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2021年12月7日火曜日

規範を事実の上に基礎づけることは不可能である。しかし、規範の恣意性に対する反論として、それらの規範を導出できる自然法則があるのではないかと主張する生物学的自然主義がある。確かに"自然な"行為はあるかもしれない。では、我々の文明や文化は自然なのか不自然なのか。(カール・ポパー(1902-1994))

生物学的自然主義への批判

規範を事実の上に基礎づけることは不可能である。しかし、規範の恣意性に対する反論として、それらの規範を導出できる自然法則があるのではないかと主張する生物学的自然主義がある。確かに"自然な"行為はあるかもしれない。では、我々の文明や文化は自然なのか不自然なのか。(カール・ポパー(1902-1994))


「以前に指摘したように、素朴ないし呪術的一元論から規範と自然法則の間の区別を明確に 自覚する批判的二元論に至るまでの発展には、多くの中間段階がある。これらの中間的な立場 は大抵、もし規範が規約的ないし人工的であるならば、それは全く恣意的でなければならない という考え違いから生じる。それらの要素をすべて結合しているプラトンの立場を理解するた めには、これらの中間的な立場の中で最も重要な三つの立場を調査することが必要である。そ れは(1)生物学的自然主義、(2)倫理的ないし法的実定主義、(3)心理学的ないし精神的自然主 義である。これらの立場のどれもが互いに根本的に対立する倫理的見解を擁護するために用い られてきたこと、より詳しく言えば、力の礼讃のためにも弱者の権利の擁護のためにも用いら れてきたということは興味深い。  (1)生物学的自然主義、あるいはもっと精密に言えば倫理的自然主義の生物学的形態とは、 道徳法則や国家の法律が恣意的であるという事実にもかかわらず、それらの規範を導き出すこ とのできるある種の永遠不変の自然法則が存在するという理論である。食習慣、すなわち食事 の回数や摂取する食物の種類などは規約の恣意性の一例であるが、この分野には疑いもなく一 定の自然法則が存在する、と生物学的自然主義者は論じるであろう。例えば、人間は食物を不 十分に摂取したり過剰に摂取したりすれば死ぬであろう。こうして現象の背後に実在があるの と同様に、われわれの恣意的規約の背後には何らかの不変の自然法則、とりわけ生物学上の法 則があるように思われる。」(中略)「私はこれらの教説を後にもっと詳しく論じよう。現在 のところは生物学的自然主義がいかにして最も離れた倫理的諸教説を支持するために用いられ うるかを示すのに役立つであろう。規範を事実の上に基礎づけることは不可能だというわれわ れの以前の分析に照らしてみれば、この結果は予期されないことではない。  しかしながらこのような考察は、生物学的自然主義ほどに人気のある理論を打ち負かすには おそらく十分ではないであろう。そこで私は二つの一層直接的な批判を提案する。第一に、あ る種の行動形態が他のものより「自然だ」として記述できることは認めなければならない。例 えば裸で歩くことや生の食物のみを食べることがそうであり、ある人々はこのこと自体がこれ らの形態を選択することを正当化するものと考える。だがこの意味では、芸術や科学や、あるいは自然主義的支持の議論に興味をもつことさえも、確かに自然ではないことになる。至高の 基準として「自然」との一致を選ぶことは、究極的にはほとんどの人が直視する覚悟をもたな いような結果へ通じる。これはより自然な形態の文明へと導くのではなく獣性へと導くのであ る。第二の批判はより重要である。生物学的自然主義者は、もし素朴にもわれわれはいかなる 規範をも採用する必要などなく単純に「自然の法則」に従って生きればよいのだと信じている のでないとすれば、自分の規範を健康の条件等を決定する自然法則から導き出せると仮定して いるのである。彼は自分が一つの選択、決定をしているのだという事実、また他のある人々 (例えば医学研究のために意識的に自分の生命の危険を冒した多くの人々)は自分の健康以上 にあるものを大事にするということがありうるという事実を見過ごしているのである。それゆ え彼が、自分は何ら決定を下してはいないとか、自分の規範を生物学的法則から導き出したの だとか信じるならば、彼は誤っているのである。」
 (カール・ポパー(1902-1994),『開かれた社会とその敵』,第1部 プラトンの呪文,第5章 自 然と規約,第5節,pp.80-83,未来社(1980),内田詔夫(訳),小河原誠(訳))
カール・ポパー
(1902-1994)










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