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2021年11月12日金曜日

量子的な重ね合わせで表現される膨大な数の組み合わせの配列から、生命にとって意味のある配列を探索する量子進化には、デコヒーレントを食い止めるのに十分な低温が必要かというと、実際には違う。常温において量子状態が維持されている場合があることが、実験で示されている。(ジョンジョー・マクファデン(1956-))

量子的な状態

量子的な重ね合わせで表現される膨大な数の組み合わせの配列から、生命にとって意味のある配列を探索する量子進化には、デコヒーレントを食い止めるのに十分な低温が必要かというと、実際には違う。常温において量子状態が維持されている場合があることが、実験で示されている。(ジョンジョー・マクファデン(1956-))

「古典的なランダムウォークに比べて量子ウォークのどこが優れているかを理解するために、 のろのろと歩く先ほどの酔っ払いを再び取り上げよう。その酔っ払いが出てきたバーで水漏れ が起こり、その水が入り口からあふれ出したと想像してみてほしい。上機嫌の酔っ払いは一つ のルートを進むしかないが、バーからあふれ出した水の波はあらゆる方向へ広がって行く。水 の波は経過時間に比例する割合で街なかへ広がっていくため、平方根に比例する距離しか進め ない酔っ払いはすぐに追い抜かされてしまう。水は一秒後に一メートル、二秒後に二メート ル、三秒後に三メートル進む。しかも、二重スリット実験における重ね合わせ状態の原子と同 じように、考えられるルートをすべて同時に進んでいくため、波頭の一部は上機嫌の酔っ払い の家に、本人よりも間違いなくずっと早くたどり着くことになる。

 フレミングらの論文が引き起こした驚きと動揺は、MITの論文講読会をはるかに超えてま さに波のように広がった。しかしすぐに、この実験が単離されたFMO複合体を使って七七K (摂氏一九六度)という低温でおこなわれた点が槍玉に挙がった。植物の光合成や生命活動自 体に適した温度よりも明らかにはるかに低く、厄介なデコヒーレントを食い止めるには十分な 低温だ。この冷たく冷やされた細菌が、植物細胞の内部という温かく取り散らかった環境のな かで起きていることと、はたしてどのように関連しているというのだろうか?

 しかしまもなくして、量子コヒーレントと状態が存在しているのは低温のFMO複合体に限 らないことが明らかとなった。二〇〇九年にユニヴァーシティーカレッジ・ダブリンのイア ン・マーサーが、植物の光化学系ときわめて似た、光収穫複合体II(LHC2)という別の最 近の光合成システムにおいて、植物や微生物がふつう光合成を行っている常温で量子のうなり を検出したのだ。さらに二〇一〇年にはオンタリオ大学のグレッグ・ショールズが、きわめて 大量に生息している高等植物に匹敵する量の大気中炭素を固定している(つまり大気中の二酸 化炭素を取り出している)、クリプトモナドと呼ばれる一群の水生藻類(高等植物と違って根 や茎や葉を持たない)の光化学系でも、量子のうなりを発見した。それと同じ頃にグレッグ・エンゲルは、グレアム・フレミングの研究室で自分が研究していたのと同じFMO複合体が、 生命が維持できるようなもっと高い温度でも量子のうなりを発することを突きとめた。さら に、この驚くべき現象が細菌や藻類に限られると思った人のために言っておくと、バークレー のフレミング研究室のテッサ・カルフーンらは、ホウレンソウから抽出した別のLHC2系で 量子のうなりを検出した。LHC2はすべての高等植物に存在しており、地球上のすべてのク ロロフィルの半数がそれに含まれている。」

(ジョンジョー・マクファデン&ジム・アル-カリーリ(1956)『量子力学で生命の謎を解 く』第4章 量子のうなり、pp.144-145、SBクリエイティブ(2015)、水谷淳(訳))





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生命が宿る原子の特別な配列の、可能な配列の無数の組み合わせの数に対する比率は、古典的な場合と量子的な場合で異なるわけではない。しかし、量子的な(コヒーレントな)状態が維持できれば探索は速やかに進み、また古典的には探索されないエネルギー障壁の向こう側も試される。(ジョンジョー・マクファデン(1956-))

量子進化

生命が宿る原子の特別な配列の、可能な配列の無数の組み合わせの数に対する比率は、古典的な場合と量子的な場合で異なるわけではない。しかし、量子的な(コヒーレントな)状態が維持できれば探索は速やかに進み、また古典的には探索されないエネルギー障壁の向こう側も試される。(ジョンジョー・マクファデン(1956-))

「グリーンランドの片麻岩の地層が形成されつつあった三五億年前、古代のイスアの海底に あった泥火山から突き出した蛇紋石の小さな穴のなかに、微量の原始のスープが閉じ込められ ていたとしよう。それはダーウィンのいう「暖かい小さな池」に相当し、「あらゆる種類のア ンモニアやリン酸塩、光、熱、電気などが存在し」、そのなかでは「たんぱく質化合物が......さ らに複雑な変化へつながって」いったかもしれない。ここでさらに、スタンリー・ミラーが発 見したのと同様の化学プロセスによって作られた「たんぱく質分子」(あるいはRNA分子か もしれない)のうちの一個が、何らかの酵素活性は持っていながらいまだ自己複製分子には なっていない、原始酵素(あるいはリボザイム)だったとしよう。さらに、その酵素に含まれ ている粒子のうちのいくつかは、異なる位置へ移動しようとしても、古典的なエネルギー障壁 に阻まれて移動できなかったとしよう。しかし第3章で説明したとおり、電子も陽子も、古典的な移動を阻むエネルギー障壁を量子トンネル効果ですり抜けることができ、それが酵素活性 に重要な役割を果たしている。電子や陽子は、同時にエネルギー障壁の両側に存在するのだ。 それがこの原始酵素のなかでも起きるとしたら、配置の違い、つまり粒子がエネルギー障壁の どちら側にあるかによって、酵素活性が異なり、加速される化学反応の種類も違ってくる。も しかしたらそのなかには、自己複製反応も含まれているかもしれない。  計算を簡単にするために、この仮想的な原始酵素のなかで合計六四個の陽子や電子のそれぞ れが、二つの位置のどちら側にもトンネルできるとしよう。すると、この原始酵素が取ること のできる構造は264種類とさらに膨大で、考えられる配置はものすごい数にな る。ここで、その配置のうちの一通りだけが、自己複製する酵素となるのに必要な配置だった としよう。では、生命の出現につながりうるその特定の配置は、どの程度簡単に見つけられる のだろうか?」(中略)「古典的に考えると、この原始酵素が264通りの配置 のうちのごく一部分を探索するだけでも、とてつもなく長い時間がかかるのだ。しかし、この 原始酵素の鍵を握る六四個の粒子が、二つの一のあいだをトンネルできる電子や陽子だったと すると、状況は一変する。量子系であるその原始酵素は、量子重ね合わせ状態として同時にす べての配列で存在することができる。」(中略)「しかし一つ問題がある。量子計算をおこな うには、キュビットをコヒーレントなもつれ状態に維持しなければならないのだった。ひとた びデコヒーレンスが起きれば、 264 通りの状態の重ね合わせ状態は収縮してし まい、一通りしか残らない。そんなことで役に立つのだろうか? 一見したところその答えは ノーだ。量子重ね合わせ状態が収縮して、自己複製体というたった一通りの状態が残る確率 は、先ほどと同じくコインの表が六四回連続で出る確率と同じで、264分の1 とごく小さいのだ。しかしここから先の話は、量子的記述と古典的記述とで食い違ってくる。  もし分子が量子力学的には振る舞わずに、自己複製できない間違った原始の配列にあったと したら(ほとんどの場合そうだ)、それとは別の配列を試すには、分子の結合をばらばらにし て再び組なおすという、地質学的に遅いプロセスを使うしかない。しかし先ほどの原始酵素が 量子的であれば、たとえデコヒーレンスを起こしても、六四個電子や陽子はほぼ瞬時に、取り うる両方の位置の重ね合わせ状態へと再びトンネルし、264通りの配列の量子 重ね合わせ状態を回復する。六四キュビット状態である量子的な原始複製体分子は、量子の世 界のなかで自己複製体探しをいつまでも繰り返すことができるのだ。  デコヒーレンスが起きると重ね合わせ状態は再び速やかに収縮してしまうが、そのときこの 分子は 264 通りの古典的配置のうちの別の状態になる。再度デコヒーレンスに よって重ね合わせ状態が収縮すると、この系はさらに別の配置を取り、このプロセスが際限な く続いていく。要するにこの比較的保たれた環境のなかでは、量子重ね合わせ状態の生成と消 滅は可逆なプロセスである。重ね合わせとデコヒーレンスによって量子のコインはつねにトス されつづけ、そのプロセスは、化学結合を古典的に作ったり切ったりするのよりもはるかに速 いのだ。  しかし、この量子コイントスを終わらせてしまう現象が一つある。量子的な原始複製分子が やがて自己複製状態へ収縮すると、第7章で説明した飢えた大腸菌のように複製を始め、それ によってこの系は不可逆的に変化して古典的な世界へ入る。量子コイントスはそれで打ち止め となり、最初の自己複製体が古典的な世界に生まれ出るのだ。もちろん、その複製に関わる、 分子内や分子間や環境とのあいだの生化学的プロセスは、自己複製体の配置が見つかるまでに 起きていたプロセスとは明らかに違うはずだ。つまり、その特別な配置が失われて分子が次の 量子的配置へ変わる前に、その特別な配置で固定させるメカニズムが必要となる。」 (ジョンジョー・マクファデン&ジム・アル-カリーリ(1956)『量子力学で生命の謎を解 く』第9章 生命の起源、pp.322-325、SBクリエイティブ(2015)、水谷淳(訳))






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