2018年8月14日火曜日

グリアは脳内のいたるところで、シナプスを再構築しているのではないだろうか。例として、病原菌を殺傷する能力を持ったミクログリアは、視神経回路を再配線している。小脳のバーグマングリアの機能も、解明されつつある。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

ミクログリア

【グリアは脳内のいたるところで、シナプスを再構築しているのではないだろうか。例として、病原菌を殺傷する能力を持ったミクログリアは、視神経回路を再配線している。小脳のバーグマングリアの機能も、解明されつつある。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

グリアによる脳の再構築
 (a)視床下部、出産、乳汁分泌、水分量調節などに関連しているが、その他、脳内のいたるところでシナプスを再構築しているのではないだろうか。
 (b)例えば、ミクログリアについて。
  (b1)ニューロンをつなぎ合わせている細胞外マトリックスタンパク質を溶解する、強力なタンパク質分解酵素を持っている。これによって、密集している脳細胞の間を縫って感染部位に駆けつけ、侵入してきた病原体を殺傷できる。
  (b2)損傷後や、生後間もない時期に、私たちの眼から伸びた視神経が視覚経験に導かれて脳の適切な部位に結合する際に、ミクログリアがニューロンから不要なシナプスを剥ぎ取って、神経回路を再配線していることが判明している。
 (c)小脳のニューロンは、バーグマングリアと称されるアストロサイトにしっかりと包み込まれている。このアストロサイトも、つるのような触手を動かすことができる。このグリアの機能も、解明されつつある。

 「ミクログリアは、ニューロンをつなぎ合わせている細胞外マトリックスタンパク質を溶解する強力なタンパク質分解酵素を持っている。密集している脳細胞の間を縫って感染部位に駆けつけ、侵入してきた病原体を殺傷できるのは、このためだ。最近になって、この感染と闘う武器を使って、損傷後や生後間もない時期に、私たちの眼から伸びた視神経が視覚経験に導かれて脳の適切な部位に結合する際に、ミクログリアがニューロンから不要なシナプスを剥ぎ取って、神経回路を再配線していることが判明した。この小さなグリア細胞は、病気に関心を寄せている者を除き、大部分の神経科学者に見逃されてきた。というのも、ミクログリアは、脳内で病原体を探し出して貧食する免疫細胞にすぎないと見なされていたからだ。ところが今では、このきわめて重要な役割に加えて、ミクログリアが神経回路を再配線して、学習を可能にするために一役買っていることもわかっている。
 グリアによる脳の再構築は、視床下部において十分に立証され、ヒトの行動と結びつけられているが、視床下部という特定の脳部位や、これまで考察してきた出産、乳汁分泌、水分量調節のような現象に限定されると推定すべき理由があるだろうか? それよりもむしろ、グリアは脳内のいたるところでシナプスを再構築しているが、さまざまな精神機能を制御するグリアのやり方は非常に巧妙なために、現在の荒削りな観察手法では捉えきれていないのだと結論するほうが妥当だろう。
 シナプスの物理的リモデリングは、学習に関係する他の脳領域でも発見され始めている。脳の後方に位置する小脳は、身体運動の制御や、ゴルフスイングの上達のような身体的技能の学習に不可欠な脳部位だ。小脳のニューロンは、バーグマングリアと称されるアストロサイトにしっかりと包み込まれている。このアストロサイトも、《つる》のような触手を動かすことができる。科学者たちは小脳において、ニューロンとグリアの間で伝達され、シナプスでのグリアの運動を制御しているシグナルを解明し始めている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第13章 「もうひとつの脳」の心――グリアは意識と無意識を制御する,講談社(2018),pp.452-454,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:ミクログリア,バーグマングリア)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)


(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

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