両眼視野闘争と連続フラッシュ抑制
【両眼視野闘争と連続フラッシュ抑制は、十分に知覚できるほど長い時間与えられた視覚イメージであっても、注意によって選択されなければ、意識的経験から完全に排除され得ることを示している。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))】十分に知覚できるほど長い時間与えられた視覚イメージであっても、注意によって選択されなければ、意識的経験から完全に排除され得る。次のような現象が存在する。
(a)両眼視野闘争
両目のそれぞれに知覚可能なイメージを同時に提示すると、実際には一方のイメージのみが知覚される。
(b)連続フラッシュ抑制
二つのイメージのうちの一方を恒久的に視野から消すことができる。これは、他方の目に鮮やかな色の長方形を連続してフラッシュ(一瞬表示させること)すると、そちらのイメージの流れのみが見えるようになる。
(再掲)
無数の潜在的な知覚情報と記憶から、まず気づきの外で情報選択がなされ、注意によってある項目が意識にのぼる。特定の一時点においては、一つの意識的な思考のみが可能であるにすぎない。
意識的感覚
↑
どちらか一方のイメージのみが勝ち残る。
意識は同じ場所に位置する二つの対象を同時にとらえることができない。
↑
無数の潜在的な知覚情報が、意識による気づきを求めて絶え間なく争っている。
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両方の可能性が依然として認められる視覚処理の末梢的、初期的な段階
「今日でも両眼視野闘争は、意識的経験の基盤をなす神経メカニズムを探究するための格好の素材になる。この現象を用いた何百もの実験が行われ、さらに多くのバリエーションが開発されている。たとえば、「連続フラッシュ抑制」と呼ばれる新たな方法によって、二つのイメージのうちの一方を恒久的に視野から消すことができる。これは、他方の目に鮮やかな色の長方形を連続してフラッシュ(一瞬表示させること)すると、そちらのイメージの流れのみが見えるようになる、というものである。
両眼視野闘争を利用する意味はどこにあるのか? それは、次のような事実を教えてくれる。目に長期間視覚イメージを提示し、その情報が視覚処理を司る脳の領域に伝えられたとしても、そのイメージは意識的経験から完全に排除され得る。両目のそれぞれに知覚可能なイメージを同時に提示すると、実際には一方のイメージのみが知覚される両眼視野闘争によって、意識にとって重要なのは、両方の可能性が依然として認められる、視覚処理の末梢的、初期的な段階ではなく、どちらか一方のイメージのみが勝ち残る、もっとあとの段階であることがわかる。意識は同じ場所に位置する二つの対象を同時にとらえることができないために、脳は激しい競争の場になり、私たちのあずかり知らぬところで、二つのみならず無数の潜在的な知覚情報が、意識による気づきを求めて絶え間なく争っているのだ。そして、ある時点をとりあげると、それらのうちのどれか一つしか意識の舞台にのぼれない。闘争という表現は、コンシャスアクセスを求めているこの争いのメタファーとしてまったくふさわしい。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第1章 意識の実験,紀伊國屋書店(2015),pp.48-49,高橋洋(訳))
(索引:両眼視野闘争,連続フラッシュ抑制)
(出典:wikipedia)
「160億年の進化を経て発達した皮質ニューロンのネットワークが提供する情報処理の豊かさは、現在の私たちの想像の範囲を超える。ニューロンの状態は、部分的に自律的な様態で絶えず変動しており、その人独自の内的世界を作り上げている。ニューロンは、同一の感覚入力が与えられても、その時の気分、目標、記憶などによって異なったあり方で反応する。また、意識の神経コードも脳ごとに異なる。私たちは皆、色、形状、動きなどに関して、神経コードの包括的な一覧を共有するが、それを実現する組織の詳細は、人によって異なる様態で脳を彫琢する、長い発達の過程を通じて築かれる。そしてその過程では、個々シナプスが選択されたり除去されたりしながら、その人独自のパーソナリティーが形成されていく。
遺伝的な規則、過去の記憶、偶然のできごとが交錯することで形作られる神経コードは、人によって、さらにはそれぞれの瞬間ごとに独自の様相を呈する。その状態の無限とも言える多様性は、環境に結びついていながら、それに支配はされていない内的表象の豊かな世界を生む。痛み、美、欲望、後悔などの主観的な感情は、この動的な光景のもとで、神経活動を通して得られた、一連の安定した状態のパターン(アトラクター)なのである。それは本質的に主観的だ。というのも、脳の動力学は、現在の入力を過去の記憶、未来の目標から成る布地へと織り込み、それを通して生の感覚入力に個人の経験の層を付与するからである。
それによって出現するのは、「想起された現在」、すなわち残存する記憶と未来の予測によって厚みを増し、常時一人称的な観点を外界に投影する、今ここについてのその人独自の暗号体系(サイファー)だ。これこそが、意識的な心の世界なのである。
この絶妙な生物機械は、あなたの脳の内部でたった今も作動している。本書を閉じて自己の存在を改めて見つめ直そうとしているこの瞬間にも、点火したニューロンの集合の活動が、文字通りあなたの心を作り上げるのだ。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第7章 意識の未来,紀伊國屋書店(2015),pp.367-368,高橋洋(訳))
(索引:)
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