現在は現在のものである
歴史の各瞬間は充実し、美しく、それぞれの仕方で完結している。すべての時代は新しく、新鮮で、それぞれの希望に満ち、それぞれの喜びと悲しみを内に包み込んでいる。現在は現在のものだ。それなのに人間はこれに満足せず、愚かにも未来をもまた自分のものにしようとする。人生もまた同じ。(アレクサンドル・ゲルツェン(1812-1870))
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「これらの意見はすべて、明らかに正しいのですが、何かが欠けているという不満足感が深く残ります。実際、時の流れや今の存在をうちたてるため、何かそれ以外の要素を見つけたい、という要求に物理学者は何年間も悩まされ続けてきました。 答を求めて、ある人は宇宙論に、ある人は量子論に移 りました。 まず量子論の非決定性が一つの可能性を与えているように思えます。 もし未来がいまだ偶 然の釣り合いの中にあるなら、未来はある意味で現在や過去ほど実在のものではないかもしれないか らです。未来が現われてくるという印象を量子的な重ね合わせの実在への崩壊と比較した物理学者も いました。量子崩壊の過程は本質的に時間的に非対称(つまり、不可逆)であることが知られており、したがって記憶と同じような特徴をもっているのです。この点に従うと、 現在はほんとうの現象です。 それは、たとえば、 シャレーディンガーの猫が生きているのか死んでいる を見いだすのような、世界から現実に変化する瞬間です。 それはある種の現在を定義す るのです。このような考え方が自由意志を示すためにも使われてきました。 」
(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第10章 超時間,pp.291-292,地人書館,1985,木口勝義)
この世界のエントロピーの低い部分aと他の部分bとの関係をみると、低い部分の「痕跡」を他の部分に見つけることができる。aは原因と呼ばれbは結果と呼ばれる。aは過去と呼ばれbは現在と呼ばれる。痕跡は記憶であり、過去は定まったものと感知させる。痕跡とは何か?それは、人間が見るものだ。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
「そうはいっても、記憶や因果、流れや「定まった過去と不確かな未来」といったものは、 ある統計的な事実、すなわち宇宙の過去の状態としてありそうになるものがあるという事実が もたらす結果にわたしたちが与えた名前でしかない。
原因や記憶や痕跡、さらには何百年何千年にもわたる人間の歴史のみならず、何十億年にわ たる壮大な宇宙の物語においても展開されてきたこの世界の成り立ちの歴史、これらすべてが はるか昔の事物の配置が「特殊」だったという事実から生じた結果にすぎないのである。
そのうえ「特殊」というのは相対的な単語で、あくまで一つの視点にとって「特殊」なの だ。あるぼやけに関して特殊なのであって、そのぼやけは問題の物理系とこの世界の残りの部 分との相互作用によって定まる。したがって因果や記憶や痕跡やこの世界自体の出来事の歴史もまた、視点がもたらす結果でしかないのかもしれない。
ちょうど天空の回転が、この世界で のわたしたちの特殊な視点がもたらす結果であるように......。こうして非情にも、時間の研究は わたしたちを自分自身に引き戻す。わたしたちはついに、己と向き合ることになるのだ。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956-),『時間の順序』,日本語書籍名『時間は存在しない』,第3部 時間の源へ,第11章 対称性から生じるもの,p.166,NHK出版(2019),冨永星(訳))