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2018年6月14日木曜日

9.マスター内知覚マップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)

マスター内知覚マップ

【マスター内知覚マップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)】
マスター内知覚マップ
《知覚の種類》器官、組織、内臓、その他内部環境の状態に由来する知覚。
《情動》原初的な感情(最適、平常、問題あり)、痛覚、温冷、飢え、喉の渇き、快楽。
《特徴》内部状態は、ホメオスタシス機構により、変化は極めて狭い範囲でしか生じない。従って、この知覚は他の知覚と比較し、生涯を通じて安定しており、不変性の基礎を提供する。

(再掲)
(g)代謝のプロセス
《定義》
・内部の化学的作用のバランスを維持するための、化学的要素(内分泌、ホルモン分泌)と機械的要素(消化と関係する筋肉の収縮など)
《機能》
・体内に適正な血液を分配するための、心拍数や血圧の調整。
・血液中や細胞と細胞の間にある液の酸度とアルカリ度の調整。
・運動、化学酵素の生成、有機体組織の維持と再生に必要なエネルギーを供給するための、タンパク質、脂質、炭水化物の貯蔵と配備の調整。

 「これらは内部状態と内臓から出てくる内知覚信号からコンテンツを組み立てられるマップやイメージとなる。

内知覚信号は中枢神経系に、生命体の状態を継続的に伝える。その状態には最適状態から平常、問題あり、といったバリエーションがあり、器官や組織の総合性が損なわれて体内で損傷が起こった場合などを告げる(ここで言っているのは侵害受容信号であり、これは痛覚感情の基盤となる)。

内知覚信号は、生理的補正の必要性を報せる。これが心の中で具体化すると、飢えやのどの渇きといった感情となる。温度を伝えるあらゆる信号や、内部状態の働きについての無数のパラメータもこの分類に入る。最後に、内知覚信号は快楽状態とそれに対応する快感感情の構築に貢献する。」(中略)

 「原初的な感情は、その他のあらゆる感情に先立つものだ。それは、脳幹と相互接続されている、生きた身体だけを独自に参照している。

あらゆる情動の感情は進行中の原初的感情の変種だ。物体と生命体との相互作用により生じるあらゆる感情は、継続中の原初的感情の変種だ。原初的感情とその情動的な変種は、心の中で起こる他のあらゆるイメージに伴う忠実なコーラスを生み出す。」(中略)

「内知覚はいずれ自己を構成することになるもののための、一種の安定した足場を作るのに必要となる、相対的な《不変性》の源としておあつらえ向きなのだ。

 この相対的不変性の問題はきわめて重要だ。というのも自己は単一のプロセスであり、その単一性を基礎づける生物学的な可能性を突き止める必要があるからだ。」(中略)

「内部状態とそれに関連する多くの内臓パラメータは、生命体の中でどんな年齢でも生涯を通じて最も不変の部分を提供するが、それはこれらが変わらないからではなく、その働きのために、その変化がきわめて狭い範囲でしか起こってはならないせいだ。

骨は発達期を通じて成長するし、それを動かす筋肉も成長するが、生命が生じる化学溶液の本質――そのパラメータの平均的な範囲――は、その人が3歳だろうと、50だろうと80だろうとほぼ同じだ。また身長が60センチのときも180センチのときも、恐怖の状態や幸せの状態の生物学的な本質は、おそらくそうした状態が内部状態の化学としてどう構築されるか、そして内臓における平滑筋の収縮や延伸の度合いから見れば、ほぼまちがいなく同じままだろう。

恐怖や幸福といった状態の原因――そうした状態を引き起こす考え――は生涯でかなり変わるが、そうした原因に対するその人の情動的な反応は変わらないということは指摘しておこう。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『自己が心にやってくる』第3部 意識を持つ、第8章 意識ある心を作る、pp.229-231、早川書房 (2013)、山形浩生(訳))
(索引:マスター内知覚マップ)

自己が心にやってくる


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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