2022年3月27日日曜日

政治とはつまるところ説得術である。政 治的なものとは、十分な数の人びとが信じるならば物事が真実になる、そのような社会生活の 次元である。だが、その主張の唯一の基盤が、誰もが信じているということだけであることを認めてしまえば、決してうまくいくことはない。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))

政治は魔術に似ている

政治とはつまるところ説得術である。政 治的なものとは、十分な数の人びとが信じるならば物事が真実になる、そのような社会生活の 次元である。だが、その主張の唯一の基盤が、誰もが信じているということだけであることを認めてしまえば、決してうまくいくことはない。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))



 「以下のことについてべつの視角から表現すれば、この新しい時代は貨幣の政治的本性とま すます折り合いが悪くなってきたともいえるだろう。政治とはつまるところ説得術である。政 治的なものとは、十分な数の人びとが信じるならば物事が真実になる、そのような社会生活の 次元である。厄介なのは、うまくゲームをやっていくためには、そのことを決して認めるわけ にはいかないというところにある。たとえば、わたしはフランス国王であると世界中のすべて の人びとを納得させることができればわたしは実際にフランス国王となる、ということは真実 かもしれない。だが、わたしの主張の唯一の基盤が、そこにあること[だれもが信じていると いうことだけであること]を認めてしまえば、決してうまくいくことはない。この意味で、政 治は魔術によく似ている。まさに、政治と魔術がいずこにあっても、いずれも詐欺めいた後光 を帯びてしまうゆえんである。当時、こういった疑惑は、著しく誇張されていた。1711年に、 風刺的エッセイストのジョセフ・アディソンは、イングランド銀行が――それゆえイギリスの貨 幣制度が――王座の政治的安定に対する民衆の信頼に依存していることについて短編幻想小説を 書いている。」


(デヴィッド・グレーバー(1961-2020),『負債論』,第11章 大資本主義帝国の時代(1450 年から1971年),pp.505-506,以文社(2016),酒井隆史(訳),高祖岩三郎(訳),佐々木夏子 (訳))

負債論 貨幣と暴力5000年 [ デヴィッド・グレーバー ]



デヴィッド・グレーバー
(1961-2020)






ある国王は常備軍を維持したい。どうすれば良いか。兵士たちに硬貨を配布し、つい で、王国内のすべての世帯にその硬貨の一部を王に返すべしと要求するなら、一夜にして国民経済は兵士への物資供給のための巨大機械に転換することになる。これが、そもそもなぜ王国は臣民たちに納税を強いたのかの理由である。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))

市場と貨幣を機能させる

ある国王は常備軍を維持したい。どうすれば良いか。兵士たちに硬貨を配布し、つい で、王国内のすべての世帯にその硬貨の一部を王に返すべしと要求するなら、一夜にして国民経済は兵士への物資供給のための巨大機械に転換することになる。これが、そもそもなぜ王国は臣民たちに納税を強いたのかの理由である。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))



(a)貨幣と市場は政府から独立していない
 金と銀が政府から完全に独立した市場の自然なはたらきを通じて貨幣になったのなら、金山と銀山を支配することだけで済みではないか? そうすれば王国は、必要な金 銭をすべて手中におさめることができるではないか。




「このように考えると少なくとも初期王国の多くが採用した財政政策のあきらかな謎のうち のひとつを解決するのに役立つ。そもそもなぜ王国は臣民たちに納税を強いたのか? これは あまり問われることのない問いである。一見したところ答えは自明にみえるからだ。政府が税 を要求するのは民衆の金銭を手に入れたいからに決まっている。だがもしアダム・スミスが正 しければ、そして金と銀が政府から完全に独立した市場の自然なはたらきを通じて貨幣になったのなら、金山と銀山を支配することだけですみではないか? そうすれば王国は、必要な金 銭をすべて手中におさめることができるではないか。実際に古代の国王たちは通常それをおこ なっていた。領地内に金山や銀山があれば王たちはそれらを独占したのである。とすれば、金 を徴収し、じぶんの肖像をそこに刻印し、臣民たちのあいだで流通させたあとで、そのおなじ 臣民たちに、それを[税として]返すよう要求する目的はなんなのか?  これはちょっとした難問である。だが貨幣と市場が同時に出現したのでないとするのなら、 完全に理にかなっている。これが市場を生みだす最もかんたんで効果的な方法だからだ。ここ で仮説的な一例をあげてみよう。ある国王は5万人からなる常備軍を維持したい。古代および 中世の諸条件のもとでは、それだけの兵力を養うのは大問題であった。このような軍勢は、駐 屯しているあいだに、野営地の10マイル以内で食べられるものならなんでも食い尽くしてしま う。行軍中でなければ、必要な食料を貯蔵し入手し運搬するためだけに、ほとんど[軍勢と] おなじ数の人間と動物を雇う必要が出てくる。それに対して、兵士たちに硬貨を配布し、つい で、王国内のすべての世帯にその硬貨の一部を王に返すべしと要求するなら、一夜にして国民 経済は兵士への物資供給のための巨大機械に転換することになる。いまやすべての世帯が、硬 貨を手に入れるためにあれこれと方法をさがしだし、兵士の欲しがるものを供給するという全 般的なもくろみに参加することになる。市場はその副次的効果として発生するのである。」 

 (デヴィッド・グレーバー(1961-2020),『負債論』,第3章 原初的負債,pp.74-75,以文社 (2016),酒井隆史(訳),高祖岩三郎(訳),佐々木夏子(訳))

負債論 貨幣と暴力5000年 [ デヴィッド・グレーバー ]





デヴィッド・グレーバー
(1961-2020)






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