生命、意識の誕生は偶然なのか
宇宙における生命の誕生、人間の意識と知性の誕生、そしてその知性に宿った宇宙の理解、これらの事実は、無意味な宇宙における例外的で偶然な出来事なのだろうか。それとも、なお一層深い別の筋書きが働いているのだろうか。(ポール・デイヴィス(1946-))
「どうしてこのようなことになったのだろうか? ある意味、宇宙は、自分自身の意識のみならず、自 分自身の理解をも作り上げたのだ。心を持たずに動き回っている原子たちが結託して、生物だけでなく、 また、心だけでもなく、理解というものを作り出したのだ。 進化する宇宙は、宇宙進化という見世物を 見ることができるだけでなく、その筋書きを明らかにすることもできる生物を生み出した。人間の脳の ように、ちっぽけで微妙で、しかも地球での生活に適合したものが、宇宙の全体と、宇宙がそれに合わ せて踊っている、数学で書かれた音のない音楽に取り組むのを可能にしているのは、いったい何なのだ ろう? わたしたちが知る限りでは、これは、宇宙のどこかで心が宇宙の暗号を垣間見た最初にして唯 一の事例だ。もしも宇宙が瞬きをするあいだに人間が完全に消滅してしまったなら、このようなことは 二度と起こらないかもしれない。宇宙はさらに一兆年にわたって存続するかもしれないが、ごく普通の ひとつの銀河が誕生してから一三七億年のちに、そのなかの平均的なひとつの恒星の周囲を回っている ひとつの小さな惑星の上で、 知性の光が一瞬輝くときを除いては、その悠久の時間を通して、完全な謎に包まれたままだろう。
これは単なる偶然なのだろうか? リアリティーがその最も深いレベルで、わたしたちが「人間の心」 と呼ぶ奇妙な自然現象に接触したという事実は、でたらめで無意味な宇宙のなかで一時的に生じた、 普 通にありえない例外的なことでしかないのだろうか? それとも、なお一層深い別の筋書きが働いているのだろうか。」
(ポール・デイヴィス(1946-),『ゴルディロックスの謎』(日本語書籍名『幸運な宇宙』),第1章 いくつかの重大な疑問,p.24,日経BP社,2008,吉田三知世)