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2020年6月8日月曜日

5.肯定的裁可は内在化し、誇りの感情を生む。やがて、個人は自己像を持ち、対象としての自己を自分で肯定的に評価することで、自尊心の感情が誕生し、強い社会結合と連帯を作り出すことができるようになる。(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

自尊心

【肯定的裁可は内在化し、誇りの感情を生む。やがて、個人は自己像を持ち、対象としての自己を自分で肯定的に評価することで、自尊心の感情が誕生し、強い社会結合と連帯を作り出すことができるようになる。(ジョナサン・H・ターナー(1942-))】

(4)肯定的裁可の内在化、誇りの感情
(5)自己像の形成と自尊心の感情の誕生
 (a)肯定的裁可が内在化した誇りの感情がさらに自律化し、対象としての自己を自分で肯定的に評価することで、自尊心の感情が誕生する。
 (b)自尊心の感情は、おおむね幸せからなっている。
 (c)自らを誇れるような仕方で行動できないかもしれないという恐れの気持ちが付きまとっている。
 (d)自尊心は個人が将来の期待を適え、そしてこうした努力によって生まれる肯定的裁可を確保できるように個人を押しあげる能力をもっている。
 (e)相互的な自尊心を用いる方法は、否定的裁可とその感情を用いる方法よりも、はるかに強い社会結合と連帯を作りだすことができる。

 「社会結合と連帯にとってとくに重要であったのは自尊心の感情である。自尊心の感情はおおむね幸せからなっている。

とはいえそれには自らを誇れるような仕方で行動できないかもしれないという恐れの気持ちが付きまとっている。

チャールズ・ホートン・クーリー(Cooley 1916)がはじめて自尊心の重要性を認識した。トーマス・シェフ(Scheff 1988,1990a,1990b)の最近の研究によってその重要性があらためて検証されている。

自尊心がとりわけ重要であるのは、それが対象としての自己についての個人の意識的情動と結びついているからである。

自尊心は自己が課し、また他者によって課せられた期待を適えることができたとき、もしくは期待以上のことをなし遂げたときに生まれる。

肯定的裁可は自尊心の生産にとっての基本であるが、しかしこれがひとたび活性化すると、自尊心は個人が将来の期待を適え、そしてこうした努力によって生まれる肯定的裁可を確保できるように個人を押しあげる能力をもっている。

さらに自尊心は肯定的な社会結合を築くような仕方で個人に行為を行わせる。というのも、自尊心は基本的に自分にとっての幸せの感情――これは伝染しやすい傾向をもつ――だからである。

それゆえ、他者は自尊心を経験している人と役割取得をしているわけだから、彼らは肯定的情動を経験しやすい。

だからこそ、ヒト科の進化のきわめて早い時期に、選択は人間の祖先に自尊心を経験する能力を与えたのではないだろうか。ついで、自尊心は期待を適えるように自らを方向づけるための羅針盤を個人に与え、また肯定的裁可の表現を通して他者に同一の行動をするよう促す。

相互的な自尊心を用いる方が、他の方法を用いるよりもはるかに相互的な自尊心から強い社会結合と連帯を作りだすことができる。」
(ジョナサン・H・ターナー(1942-)『感情の起源』第2章 選択力と感情の進化、pp.71-72、明石書店 (2007)、正岡寛司(訳))
(索引:自尊心)

感情の起源 ジョナサン・ターナー 感情の社会学



(出典:Evolution Institute
ジョナサン・H・ターナー(1942-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「実のところ、正面切っていう社会学者はいないが、しかしすべての社会学の理論が、人間は生来的に(すなわち生物学的という意味で)《社会的》であるとする暗黙の前提に基づいている。事実、草創期の社会学者を大いに悩ませた難問――疎外、利己主義、共同体の喪失のような病理状態をめぐる問題――は、人間が集団構造への組み込みを強く求める欲求によって動かされている、高度に社会的な被造物であるとする仮定に準拠してきた。パーソンズ後の時代における社会学者たちの、不平等、権力、強制などへの関心にもかかわらず、現代の理論も強い社会性の前提を頑なに保持している。もちろんこの社会性については、さまざまに概念化される。たとえば存在論的安全と信頼(Giddens,1984)、出会いにおける肯定的な感情エネルギー(Collins,1984,1988)、アイデンティティを維持すること(Stryker,1980)、役割への自己係留(R. Turner,1978)、コミュニケーション的行為(Habermas,1984)、たとえ幻想であれ、存在感を保持すること(Garfinkel,1967)、モノでないものの交換に付随しているもの(Homans,1961;Blau,1964)、社会結合を維持すること(Scheff,1990)、等々に対する欲求だとされている。」(中略)「しかしわれわれの分析から帰結する一つの結論は、巨大化した脳をもつヒト上科の一員であるわれわれは、われわれの遠いイトコである猿と比べた場合にとくに、生まれつき少々個体主義的であり、自由に空間移動をし、また階統制と厳格な集団構造に抵抗しがちであるということだ。集団の組織化に向けた選択圧は、ヒト科――アウストラロピテクス、ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトゥス、そしてホモ・サビエンス――が広く開けた生態系に適応したとき明らかに強まったが、しかしこのとき、これらのヒト科は類人猿の生物学的特徴を携えていた。」
(ジョナサン・H・ターナー(1942-)『社会という檻』第8章 人間は社会的である、と考えすぎることの誤謬、pp.276-277、明石書店 (2009)、正岡寛司(訳))

ジョナサン・H・ターナー(1942-)
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2020年5月27日水曜日

(a)成長欲求(a1)自己実現欲求(真,善,美,躍動,必然,秩序,個性,完成,単純,完全,正義,豊富,自己充実,無礙,楽しみ,意味)(b)基本的欲求(b1)自尊心,他者による尊厳の欲求(b2)愛と集団帰属の欲求(b3)安全と安定の欲求(b4)生理的欲求(アブラハム・マズロー(1908-1970))

マズローの欲求の階層

【(a)成長欲求(a1)自己実現欲求(真,善,美,躍動,必然,秩序,個性,完成,単純,完全,正義,豊富,自己充実,無礙,楽しみ,意味)(b)基本的欲求(b1)自尊心,他者による尊厳の欲求(b2)愛と集団帰属の欲求(b3)安全と安定の欲求(b4)生理的欲求(アブラハム・マズロー(1908-1970))】

(1)成長欲求(存在価値)
 (1.1)自己実現欲求
  (a)自己の人生の最大の希望がかなえられ,自己の可能性が最高に発揮できる。
  (b)「成長欲求はすべて同等の重要さをもつ(階層的ではない)」(マズロー)
  (c)自己実現を達するための存在価値(成長欲求)のリスト
   真、善、美
   躍動、必然、秩序
   個性、完成、単純
   完全、正義、豊富
   自己充実、無礙、楽しみ
   意味
  (d)審美的欲求(ヒルガードの心理学)
    調和、秩序、美しさ
  (e)認知の欲求(ヒルガードの心理学)
    知ること、理解すること、探究すること
(2)基本的欲求(欠乏欲求)
 「成長欲求と欠乏欲求は質的相違があり,欠乏欲求が成長欲求の必要条件となる」
 (2.1)自尊心・他者による尊厳の欲求
  (a)自尊心
   自己尊重の欲求
  (b)他者による尊厳
   承認の欲求(ヒルガードの心理学)
    価値ある人間として認められたいという欲求
 (2.2)愛と集団帰属の欲求
  受け入れられること。所属すること。
 (2.3)安全と安定の欲求
  危険から保護され安全でなければならず
 (2.4)生理的欲求
  空気、水、食物、庇護、睡眠、性
(3)以下は、マズローが抽出した欲求の分類の提案である。分類は、以下の仮説に従っている。すなわち、欲求とは、想起、想像、理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。なお、人間の場合には、情動喚起刺激の種類によって、以下のような幾つかの特徴的な情動が生じる。
 (3.1)驚き、恐怖の様相
  帰属価値:意味、真、必然、単純
  認知の欲求
  安全と安定の欲求
 (3.2)快、不快の様相
  (a)外的対象、快、嫌悪
   帰属価値:美、秩序、完全、豊富
   審美的欲求
  (b)自己状態、喜び、悲しみ
   帰属価値:善、無礙、楽しみ
   安全と安定の欲求
  (c)自己行為の自己評価、内的自己満足、後悔
   帰属価値:正義、善、自己充実、躍動、完成、個性
   自己尊重の欲求
  (d)自己行為の他者評価、誇り、恥
   帰属価値:正義、善
   承認の欲求
  (e)他者状態、喜び、憐れみ
   帰属価値:善
  (f)他者行為、好意、憤慨
   帰属価値:正義、善
  (g)自己向け他者行為、感謝、怒り
   帰属価値:正義、善
   愛と集団帰属の欲求
  (h)身体ないしその一部に関係づける知覚としての、飢え、渇き、その他の自然的欲求
   生理的欲求:空気、水、食物、庇護、睡眠、性
 (3.3)マズローの欲求の階層の新解釈
  基礎的な欲求の対象(情動の対象)から順に列挙すると、以下の通りである。
  (a)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
  (b)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(安全と安定の欲求)
  (c)自己向け他者行為の快・不快(愛と集団帰属の欲求)
  (d)自己行為の他者評価の快・不快(承認の欲求)
  (e)自己行為の自己評価の快・不快(自己尊重の欲求)
  (f)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)

(出典:wikipedia
アブラハム・マズロー(1908-1970)の命題集(Propositions of great philosophers)
 「沢は,基本的欲求の階層を 5 段階と説明したが,なぜかその階層図は 6 段階に描かれていた。すなわち,この階層図においては,自己実現の欲求が長方形で囲まれ 6段階目に位置づけられていた。このため,このモデルは初学者にとって分かりにくいものになってしまった。その基本的欲求の階層図をもとに,沢は概ね次の説明を加えた(図4)。
「マズローは,人間の欲求を 5 つに分類し,それらを段階的に並べ,より上位の欲求が満たされるためにはあらかじめその下段に位置する欲求が満たされていなければならないと述べている。第一段の生理的欲求は,生存するために必須の条件であるので,他の条件より先行している。次に必要とされるのは生命の安全と保障と保護である。私たちは生活のなかで常に危険から保護され安全でなければならず,そのことを実感している必要がある。次は愛と帰属(所属)の欲求である。どんなに衣食住の生理的欲求が満たされ安全が保障されていても,愛もしくは愛情が注がれていなければ人間は安定して平和に生活できない。次の段階の欲求は尊敬(尊重)である。私たちは家庭においても社会においても価値ある人間として認められたいという「自己尊重」もしくは「尊敬されること」を欲求しているはずである。そして,最上位の欲求として自己実現があり,これは自己の人生の最大の希望がかなえられ,自己の可能性が最高に発揮できる段階である。この段階は生涯の最大の幸せなる愛を感じ,知識に満たされることも含んでいる」16)。」
マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈(廣瀨清人,菱沼典子,印東桂子)2008年11月5日 受理 28 聖路加看護大学紀要 No.35 2009. 3.

「7 段階の階層図は『ヒルガードの心理学』に掲載されている 18)(図5)。この著作は “Atkinson & Hilgard's Introduction to Psychology”であり,初版が 1953 年に出版されて以降,現在まで 14 版を重ねており,心理学の入門書として,もっとも権威がある。原典は 2 段組で 700 ページを越える大著であるにもかかわらず,第 13 版(2002)17)と第 14 版(2005)18)がそれぞれ邦訳されている。ここでは,後者の記述に基づいて,基本的欲求の階層図を確認しておきたい。
基本的欲求の階層は,低次から高次の順に生理的欲求,安全の欲求,愛情と所属の欲求,承認の欲求,認知の欲求,審美的欲求そして自己実現欲求であった。その基本的欲求の階層図をもとに,Smith らは次の説明を加えた。
「基本的欲求の階層図は,基本的な生理的欲求から,より複雑な高次の心理的動機づけに至り,それらの高次の欲求は,より低次の欲求が満たされてはじめて重要性を持つ。ある階層の欲求が,少なくとも部分的に満足されて,はじめて,その次の階層の欲求が行動の動機づけとして意味を持つようになる。食料や安全の確保が困難な場合,それらの欲求を満たそうとする努力が,人の行動を支配して,より高次の動機は重要でなくなる。基本的欲求を容易に満足させられる場合にのみ,美的・知的欲求を満たすために,時間と努力を費やすことができる。したがって,食料,家屋や安全を確保することに人々が苦労している社会では,芸術や科学はさかんではない。もっとも高次の動機である自己実現欲求は,ほかのすべての欲求が満たされてはじめて満足できる状態になる」18)。」
マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈(廣瀨清人,菱沼典子,印東桂子)2008年11月5日 受理 28 聖路加看護大学紀要 No.35 2009. 3.

『マズローの心理学』において,基本的欲求の階層図は 5 つの欲求を含んでいた。それらは低次から高次の順に生理的(空気・水・食物・庇護・睡眠・性),安全と安定,愛・集団所属,自尊心・他者による尊厳(承認),そして自己実現であった 24)(対応する英語は順に“Physiological Air, Water, Food, Shelter, Sleep, Sex” “Safety and Security” “Love & Belongingness” “Self Esteem/Esteem by Others” “Self Actualization”であった 23)。そして,その自己実現を達するための存在価値(成長欲求)のリストが「意味」「自己充実」「無礙」「楽しみ」「豊富」「単純」「秩序」「正義」「完成」「必然」「完全」「個性」「躍動」「美」「善」「真」であった。これらの徳目は相互に分節化されないで,基本的欲求の階層図の一番上の区切りの内側に大きなスペースを与えて配置されていた(図6)。
さらに,台形の下底の外側には,基本的欲求の充足の前提条件が明記されていた。興味深いことは,基本的欲求の階層図の欄外には「成長欲求はすべて同等の重要さをもつ(階層的ではない)」24)という注が記されていた点であり,そこではマズローが発見した成長欲求のリストの間には階層関係がないことが指摘されていた。ゴーブルの著作から基本的欲求の階層のみを抜き出して要約すると次のようになる。
基本的欲求は階層をなしており,低次の欲求から高次の欲求に向かう順番に生理的欲求,安全の欲求,所属と愛の欲求,承認の欲求,そして自己実現の欲求である。原則として,より高次の欲求は,低次の欲求が満たされてはじめて重要性を持つが,しかしながら多くの例外がある。たとえば,ある人々は,他人からの愛よりも自己承認を求めようとするかもしれない。あるいは,長期にわたり失業していた人は,食料だけを探していた歳月が経過した後では,高次の欲求を喪失あるいは鈍磨されてしまっているかもしれない。そして,このような個人の動機づけと深く関連しているのは,ある個人が生きている社会のなかの環境あるいは社会的な諸条件である。マズローは,話す自由,他者に害を及ぼさないかぎりやりたいことができる自由,探 求の自由,自分自身を弁護する自由,正義,正直,公平,そして秩序を基本的欲求の満足の前提条件と当初考えていたが,その後,前提条件をもう一つ追加した。この条件が外的環境における挑戦(刺激)であった。これらの前提条件が満たされており,かつ愛と承認の欲求がある程度満たされた後に,自己実現の欲求は発生する24)。」
マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈(廣瀨清人,菱沼典子,印東桂子)2008年11月5日 受理 28 聖路加看護大学紀要 No.35 2009. 3.

まず,本図の形については,前述したように,マズローが承認したゴーブルの基本的欲求の階層図(図6)に依拠し,台形とした。
次に,基本的欲求の階層図の階層部分について,以下のように考える。マズローの欲求の階層論によると,その階層は生理的欲求,安全と安心の欲求,所属と愛の欲求,承認の欲求,自己実現の欲求から構成される。このことから,階層数を 5 つとした。その階層の面積については,高次欲求論から,この図を見ると 5 つの階層の面積に大きく差をつけることが正しいが,この図では欲求の階層理論を検討したためそれらに大きな差をつけず,自己実現の欲求のリストを階層図の右側に記した。その階層間の境界線を破線で示した理由は,これら 5 つの階層間に厳密な階層性が仮定できないことであった。そして,各階層の網掛けの意味は,「生理的欲求は 85%,安全の欲求は 70%,愛の欲求は 50%,自尊心の欲求は 40%,自己実現の欲求は 10%が充足されているのが普通の人間ではないか」9)というマズローの主張と対応したもので,図7では,その割合を各階層に網掛けで示した。高次欲求論によると,自己実現の欲求を成長欲求として,生理的欲求,安全と安心の欲求,所属と愛の欲求,承認の欲求を欠乏欲求として区別し,「成長欲求と欠乏欲求は質的相違があり,欠乏欲求が成長欲求の必要条件となる」26)と述べていることから,図7においてそれらの区別を明示した。また,ゴーブルの階層図では「成長欲求はすべて同等の重要さを持つ」24)という注記をしたが,この発言は重要と考えられるため,図7では右上に注記した。
最後に,看護学で用いられた多くの階層図で明記していなかったもので重要と考えられる基本的欲求充分の前提条件について,「自由,正義,秩序」,行動を決定する要因の「外的環境」あるいはゴーブルの著作からマズローが後に追加したとされる「外的環境の予備条件としての挑戦(刺激)」,そしてゴーブルの階層図に記された「外的環境,欲求充足の前提条件,自由・正義・秩序,挑戦(刺激)」を基に文章化し,本図では階層図の底辺の外側に記した。
マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈(廣瀨清人,菱沼典子,印東桂子)2008年11月5日 受理 28 聖路加看護大学紀要 No.35 2009. 3.

(索引:マズローの欲求の階層)

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