生命はそのうちの20種類(場合によっては21種類) しか使っていない。

(b)DNA⇔塩基
塩基:A、C、G、T(アデニン、シトシン、グアニン、チミン)

(c)塩基でたんぱく質を表現する
コドン
 連続した三個の塩基をひとまとまりで使う。四つの文字の三つ組(ACT、CGAな ど)は64通り考えられる(これをコドンという)。アミノ酸の20種類よりも多いので、ある程度重複 していて、多くのアミノ酸が二通り以上のコドンに対応している。また何種類かのコドンは、句読点 (たとえば「終止コドン」)に使われている。

アミノ酸20種類⇔コドン
たんぱく質⇔コドンの配列

(d)たんぱく質の合成
(i)DNA→mRNA
  (コドン)
 まず対応するコドンの列を、DNAから、そ れに似たmRNA (メッセンジャーRNA)という分子に転写する。

(ii)mRNA→リボソーム→たんぱく質
 (コドン)   (アミノ酸)
 次に、たんぱく質を組み立てるり リボソームという小さな機械が、 mRNAからコドンの列を読み出し、アミノ酸を一個一個化学的に連結させていってタンパク質を合成する。

(iii)tRNA +アミノ酸
(アミノアシルtRNA合成酵素20種類)
   →tRNA +対応するアミノ酸
このたんぱく質の形状は、tRNAとそれに相当するアミノ酸の両方を知っている。
(iv)tRNAには、コードしているコ ドンに合致するアミノ酸がぶら下がっていて、いままさに延びつつあるアミノ酸の鎖につなぎ合わされ るのを待ち構えている。 リボソームがその鎖を完成させたとき、できあがったたんぱく質は正しく機能 するようになる。

「2 生命の基本的からくり
上のすべての生命にとっての基本情報が、普遍的な遺伝コードである。たんぱく質を作るのに必要な情報は、A、C、G、Tという「文字」からなる特定の列として、DNAのセグメントの中に保存 ている。これらの文字はそれぞれアデニン、シトシン、グアニン、チミンを表していて、まとめて 塩基と呼ばれており、DNA分子の上で任意の組み合わせで並ぶことができる。互いに異なる組み合わ せがそれぞれ異なるたんぱく質をコードしている。たんぱく質はアミノ酸という別のタイプの分子から 作られていて、典型的なたんぱく質は数百個のアミノ酸が鎖のようにつながってできている。アミノ酸 は数多くの種類があるが、我々の知っている生命はそのうちの20種類(場合によっては21種類) しか使っていない。たんぱく質の化学的性質は、アミノ酸の詳細な並び方で決まる。塩基は四種類しか ないがアミノ酸は20種類もあるので、DNAは一個の塩基で一種類のアミノ酸を特定することはでき ない。そこで、連続した三個の塩基をひとまとまりで使う。四つの文字の三つ組(ACT、CGAな ど)は64通り考えられる(これをコドンという)。アミノ酸の20種類よりも多いので、ある程度重複 していて、多くのアミノ酸が二通り以上のコドンに対応している。また何種類かのコドンは、句読点 (たとえば「終止コドン」)に使われている。

 指示書を「読み出して」特定のたんぱく質を作るには、まず対応するコドンの列を、DNAから、そ れに似たmRNA (メッセンジャーRNA)という分子に転写する。次に、たんぱく質を組み立てるり リボソームという小さな機械が、 mRNAからコドンの列を読み出し、アミノ酸を一個一個化学的に連結させていってタンパク質を合成する。このシステムがうまく機能するには、一つ一つのコドンに正しく対応したアミノ酸を使わなければならない。それを実現しているのが、別の種類のRNA (トランスフ アー [転移] RNA、略してtRNA) である。この短いRNA鎖は20種類あり、そのそれぞれが特 定のコドンを認識してそこに結合するようにできている。そしてそのRNAには、コードしているコ ドンに合致するアミノ酸がぶら下がっていて、いままさに延びつつあるアミノ酸の鎖につなぎ合わされ るのを待ち構えている。 リボソームがその鎖を完成させたとき、できあがったたんぱく質は正しく機能 するようになる。このからくりが機能するには、20種類のアミノ酸のそれぞれが正しく対応する tRNAに結合しなければならない。このステップの面倒を見る特別なたんぱく質は、アミノアシルtRNA合成酵素という難しい名前で呼ばれている。名前はどうでもいい。重要なのは、このたんぱく 質の形状がRNAとそれに相当するアミノ酸の両方に対応していて、各種類のtRNAにそれぞれ正 しいアミノ酸を結合させるようにできていることだ。アミノ酸が20種類あるので、アミノアシル tRNA合成酵素も20種類なければならない。アミノアシルtRNA合成酵素が情報の鎖をつなぐ重 要な役割を担っていることに注目してほしい。生物の情報はある種類の分子(DNA、四種類の文字の 三つ組を使う)に保存されているが、その情報はそれとまったく違う種類の分子(たんぱく質、二〇種 類の文字を使う)を表している。 この二種類の分子は、互いに違う言語を話しているのだ! しかし一 連のアミノアシルtRNA合成酵素はバイリンガルで、コドンと二〇種類のアミノ酸の両方を認識でき る。そのため、既知のあらゆる生命が使っている普遍的な遺伝機構にとって、この翻訳者役の分子は絶 対に欠かせないものとなっている。それゆえ大昔から変わっていないはずだし、きわめて有効に機能し なければならない。あらゆる生命に頼られているのだ! 実験によると、アミノアシルtRNA合成酵 素はきわめて信頼性が高く、エラー(いわば誤訳)は3000回中わずか一回ほどだという。このから くりの巧妙さと、それが何十億年ものあいだいっさい変化しなかったことには、驚きを感じざるを得ない。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『機械の中の悪魔』(日本語書籍名『生物の中の悪魔』),第1章 生命とは何か,pp.25-26,SBクリエイティブ,2019,水谷淳)

生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く [ ポール・デイヴィス ]




2021年11月26日金曜日

自らの情報処理能力を高め、統合情報を蓄積し自己組織化するような、情報に関する状態依存的法則を持ったシステムの研究が、生命の本質に迫るだろう。そこでは、高次の情報処理モジュールの自律的な組織化が、重要な役割を果たす可能性がある。(ポール・デイヴィス(1946-))

高次の情報処理モジュールの自律的な組織化

自らの情報処理能力を高め、統合情報を蓄積し自己組織化するような、情報に関する状態依存的法則を持ったシステムの研究が、生命の本質に迫るだろう。そこでは、高次の情報処理モジュールの自律的な組織化が、重要な役割を果たす可能性がある。(ポール・デイヴィス(1946-))

 「情報に関する状態依存的法則の候補を適切に導くことができれば、このようなシステム は、自らの 情報処理能力を高めるような、あるいは統合情報を「過度に」 蓄積するような形で自己組織化するのだといえるかもしれない。原因的パワーに関して「マクロがミクロに勝つ」ような状況 が最近いくつか発見されたことで、高次の情報処理モジュールが自律的に組織化する際に は、全般的傾向として複雑な系の形成が優先されるのではないかという可能性が出てき ている。化学的複雑さでなく情報の組織構造という観点から見れば、非生命から生命への道筋はずっと短いのかも しれない。もしそうであれば、第二の生命誕生を探す試みは大きく勢いを増すだろう。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『機械の中の悪魔』(日本語書籍名『生物の中の悪魔』),エピローグ,pp.284-285,SBクリエイティブ,2019,水谷淳)

生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く [ ポール・デイヴィス ]






生命の本質を理解するためには、既知の物理法則と矛盾しない、状態依存性とトップダウンの因果関係を含む情報の理論の研究が必要である。また、どのような初期条件のもとで、そのような物理系が出現するのか、その後どのように展開するのかも。(ポール・デイヴィス(1946-))

 状態依存性とトップダウンの因果関係

生命の本質を理解するためには、既知の物理法則と矛盾しない、状態依存性とトップダウンの因果関係を含む情報の理論の研究が必要である。また、どのような初期条件のもとで、そのような物理系が出現するのか、その後どのように展開するのかも。(ポール・デイヴィス(1946-))


(a)状態依存性とトップダウンの因果関係を含む情報の理論が存在するかどうか。
(b)もし存在するとしたら、 これと既知の物理法則との折り合いはどのように付ければいいのか。
 (c)それらの新たな法則は、形式的 に決定論的なのか、それとも量子力学のように偶然の要素を含んでいるのか。
(d) そもそも量子力学が 関係しているのか。
(e)そもそも、生命の情報パターンはどのようにして出現したの か。この宇宙では、新しいものはすべて、法則と初期条件が組み合わさることで出現する。 最初に生物の情報が出現する上で必要だった条件も分かっていない。
(f)出現したのちに、複雑系で作用する 情報の法則などの組織化原理に対して、自然選択がどれほど強い役割を果たしたのかも分かっていな い。


「本書ではここまで、急発展する新たな科学分野について紹介してきた。執筆中もほぼ毎日のように、情報の物理と生命のストーリーにおけるその役割に直接影響をおよぼすような論文 や、新たな実験結果の発表があった。この分野は生まれたばかりで、数多くの疑問がいまだ解決していない。 新たな物理法則、つまり、状態依存性とトップダウンの因果関係を含む情報の理論がもし存在するとしたら、 これと既知の物理法則との折り合いはどのように付ければいいのか? それらの新たな法則は形式的 に決定論的なのか、それとも量子力学のように偶然の要素を含んでいるのか? そもそも量子力学が 関係しているのか? 実際に生命にとって欠かせない役割を果たしているのか? 計り知れないこれ の疑問に加えて、起源の問題もある。そもそも、生命の情報パターンはどのようにして出現したの か? この宇宙では、新しいものはすべて、法則と初期条件が組み合わさることで出現する。 最初に生物の情報が出現する上で必要だった条件も分かっていないし、出現したのちに、複雑系で作用する 情報の法則などの組織化原理に対して、自然選択がどれほど強い役割を果たしたのかも分かっていな い。これらの疑問をすべて解明しなければならない。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『機械の中の悪魔』(日本語書籍名『生物の中の悪魔』),エピローグ,pp.285-286,SBクリエイティブ,2019,水谷淳)

生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く [ ポール・デイヴィス ]






物性理論では、系の時間発展を支配する法則と、系の状態とがはっきりと区別されている。しかし生物学の場合、法則は系の状態に依存する。(状態の関数としての法則、自己言及性)典型例がゲノムである。ゲノムはプログラム(法則)であり、データ(系の状態)でもある。(ナイジェル・ゴールデンフェルド(1957-))

自己言及性

物性理論では、系の時間発展を支配する法則と、系の状態とがはっきりと区別されている。しかし生物学の場合、法則は系の状態に依存する。(状態の関数としての法則、自己言及性)典型例がゲノムである。ゲノムはプログラム(法則)であり、データ(系の状態)でもある。(ナイジェル・ゴールデンフェルド(1957-))







「状態の関数として変化する法則は、「システムの振る舞いがシステムの状態に依存する」という自己言及の概念を一般化したものと言える。 第三章で述べたとおり、チューリングやフォン・ノイマンの研究によれば、万能コンピューティングと複製の両方において自己言及の概念はその中核をなして いる。法則は不変でなければならないという厳しい条件を緩めて、 自己言及の概念を考慮に入れるに は、科学と数学のまったく新たな分野が必要で、それはいまだほぼ未開拓である。この方法論の有望 さを認識している一握りの理論家の一人である、イリノイ大学の物理学者ナイジェル・ゴールデンフ エルドは、次のように書いている。 「自己言及は進化の適切な理解に欠かせない部分であるはずだが、 表立って考慮されることはめったにない」。ゴールデンフェルドは、生物学と相対するものとして、 物理学における物性理論などの一般的なテーマを挙げている。 「物性理論では、系の時間発展を支配 する法則と、系そのものの状態とがはっきりと区別されていて、 ······支配する方程式はその方程式自 体の解に依存しない。しかし生物学の場合、状況は違う。 系の時間発展を支配する法則は抽象的なも のにコード化されていて、そのもっともあからさまな例がゲノムそのものである。系が時間発展する とともにゲノム自体が変化し、それによって支配する法則自体も変化する。コンピュータ科学の観点 から見れば、物理世界はプログラムとデータという二つの相異なる要素によってモデル化されると考 えることができる。しかし生物の世界では、プログラムがデータで、 データがプログラムである」」

(ポール・デイヴィス(1946-),『機械の中の悪魔』(日本語書籍名『生物の中の悪魔』),エピローグ,pp.281-282,SBクリエイティブ,2019,水谷淳)

生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く [ ポール・デイヴィス ]





地球上の広大で複雑な生命の情報ネットワークは、細菌から人間 社会まで、あらゆるレベルの個体や集団どうしの情報交換によって編み上げられている。社会性昆虫は、その興味深い中間段階の一例である。(ポール・デイヴィス(1946-))

生命のネットワーク

地球上の広大で複雑な生命の情報ネットワークは、細菌から人間 社会まで、あらゆるレベルの個体や集団どうしの情報交換によって編み上げられている。社会性昆虫は、その興味深い中間段階の一例である。(ポール・デイヴィス(1946-))

「社会性昆虫は、生命の組織構造に関して興味深い中間段階に位置しており、その情報処理のしくみ は特別な関心が持たれている。しかし地球上の広大で複雑な生命のネットワークは、細菌から人間 社会まで、あらゆるレベルの個体や集団どうしの情報交換によって編み上げられている。ウイルスで さえ、世界中をうようよする移動可能な情報の束とみなすことができる。このように生態系全体を情報の流れと保存のネットワークとしてとらえると、いくつか重要な疑問が浮かんでくる。たとえば、 遺伝子制御ネットワークから深海の熱水噴出口の生態系、さらには熱帯雨林へと、複雑さ階層を上 がるにつれて、情報の流れの特徴は何らかのスケーリング則に従うのだろうか? 地球上の生命全 体が、何らかの明確な情報の特色やモチーフによって特徴付けられるのは、ほぼ間違いないだろう。 そして、もし地球上の生命に特別な点が何一つないとしたら、ほかの天体の生命も同じスケーリング 則に従って同じ性質を示すと予想でき、太陽系外惑星で生命の決定的な証拠を探す取り組みにとってそれは大きな助けになるだろう。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『機械の中の悪魔』(日本語書籍名『生物の中の悪魔』),第3章 生命のロジック,p.136,SBクリエイティブ,2019,水谷淳)


生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く [ ポール・デイヴィス ]





器官、細胞、細胞小器官、染色体、分子と細かく見ても、情報は見えない。知覚できるのは、情報を具現化している物質的構造と、情報が流れるネットワークと化学回路である。(ポール・デイヴィス(1946-))

情報は見えない

器官、細胞、細胞小器官、染色体、分子と細かく見ても、情報は見えない。知覚できるのは、情報を具現化している物質的構造と、情報が流れるネットワークと化学回路である。(ポール・デイヴィス(1946-))

「哲学者と科学者のあいだでは、「原理的に」 すべての生物現象を原子の振る舞いに還元できる のかどうかをめぐって論争が続いているが、実際問題としてはもっと高いレベルでの 説明を探すほう がずっと理にかなっているという点では、意見が一致している。 電子工学では、標準部品(トラ ンジスターやコンデンサー、トランスや電線など)から完璧なデバイスを設計して組立てる上で、 それぞれの部品の中で起こっている原子レベルの正確なプロセスを気にする必要はな い。部品がどの ようにして動作するかを知る必要はなく、どんな動作をするかさえ分かっていればいい。 この現実的 な方法論がとくに威力を発揮するのは、その電子回路が、信号の変換や訂正や増幅、 あるいはコンピュータの部品のように、何らかの形で情報を処理する場合である。こうすることで、 ハードウェアやモジュール自体、さらには分子レベルにさかのぼることなしに、情報の流れとソフト ウェアに基づく完全な説明を与えることができる。 それと同じように、可能な場面であれば、細胞内や細胞間のプロセスを、高いレベルのユニットが持つ情報的性質に基づいて説明してみるべきだと、 ナースは訴えている。

 生物を見ると、その物質的な身体が目に入る。体内を探ると、器官や細胞、 細胞小器官や染色体、 さらには途方もない装置を使えば) 分子自体が見えてくる。しかし情報は見えない。脳の回路の中 を渦巻く情報のパターンも見えない。 細胞の中にある悪魔のような情報エンジンの大集団や、シグナル分子の組織立った一連の絶え間ないダンスも見えない。 DNAにぎっしり詰め込て保存され ている情報も見えない。 見えるのは物質であってビットではない。これでは生命のストーリーは半分 しか語れない。「情報の目」で世界を見ることができれば、生命を特徴づける、 荒れながらきら めく情報のパターンが、奇妙なものとして突然はっきり見えてくる。 将来、情報に特化したAIが、 顔でなく頭の中の情報構造に基づいて人物を識別するというのも想像できる。まるで疑似科学のよう だが、一人一人がそれぞれ独自の識別パターンを持っているかもしれない。 重要な点として、生体内 の情報のパターンはランダムではない。 解剖学的構造や生理機能と同じく、進化によって 最適な状態に仕立てられているのだ。

 もちろん人間が情報を直接知覚することはできない。知覚できるのは、情報を具現化している物質 的構造と、情報が流れるネットワーク、そしてすべての情報をつなぐ化学回路だけだ。しかし、だか らといって情報の重要性が損なわれるわけではない。 コンピュータがどのように動作しているかを、 内部の電子回路だけを見て理解しようとしているとイメージしてみてほしい。 顕微鏡でマイクロチップを観察し、配線図に詳細に当たり、電源について調べる。だがそれだけでは、たとえば Windowsが魔法のような機能を発揮するしくみは見当もつかない。コンピュータ画面上に何 が現れるかを完全に理解するには、ソフトウエアエンジニアから話を聞くしかない。回路を駆けめぐ る情報のビットを統制してその機能性を生み出す、コンピュータコードを書いている人物だ。それと 同じように、生命のことを完全に説明するには、ハードウェアとソフトウエアの両方、つまり分子の 組織構成と情報の組織構成の両方を理解する必要がある。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『機械の中の悪魔』(日本語書籍名『生物の中の悪魔』),第3章 生命のロジック,pp.112-114,SBクリエイティブ,2019,水谷淳)

生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く [ ポール・デイヴィス ]





1ビットの情報を消去すると、kln2 (k:ボルツマン定数)だけ、エントロピーが増える。従って、最低でもkTln2 (T:絶対温度)だけの熱が発生する。(ロルフ・ランダウアー(1927-1999))

ランダウアーの限界

1ビットの情報を消去すると、kln2 (k:ボルツマン定数)だけ、エントロピーが増える。従って、最低でもkTln2 (T:絶対温度)だけの熱が発生する。(ロルフ・ランダウアー(1927-1999))







「情報を消去すると熱が発生する。 割り算の筆算の例でもそれはよく分かる。 鉛筆書きを消しゴムで すと、大量の摩擦、つまり熱が発生し、ひいてはエントロピーが増える。洗練されたマイクロチップでも、1や0を消去するときには熱が発生する。もしも、いっさい熱を発生させずに情報を処理 しきるコンピュータを設計できたとしたら? そのようなコンピュータは運転コストがゼロで、究極 のノートパソコンとなるのだ! そのような偉業を達成したメーカーは、コンピュータ産業をあっと いう間に牛耳ってしまうだろう。当然IBMも関心を示した。しかし残念ながら、そんな夢にラン ダウアーは冷や水を浴びせる。 コンピュータでの情報処理に論理的に不可逆な操作が関わっていると 。(先ほどの割り算の筆算のように)、 次の計算のためにシステムをリセットする際にどうしても熱が発 生してしまうと論じたのだ。 ランダウアーは、1ビットの情報を消去するのに必要なエントロピーの 最小量を算出し、その値はいまではランダウアーの限界と呼ばれている。ちなみに、室温で1ビット の情報を消去すると3×10 (-21)乗ジュールの熱が発生し、これは、やかんの水を沸騰させるのに必要な熱 エネルギーのおよそ一〇〇兆分の一のそのまた一兆分のに相当する。 わずかな熱だが、ある重要な 原理を物語っている。ランダウアーは、 論理演算と熱の発生との関係性を明らかにすることで、物理と情報との深い結びつきを発見したことになる。しかしその結びつきは、シラードの悪魔ような抽象的なものではなく、今日のコンピュータ業界でも理解できるようなきわめて具体的な金に関係 したものだったのだ。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『機械の中の悪魔』(日本語書籍名『生物の中の悪魔』),第2章 悪魔の登場,p.60,SBクリエイティブ,2019,水谷淳)

生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く [ ポール・デイヴィス ]





情報は、世界を変える。しかし、情報とはいったい何なのか。情報は、物理法則に従いつつも、何らかの意味でそれを超越している。情報は、どのように世界に作用するのか。物質やエネルギーの流れとどのような関係があるのか。(ポール・デイヴィス(1946-))

情報とは何か

情報は、世界を変える。しかし、情報とはいったい何なのか。情報は、物理法則に従いつつも、何らかの意味でそれを超越している。情報は、どのように世界に作用するのか。物質やエネルギーの流れとどのような関係があるのか。(ポール・デイヴィス(1946-))

(a)情報は独自の法則に従うのだろうか? すなわた、情報は、物理法則に従いつつも、何らかの形で、物理法則を超越しているのか?

(b)それとも、その情報が表現されている物理系を支配する法則に振り回さ れるだけなのだろうか? すなわち、物質に便乗したいわゆる付帯現象にすぎないのか?

(c)情報はそれ自体が実際に作用をおよぼすのか?

(d)あるいは、物質の因果的作用の単なる痕跡にすぎないの か?

(e)情報の流れを物質やエネルギーの流れと切り離すことは可能なのだろうか?


「情報が世界を変えるとしたら、我々は情報をどのようにとらえるべきなのだろうか? 情報は独自 の法則に従うのだろうか? それとも、その情報が表現されている物理系を支配する法則に振り回さ れるだけなのだろうか? 言い換えると、情報は何らかの形で物理法則を超越している(実際にねじ 曲げてはいないとしても)のか、あるいは、物質に便乗したいわゆる付帯現象にすぎないのか? 情報はそれ自体が実際に作用をおよぼすのか、あるいは、物質の因果的作用の単なる痕跡にすぎないの か? 情報の流れを物質やエネルギーの流れと切り離すことは可能なのだろうか?」

(ポール・デイヴィス(1946-),『機械の中の悪魔』(日本語書籍名『生物の中の悪魔』),第2章 悪魔の登場,p.54,SBクリエイティブ,2019,水谷淳)


生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く [ ポール・デイヴィス ]






2021年11月14日日曜日

遺伝的変化は、一つの種における個体のゲノムのなかでの変異(欠失、重複、逆転、点変異など)と、遺伝子水平伝播により他の種から取り込まれる場合がある。(a)細胞が自らの働きによって取りこむ場合、(b)ウィルスによって運びこまれる場合、(c)2つの細菌が遺伝物質を交換する場合。(イアン・スチュアート(1945-))

遺伝子水平伝播

遺伝的変化は、一つの種における個体のゲノムのなかでの変異(欠失、重複、逆転、点変異など)と、遺伝子水平伝播により他の種から取り込まれる場合がある。(a)細胞が自らの働きによって取りこむ場合、(b)ウィルスによって運びこまれる場合、(c)2つの細菌が遺伝物質を交換する場合。(イアン・スチュアート(1945-))


「遺伝学的な解釈でいうと、生命の木は、遺伝子が古代の種(の個体)からその子孫の種(の個体)へどのように伝わっているかを表わしている。しかし、個体のあいだで遺伝子が伝わる第二の方法がある。一九五九年に日本人のチームが、抗生物質への耐性が一つの種の細菌から別の種へ伝わることを発見した。この現象は遺伝子水平伝播といい、それに対して、以前から 知られていた子孫への遺伝子の伝達を垂直伝播という。これらの用語は、時間を垂直に、種の タイプを水平に取った通常の進化樹から来ており、他に特別な意味はない。  まもなく、遺伝子水平伝播は最近に広く見られる現象で、単細胞の真核生物でも珍しくはな いことが明らかとなった。この発見によって、ゲノムが変化する別の方法が見つかり、それら の生物の進化のパラダイムが変わった。遺伝的変化は、一つの種における個体のゲノムのなか で変異(欠失、重複、逆転、点変異など)が生じることによって起こるという従来の概念を拡 張し、まったく異なる種に由来するDNAの断片が挿入されるという場合も、そこに含めるよう にしなければならない。そのような伝播のメカニズムはおもに三つある。細胞が自らの働きに よって外来の遺伝物質を取りこむ場合、ウィルスによって外来のDNAが運びこまれる場合、そ して二つの細菌が遺伝物質を交換する場合(「細菌のセックス」)だ。  さらに、多細胞真核生物が進化史のどこかの段階で、遺伝子水平伝播の受け入れ側になった らしいという証拠もある。一部の菌類、とくに酵母のゲノムには、細菌由来のDNA配列が含ま れている。ある甲虫の種は、体内で共生しているヴォルバキアという細菌から遺伝物質を獲得 している。アブラムシは、菌類由来の、カロテノイドを生産する遺伝子を持っている。そして ヒトゲノムは、ウィルス由来の配列を含んでいる。  これらの現象は、進化の推進力の一つである遺伝的変化がどのように起こるかに関する、わ たしたちの見方を間違いなく変化させる。多くの生物の遺伝的系統には、明らかな進化上の祖 先よりもたくさんの生物種が関わっていることを、このことは意味している。多くの生物学者 が、そのため生命の木の比喩は放棄しなければならないと論じている。科学的には大きな障害 はなく、生命の木は神聖なものではないし、証拠によって間違っていることが示されれば放棄 すべきだ。そうなれば、進化に対するわたしたちの見方は――少なくとも標準的な比喩に関する 限りは――変わることになるが、科学は以前の考え方を修正することによって進歩する場合が多 い。」(中略)「簡単に言うと、遺伝子水平伝播は、種からなる生命の木には何の影響も及ぼ さない。そして個体からなる木には小さな影響を与え、DNAからなる木にはもっと大きな影響 を与える。この言葉にはおそらく一つの例外がある。種が細菌やウィルスの場合だ。その場 合、遺伝子水平伝播はきわめて一般的で、種の概念さえも疑わしくなる。  種分化を個体レベルでとらえると、もしかしたら枝がきわめて複雑に絡まっているかもしれ ない。種分化を単純な枝分かれとして表現するのは、ほぼ間違いなくそのプロセスを単純化し すぎており、おそらく適切でない疑問や区別をもたらす(「二つの種は正確にいつ別れたの か?」といった疑問)。トビー・エルムハーストが導入した、BirdSymという種分化の複雑系 モデルでは、種分化の最中に表現型がきわめて複雑な形で次々に変化する。その描像は、単純 な枝分かれというより、入り組んだ川に似ている。」 (イアン・スチュアート(1945)『数学で生命の謎を解く』第8章 分類学者よ、木は使う な、pp.170-172、SBクリエイティブ(2012)、水谷淳(訳))

数学で生命の謎を解く【電子書籍】[ イアン・スチュアート ]



2021年11月12日金曜日

量子的な重ね合わせで表現される膨大な数の組み合わせの配列から、生命にとって意味のある配列を探索する量子進化には、デコヒーレントを食い止めるのに十分な低温が必要かというと、実際には違う。常温において量子状態が維持されている場合があることが、実験で示されている。(ジョンジョー・マクファデン(1956-))

量子的な状態

量子的な重ね合わせで表現される膨大な数の組み合わせの配列から、生命にとって意味のある配列を探索する量子進化には、デコヒーレントを食い止めるのに十分な低温が必要かというと、実際には違う。常温において量子状態が維持されている場合があることが、実験で示されている。(ジョンジョー・マクファデン(1956-))

「古典的なランダムウォークに比べて量子ウォークのどこが優れているかを理解するために、 のろのろと歩く先ほどの酔っ払いを再び取り上げよう。その酔っ払いが出てきたバーで水漏れ が起こり、その水が入り口からあふれ出したと想像してみてほしい。上機嫌の酔っ払いは一つ のルートを進むしかないが、バーからあふれ出した水の波はあらゆる方向へ広がって行く。水 の波は経過時間に比例する割合で街なかへ広がっていくため、平方根に比例する距離しか進め ない酔っ払いはすぐに追い抜かされてしまう。水は一秒後に一メートル、二秒後に二メート ル、三秒後に三メートル進む。しかも、二重スリット実験における重ね合わせ状態の原子と同 じように、考えられるルートをすべて同時に進んでいくため、波頭の一部は上機嫌の酔っ払い の家に、本人よりも間違いなくずっと早くたどり着くことになる。

 フレミングらの論文が引き起こした驚きと動揺は、MITの論文講読会をはるかに超えてま さに波のように広がった。しかしすぐに、この実験が単離されたFMO複合体を使って七七K (摂氏一九六度)という低温でおこなわれた点が槍玉に挙がった。植物の光合成や生命活動自 体に適した温度よりも明らかにはるかに低く、厄介なデコヒーレントを食い止めるには十分な 低温だ。この冷たく冷やされた細菌が、植物細胞の内部という温かく取り散らかった環境のな かで起きていることと、はたしてどのように関連しているというのだろうか?

 しかしまもなくして、量子コヒーレントと状態が存在しているのは低温のFMO複合体に限 らないことが明らかとなった。二〇〇九年にユニヴァーシティーカレッジ・ダブリンのイア ン・マーサーが、植物の光化学系ときわめて似た、光収穫複合体II(LHC2)という別の最 近の光合成システムにおいて、植物や微生物がふつう光合成を行っている常温で量子のうなり を検出したのだ。さらに二〇一〇年にはオンタリオ大学のグレッグ・ショールズが、きわめて 大量に生息している高等植物に匹敵する量の大気中炭素を固定している(つまり大気中の二酸 化炭素を取り出している)、クリプトモナドと呼ばれる一群の水生藻類(高等植物と違って根 や茎や葉を持たない)の光化学系でも、量子のうなりを発見した。それと同じ頃にグレッグ・エンゲルは、グレアム・フレミングの研究室で自分が研究していたのと同じFMO複合体が、 生命が維持できるようなもっと高い温度でも量子のうなりを発することを突きとめた。さら に、この驚くべき現象が細菌や藻類に限られると思った人のために言っておくと、バークレー のフレミング研究室のテッサ・カルフーンらは、ホウレンソウから抽出した別のLHC2系で 量子のうなりを検出した。LHC2はすべての高等植物に存在しており、地球上のすべてのク ロロフィルの半数がそれに含まれている。」

(ジョンジョー・マクファデン&ジム・アル-カリーリ(1956)『量子力学で生命の謎を解 く』第4章 量子のうなり、pp.144-145、SBクリエイティブ(2015)、水谷淳(訳))





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生命が宿る原子の特別な配列の、可能な配列の無数の組み合わせの数に対する比率は、古典的な場合と量子的な場合で異なるわけではない。しかし、量子的な(コヒーレントな)状態が維持できれば探索は速やかに進み、また古典的には探索されないエネルギー障壁の向こう側も試される。(ジョンジョー・マクファデン(1956-))

量子進化

生命が宿る原子の特別な配列の、可能な配列の無数の組み合わせの数に対する比率は、古典的な場合と量子的な場合で異なるわけではない。しかし、量子的な(コヒーレントな)状態が維持できれば探索は速やかに進み、また古典的には探索されないエネルギー障壁の向こう側も試される。(ジョンジョー・マクファデン(1956-))

「グリーンランドの片麻岩の地層が形成されつつあった三五億年前、古代のイスアの海底に あった泥火山から突き出した蛇紋石の小さな穴のなかに、微量の原始のスープが閉じ込められ ていたとしよう。それはダーウィンのいう「暖かい小さな池」に相当し、「あらゆる種類のア ンモニアやリン酸塩、光、熱、電気などが存在し」、そのなかでは「たんぱく質化合物が......さ らに複雑な変化へつながって」いったかもしれない。ここでさらに、スタンリー・ミラーが発 見したのと同様の化学プロセスによって作られた「たんぱく質分子」(あるいはRNA分子か もしれない)のうちの一個が、何らかの酵素活性は持っていながらいまだ自己複製分子には なっていない、原始酵素(あるいはリボザイム)だったとしよう。さらに、その酵素に含まれ ている粒子のうちのいくつかは、異なる位置へ移動しようとしても、古典的なエネルギー障壁 に阻まれて移動できなかったとしよう。しかし第3章で説明したとおり、電子も陽子も、古典的な移動を阻むエネルギー障壁を量子トンネル効果ですり抜けることができ、それが酵素活性 に重要な役割を果たしている。電子や陽子は、同時にエネルギー障壁の両側に存在するのだ。 それがこの原始酵素のなかでも起きるとしたら、配置の違い、つまり粒子がエネルギー障壁の どちら側にあるかによって、酵素活性が異なり、加速される化学反応の種類も違ってくる。も しかしたらそのなかには、自己複製反応も含まれているかもしれない。  計算を簡単にするために、この仮想的な原始酵素のなかで合計六四個の陽子や電子のそれぞ れが、二つの位置のどちら側にもトンネルできるとしよう。すると、この原始酵素が取ること のできる構造は264種類とさらに膨大で、考えられる配置はものすごい数にな る。ここで、その配置のうちの一通りだけが、自己複製する酵素となるのに必要な配置だった としよう。では、生命の出現につながりうるその特定の配置は、どの程度簡単に見つけられる のだろうか?」(中略)「古典的に考えると、この原始酵素が264通りの配置 のうちのごく一部分を探索するだけでも、とてつもなく長い時間がかかるのだ。しかし、この 原始酵素の鍵を握る六四個の粒子が、二つの一のあいだをトンネルできる電子や陽子だったと すると、状況は一変する。量子系であるその原始酵素は、量子重ね合わせ状態として同時にす べての配列で存在することができる。」(中略)「しかし一つ問題がある。量子計算をおこな うには、キュビットをコヒーレントなもつれ状態に維持しなければならないのだった。ひとた びデコヒーレンスが起きれば、 264 通りの状態の重ね合わせ状態は収縮してし まい、一通りしか残らない。そんなことで役に立つのだろうか? 一見したところその答えは ノーだ。量子重ね合わせ状態が収縮して、自己複製体というたった一通りの状態が残る確率 は、先ほどと同じくコインの表が六四回連続で出る確率と同じで、264分の1 とごく小さいのだ。しかしここから先の話は、量子的記述と古典的記述とで食い違ってくる。  もし分子が量子力学的には振る舞わずに、自己複製できない間違った原始の配列にあったと したら(ほとんどの場合そうだ)、それとは別の配列を試すには、分子の結合をばらばらにし て再び組なおすという、地質学的に遅いプロセスを使うしかない。しかし先ほどの原始酵素が 量子的であれば、たとえデコヒーレンスを起こしても、六四個電子や陽子はほぼ瞬時に、取り うる両方の位置の重ね合わせ状態へと再びトンネルし、264通りの配列の量子 重ね合わせ状態を回復する。六四キュビット状態である量子的な原始複製体分子は、量子の世 界のなかで自己複製体探しをいつまでも繰り返すことができるのだ。  デコヒーレンスが起きると重ね合わせ状態は再び速やかに収縮してしまうが、そのときこの 分子は 264 通りの古典的配置のうちの別の状態になる。再度デコヒーレンスに よって重ね合わせ状態が収縮すると、この系はさらに別の配置を取り、このプロセスが際限な く続いていく。要するにこの比較的保たれた環境のなかでは、量子重ね合わせ状態の生成と消 滅は可逆なプロセスである。重ね合わせとデコヒーレンスによって量子のコインはつねにトス されつづけ、そのプロセスは、化学結合を古典的に作ったり切ったりするのよりもはるかに速 いのだ。  しかし、この量子コイントスを終わらせてしまう現象が一つある。量子的な原始複製分子が やがて自己複製状態へ収縮すると、第7章で説明した飢えた大腸菌のように複製を始め、それ によってこの系は不可逆的に変化して古典的な世界へ入る。量子コイントスはそれで打ち止め となり、最初の自己複製体が古典的な世界に生まれ出るのだ。もちろん、その複製に関わる、 分子内や分子間や環境とのあいだの生化学的プロセスは、自己複製体の配置が見つかるまでに 起きていたプロセスとは明らかに違うはずだ。つまり、その特別な配置が失われて分子が次の 量子的配置へ変わる前に、その特別な配置で固定させるメカニズムが必要となる。」 (ジョンジョー・マクファデン&ジム・アル-カリーリ(1956)『量子力学で生命の謎を解 く』第9章 生命の起源、pp.322-325、SBクリエイティブ(2015)、水谷淳(訳))






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