君主の心得
【君主の心得:自分の目的をしっかり守る、賞罰権を慎重に保持する、自分の知恵・才能に頼らない、自分の望み・考え・行動を秘匿する、臣下の知恵・才能を最大限発揮させる、臣下の意見と仕事の実績を査定し賞罰を与える。(韓非(B.C.280頃-B.C.233))】(1) 自分の目的とするところをしっかり守って、臣下の言動と実績を考えあわせ、君主としての賞罰権を慎重にわが手に持ってそれを固く握りしめ、臣下の野望、陰謀、邪心を起こさせないようにする。
(2) あなたに知恵があっても、それによって思慮をめぐらしたりはせず、すぐれた才能を備えていても、それによって自分で仕事をしたりはせず、勇気があっても、それによって自分で奮いたったりはしない。
(3) 君主が自分の行ったことを秘密にし、自分の心の端を見せないようにしたなら、臣下は君主の実情をはかりかねるだろう。
(3.1) 自分の望むことを外に出してはいけない。それを人に知らせると、臣下はきっとそれに合わせて自分を飾りたてるだろう。
(3.2) 自分の意向を外に出してはいけない。それを人に知らせると、臣下はきっとそれに合わせて自分の特技を見せびらかすだろう。
(3.3) こうして初めて、臣下の方ではありのままの生地をあらわす。
(4) 知恵者たちにその知恵を出しつくさせたうえで、君としてそれをふまえて物事を裁断する。賢者たちにその才能を発揮させたうえで、君としてそれをふまえて仕事をまかせてゆく。群臣にその武勇のありたけをつくさせ、苦労なことをひき受けさせ、主君は仕事の成果をわが物とする。こうすれば、功績があがれば君主が優秀だからだとし、過失があれば臣下の責任だとし、自分の名誉を守ることもできる。
(4.1) 意見のある者には自分から進んで言論を述べさせる。
(4.2) 君主はその意見によってそれに見あう仕事を与え、その仕事によってそれに応じた実績を要求する。
(4.3) 実績がその仕事にかなっており、仕事の内容がさきの意見どおりであれば賞を与えるが、実績がその仕事に相応せず、仕事の内容がさきの意見と違っておれば罰を与える。名君の道としては、臣下が意見を述べながら、その仕事がそれに相応しないということは、許されない。
「虚心であるから周囲の本当の情況がわかり、静かであるから周囲の行動の中心となるのである。意見のある者は自分から進んで言論をのべ、仕事をしようとする者も自分から進んで実績をあらわすようになるから、そこでその実績と言論とをつきあわせて一致するかどうかを調べることにすれば、君主自身は格別なことをしないでいて、その実情にまかせていけるのである。そこで、「君主は自分の望むことを外に出してはいけない。君主が自分の望むことを人に知らせると、臣下はきっとそれに合わせて自分を飾りたてるだろう。君主は自分の意向を外に出してはいけない。君主が自分の意向を人に知らせると、臣下はきっとそれに合わせて自分の特技を見せびらかすだろう」と言われる。だから、「君主が好き嫌いを外に出さないでいると、臣下の方ではありのままの生地をあらわし、君主が知恵の働きを外に出さないでいると、臣下の方では自分で慎重にふるまうことになる」とも言われる。そこで、名君は知恵があっても、それによって思慮をめぐらしたりはせず、万物がそれぞれのあり方をわきまえて落ちつくようにする。すぐれた才能を備えていても、それによって自分で仕事をしたりはせず、臣下に仕事をさせてその拠り所を観察する。勇気があっても、それによって自分で奮いたったりはせず、群臣にその武勇のありたけをつくさせる。それゆえ、名君は知恵を捨て去ることによってかえって明知を得、すぐれた才能を捨て去ることによってかえって功績があがり、勇気を捨て去ることによってかえって強さが得られるのである。」(中略)
「名君のやり方は、知恵者たちにその知恵を出しつくさせたうえで、君としてそれをふまえて物事を裁断するから、君として知恵にゆきづまることがない。また賢者たちにその才能を発揮させたうえで、君としてそれをふまえて仕事をまかせてゆくから、君として才能にゆきづまることがない。そして、功績があがれば君主が優秀だからだとし、過失があれば臣下の責任だとするから、君として名誉にゆきづまることがない。こうしたわけで、君主は賢者でなくても賢者たちの先生となり、知者でなくても知者たちの中心となるのである。臣下は苦労なことをひき受け、主君は仕事の成果をわが物とする、これをすぐれた君主の常法というのである。」(中略)
「君主が自分の行ったことを秘密にし、自分の心の端を見せないようにしたなら、臣下は君主の実情をはかりかねるだろう。君主が自分の知恵を棄て去り、自分の才能を無くして働かさないようにしたなら、臣下は君主の実情を推測しかねるだろう。自分の目的とするところをしっかり守って、臣下の言動と実績を考えあわせ、君主としての賞罰権を慎重にわが手に持ってそれを固く握りしめ、臣下の野望を断ちきり、臣下の陰謀をうちくだいて、君主の地位を望むような邪心を起こさせないようにするのだ。」(中略)
「だから、群臣がそれぞれの意見を述べると、君主はその意見によってそれに見あう仕事を与え、その仕事によってそれに応じた実績を要求する。実績がその仕事にかなっており、仕事の内容がさきの意見どおりであれば賞を与えるが、実績がその仕事に相応せず、仕事の内容がさきの意見と違っておれば罰を与える。名君の道としては、臣下が意見を述べながら、その仕事がそれに相応しないということは、許されない。」
(韓非(B.C.280頃-B.C.233)『韓非子』主道 第五、(第1冊)pp.80-81,84,88-89、岩波文庫(1994)、金谷治(訳))
(索引:)
(原文:5.主道 <韓非子 <法家 <先秦兩漢 <中國哲學書電子化計劃 )
(出典:twwiki) |
「国を安泰にする方策として七つのことがあり、国を危険にするやり方として六つのことがある。 安泰にする方策。第一は、賞罰は必ず事の是非に従って行うこと、第二は、禍福は必ず事の善悪に従ってくだすこと、第三は、殺すも生かすも法のきまりどおりに行うこと、第四は、優秀か否かの判別はするが、愛憎による差別はしないこと、第五は、愚か者と知恵者との判別はするが、謗ったり誉めたりはしないこと、第六は、客観的な規準で事を考え、かってな推量はしないこと、第七は、信義が行われて、だましあいのないこと、以上である。 危険にするやり方。第一は、規則があるのにそのなかでかってな裁量をすること、第二は、法規をはみ出してその外でかってな裁断をくだすこと、第三は、人が受けた損害を自分の利益とすること、第四は、人が受けた禍いを自分の楽しみとすること、第五は、人が安楽にしているのを怯かして危うくすること、第六は、愛すべき者に親しまず、憎むべき者を遠ざけないこと、以上である。こんなことをしていると、人々には人生の楽しさがわからなくなり、死ぬことがなぜいやなのかもわからなくなってしまう。人々が人生を楽しいと思わなくなれば、君主は尊重されないし、死ぬことをいやがらなくなれば、お上の命令は行われない。」 (韓非(B.C.280頃-B.C.233)『韓非子』安危 第二十五、(第2冊)pp.184-185、岩波文庫(1994)、金谷治(訳)) (原文:25.安危 <韓非子 <法家 <先秦兩漢 <中國哲學書電子化計劃 ) |
韓非(B.C.280頃-B.C.233)
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