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2021年11月23日火曜日

知られている最小のバクテリアのゲノムには、数百万ビ ットの情報が含まれている。生命の著しい複雑性を進化には、数十億年にわたる厖大な数の情報処理のステップが必要だったのだ。生命は、1%の物理と99%の歴史から成っている。(ポール・デイヴィス(1946-))

1%の物理法則と99%の歴史

知られている最小のバクテリアのゲノムには、数百万ビ ットの情報が含まれている。生命の著しい複雑性を進化には、数十億年にわたる厖大な数の情報処理のステップが必要だったのだ。生命は、1%の物理と99%の歴史から成っている。(ポール・デイヴィス(1946-))

「ある気体が、任意の状態で、閉じた容器に入れられ、その後放置されたとすると、そ の気体は、どの場所でも温度と圧力が同じで、分子の速度が、ある厳密な数学的関係 (マクスウェル= ボルツマン分布)に則って分布した、ある最終状態へと急速に近づいていく。この場合も、その最終状 態は、完全に予測可能で、再現性がある。それは、物理法則で前もって決定されているのである。この ように、塩や気体の最終状態は、物理法則に「書き込まれている」と断言するのは、まったく正しいことである。

 しかし、わたしたちが直面しているのは、生物が、そして意識までもが、物理法則に書き込まれてい るかどうか、という問題だ。生命を持たないものから生命が出現するという現象は、たとえば、結晶化と同じように、さまざまな初期条件のもとで、物理法則だけに従って起こるのだろうか? この問いに 対する答えは、断固たる「ノー」である。生物的な系は、結晶とカオス的気体という、二つの両極端の 中間に位置する。生きた細胞は、著しく組織化された複雑さを持っているという点でほかのものと明確 に区別される。細胞は、結晶の単純さも、気体の無秩序さも持ち合わせていない。それは、大量の情報 を持った、具体的で特殊な物質の状態である。知られている最小のバクテリアのゲノムには、数百万ビ ットの情報が含まれている――この情報は、物理法則のなかに暗号化されてはいない。物理法則は、極 めて少量の情報によって表現することが可能な、単純な数学的関係である。それは普遍的な法則であり、 すべてのものに適用されるので、あるひとつの種類の物理系―つまり、生きた生命体だけに当て はまる情報を含むことはありえない。生物が大量の情報を含んでいることを理解するには、生物は、物 理法則だけの産物なのではなく、物理法則と環境の歴史の両方をあわせたものの産物であることを認識 しなければならない。生物が出現し、その著しい複雑性を進化させたのは、数十億年もかかるプロセス の結果であり、また、それには厖大な数の情報処理のステップが必要だったのである。このように、ひ とつの生命体は、複雑で入り組んだ歴史の産物を含んでいる。これを一言でまとめると、わたしたちが 今日観察している形の生物は、一パーセントの物理と九九パーセントの歴史から成っていると表現でき よう。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第10章 どうして存在するのか,pp.401-402,日経BP社,2008,吉田三知世)





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